「アビスに汚染されてた?私が?」
蛍は動揺していた
そりゃそうだろう
今まで嫌と言うほどにアビスを吸いまくって害など出ていなかったのに急に汚染されていると言われたら俺だってこうなる
「ああ。もう吸い出したから問題ないが…何か心あたりはあるか?」
「………」
考え込む蛍
アビスと関わることなんて彼女にしたら日常茶飯事だろう
悶々と考えている間に部屋のドアが開けられる
「あれ、カナメさん?来てたんですか!」
ティレルが何やら大量の荷物を持って帰ってきたようだ
「おお!おいらのご飯!」
パイモンちゃんが嬉しそうにふわふわと飛んでいく
ティレルの顔を見て蛍が手を叩く
「あ!あの時かも!」
「あの時ってのは?ティレルと会った時なのか?」
蛍が話し始めたのはナタで戦争が終わってから少ししたときの話
豊穣の邦周辺の火山でティレルと出会った時の話だった
「ティレルと触ってる時だけ、カーンルイアの厄災を見ることが出来たんだ」
「ちょっと待ってくれ…カーンルイアの厄災ってのは500年前だよな?なんでティレルはこんな若いままなんだ?」
「…………」
カナメの質問に少し悲しそうな顔をする蛍とティレル
なんかそんな顔をされるとは思っておらず、少し困ってしまう
「……カナメさんのおかげなんですよ。あの時…これを渡してくれたから」
ティレルは首元からネックレスを出してくる
「ティレルはさ…ヒルチャールになっちゃってたんだよ。でも、私と出くわした時に急にネックレスが光りだして…光が収まったころにはヒルチャールじゃなくてティレルが倒れてたんだよ」
「………ちょっと待ってくれ頭の整理が追いつかない…つまり…ティレルは500年前から生きてて元ヒルチャール、推定俺が渡したネックレスでもとに戻ったと?」
「うん」
頭を抱える
まるで記憶にない出来事が起きている
「ネックレスを渡された時、私もいたんだ。しっかりカナメが渡してたのは見てるよ」
蛍もティレルと同じ証言をしてくる
「あ~頭が痛くなってきたからこの話はいったん後でにしよう…で?そのティレルが人間に戻った時にアビスでも撒き散らしたのか?」
「ううん。違う。そのティレルと触れてる時にしか見えないときに…私に会ったんだ」
「私?」
「うん。全く同じ顔で同じ髪色、同じ身長で同じ声をしてる完全に私だった」
「………そんなことがありえるのか?」
蛍の言うことを信じるとするならばこの世界には2人の蛍がいることになる
だが、現実的にあり得ない
「私だって信じられなかったよ」
「まぁ一回話を進めようか。そのもう1人の蛍がアビスの汚染と関係あるのか?」
「うん。最初はカーンルイアを再興するって話をしてたんだけど…途中でカナメの話をし始めた途端に様子がおかしくなったんだ」
まるで死人でも探してるみたいに
取り乱して発狂寸前だったらしい
(まるでちょっと前の蛍みたいだな…)
「その時に…その…そいつが私にカナメは生きてるかって聞いてきたの」
「それで?」
「生きてるって答えたら…急に襲い掛かってきて…」
もう1人の蛍はアビスを駆使していたらしく、何回か被弾してしまったようだ
もしかしたらその時にアビスが染みついたのかもしれないと蛍は言う
「なるほどな…500年前…いるはずのない俺…もう1人の蛍…」
段々頭が痛くなってきた
分からないことが多すぎる
「まずいったん整理しよう。俺…は…」
一度話を纏めようとした時、心臓が大きく跳ねる
慣れ親しんだ感覚
周囲を急いでみるとすでに蛍やティレル、パイモンちゃんは倒れていた
カナメの頭上に赤い目のマークが現れる
「そう…か…お前ら…か…」
声も満足に出ず意識は落ちていく