TS転生おせいそアラサー女教師がチャンプの夢女になる話 作:(・8・)
「それにしても、第14回ガンプラバトルフォーストーナメントは圧巻でした。キョウヤさんも、ロンメル大佐も、一歩も退かないで」
翌日、私はいつも通り深夜にGBNへとログインして、キョウヤさんと、二足歩行の白いフェレットとしか形容できない、フォースランキング2位の実力者ことロンメル大佐と言葉を交わしていた。
「ありがとう。コトリくんも参加してくれれば、きっともっと楽しい戦いになったかもしれないね」
「全くだよ。こと個人ランキングという点に関していえば、君は私も上回っているというのに」
「あはは……私はソロ専なので」
そう、私は特定のフォースに所属していないし、なんなら、個人フォースすら立ち上げていない。
フォースに所属して皆で楽しく……っていうプレイスタイルを否定しているわけじゃないんだけど、なんていうか、自信がないのだ。
現実でも人間関係で上手くいっているとは言い難い私が、もう一度昔みたいになにも恐れず、人の輪に飛び込んでいけるかどうかについての、自信が。
「前にも言ったかもしれないが、『AVALON』と僕は、いつでも君のことを待っているよ。コトリくん」
「君のところにコトリくんが加入したら、ますます手がつけられなくなってしまうではないか」
「それをなんとかしてみせるのが、戦術家の仕事というものじゃないのかい?」
「気軽に言ってくれるよ」
チャンピオンとロンメル大佐は、盃を酌み交わしてははは、と笑い声を上げる。
……私が、「AVALON」かぁ。
キョウヤさんが待っていてくれるのは、私の力を高く買ってくれているのは、素直に嬉しい。
ただ、一つだけわからないことがあるとするなら、キョウヤさんは、私という人間のことをどう思っているのだろう──と、いうことだけだ。
GBNに限らず、GPDのときもそうだったけど、力だけを目当てにして集まったって、人間関係が上手くいかなければやっていけない。
それに、ふとしたことで、今まで上手くいっていたはずの集まりが瓦解していくこともあるのだ。
私というイレギュラーが加入したことで「AVALON」が瓦解してしまったら、それこそ申し訳ないという言葉ですら足りない。
「しかし、最近増えてきたようだね」
「マスダイバーか……」
ロンメル大佐が切り出した話題に乗っかる形で、キョウヤさんが渋面を作る。
マスダイバー。
不正ツールであるブレイクデカールを使って、自分の実力を誤魔化したり、あるいはそうせざるを得ないほどに追い込まれた人たち。
「……ブレイクデカールの影響で、GBNに様々なバグが広がりつつある。僕も協力できることがあるなら、優先して協力するよ、大佐」
「ありがたい。とはいえ、現状──」
「こちらから打てる手はない、か……」
「うむ……」
ブレイクデカールの厄介なところは、メインフレームに侵食して使用したログデータそのものを抹消したり、貼ったガンプラにも痕跡を残さないところだ。
これを開発した黒幕──シバ・ツカサくんのことを、私は知っている。
だけど、彼と連絡を取る手段はもう、ない。余計にそれが、後ろめたさを煽っていた。
「コトリくん、少し顔色が悪いのではないかね?」
「ご心配には及びません、ロンメル大佐。古い友人のことを思い出していただけなので……」
「ふむ……なら、いいが」
「コトリくん、体調が優れないときは無理にGBNをすることはないよ。フルダイブゲームは、健康こそが資本だからね」
「あはは、ありがとうございます……でも、本当に大丈夫ですから」
いつ寝ているのかわからないキョウヤさんから健康について説かれるとは思っていなかったけど、体調不良なら無理してGBNをやるべきではない、かぁ。
私からGBNを取ったら、なにが残るんだろう。
たちまち、ダメダメアラサー独身干物女の出来上がりだ。
「それならよかったよ。コトリくんもマスダイバーについてなにか知っていることがあれば、積極的に情報共有してほしい」
「……私は、遭遇する度に倒しているので、あまり詳しいことは」
「そうか……しかし、実力の違いを見せて、彼らの気勢を削いでいくしか今のところ、できることがないのは歯痒いね」
キョウヤさんは、心の底から残念そうに苦笑した。
……もし、私がここでツカサくんのことを喋ったら、少しは世界が変わるんだろうか。
いや、名前がわかっても、普段の居場所がわからないのだからどうしようもないか。
「キョウヤさんにとって、GBNって……本当に大切なものなんですね」
言ってしまえば、GBNは一個のオンラインゲームでしかない。
もちろん、この世界が大好きだとか大切だとか、そういう思いを否定する気は全くないけれど、なんとしても、それこそ命に代えてでも守りたいという気概を、キョウヤさんからは感じるのだ。
それがどうしてなのか、私にはわからない。前世で聞かされることもなかったから。
「ああ、そうだ。僕にとってのGBNは、世界そのものだと言ってもいい」
「世界、そのもの……」
「……僕がチャンピオンの座に上り詰めるまで、様々なことがあった。嬉しいこと、悲しいこと、悔しいこと、楽しいこと。それら全てを言葉にしていたらいくら時間があっても足りないぐらいに」
「それって……」
「そして、チャンピオンになってからも同じさ。僕にとっての青春であり黄金時代は、今なんだ。今、この命を燃やし尽くしてでも構わないと思えるほどに夢中になっていること──それが、GBNなんだ」
キョウヤさんは拳を強く握り締め、力説する。
……同じだ。
GPDをやっていた頃の私と。
今が楽しくて、楽しすぎて──未来のことも、死ぬか生きるかさえもどうでもいい、ただ自分がひたすら「納得」するために、完全燃焼するためだけに、命を燃やす日々。
それが、キョウヤさんにとっては「今」であり、「GBN」なんだ。
合点がいった。キョウヤさんにとっての青春こそが、GBNと共にある日々だからこそ、誰かに壊されたくはないのだろう。
「……ぁ」
「コトリくん?」
「ごめんなさい……なんだか、昔のことを思い出しちゃって……」
気づけば、ぽろぽろと涙がこぼれていた。
どうしてかはわからない。
いや、わかりたくないのだろう。
だって、私の青春はもう終わってしまって。
あとは燃え尽きるのを待つだけなんてことに気づいてしまったら、自覚してしまったら、とてもじゃないけど正気ではいられないから。
情熱を今でも持っているつもりで、そういう風に振る舞ってこそきたけど──私の「
「……どうして、とか、聞かないんですか?」
「聞いてほしいのかい?」
「……質問に質問で返したら、テストでは減点ですよ」
「そうだね……では、僭越ながら僕からできそうなことをさせてもらってもいいかい。コトリくん」
「は、はい?」
気づけば、私は立ち上がってきたキョウヤさんに抱きしめられていた。
GBNだから、相手の鼓動が聞こえてくるとか、体温を感じるとか、そんなことはないけど。
私の心臓は早鐘を打ち始めていた。
「あっあの、これは、どういう……」
「君の過去が君に涙を流させているのなら、今で上書きすることはできないかな」
「……えっ、あっ、その……」
「わかっているとも。GBNを皆が僕と同じぐらいに愛してほしいだなんていうのが傲慢だというのは。でも、君の過去が君を苦しめているのなら、僕が少しでも救いになりたい。それではダメかな」
「……ありがとう、ございます」
私はキョウヤさんの胸板に顔を埋めて、流れるままに涙を流し続けた。
気づけば、ロンメル大佐はログアウトしていて、GBNの空も白み始めている。
……ダメだなぁ、私。でも、わかっていても今は、求めてしまう。
キョウヤさんから向けられている感情が、情けや哀れみだとわかっていても。
しっとりピヨちゃん