研究施設の廊下へ、またしても金属がひしゃげる轟音が響き渡った。
一〇〇三一号の拳をまともに受けた隔壁は中央部を大きく陥没させ、固定機構から耳障りな軋みを発した末、三発目で片側のレールを完全に外した。巨大な金属板が斜めに傾いて人ひとり分の隙間を作ると、一〇〇三一号はそこへ身体をねじ込み、検査着の裾を引っ掛けながらも反対側へ抜け出す。
「またまた突破ぁぁぁぁ! とミサカはもはや施設側の学習能力に疑問を抱き始めます!」
つい一時間ほど前まで、一方通行が視界へ入るだけで悲鳴を上げていた少女と同一人物とは思えないほど、その声には自信が満ちていた。
無理もない。一〇〇三一号の認識では、銃弾はもう通じず、一方通行の反射も突破し、注射針もメスも身体を傷つけられず、今では行く手を塞ぐ分厚い隔壁さえ拳で破壊できている。本来なら、未知の現象には依然として普通に傷つけられるという重大な穴が残っているのだが、能力の原理をほとんど理解していない本人がそんな冷静な分析へ辿り着いているはずもなく、短時間に成功体験ばかりを積み上げた結果、「もしかして今のミサカ、かなり強いのでは?」という極めて危険な認識だけが急成長していた。
「ふふふ……次はどの壁ですか、とミサカはあえて挑発的な質問を投げ掛け――」
『一〇〇三一号』
天井のスピーカーから声が降ってきた。
一〇〇三一号は走りながら顔を上げる。
「何ですか。今さら降伏しても遅いですよ、とミサカは勝者として寛大な態度で話を聞きます」
『止まれ』
「嫌です」
『話を聞け』
「走りながら聞いています」
『止まったら、食事を用意する』
「…………」
一〇〇三一号が、あまりにも綺麗に止まった。
右脚を前へ出して走っていた姿勢のまま一瞬だけ静止し、それから何事もなかったかのように足を戻して姿勢を正したため、監視室でモニターを見ていた研究員達の間には、先ほどまでの緊迫感とは別種の何とも言い難い沈黙が落ちた。
「……止まったぞ」
「止まったな」
「…………マジか、コイツ」
スピーカーの向こうにいる本人には聞こえていない。
「続きをどうぞ、とミサカは交渉相手に発言を許可します」
『…………暖かい食事を用意する』
一〇〇三一号の眉が僅かに動いた。
『シャワーも使わせる。その後は、ちゃんとベッドも用意する。だから暴れるのをやめろ』
一〇〇三一号は無言のまま腕を組んだ。
監視室では研究員達がモニターを凝視している。
「効いてる」
「効いてるな」
「本当にそれだけでいいのか?」
「さっきから本人がそれしか要求してない」
「だったら何で最初からやらなかったんだ」
「検査が必要だったからだろ」
「その結果、隔壁が三枚死んでるぞ」
非常に正しい指摘だった。
一方、一〇〇三一号は廊下の中央で、まるで国家間の重大な外交交渉へ臨んでいるかのような険しい表情を浮かべながら条件を吟味していた。暖かい食事、シャワー、ベッド――今の彼女にとって、それは現金や宝石などより遥かに価値の高い三種の神器である。
しかし、相手が研究員であることも忘れてはいない。
つい先ほどまで「こちらには必要だ」という理由だけで、自分の身体から皮膚や筋組織を採取していた連中なのである。
「……信用できません、とミサカはこれまでの実績に基づいて慎重な姿勢を維持します」
『本当に用意する』
「以前も危害を加えないと言いました」
『今回は検査をしない』
一〇〇三一号はさらに眉間へ皺を寄せた。
魅力的だった。
非常に魅力的だった。
それでも、簡単に釣られたと思われるのだけは何となく癪だった。
監視室の研究員の一人が、そんな様子を見ながら声を潜めた。
「……あと一押しか?」
「多分」
「何かないのか」
「何かって?」
「食い物で止まるなら、食い物を追加しろ」
「じゃあ……」
少し迷った末、スピーカー担当の研究員がマイクへ口を近づけた。
『デザートも付ける』
「…………!」
一〇〇三一号の肩が目に見えて動いた。
研究員達が顔を見合わせる。
明らかに効いていた。
「何のデザートでしょうか、とミサカは交渉条件の具体化を要求します」
『……プリン』
一〇〇三一号は目を閉じ、腕を組んだまま深く俯いた。
その姿だけを切り取れば、人生を左右する重大な決断について思索しているようにも見えたため、監視室の研究員達も何となく声を潜めて成り行きを見守る。
数秒後、一〇〇三一号は重々しく目を開いた。
「思慮熟考を重ねた結果、ミサカは研究員側の提案に一定の合理性を認め、今回に限って条件付きで受諾することを決定しました、とミサカは極めて慎重かつ理性的な判断であることを強調します」
監視室が静まり返った。
「プリンだな」
「プリンですね」
「絶対プリンだろ」
「本人の名誉のために言うな」
一〇〇三一号はそんな評価など知る由もなく、胸を張って続けた。
「ただし、食事は暖かいもの。シャワーは途中で止めない。睡眠中に検査を行わない。プリンを途中で没収しない。この四条件を要求します」
『……分かった』
「口約束では信用できません」
『じゃあどうしろと』
一〇〇三一号は少し考えたものの、契約書を書かせても守らせる第三者機関が思いつかず、やがて仕方がないとでも言うように小さく頷いた。
「今回は特別に信用します、とミサカは寛大な措置を取ります」
『そうか』
「では案内してください。なお、プリンが存在しなかった場合はその時点で交渉決裂と判断し、隔壁破壊を含む帰宅行動を直ちに再開します、とミサカは契約不履行時の対応をあらかじめ通告します」
『ある。ちゃんとあるから、それ以上壁を壊すな』
「了解しました」
こうして、研究施設を半ば物理的に踏破しかけていた一〇〇三一号の大脱走は、暖かい食事とシャワーとベッド、そしてプリン一個によって一時休戦へ入った。
◆
一〇〇三一号は、目の前へ置かれた食事をしばらく無言で見つめていた。
湯気の立つ白米に温かいスープ、肉と野菜を使った主菜といくつかの副菜が並んでおり、施設食らしく栄養計算を優先した内容ではあるものの、少なくとも冷たい栄養剤でも、研究対象へ必要なカロリーだけを流し込むようなゼリーでもない。
間違いなく、人間が普通に食べるための温かい食事だった。
一〇〇三一号は慎重に箸を取り、白米を一口だけ口へ運んで咀嚼すると、しばらくしてゆっくり目を閉じた。
「……生きています、とミサカは生命という概念を噛み締めます」
「大袈裟だろ」
少し離れた位置から監視している研究員が呟いた。
一〇〇三一号は即座に振り向く。
「今日死ぬ予定だった人間に対してその発言は配慮に欠けます、とミサカは正式に抗議します」
「食え」
「言われなくても食べます」
それからしばらく、一〇〇三一号は驚くほど大人しかった。
今日一日の出来事で消耗しきった身体が栄養を求めていたこともあり、箸はほとんど止まらない。温かい米を口へ運び、肉を食べ、スープを飲むたびに、操車場で何度も死にかけた記憶や、検査室で身体を切り取られた不快感が、ほんの少しずつ現在から遠ざかっていくように感じられた。
そして食事がほぼ終わった頃、小さなトレイに載せられた黄色い容器が運ばれてくると、一〇〇三一号はそれが透明な蓋の下に淡い黄色の中身とカラメルを収めた、紛れもないプリンであることを確認し、目を僅かに見開いた。
本当に約束を守ったらしい。
一〇〇三一号は容器と研究員を交互に見比べる。
「確認ですが、これはミサカのものですね?」
「そうだ」
「途中で没収しませんね?」
「しない」
「本当に?」
「早く食え」
なおも疑わしそうな視線を向けていた一〇〇三一号だったが、やがてプリンを自分の側へ引き寄せると、誰にも奪われないよう両手で囲いながら蓋を剥がし、スプーンですくった最初の一口を慎重に口へ運んだ。
舌へ甘味が広がった瞬間、目元が僅かに緩む。
「……ミサカは本日初めて、この世界にも若干の利点が存在する可能性を認めます」
「プリン一個でか?」
「若干と言いました」
それ以上話を広げるつもりはないらしく、一〇〇三一号は研究員を無視して二口目へ進み、その後も誰かに奪われる心配など実際にはないにもかかわらず、最後まで非常に大切そうにプリンを食べ切った。
◆
食事を終えた後には、約束通りシャワーも用意された。
一〇〇三一号は念のため、脱衣所から浴室まで妙な採取器具や監視用の人員が潜んでいないことを一通り確認し、さらに研究員へ「覗いた場合は壁と同じ扱いにします」と意味のよく分からない警告まで残してから、ようやく温かい湯を頭から浴びた。
髪へ付着していた埃も、皮膚に残っていた血の跡も、操車場と検査室の臭いも、湯とともに少しずつ排水口へ流れていく。肩から背中へ温かさが広がっていくのを感じているうちに、一〇〇三一号は今度こそ本当に、今日の実験が終わったのだという実感をようやく得始めていた。
「…………はぁ」
熱すぎない湯を肩へ浴びながら長く息を吐くと、それまで張り詰めていた身体から力が抜けていく。
前世の記憶を取り戻してから、まだ一日も経っていないはずなのに、体感としては数日どころか数週間分ほどの出来事を一日に詰め込まれたような気がした。
「明日は何も起きないことを希望します、とミサカは切実かつ極めて常識的な願望を表明します」
誰も返事はしなかったが、それでよかった。
少なくとも今だけは、誰にも邪魔されずに身体を洗うことができた。
シャワーから上がると新しい衣類まで用意されており、さらに研究員達は約束を守るため、空いていた一室へ急遽簡易ベッドを運び込んでいた。豪華とは程遠く、簡素なフレームに白いマットレスと枕、薄い掛け布団があるだけだったが、一〇〇三一号にとっては、その光景だけで十分に感動できる。
「……ベッド」
「用意したぞ」
「本当にベッドです」
「そう言っただろ」
一〇〇三一号は罠でも調べるような慎重さで近づき、マットレスを手のひらで何度か押してみると、隔離室の床とは比較にもならない柔らかさが返ってきた。
「罠では?」
「寝ろ」
「睡眠中の検査は禁止です」
「分かってる」
「注射も禁止です」
「そもそも刺さらないだろ」
「それでも禁止です」
「はいはい」
研究員のあまりにも雑な返答には若干の不信感が残ったものの、食事、プリン、シャワーという約束が実際に守られたことで、施設側への信頼残高はマイナスから辛うじてゼロ付近まで回復している。
何より、もう限界まで眠かった。
ベッドへ横になって枕へ頭を乗せた瞬間、それまで緊張によって無理やり押さえ込まれていた疲労が一気に表面へ浮かび上がり、瞼が本人の意思とは無関係に重くなっていく。
「……ミサカは……この転生生活について……評価を……」
欠伸を噛み殺しながら掛け布団を肩まで引き上げる。
「……星、一つ……プリンを考慮して……一・五……」
そこで言葉が途切れ、数分もしないうちに一〇〇三一号は完全に眠りへ落ちた。
◆
どのくらい眠ったのか、一〇〇三一号には分からなかった。
一時間だったのか、三時間だったのか、それとももっと長かったのかもしれないが、次に意識を取り戻したとき、最初に感じたのは背中へ触れているものの異様な硬さだった。
「…………ん」
ベッドのマットレスとは明らかに違う。
寝返りを打とうとして両腕へ力を入れてみると、右も左もほとんど動かず、続けて脚まで固定されているらしいと気づいたところで、まだ霞んでいた意識が急速に覚醒していった。
「…………は?」
一〇〇三一号は目を開き、最初に視界へ天井ではなく正面の壁が入ったことで、自分が横になっているのではなく、ほとんど立った状態に近い角度で固定されていることを理解した。
視線だけを左右へ動かして確認すると、両腕は左右へ広げられ、手首には分厚い拘束具が嵌められている。胴体も固定され、腰から太腿、足首までそれぞれ別個の強固なバンドで押さえつけられており、背中全体を支えている巨大な金属製フレームは、形だけを見ればどう考えても一つのものしか連想できなかった。
「…………十字架?」
ほとんど磔だった。
残っていた眠気が完全に消し飛ぶと同時に、数時間前の交渉内容が頭の中へ一気に蘇る。
食事も出た。
プリンも食べた。
シャワーも浴びた。
ベッドも確かに用意された。
睡眠中に検査をしないという約束まで、少なくとも言葉通りなら守られているのかもしれない。
ただし、「眠った後で拘束具へ移し替えない」とまでは一言も約束していなかった。
一〇〇三一号のこめかみが引き攣った。
「研究員さぁぁぁぁぁぁん!?」
絶叫が室内へ響き渡る。
「話が違いませんかぁぁぁぁぁ!? とミサカは契約書の文言の隙間を突いた卑劣極まりない行為に対して最大級の抗議を――」
「うるっさいわね」
女の声が割り込んだ瞬間、一〇〇三一号の口が止まった。
研究員の声ではない。
しかも、その短い一言だけで機嫌が相当に悪いと分かる声音だった。
一〇〇三一号は嫌な予感を覚えながらゆっくり正面へ視線を戻し、そこに立っている一人の少女を認識した。
茶色い髪に整った顔立ちを持ち、年齢だけを見れば一〇〇三一号と大きく変わらないはずなのに、全身から漂っている刺々しい空気は、初対面の人間へ反射的に距離を取らせるには十分すぎる。
そして何より、前世の記憶を持つ一〇〇三一号はその顔を知っていた。
学園都市第四位、『原子崩し』の麦野沈利。
一〇〇三一号が瞬きをすると、麦野も真正面からこちらを眺め返した。
麦野が研究側から事前に聞かされている情報は多くない。目の前の少女が第三位・御坂美琴の体細胞を元に製造されたクローンであること、本来想定されていた能力とは異なる未知の力を発現した可能性があること、そしてその能力特性を調べるため、レベル5である自分に検証実験への協力を求めていること――概ねその程度であり、この少女がどんな計画へ組み込まれているのかといった背景までは知らされていなかった。
そして麦野は、本来ならそんな正体不明のクローン相手の能力検証など、面倒だの一言で断ってしまいたかった。
能力の詳細も分からない、目的も大して興味がない、研究員達が何を確認したいのかについても麦野自身にはどうでもいい。普段なら金を積まれようが、気分が乗らなければ「くだらない」と切り捨ててもおかしくない類の依頼だった。
それでも今回は、完全に突っぱねることができなかった。
つい先日、研究施設防衛の仕事を請け負い、襲撃してきた第三位・御坂美琴を消耗しきった状態まで追い詰めながら、最終的には取り逃がした。そればかりか、守るよう依頼されていた施設の破壊まで許している。
麦野本人がどう評価していようと、依頼を受けた側として見れば失態には違いない。
そんな直後に研究側から持ち込まれた「能力検証への協力」という依頼を、いつもの調子で一蹴するほど立場が綺麗ではなかった。
だから来た。
ただ、それだけだった。
別に興味があったわけではない。
むしろ、本来なら付き合いたくもない実験へ前日の失敗のせいで顔を出さざるを得なくなったという事実自体が、麦野の機嫌をさらに悪化させている。
そのうえ、実験室へ来て実際に待っていたのは、よりにもよって昨日散々追い回した御坂美琴とほとんど同じ顔をしたクローンだった。
事情を理解していることと、その顔を見て腹が立たないことはまったく別の問題だった。
「……話には聞いてたけど」
麦野が、一〇〇三一号の顔を上から下まで眺めた。
「クローンって、本当にそのまんま同じツラしてんのね」
口元が僅かに歪む。
「最悪。しばらく見たくなかった顔なのに」
「…………」
一〇〇三一号は麦野を見つめたまま、前世の記憶の中にある情報と、目の前の少女の特徴を照合した。
茶色い髪。
第四位。
原子崩し。
緑色の高出力電子線。
すべてが一致した瞬間、一〇〇三一号の顔から血の気が引いた。
「け……」
「……あ?」
「研究員さぁぁぁぁぁん!!」
唐突な絶叫に、麦野の眉がぴくりと動く。
「緑ビームおばさんが不法侵入していますぅぅぅぅぅぅ! とミサカは施設警備へ最大級の非常事態を通報しますぅぅぅぅ!!」
室内の空気が凍った。
麦野の表情から、辛うじて残っていた薄い笑みが消える。
「誰がおばさんだァ! クソガキが!!」
一〇〇三一号は、自分が数秒前に口走った内容を頭の中で再生し、非常に危険な単語を選択してしまった事実を遅ればせながら認識した。
しかし、そこで素直に謝罪すればいいものを、恐怖と混乱が合わさった結果、なぜか別方向へ論点を逃がした。
「……緑ビームの部分には異論がないのでしょうか、とミサカは論点を慎重に確認します」
「そこじゃねェんだよ!!」
「ヒィィィィィ!!」
麦野が一歩踏み出した瞬間、一〇〇三一号は十字架状の拘束具へ背中をさらに押しつけるようにして逃げようとしたが、当然ながら手足も胴体も固定されたままで、身体はほとんど動かない。
「研究員さん! 警備! 警備を呼んでください! 非常に機嫌の悪い不審者が接近しています!」
『不法侵入じゃない』
室内スピーカーから研究員の声が返ってきた。
一〇〇三一号の動きが止まる。
『第四位は、こちらが呼んだ』
「…………」
一〇〇三一号は麦野を見て、それからスピーカーへ視線を向け、もう一度麦野へ戻した。
「研究員さん」
『何だ』
「つまり、この緑ビームおば――」
麦野の目が細くなった。
「……第四位を招き入れたのは、あなた達ですか、とミサカは極めて慎重に語彙を修正します」
『そうだ。お前に発現した可能性がある未知の能力について検証する。その協力者として第四位を呼んだ』
「…………」
一〇〇三一号の表情から、今度こそ完全に余裕が消えた。
麦野自身は絶対能力進化計画の詳細など知らない。
しかし一〇〇三一号の側は、目の前にいる少女の攻撃がどれほど危険かを前世の知識として知っている。
そして何より、自分は今、十字架じみた拘束具へ貼り付けられている。
「……研究員さん」
『何だ』
「能力検証という言葉の具体的内容について、ミサカは非常に重大な事前説明不足を訴えたいのですが」
『それはこれから説明する』
「嫌な予感しかしません!」
その叫びを真正面から浴びながら、麦野沈利は相変わらず不機嫌そうに一〇〇三一号を眺めていた。
「アンタ、さっきからよく喋るわね」
「生命の危機に際して発話量が増加するのはミサカの生存戦略です!」
「へえ」
麦野の口元が、今度は明確に笑みの形へ歪んだ。
一〇〇三一号はその表情を見た瞬間、食事とシャワーとプリンを手に入れた程度で「交渉に勝利した」と考えていた数時間前の自分を、今すぐ過去へ戻って殴りたいと心の底から思った。