夜の操車場には、人の生活を感じさせる音がなかった。
幾筋もの線路が黒い地面を切り分け、その間に積み上げられたコンテナや使われなくなった資材が、等間隔に並ぶ照明の白い光を鈍く反射している。遠くでは変電設備の低い唸りが絶え間なく続いていたが、それさえも、この場所が誰かの日常から切り離され、人間の生死さえ予定表の一項目として処理される実験場であることを強調しているように聞こえた。
その中央に、一〇〇三二号は立っていた。
常盤台中学の制服に、額へ掛けた軍用ゴーグルという見慣れた姿は美琴とほとんど変わらない。それにもかかわらず、その顔にはこれから自分が殺される可能性を前にした少女として当然あるはずの恐怖も怒りも浮かんでおらず、少なくとも表面上は、決められた作業へ赴いた者のような静けさだけを保っている。
「一〇〇三二号」
線路の向こうから届いた声に、一〇〇三二号が振り返った。
「……お姉様」
「戻りなさい。今すぐここから離れて、こんな実験なんか受けるのをやめなさい。あんたが自分から殺されに来なきゃならない理由なんて、どこにもないでしょう」
言い切った美琴の声は強かったが、その強さの奥には、命令というより懇願に近いものが混じっていた。
一〇〇三二号は僅かに目を伏せる。
「理由は存在します。ミサカ一〇〇三二号が予定された実験へ参加しなかった場合、計画側が別個体を代替として投入する可能性があります。一個体が逃走したところで実験そのものは停止せず、別のミサカが同じ役割を割り当てられるだけであると、ミサカは予測します」
「だからって、あんたが代わりに死んでいい理由になるわけないでしょうが!」
美琴の声が荒くなる。
それでも一〇〇三二号は大きく表情を変えず、自分自身の生死とは無関係な資料を読み上げるような調子で続けた。
「ミサカシリーズは本来、この実験計画に使用するため製造された存在です。個体ごとの損失についても計画上あらかじめ想定されているため、ミサカ一個体の生存を優先する合理的理由は存在しないと、ミサカは説明します」
「その言い方をやめなさい!」
空気が震え、美琴の前髪から青白い火花が弾けた。
一〇〇三二号は口を閉じる。
美琴は強く拳を握った。目の前にいるのは自分と同じ顔をし、同じ遺伝子を持ち、同じ声で話す少女なのに、その本人だけが自分の命を倉庫に積まれた交換可能な部品の一つのように扱っている。それがどうしようもなく腹立たしかったが、そんな考え方を植え付けられてきた一〇〇三二号本人へ、その怒りを向けることもできなかった。
「……だから、私が止めるって言ったでしょう。あんた一人を逃がして終わりにするんじゃない。実験そのものを潰して、もう誰もここへ来なくて済むようにする」
「しかし、その方法によって実験を恒久的に停止できるという根拠を、ミサカは現在まで確認できていません。お姉様一人が危険を負うことについても――」
「そんなの……」
言葉が詰まる。
その時、美琴の背後から別の声が届いた。
「根拠がなきゃ、人が死ぬのを黙って見てなきゃいけねえのかよ」
振り返ると、上条当麻が線路を跨ぎながらこちらへ歩いてきていた。制服は乱れ、額には汗が浮かんでいるが、その足取りだけには迷いがない。
「……あんた、何で来たのよ。これはあんたには関係ないって言ったでしょう」
「何でって、あんな顔して出ていかれた奴を放っとけるわけねえだろ。関係あるとかないとか、そんなところで線を引いて済む話じゃねえ」
そう言ってから、上条は一〇〇三二号へ視線を移した。
昼間の公園で会った、美琴とまったく同じ顔をした少女。クローン、絶対能力進化計画、殺されることを前提として投入される実験材料――聞かされた話の一つ一つは現実離れしていたが、それでも目の前に立っている少女の命まで現実ではなくなるわけではない。
「お前、本当にここで殺されるつもりなのか。実験がどうとか、計画がどうとかじゃなくて、お前自身がどうしたいのかを聞いてる」
「予定された実験内容から判断すれば、ミサカが死亡する可能性は極めて高いものと――」
「予定の話じゃねえって言ってんだよ」
上条の声が低くなる。
一〇〇三二号は黙った。
答えを隠しているようには見えない。むしろ、自分自身の意思を尋ねられるという状況そのものが、これまで彼女の中には存在していなかったようだった。
「ミサカ個体の希望は、実験計画の遂行条件へ影響を与えるものではありません。したがって、ミサカ個人の希望を確認する意味は――」
「あるだろ!」
一〇〇三二号が僅かに目を見開いた。
「計画がどう考えてるかなんて聞いてねえんだよ。お前が死にたいのか、生きたいのか、俺が知りたいのはそれだけだ」
「ミサカは――」
唇が動く。
だが、その先へ言葉は続かなかった。
その沈黙を切るように、コンテナの間から乾いた足音が響いた。
三人が視線を向ける。
暗がりから照明の下へ出てきたのは、白い髪と病的なほど白い肌を持つ細身の少年だった。外見だけなら華奢にすら見えるのに、その姿を美琴が認識した瞬間、全身へ走った緊張だけで、そこにいる者がただの少年ではないことを上条にも理解させる。
「……第一位」
美琴の呟きに、一方通行は足を止めた。
美琴、上条、一〇〇三二号を順番に眺め、その口元をゆっくり歪める。
「なンだァ? 今日はやけにギャラリーが多いじゃねェか。実験動物だけ来りゃ済む話だったはずなンだがなァ」
美琴の拳がさらに強く握られた。
「実験は中止よ。今日だけじゃない、これから先も全部終わり。もうこの子達をあんたの実験なんかに使わせない」
「あァ? 第三位サマが何を勝手に仕切ってやがる。こっちは予定通り来てンだし、そこの実験動物だって予定通りノコノコ出てきてンだろォが」
一方通行は一〇〇三二号を見る。
「違うかァ?」
「実験開始予定時刻には、なお若干の猶予がありますが、ミサカ一〇〇三二号が本実験の対象個体であることに相違はありません、とミサカは事実のみを回答します」
「そォいうコト聞いてンじゃねェよ」
笑みが深くなる。
美琴は一歩前へ出た。
「この子はやらせない。どうしても実験を続けるっていうなら、私が相手になる」
「第三位が身代わりに死にに来たってかァ? そりゃまたずいぶン感動的じゃねェか」
「死ぬつもりなんかないわよ。あんたを止めるって言ってんの」
美琴の周囲へ青白い電光が走り、地面の砂鉄が細かな黒い粒となって浮き上がっていく。それでも一方通行は構えようともせず、避ける必要すら感じていないように立っていた。
その態度へ美琴がさらに前へ出ようとした時、上条が二人の間へ割り込んだ。
「待てよ。御坂、お前がこいつと正面からやり合って、それでお前まで死んだら誰が実験を止めるんだ」
「どきなさい! これは私が始めたことなのよ。だったら私が――」
「だからって一人で全部抱えて、自分一人が潰れれば済むなんて考えるなよ! それじゃ、自分なんか死んでも構わないって言ってるこいつと同じじゃねえか!」
美琴の顔が歪む。
「じゃあどうすればいいのよ! あんたは何にも知らないくせに、こいつがどれだけ化け物かも知らないくせに!」
「知らねえよ!」
上条は怒鳴った。
「どうすりゃ全部上手くいくかなんて分かんねえし、俺はそんな頭のいい答えなんか持ってねえ。でも、分からないからって目の前の奴が死ぬのを認める理由にはならねえだろ!」
そして、一方通行へ向き直る。
「だからまず、目の前で人を殺そうとしてるこいつを止める。話はそれからだ」
一方通行が目を細めた。
「……オマエが?」
声に露骨な嘲りが混じる。
「テメェ、何モンだ。能力者にも見えねェが、まさか何の勝算もなく第一位の前へ出てきたわけじゃねェだろォな?」
「上条当麻。レベルゼロだよ。無能力者で悪かったな」
一瞬だけ間があった。
次いで、一方通行が噴き出す。
「く、は……ハハッ! レベルゼロォ? 第一位の前に無能力者がしゃしゃり出て、何しようってンだよ!」
「お前を止める」
上条は右拳を握った。
「それだけだ」
一方通行の笑みが細くなる。
足元には、線路を固定するための金属製の部品が一つ転がっていた。
一方通行が軽く爪先を当てた、ただそれだけの動作の直後、金属片は砲弾じみた速度で線路上を走った。
「アンタ、避けて!」
美琴の電撃が弾け、磁力によって飛来物の軌道を強引に横へ逸らす。
金属片は上条の脇を抜け、数十メートル先のコンテナへ轟音とともに突き刺さった。厚い鉄板が大きくへこむのを見て、上条の顔から一瞬だけ血の気が引く。
「最強って言葉の意味ぐらいは分かったかァ、レベルゼロ? 次は第三位が助けてくれるとは限らねェぞ」
上条は潰れたコンテナへ一度だけ視線を向け、それでも拳を下ろさなかった。
「だから何だよ。どれだけ強くても、人を殺していい理由になるわけじゃねえだろ」
一方通行の笑みが、ほんの僅かに止まる。
美琴が横から上条を睨む。
「アンタ、本気でこいつとやるつもりなの?」
「御坂はそいつを連れて下がってろ。お前まで前に出たら、守る奴がいなくなる」
「ふざけないで。あんた一人だけ置いて――」
「一人じゃねえよ」
上条は一〇〇三二号へ目を向けた。
「こいつを死なせたくない奴が、ここに二人いる。少なくとも、俺は勝手にそう数えるぞ」
一〇〇三二号が瞬きをする。
美琴は返す言葉を失った。
一方通行だけが、そんな三人を酷くつまらなそうに眺めてから、肩を鳴らした。
「茶番はそろそろ終わりかァ? こっちは実験しに来てンだ。家族ごっこに付き合う義理はねェンだよ」
その一言で、操車場の空気が再び張り詰めた。
上条が右拳を構え、美琴も退かず、一〇〇三二号は二人の背後から一方通行の動きを追い続ける。つい先ほどまでの言い争いとは違い、今度の沈黙には、次に誰かが動けばそのまま戦闘へ移行するという明確な緊張が満ちていた。
◇
同じ頃。
常盤台中学外部寮を出た黒子とアナザーは、市街地を何度も空間移動しながら実験地点へ急いでいた。
一度で届く距離ではない。
黒子は屋上や歩道橋、人通りの消えた路地、建物脇の空き地といった障害物の少ない場所をその都度選び、アナザーを伴ったまま短距離転移を繰り返していた。転移するたび二人分の身体を安全に置ける座標を定め、出現直後には周囲を確認して次の演算へ入る必要があるため、その負荷は通常の移動とは比較にならない。
「黒子お姉様、大丈夫ですか?」
「……今はあまり話しかけないでくださいまし。あなたを運びながら、この速度で転移を繰り返すのは想像以上に神経を使いますの」
黒子の顔色はすでに悪い。
それでも足を止めるつもりはなかった。
「本当に場所は間違いありませんのね。ここまで来て違いましたでは済みませんわよ」
「はい。一〇〇三一号だった頃、実験へ投入される個体に与えられていた行動情報の一部が残っています。本日、一〇〇三二号が向かう予定地点はこの先で間違いありません、とミサカは保証します」
実験へ投入される個体。
その言葉へ黒子は一瞬だけアナザーを見たが、聞きたいことを飲み込んだ。
「お姉様も、そこにいらっしゃる可能性が高いのですね」
「恐らく。オリジナルの性格から考えて、一〇〇三二号だけを向かわせるとは思えません」
黒子の表情が引き締まる。
「……なら、急ぎますわよ。掴まっていてくださいまし」
アナザーの腕を掴み、再び二人の姿が消えた。
それからも何度となく転移を繰り返した末、二人はようやく操車場の外縁近くにある建物の屋上へ現れた。
「……っ」
黒子が膝をついた。
「黒子お姉様!」
「大丈夫ですの。少なくとも、まだ意識は飛んでおりませんわ」
強がってはいるが、呼吸は明らかに荒い。
それでも黒子は屋上の縁まで進み、操車場を見下ろした。
照明の下に、美琴らしい人影がいる。
その近くには同じ顔の少女とツンツン頭の男子高校生。
そして、白い髪の少年。
アナザーの顔から、さきほどまでの軽さが消えた。
「いました。白髪モヤシ……第一位です」
「……あれが」
黒子も息を整えながら目を細める。
細かな会話までは分からない。
だが、四人の位置関係と張り詰めた空気だけで、すでに何かが始まりかけていることは理解できた。
「ここから先、わたくしまで一緒に入るのは無理ですの。この状態であの場所へ直接転移したところで、お姉様を助けるどころか足手まといになる可能性の方が高い」
「なら、ミサカだけ飛ばしてください」
黒子はすぐに答えなかった。
「……お姉様は、あなたを危険から遠ざけるために、わたくしへ預けましたのよ。そのわたくしが、自分の手であなたを第一位の目の前へ送り返せと?」
アナザーも黙る。
黒子は操車場へ目を戻した。
美琴がいる。
一〇〇三二号がいる。
そして、その向こうには学園都市第一位がいる。
「それでも、行くのですね」
「行きます。一〇〇三二号は今日の実験対象です。オリジナルも、原主一号もそこにいる。それなのに、ミサカだけ安全な場所へ隠れているわけにはいきません」
即答だった。
黒子はしばらくアナザーを見つめ、それから諦めたように息を吐いた。
「本当に、お姉様と同じ顔をしているだけあって、面倒なところまで似ておりますのね」
アナザーの肩へ手を置く。
「ただし、地上へ直接は送りません。あそこはコンテナや設備が多すぎますし、今のわたくしでは細かな座標指定に万全を期せませんの。何もない上空なら、少なくとも物体と重なる危険は避けられます」
「分かりました」
「かなりの高さになりますわよ。本当に着地できますの?」
アナザーは一瞬、自分の足を見た。
つい先ほど寮監との攻防を通じて、身体の軸も重心制御も、衝撃を逃がす動作も劇的に最適化された。
「できます。今のミサカなら、多少高いところから落ちても格好よく着地できます」
黒子は明らかに不安そうな顔をしたが、遠くの操車場で美琴達が動くのを見て、もう迷っている時間がないことを悟った。
「……分かりました。お姉様をお願いします」
「はい」
転移。
アナザーの姿が消えた。
◇
一方通行が一歩踏み出した。
線路脇の砂利が靴底で鳴り、上条が拳を握り直し、美琴も全身へ力を込める。一〇〇三二号がゴーグル越しに一方通行の挙動を追った、その時だった。
一方通行が、不意に視線を上へ向けた。
「……なンだ?」
美琴も釣られて夜空を見上げる。
「何よ……あれ」
操車場の照明より遥か上方に、小さな人影があった。
それは見る間に大きくなる。
落ちている。
しかも、かなりの速度で。
「上空より人型の物体が急速に接近しています。外見的特徴から対象の識別を――と、ミサカは観測を開始します」
「うおおおおおおおおおお!!」
次の瞬間、夜空から聞き覚えのある絶叫が降ってきた。
美琴の顔が引き攣る。
「……まさか、あいつ」
落下してくるアナザーは、空中で身体を捻りながら片脚を下へ向け、もう片方を僅かに引いて上体を起こしていた。
本人の頭の中では計算が成立していた。
寮監との戦いで手に入れた重心制御、全身の軸、衝撃を分散する身体連動。着地した瞬間に膝と腰を沈め、足裏へ入った力を全身へ逃がせばいい。
ただし、寮監に投げられて床へ叩きつけられた時と、何十メートルもの上空から自由落下してくるのとでは、身体へ入るエネルギーそのものがまるで違う。
ましてアナザーは、登場の格好よさを優先し、その全てを片脚だけで受け止めようとしていた。
「ミサカァァァァ、スーパァァァァ着地ぃぃぃぃぃぃぃ!!」
ドォンッ!!
砂埃が爆発した。
その場にいた四人は、揃って声を失った。
砂煙の中央では、アナザーが片膝を曲げ、片手を地面へついた、実にそれらしい姿勢で静止している。
少なくとも、見た目だけなら完璧だった。
「……ふっ」
アナザーが満足そうに笑った。
直後。
ポキ☆
「…………」
笑みが凍りつく。
アナザーは恐る恐る視線を下げ、自分の右脚を確認した。
脛の途中が、不自然な方向へ曲がっている。
数秒の沈黙の後。
「ミ、ミサカの足があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
悲鳴を上げてその場へ倒れ込み、砂利の上を転げ回る。
「痛い痛い痛い痛い! 折れました! 完全に折れました! 何ですかこれ、高い所から落ちたら人間の脚ってこんな簡単に折れるんですかぁぁぁぁぁ!?」
「当たり前でしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 何であんな高さから片脚で着地しようとしたのよ、このアホ!」
美琴の絶叫が操車場中へ響いた。
「お、おい、さすがにそれ大丈夫じゃねえだろ! 動くな、今すぐ――」
上条まで反射的に駆け寄りかける。
一〇〇三二号はゴーグル越しにアナザーの脚を観察した。
「右下腿部に明確な変形を確認しました。脛骨、あるいは腓骨を含む骨折である可能性が極めて高いと、ミサカは冷静に診断します」
「冷静に診断しないでください一〇〇三二号ぉぉぉぉぉ!!」
一方通行だけが、目の前で突然始まった騒動から完全に取り残されていた。
しかし。
ガコン――!
重い金属音が響いた瞬間、その表情が変わる。
アナザーの頭上に浮かんだ方陣が回転した。
「あァ……?」
あの音。
あの輪。
そして、損傷を受けた直後に起こる異常な変化。
一方通行は思い出した。
「……テメェかよ」
アナザーの脚が戻っていく。
折れていた骨が繋がり、歪んでいた輪郭が正常へ戻ると同時に、先ほどまでの激痛も急速に消えていった。
「…………あ」
アナザーはぴたりと騒ぐのをやめた。
そして、何事もなかったように立ち上がる。
服についた砂を両手でパンパンと払い、乱れた髪を整え、胸を張る。その顔には、つい数秒前まで地面を転げ回りながら骨折を訴えていた事実など、この世に存在しなかったかのような平静さが戻っていた。
美琴のこめかみに青筋が浮かぶ。
アナザーは一度大きく息を吸い、右手を腰へ、左手を前へ出して、寮監戦の末に最適化された妙に様になった構えを取った。
「原主一号!」
上条が自分を指差す。
「……原主一号って、やっぱり俺のことなのか?」
「オリジナル!」
「誰がオリジナルよ! せめて名前で呼びなさいよ!」
「そして一〇〇三二号!」
「はい。呼びかけを確認しました、とミサカは応答します」
アナザーの頭上では、再び静止した方陣が夜の照明を受けて浮かんでいる。
本人は満面の笑みだった。
「お待たせしました! 第零位『
一瞬、誰も何も言わなかった。
上条は困ったように美琴を見て、一〇〇三二号は相変わらず無表情のままアナザーを観察し、一方通行は再び現れた異常個体を睨みながら眉間へ深い皺を刻んでいる。
そして。
とうとう美琴の堪忍袋が切れた。
「ア、アホかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
つい数秒前まで殺意と緊張に満ちていた夜の操車場へ、御坂美琴の絶叫が盛大に響き渡った。