「なぁ…」
「…………」
「なぁって…」
「……何ですの?」
カナメは自身の腕に引っ付いているオデットに声をかける
オデットはまるでさも当然かのように受け答えする
「もう…朝来てからずっとくっついてるけど…お前今日久々の休日だったんだろ?」
「ええ。最高の休日になったと思ってますわ」
そう言いながらさらに腕にしがみつく力が強くなる
あの時、ミスって死んでる時を見られてから、休みの日は必ずこうして腕に引っ付いてくる
「………なぁ…そんな掴んでなくてもおれはどっかいかないって…」
「嫌です。放しません」
別にオデットは美少女だし引っ付かれてる分には問題ないが、問題なのは彼女のファンたちだ
流石に一日中部屋に籠るわけにも行かず、外に出ることがあったのだが、その時に彼女のファンの中でも過激派の連中に見つかった時はほんと酷かった
あの時は相手が一般人なのにも関わらずオデットが俺を殺すという発言に過剰反応して剣まで抜いてしまっていた
「………ロザリン様との仲を取り持って頂いた恩もあるんです。まだ死なせる訳には行きません」
腕を掴んでいるオデットの手はカタカタかと震えている
爪がくい込み、少し血が出るほどの力
彼女の想いがミシミシと言う音と共に伝わってくる
「オデット〜今暇かしら?」
ドアの外から綺麗な女性の声が聞こえる
オデットは忙しいと答えようとしたが、有無を言わさず扉が開かれる
そこにいたのはヴォジャニーツァ
スネージナヤが誇る歌姫であり、プリマドンナであるオデットと双璧を成している
「ちょっと!何してるのよ!」
ヴォジャニーツァはぷんすこと怒りながらこちらに近づいてくるとものすごい力でカナメを掴み、そのままオデットから引き剥がした
「ああっ…」
オデットはすぐにカナメに飛びつこうとするが、ヴォジャニーツァに抱きつかれて動けないようだ
ヴォジャニーツァはすごい剣幕でこちらを睨んでくる
「ちょっと!アタシの可愛いオデットに何してるのよ!」
「いや…引っ付かれてたのは俺の方なんだが…」
昔からヴォジャニーツァとは何故か仲が悪い…と言うよりはオデットと仲がいいカナメに突っかかっている
「ヴォジャニーツァ…暑苦しいですよ…」
「オデット!アナタこの頃変よ!稽古中もずっと上の空だし休暇とる頻度も前よりずっと増えてるのだわ!」
「私の勝手でしょう。放してください」
そう言いながらヴォジャニーツァから離れ、つかつかとカナメの方に歩いていく
カナメの手を取るとそのまままたベッドまで歩いていき、そこに座らせる
横に座り、腕をガッシリホールドする
「もう!こら!離れなさい!」
そう言いながらカナメの腕を引っ張るヴォジャニーツァ
多分あと数分したら、腕は引っこ抜ける
「だからヴォジャニーツァ!俺じゃねぇって!」
ヴォジャニーツァを引き剥がそうと腕を乱暴に動かす
「キャッ!?」
それが良くなかった
予想以上に腕を強く掴んでいたヴォジャニーツァがカナメの方へとよろけてしまった
そして、ヴォジャニーツァはカナメの体に寄りかかるような形になり、顔は…
「…………………」
(なんだこれ…柔らかい?)
恐る恐る目を開けると、眼前にはギュッと目を瞑っているヴォジャニーツァの顔
(ん?)
この距離で…顔が目の前に?
心做しかオデットが掴んでいる方の腕が悲鳴を上げている気がする
眼前に顔、唇に柔らかい感触
(あ…これヤバ…)
急いで離そうとした時、頭がグラッと意識が遠のく
薄まる意識の中、顔を赤くしたヴォジャニーツァ、目からハイライトが消えた底冷えするようなオデットが視界に入る
『フン…』
脳裏に、声が聞こえた気がした