秘聞の館の空気は重く沈んでいた
博士の介入、コロンビーナの失踪…そしてカナメの消失
蛍の口から語られた当時の光景に皆黙り込んでしまった
「……コロンビーナはおそらくレリルとソリンディスが踏み入った月の影に行ってしまったんだろう…だけど…」
ネフェルが口を閉ざす
人が紐状になって消えるなんて前例が無い
誰もがその不可解な現象に頭を悩ませていた
「戻ったよ」
その時、外から笠っちが戻ってきた
「ある程度予想通りだったよ」
彼の口からはニコの記憶と現在のヒュペルボレイアの虚影とは相違点があったこと
それはドットーレであり、ドットーレは因果にも干渉できる変数を積み重ね、ヒュペルボレイアの民をだまくらかし、月の情報を手に入れたこと
そして、コロンビーナ月に帰るタイミングで偽月を作り出し、コロンビーナを手中に収めたことが語られた
「それともう1つ…ニコさんから直接話したい内容があるそうだ」
笠っちは手元にあるドドコ通信機をその場に浮かせる
『久しぶりね。緊急事態なのは分かっているのだけど…1つ教えて貰えないかしら?』
「うん。どうしたの?」
『
「………どういうこと……」
ニコの唐突な問に蛍は聞き返す
『……アルレッキーノさん、貴方たちの記憶では、カナメはスネージナヤに現れたのよね?数年前に』
「ああ。それは間違いない」
『ネフェルさん、貴方の記憶では幼少期、彼と過ごした記憶があるのよね?』
「ああ。間違いない。あの時…故郷が滅ぼされた時…死んだはずだ」
蛍も、ヤフォダも、ラウマもそれを見ていた
それを聞いたニコは黙り込む
『……おかしいわね…そんなはずは…』
「ニコは…これを聞いて何がしたいの?」
ニコはそのまま少しの間黙り込み、それから話を始めた
『私の記憶では…カナメは最も古い人間としてこの世界に存在していたはずよ。話しか聞いたことは無いのだけど…私よりも古くから存在していたはず…』
「………おいら、頭が痛くなってきたぞ…つまり、あの腹黒野郎はニコよりも長生きで、ネフェルと幼少期を過ごした上でスネージナヤに突然現れたのか?」
「………話の辻褄が合わないね…」
数千年前に生きていた人間が10数年前に共に幼少期を過ごして最近現れた?
そんな突飛な話、小説ですらない
『1つ…突飛な仮説があるのだけど聞いてくれるかしら?』
「仮説って?」
『この世界には…カナメという人間は存在しないんではないかしら?』
「何を…言ってるの?」
蛍の声が震える
存在しない?カナメが?
触れられたのに、喋れたのに、見れていたのに
あの時消えたカナメが…いない?
「そんな訳ない!だって!だって!」
『じゃあ、人間が紐状に分解された時、何も残らず消えるかしら?私も…あの時のカナメ兄さんが生きてるって信じたいわ。でも…過去は変わらないの』
「そんなの記憶違いかもしれないじゃん!だって昨日まで…カナメは…」
蛍は膝を着いてしまう
地面に、1つ2つ…シミが増えていく
『ごめんなさい…今の私は冷静じゃなかったかもしれない…また後日話しましょう』
そう言ってそれからドドコ通信機は静かになった
「私達も…今日は休んで明日整理し直しましょう…」
その日は解散になった
蛍は沈んだ顔で壺まで戻り、布団に倒れ込む
「カナメがいない?そんな訳ないじゃん…」
だが、ニコの言い分に言い返せる根拠がない
あの時、血すら残らず消えたカナメは…本当にいたのか?
本当は夢だったんじゃないか?
違う…彼はいる…
「ッ…うるさい…」
あんなこと言われて良いの?
「ダメ…でも…」
ねぇ、こういう風に考えられない?
ニコはもう彼を見つけてて、彼を隠そうとしてる…とか
「ニコはそんなことしない…絶対に…」
でも、本当に信じられる?聞いた?「カナメ兄さん」って…彼女も…カナメが大切なんじゃない?
「うう…」
蛍はベッドの上で蹲る
ただ、今は声がうるさい
だが、その声以外何も聞こえない
ほら…また私に任せて?
また体に何かが満ちる気配がする
沈むような…体を…取られるような…
ちっ…
(…なに?)
急に、体に満ちていた感覚が抜けていった
そのまま声も聞こえなくなる
「はぁ…本当に…イスタロトの詰めの甘さには苦労させられる…」
(この声…)
聞き覚えのある声
そのまま目を開けると、空中にナタで見た赤色の瞳が浮かんでいた
「死の執政…ロノヴァ…?」