TS転生おせいそアラサー女教師がチャンプの夢女になる話 作:(・8・)
「う、うぅぅぅ……頭が痛い……」
その後のことはなんとなくしか覚えていない。
ただ、いきなり夢のハネムーンなんて話はなくて、悪酔いしてしまった私をキョウヤさんがタクシーで自宅まで送ってくれたことは覚えている。
調子に乗って飲みすぎるからこうなるのだ。マギーさんの配慮で飲み口が軽いお酒を用意してもらったのに、かけてもらった優しさまで無下にしてしまったのだから、穴があったら入りたい気分だった。
それはともかく、二日酔いで日曜日が潰れても月曜日は容赦なくやってくる。
今から私はメイクをして、鏡の前で気合を入れ直したら、高校教師。
自分に強く言い聞かせながら、頭痛薬を飲んで、洗面台まで這いずるような足取りで向かう。
鏡に映る私の顔は、ひどくげっそりしていて、こんな顔をキョウヤさん相手に晒していたのかと思うと追加で死にたくなってくる。
「でも、泣き言はなし……私は社会人……子供のお手本になる先生なんだから……」
ぼそぼそと呟いて顔を洗い、歯を磨く。
なんかヤスリがけをしているときのような気分、要するに虚無だった。
とにもかくにもできる範囲で手早く身支度を整えて、私は気合を入れ直し、学校へと向かった。
◇
「……う、うぅ……遅刻寸前とはいえ、間に合ったんだからあんなにネチネチ言わなくても……」
案の定とでもいうべきか、時計を見ていなかったツケは払わされるもので、私は遅刻ギリギリで学校に滑り込んだことを、教頭先生にネチネチと詰められていた。
子供のお手本になるのが教師だとか自分で言っておいてこのザマだから仕方ないんだけど、もっと言い方とかそういうのがあるはずだ。
……まあ、全部正論だから返す言葉なんてないんですけど。
二日酔いなのを隠して勤務していたら、体調が悪いのだとなんとなく察せられたのか、今日は定時で上がれたことだけが救いだった。
今日定時で上がれても、明日自分に今日やらなかった分のタスクが降りかかってくると考えると憂鬱だけど、考えていても仕方ない。
今は少しでも自分に飴を与える時間だと解釈して、ガンダムベースにでも寄ってみよう。そうしよう。
思い立ったが吉日ということで、早速私は学校からそこそこ近いところにある、ガンダムベース本店まで歩いていった。
家庭用のダイバーギアとコントローラも買っているから、家でもGBNはできるけど、たまにはガンダムベースにも顔を出しておかないとね。
並んでいるキットの山を見れば、なにかインスピレーションのきっかけになるかもしれないし。
「あら、いらっしゃいミナ……タカナシ先生」
「あはは……来ちゃいました、ナナミさん」
「本当、昔と比べて雰囲気変わりましたよねー」
「私も社会の歯車の中で磨耗して、丸くなったんです」
「世知辛い話だなぁ……GBNやってきます? 今ちょうど空いてますよ」
「ありがとうございます、じゃあ、お願いします」
ナナミさんこと、ナナセ・ナナミ──私のGPD時代を知る、今ではすっかり数少なくなってしまった知り合いと軽く言葉を交わして、私は案内された筐体に腰掛ける。
ダイバーギアとガンプラだけは毎日欠かさず持ち歩く習慣は、変わってないなあ。
キョウヤさんが言ってたみたいに、歳を重ねれば私も落ち着いた女性になれると思ってたんだけど、そんなことはなかったわけで。
「でも、今は童心に帰るべきときだよね」
そう、自分で呟いた通り、GBNの中なら私は色々なしがらみから解き放たれて自由になれる。
ヘッドセットから流れるアナウンスに従ってリラックスし、私は「タカナシ・ミナキ」から、「コトリ」へと再構築されていく。
そうして、意識が暗転するような感覚と共に、セントラル・ロビーに放り出されると。
「あれ……?」
ライブモニターに映っているバトルに、既視感を抱く。
戦っているのは、ダブルオーガンダムをベースにしたガンプラと、なんの因果か私と似たような、赤と紺の色遣いが特徴的な、GN-XⅣのカスタムモデル。
そう、リクくんとオーガの初めてのバトルが今、目の前で繰り広げられているのだ。
「そっか……もう、こんな時期になっちゃったんだ」
GBN崩壊の危機、マスダイバー、ブレイクデカール──その先に待っている、イヴちゃんの消滅と、サラちゃんの運命をかけた第二次有志連合戦。
私がGPDにのめり込んでいる時間で、なにか別なことをやっていれば、悲劇は防げたのだろうか?
無理だ。都内の中流家庭に生まれたとはいえ、ガンプラ知識だけが転生特典みたいな私にできることは、なにもない。
──せっかく生まれ変わったのに。
責めるように、内なる自分が囁きかけてくる。
なら、せめて。贖罪にはならないかもしれないけれど。
私は格納庫エリアに転移して、即座に明宵星を起動させた。
今ならまだ間に合う。
オーガの勘違いもあったとはいえ、リクくんが「悔しさ」を押しつけられなくて済むかもしれないのなら、私は戦わなければ。
「コトリ、行きます──っ!」
格納庫エリアからカタパルトに機体を乗せて、リクくんが戦っているエリアへと急行する。
間に合ってほしい。間に合って。
さながら、気分はコロニーが阻止限界点を超えるか超えないかのウラキ少尉といったところか。
『ふん……どんなもんかと思ったが、その程度か』
『くっ……!』
でも、私がダブルオーダイバーとオーガ刃-Xを視界に捉えたときには、既に戦いの決着はついていて、興味を失ったように、オーガが去っていこうとするところだった。
……間に合わなかった、かぁ。
だとして、できることがないわけじゃない。
だから、私は。
導雷ブレード兼ガンビットの「ナルカミ」をオーガ刃-Xに向けて射出する。
咄嗟の一撃にも対処して、即座に回避運動を選択した辺り、やっぱりオーガも最終回でチャンプに噛み付いていただけの実力はあるようだ。それでも。
『なんだァ……? なにをしに来た?』
「強いて言うのなら、罪滅ぼしを」
『お姉さん、危ないですよ! その人は……とても強い!』
「ふふっ、大丈夫ですよ。リクくん」
『えっ? どうして俺の名前……』
「──私、強いですから」
リクくんへ微笑みと共に投げかけた言葉が、オーガの食欲を唆ったか、あるいは血管をブチ切れさせたかは知らないけれど、殺気がモニター越しにも伝わってくる。
……そうだ、負けから得られるものはたくさんある。
私がこんなことをしなくたって、リクくんは原作で戦いで得た「悔しさ」をバネにダブルオーダイバーエースを作り上げたのだ。
だから、これは微かな自己満足。
なにもできなかった自分を助けるためだけにやっていることだけだとは、わかっている。
やらないよりも、やる方がマシだと強く自分に言い聞かせて。
『なるほどなァ……個人ランキング3位、GBNトップ3の一角ってわけか! いいぜ、ますます喰らい尽くしたくなってきたぜ、お前をなァ!』
「……」
射出した「ナルカミ」を回収。
左手に持っている牽制用のアサルトライフルを投棄して、両手に構える。
確かにリクくんが言う通り、オーガは強いのだろう。
だとしても──「強さ」に先と果ては、ない。唯一それが、私に教えられることだ。
一閃。
オーガ刃-Xのヒートソードが片方、中心から断ち切られる。
『なッ……!?』
『兄ちゃん!』
「ドージくんでしたね、初心者狩りというバッドマナーを隠しているのはよくありませんよ」
『な、なんでそのことを……!?』
「そしてオーガくん、あなたにも教えましょう、私という存在を」
二撃目の「ナルカミ」を、鬼トランザムを発動しようとした瞬間、バイザーとフェイスパーツの隙間に挟まるように突き立てる。
強さを求めるのはいい。
そういう姿勢は、対戦ゲームにおいては全く間違っていない。
だけど──話も聞かずに初心者へ一方的な敗北感を刻みつけるのは、少し違う。
『オレは……悪りい夢でも見てんのか……!?』
鬼トランザムを阻止されてオーバーロードを起こした擬似太陽炉が爆発を起こしても、オーガは果敢に挑みかかってきたけれど、それだけだった。
バスタードメイスの一撃で頭部からコックピットをそのまま潰して、戦いは呆気なく幕を閉じる。
システム音声も、なんとなく遠く聞こえたのは──私のやっていることが、虚しいからだろうか。
『すごい……お姉さん、あなたは、一体……』
「コトリ、です。教えられることは教えましたので……最後に一つ。チャンピオンは……キョウヤさんは、私よりも強いです」
『コトリさん……俺、いつかあなたとも、同じ目線で、同じ舞台で戦ってみたいです!』
「はい、待ち望んでいますよ」
私はリクくんにそれだけ短く告げると、ログアウトボタンに指を置いて、そのまま現実へと帰っていった。
拙者普段はダメダメな女がここぞというときに力を発揮する展開が大好き侍