TS転生おせいそアラサー女教師がチャンプの夢女になる話 作:(・8・)
「むぅ、負けた。マリア、再戦をしょもーする」
バトルが終わってロビーに帰還すると、マリアちゃんは頬を膨らませながら、再戦を要求してきた。
こういう風に、負けても気軽にリターンマッチを挑めるのも、GBNのいいところだ。
GPDのときは、まず自分のガンプラをリペアするところから始めなきゃいけなかったから。
「いいですけど、次戦っても普通に私が負けると思いますよ……?」
「コトリはじこひょーかが低い。でも、仕方ない。マリアが負けたのは油断と慢心。切り札は温存しすぎても腐らせるだけだった」
だろうなぁ、とは思っていた。
元は準サイコミュ機のリーベン・ヴォルフをシルヴァ・バレトとミキシングした上でフルにサイコミュを活用してきたぐらいなんだから、隠し球の一つぐらいあっておかしくない。
だからこそ、早めに畳み掛けておく必要があったんだけど。
「だから、再戦求む。マリア、次は負けない」
「えぇ、と……今からですか?」
流石に集中力を使いすぎたから、少し休憩を挟みたいというのが本音だったけど、マリアちゃんはすっかりやる気のようだし、どうしたものか。
ここで断っても、勝ち逃げみたいになっちゃうしなぁ。
それに、子供のお願いを断ってしまうのは大人としての面子にもかかわってくることだし。
「こら、あまりコトリくんを困らせるものじゃないよ、マリア」
「キョウにぃ!」
どうしたものかと、無理やり作った笑顔を貼り付けて困惑していたら、キョウヤさんがやってきてくれた。
偶然、というにはタイミングが出来すぎているから、多分私たちの試合をモニターかなにかで見ていたのだろう。
傍らには、修道服を着た、背丈が小さいオッドアイの女の子が控えていて、多分キョウヤさんのフレンドなんだろうけど、二人きりで彼と一緒に女の子がいる、という事実に、少し胸の内側がモヤモヤした。
「コトリくんも疲れただろう。かなり無理をしていた戦いに見えた。今日はゆっくり休んだ方がいい」
「あはは……ありがとうございます。ところで、その」
マリアちゃんがキョウヤさんの左腕にじゃれついている間、右腕の近くでしずしずと歩いていたシスターのような女の子をそれとなく指して、私はキョウヤさんへ、仄めかすように問いかける。
「彼女は僕の昔からのフレンドだよ。たまたまコトリくんの試合を見ていたら遭遇してね」
「こんにちはっ、お姉さんのバトル、とっても熱くて素敵でしたよ!」
修道服の女の子は、弾けるような笑顔を浮かべて私に賞賛の言葉を投げかけてきた。
昔からの、フレンド。
キョウヤさんの口から飛び出てきた言葉に、思考が硬直してしまう。
私だってキョウヤさんとの付き合いは長い方だと思っていたけど、本人が直々に「昔から」なんて枕詞をつけるぐらいなんだから、この子との付き合いは、それはもう長く濃密なのかもしれない。
そうだよね、明るい女の子の方がどう考えても男の人にウケがいいし、背丈が小さいのだって今はディスアドバンテージにならないし、私みたいな嫉妬深くて隠し事をしている女の子なんて。
思わず三角座りをしたくなるのをぐっと堪えて、私は、涙に滲んで、引き攣った笑みを浮かべる。
「わぁ……ぁ……」
「泣いちゃった! それなら私はお暇させてもらおっかな。じゃあ後は任せたよ、キョウヤお兄さん!」
シスター姿の女の子は、私を見て気まずそうに苦笑すると、そのままログアウトしてしまった。
古いフレンド。正妻の余裕。
あんな見た目だけど、立ち振る舞いから、中身はしっかり大人なんだろうなあと察せられる辺り、私とは大違いだ。
「落ち着いてほしいな、コトリくん。彼女とは本当に古い縁があるというだけなんだ」
「はい……ごめんなさい。取り乱してしまって」
「君の一途な想いは僕も理解しているつもりだ。だから、君も少しだけ視野を広げてくれると助かるかな」
キョウヤさんは、小さく笑う。
本当にもう、仰る通りです。
すぐに余裕と自信をなくしてしまうのが、私の悪い癖だった。
「あら、もうキョウちゃんの理解を得られているのね、コトリちゃん」
「彼女は魅力的な女性だよ、マギーさん。少なくとも僕にとってはね」
「あらやだ、見せつけてくれるじゃない」
「むぅ、キョウにぃはコトリに甘すぎる」
修道服の女の子がいなくなるや否や、右腕に抱きついたマリアちゃんが頬を膨らませて、遺憾の意を表明する。
そうかなぁ。
でも、キョウヤさんが私のことを魅力的だと思ってくれているなら、もっと頑張らなきゃ。
メイクにお料理、自分磨き──やることリストにして考えると、項目が多すぎて気が遠くなりそうだったけど、少しずつやっていくしかない。
「そういえば、キョウヤさんはどうしてここに?」
「ああ、ちょうどリクくんたちの初フォース戦を見終わった後でね。ロビーに帰還したら君とマリアのバトル映像が流れていたから、つい見入ってしまったというわけさ」
「リクくんたち……ビルドダイバーズ、ですね」
「おや、知っているとは」
「第七機甲師団の下部フォースとはいえ、ネームバリューのある相手を倒した、新進気鋭のフォースですから」
正確には原作を知っているというだけだけど。
そっか、リクくんたちがフォース戦に挑んでいるということは、もうそろそろ迫りつつあるということだ。
第一次有志連合戦──イヴの消滅にとって決定的なトリガーとなる、ツカサくんとの戦いが。
私は、ツカサくんにどう声をかければいいのだろう。
GPDが大好きで、あの頃が忘れられないという意味では、私も彼と似たようなものだからこそ、どんな正論も意味をなさないとわかってしまうのだ。
せめて、凶行を事前に止められるぐらいの人脈やお金があればよかったんだけど、生憎そんなものはないから、途方に暮れる他にない。
「随分深刻な表情だね、なにか思うところが?」
「いえ……マスダイバーの脅威も日々増している今ですから、素直に喜べないところもあるのかもしれません」
「マスダイバーか……」
「嫌になっちゃうわよねぇ。初心者が楽しくゲームできない環境が続いたら、GBNそのものから人が離れちゃうわ」
「マリアはえらいので、見つけたら倒してる。たいしょーりょーほーだけど、これ以外にほーほーはない」
マスダイバーにはマスダイバーの事情がある。
それそのものは理解できるし、原作でも少なからず触れられていた部分だった。
でも、GBNの運営班から見れば、事情がどうあれ情状酌量の余地なく、彼らは違反者だ。
「マリアは偉いね。でも、マスダイバーの中にもガンプラを……GBNを愛する者がいるかもしれない。それだけは忘れないでほしいな」
「わかった、キョウにぃ!」
本当にわかっているのかどうか疑わしい即レスを返して、マリアちゃんは小さな手を挙げながら、ぴょんぴょんと地面を跳ねた。
大概はどうしようもない理由だからいいとしても、アークエンジェルズのステアさんのように、心の弱さにつけ込まれてブレイクデカールに手を出してしまった人もいる。
そして、恐らく──ツカサくんの理念に賛同した人も。
「そうだ、暗い話ばかりしていてもよくない。コトリくん、今度の週末は空いているかい?」
「週末ですか? 特に予定はないですけれど……」
「よければ、僕とデートをしてくれないかな」
──えっ?
「で、ででででデートですか!?」
シリアスなことを考えていた思考回路が一瞬でオーバーフローを起こして爆発する。
デート。
それもキョウヤさんから誘ってくれた。
だとしたら、大変だ。
今度の週末までに大急ぎであれこれをこなして、私の壊滅寸前な女子力を上げなければ。
ちゃんと、キョウヤさんに「かわいい」って言ってもらえるように。
シスター服の女の子……一体何者なんだ……( ˘ω˘)