「私が…こんな所でェェェェェ!」
御前試合が終わり、ロザリンが雷電将軍に襲いかかる
雷電将軍はゆったりと歩きながら刀を構え、目に見えない速度でロザリンに斬りかかる
本来なら、ロザリンは雷電将軍に切り伏せられ、そのまま消滅する運命だった
だが、雷電将軍の刃は、誰かに止められる
「…………」
雷電将軍はそのまま神速の刃を振るうが、それらは全て受け流される
「これは…」
雷電将軍の腹に何者かの剣が振るわれる
雷電将軍は受け止めるが、そのまま後ろに下がる
「……貴方…その剣技…見覚えがあります」
「…初対面のはずなんですがね…」
雷電将軍に相対していたのはカナメ
手には黒色の強い紫色の片手剣を構えており、雷電将軍の一撃を受け流したとはいえ特に響いてないように見える
「アンタ…何邪魔してんのよ…」
「いや…絶対あそこであんた死んでたでしょ…まだオデットとの話し合いもすんでないし…夜な夜な恨み節聞かされる俺の身にもなってくださいよ」
信じられない
モンドで、璃月で、稲妻で散々悪事を働いてきたファデュイ執行官淑女
明らかに敵対していた彼女と彼は…カナメはまるで仲間かのように話している
「ね、ねぇ…カナメ…何してるの?」
信じられないくらい震えた声が喉から出てくる
カナメは雷電将軍から目を離してこちらの方を見る
その眼はいつも通りのカナメだ
「あ~悪い。流石に上司殺させるわけにはいかないんだ」
上司?淑女が?
なら…カナメは…
「ファデュイ……だったの?」
「あれ…言ってなかったっけ………あ~悪い。言うの忘れてたわ」
悪びれずに軽く謝る程度のカナメ
蛍の目端に涙が少したまった
「……モンドからずっと?」
「まぁ…元々冒険者だとは言ってないしな」
モンドの秘境で危ないところを助けてもらってから何とか頼み込んで旅に着いてきてもらっていた
ずっと冒険者だと思い込んでいたが、実際に何をしているなどは聞いたことが無かった
「お前!あんまりだぞ!」
「ごめんね~パイモンちゃん。流石に上司見殺しにするのはねぇ…」
ぷんすかと怒っているパイモンにへらへらと返すカナメ
こう見ると今まで通りのカナメだ
「さて…そろそろお暇したいんですけどッ!?」
「無礼者。この天守閣から生きて出れるとでも?」
雷電将軍の刃を何とか受け流すカナメ
同じ雷を纏っているからか最早残像しか見えない速度で互いに斬り合っている
「クソ…もう無理!帰る!」
カナメが地面を叩くと爆発が起き、煙が起こる
雷電将軍は煙の奥に突撃するが、すでにそこには淑女もカナメも居なかった
「……逃げられましたね。あなたも、もうここから去りなさい」
そのあとのことはあまり覚えてない
天守閣から出て、いきなり雷電将軍に襲われて、雷電将軍と戦った
でも、全部あんまり実感がない
パイモンと夜ご飯を食べて、壺に帰った
先に寝たパイモンを置いて壺からまた出る
静まり返った稲妻をボーッと歩く
ただただ歩くだけなのに段々と視界が涙でボヤけてくる
「……ッ………うぅっ…なんで…」
道の途中でしゃがみこんでしまう
涙が止まらない
嗚咽も我慢せずにひたすら涙を流す
酷く傷ついた
裏切られた
ずっと、一緒に居てくれると思ったのに
彼が選んだのはファデュイだ
「嘘…カナメがあんな酷いことする奴らの仲間なわけない…」
頭の中で色んな考えがぐるぐる巡る
ガンガンと頭が痛む
ホントに?
貴女に飽きたんじゃないの?
毎晩毎晩はしたなく誘ってたのに相手にされないで
「うるさい!黙って!」
悲しすぎて頭がおかしくなったのか?
自分の声が嫌ったらしく言ってくる
だが、彼女の言うことは否定できなかった
そうだよね
モンドで助けられて、白馬の王子様みたいで…
でも…彼にとっては貴女も沢山助けた人の1人だったみたいだね
「黙れ黙れ黙れ黙れぇ!」
思わず雷元素が漏れる
カナメと一緒にしたいと稲妻に来てから必死に練習した雷元素
雷元素は周囲の草や木を焦がし、破壊する
だが、頭の中の声は止まない
それどころかさらに酷くなる
でも…おかしいと思わない?
「……何が…」
見ず知らずの貴女でさえ助けてくれる彼が、稲妻の人達を苦しめたロザリンに手を貸すと思う?
「……………」
ほら、答えはもう目の前だよ
「……そっか…そうだよね…おかしいと思ってたんだ…」
先程まで狂乱していたとは思えないほど冷静に立ち上がる
だが、その目は到底まともと言える目ではなかった
「カナメが…そんなことするわけないもんね…助けてあげなくちゃ…」
満足げに笑う蛍
軽い足取りで壺まで帰ると、パイモンの隣に寝転がる
「すぐ見つけるからね…カナメ…」