TS転生おせいそアラサー女教師がチャンプの夢女になる話 作:(・8・)
私には、ちょっとした秘密みたいなものがある。
実際には、秘密っていうほどもったいぶって話すようなものでもないし、学校では誰も気にしてくれないから、実質的に裏の顔みたいになっているようなものなんだけど。
とにもかくにもそれは、学校じゃ冴えないダメ教師な私にとって、日々のストレス解消源であったり、ちょっとした救いのようなものだったりするのだ。
「来る……!」
コックピットに響くアラートを頼りに、私は先行入力でガンプラに装備されているワイヤーアンカーを射出、空中にある浮島の岩壁に突き立てた。
強烈な逆噴射を制動しつつ、死角から迫ってくる四つの物体と、恐らくは「それ」を普通に回避した先にあるビームの光条を半ば強引に回避する。
危なかった。アンカーを先行入力していなかったら、確実に撃墜されていた。
『やるね、コトリくん! しかし、まだ!』
四つの物体──Fファンネルを回収して、機体をフェニックスモードに変形させた、ガンダムAGEⅡマグナムが雲の下から襲撃をかけてくる。
そう、AGEⅡマグナム。
この世界における最強であり頂点の証明たるガンプラにして、チャンピオン、クジョウ・キョウヤさんの愛機。
「まだまだですよぉ、私も負けませんから!」
あえて、強がりを口に出す。
今私が戦いを挑んでいる相手が、絶望的なぐらいの技量を持っていることは承知の上だ。
なんせ、原作では勝ち確BGMが流れているくせに、リクくんとオーガをノーダメで完封した男が相手なのだから。
そんな相手に、私のガンプラ──ガンダム・マルコシアスに、ガンダム・端白星第二形態やその他をミキシングして完成させた、「ガンダム・
……一応これでも私、元GPDの世界王者で、GBNでも「コトリ」ってダイバーネームで個人ランキング3位まで上げてるんだけどね?
でも、チャンピオンはなにかがおかしい。3位の私ですら、団子になっているのではなく、絶望的なまでに技量の差があることを痛感しているのだ。
まあ、今はそんなことを気にしてられる状況じゃないから、思考の外に締め出しておくとして。
岩壁に突き立てていたワイヤーアンカーを強制的に切断、浮島から離脱しつつ、私もガンダム・ルブリスアノクタからコンバートしてきたブレード型ガンビット、「ナルカミ」を安全確保のために射出する。
牽制の一つも置いておかないと、迂闊に回避運動もできないんだから全くこの人は。
『ガンビットを切ってきたか……しかし!』
「処される前に処しますっ!」
ガンダムAGEⅡマグナムは、私がマニュアル操作で死角に置いたはずのナルカミによる挟撃を難なくかわして、機体をMS形態に変形させた。
だけど、変形の一瞬が戦いにおいては致命的になることもある。
Fファンネルはすぐには射出できないし、ビームライフルも変形硬直の関係で咄嗟には撃てない。突っ込むのなら、今!
確信と共に、左腕に持っていたアサルトライフルを投棄、そのまま左腕のハードポイントに接続しているバスタードメイスを手に持って、私は大きく振りかぶった。
『僕ともあろう人間が、変形硬直を失念していたとはね……! しかし見事だコトリくん!』
「ありがとうございます、ふふっ」
結果的にそうするしかなかったとはいえ、チャンプが取った行動は、最悪の中の最善手。
左腕のシグルシールドと関節を犠牲に、本体へのダメージを回避したのだ。
冗談じゃないにもほどがある。こっちは切れる武装は全部切って攻撃してるのに、相手が失った武装が一個だけとか。
『ならばこそ! 僕もまた、全力で応える!』
「左腕が使えないなら、EXカリバーは撃てないはずです!」
『必殺技なしで……君を押し切ってみせよう!』
「できるものなら……やってみてください!」
強がりを口には出してこそいるけど、絶望的なのに変わりはない。
相手が必殺技を使えないというアドバンテージを活用して、今のうちにリミッターを解除、機体の反応速度を極限まで高める。
左腕のハードポイントに再びバスタードメイスを接続──全身の神経を逆立たせるように集中、相手の攻撃を待つ。
『はあああああっ!!!!』
「焔熱──抜刀!」
ぎりぎりぎり、と軋む音を立て、火花を散らして私はバスタードメイスの中に格納されている大太刀を抜刀する。
摩擦と必殺技補正で極限まで強化された熱が、大太刀の刀身を赤熱させ、振り抜いた居合は、確かにチャンピオンが突き出してきたビームサーベル共々、機体の右半身を溶断していた。
勝った──わけではない。
『Battle Ended!』
『Winner:クジョウ・キョウヤ!』
流れてきたシステムのアナウンスが告げたのは、チャンピオンが勝利したという事実と、私がチャンプの突撃に気を取られすぎていて、Fファンネルが既に射出され、コックピットを目掛けて飛んでいたという見落としだった。
……あはは、やっぱりチャンプはなにかがおかしい。
私は虚脱感と共に、ぺたんと女の子座りでコックピットにへたり込んでいた。
◇
「いいバトルだったよ、コトリくん。僕も最後の一瞬まで勝てるかどうかを疑っていたからね」
「いえいえ、一つのことに集中しすぎると、なにかを見落とすという好例でした……あはは」
心なしかツヤツヤしているチャンプと、ケアレスミスで勝利を逃してげっそりしている私は、GBN内にあるバーで、サシ飲みをしていた。
グラスを傾ければ、なんか大雑把なウィスキーっぽい味わいが、舌の上に広がってくる。
GBNはまだ、五感のフィードバックが完全には実装されていないから、仕方ないといえば仕方ないんだけど。
「しかし、君ほどの腕前のダイバーがソロでやっているのはいささかもったいないね。『AVALON』はいつでも空いているよ」
「ありがとうございます、でも、中々リアルとの折り合いがつけられなくて」
「それは大変だ。お互い、GBNを楽しむ余力を残していきたいものだね」
「全くです」
前々からチャンプには「AVALON」に勧誘されていたりするけど、私は……なんていうか、答えた通り、先生やりながらGBNやるのが結構大変で、断り続けていた。
昔だったら一も二もなく「はい」の返事を送ってたんだろうけどなぁ。
これが歳を取るということなんだろうか、うぅ……まだアラサーだから未経験で未婚でもセーフだと思いたい。
「はぁ……大変なことも、ガンプラバトルをしている間は忘れられるのがいいですよね。この歳にもなっていい人がいないのも、毎日いいことがないのも、私に魅力がないからなのも……」
「そうかな? 君は十分に魅力的な人だと思うけどね」
「あはは、お世辞でも嬉しいです」
「お世辞のつもりはないよ、僕と『AVALON』は、いつでも君を待っているからね。では」
チャンピオンはそれだけ言い残すと、支払いを済ませてログアウトしてしまった。
もしかして、私はチャンプから期待されてたりするんだろうか……もしかしたらワンチャン──なんて思うのは、年甲斐もないからやめておこう。
流れるように私もお会計をして、明日に備えてログアウトするのだった。
【Tips】
【タカナシ・ミナキ/コトリ】
【一人称:私】
【身長:154cm】
【外見イメージ:チュン先生(イキヅライブ! LOVELIVE! BLUEBIRD)】
ガンダムビルドダイバーズの世界にTS転生してきた一般転生者。26歳。元からガンプラ趣味を拗らせていたオタクだったが、ガンプラの供給が潤沢すぎるビルドダイバーズの世界で才能が開花、青春の全てをガンプラに捧げ続けた果てにGPDの世界王者になった狂人。ちょっと内向的な性格。アッシュブロンドの髪と琥珀色の垂れ目に、メリハリのあるプロポーションが特徴的なおせいそ系美女だが、今のところ色恋沙汰に関する話は一切聞かない。GPD時代のことはいい思い出だとは認識しているが、他人に対してはひた隠しにしているようで──?