「ふぁあ…」
朝3時、ナタに向かう執行官第1位「隊長」の部下の部隊と合流するために早めに起きて準備しているカナメ
ヴェスナは未だに布団を抱き枕にして寝ている
「ナタかぁ…何か思い出せればいいが…」
カナメは、ロノヴァに定期的に殺されている以外に誰にも言っていないことがある
それは原神をプレイしていたはずなのに一切の記憶がないこと
この世界に転移してきた時、直感的に原神の世界だと確信できた
なのに、何も分からなかった
知っているはずなのに何も分からない恐怖
(あん時はほんとにヤバかったな…)
何も分からない恐怖
頼れる人もいない、金もない
そんな中、バッタリと散歩している女皇にあったから今こうして生きていられる
「よし、行くか」
ヴェスナの朝食を保存してから家を出る
朝4時のスネージナヤは慣れてなきゃ凍え死にそうなほど冷たい空気が満ちている
家を出て目的地まで歩くと、10名ほどのファデュイが待っていた
「よぉ!時間ピッタリだ!さぁ行こうぜ!」
炎の銃を持っているファデュイが声を上げて出発する
今回の部隊はナタへの先遣隊らしい
隊長の率いる部隊よりも先に向かって拠点を整えるなどを行うらしい
「なぁ、アンタも隊長様の弟子なのか?」
周囲を見回しながら歩いていると、後ろにいた岩のファデュイが話しかけてきた
「ああ。女皇に拾われた後に最初に配属されたのが隊長の部隊でな〜先輩たちにはよく指導してもらってたよ」
「なるほどな。隊長様が名指しで呼ぶのは珍しいと思ってな」
そう、今日の遠征は隊長が淑女に話を通してカナメを指名したのだ
他は全員隊長の部下である
「まぁ、仲良くしようぜ」
「んな今回だけみたいなこと言うなよ!これからも仲良くしようぜ!」
風のファデュイが肩を組んでくる
少し戸惑いながらもカナメも肩を組む
ナタへの旅は、特に問題もなく無事隊長のいるキャンプ地へと合流できた
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「来たか」
キャンプに着いてから隊長のいるテントを訪れる
隊長にしては珍しく傷ついており、包帯も巻いていた
「お久しぶりです。貴方が手傷を加えられるのは珍しいですね。炎神ですか?」
「ああ…互いに全盛期ではないとはいえ…相手の実力を見誤ったようだ…」
体を休めているのか座っている隊長
スネージナヤでも1、2位は確実である強者である彼が傷を負わせられるとはかなりの強者なのだろう
「これからは?」
「最初に異郷の旅人に会おうと考えている」
「旅人に…」
「故に旅人との面識のあるお前を呼んだのだ。頼めるか?」
何故、カナメが例外的に隊長の配属としてナタに呼ばれたのか合点がいった
モンド・璃月・稲妻と旅を共にしていたカナメなら旅人との話し合いも円滑に進むと思ったのだろう
「すまない…おそらくアンタが思ってるようには行かないと思う…」
「ほう?何故だ」
「旅人とは確かに旅をしてたが…ほら、稲妻で御前試合の時にいろいろあったから…」
思い出すのは稲妻での出来事
雷電将軍の一撃を防ぎ、淑女を庇うように旅人に相対した時
(まさか泣くとは…)
「そうか…なら、今回しっかりと謝罪をするといい」
「え?」
断ろうとしていた手前、隊長からの言葉に呆然とする
「信頼されていた相手を裏切ったのなら謝罪をするべきだ」
「はい」
自然に背筋が伸びる
なんか、父に叱られている気分になった
「では行くぞ。協力者が誘い出す頃だろう」
隊長の後をついていく
着いたのは何かでかい黒色の石
隊長がそれに手を翳すと一瞬で景色が変わる
全体的に灰色に近い白が基調の何もない世界
「夜神の国だ。もう少しで来るだろう」
「___?_の?」
遠くから少し前は毎日のように聞いていた女性の声が聞こえた
近くにあった物陰に隠れて覗き見ると隊長とフードのようなものを被った男子…そして金髪の女性がいた
「正式な話をしたいと思っている」
隊長はすでに提案をし終わったようだ
旅人は何も答えず、隊長はそのまま去っていった
(旅人は警戒したままか…そりゃそうだよな…)
旅人からしたらギリギリ召使が安全くらいで、他の執行官については良い印象は持っていないだろう
カナメも気配を消したまま、その場を後にする
隊長は競技場の東で会うことを伝えていた
旅人に謝罪するのはその時の方が良さそうだ
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「お前が賛同してくれるなら、今すぐにでも……チッ…」
話をまとめようとした時、何かが近づいてくる気配がした
隊長も気づいたようでどこかに姿を消していった
カナメもその場を後にする
(はぁ…なんかうまくいかねぇな…)
隊長に一度機会をうかがうことを伝えた後、夜のナタを散歩しているカナメ
日本に比べて空気も綺麗で明かりのない夜の空には星が瞬いていた
「あれでお終いってことなのかな」
さすがに上司の命を救うためと言っても気分が良いものではない
彼女はいつか7神全員に謁見すると言っていたが…いつかスネージナヤでも会うことになるだろう
(よし…明日身分を隠して競技場に行こう…多分そこにいるだろうしな…)
自分から謝罪しに行こうと決め、テントに戻ろうと踵を返す
その時、遠くで誰かの悲鳴が聞こえた気がした
(悲鳴?)
さすがに聞こえたものを無視するのは…
「戦士としてあるべき姿じゃないよな…」
元素力を解放してから疾走する
雷元素を纏ったカナメは一瞬で山を駆けのぼり、空に跳ぶ
空から周りを見回すとカナメがいた場所から山を越えた場所にアビスに襲われている人たちがいた
何とか逃げているが、このままいけば…
有無を言わずカナメは雷が空を奔るように真上まで行くとアビスの魔物たちに向けて落雷のように落下した
「早く逃げて!ここは俺が戦います!」
「あ、ありがとうございます!」
アビスの魔物を抑え、みんなが逃げたのを確認してからカナメはさらに雷元素を解放する
右前腕肘前に魔法陣のような物が浮かび上がり、魔法陣の中にさらに3つの魔法陣が描かれ、3つの魔法陣から手首に現れた小さな魔法陣に繋がり、掌に雷の球体を作り出す
「よし…元素力は上々」
雷を纏ったカナメはアビスの魔物に近づき、雷の球体を握った拳でアビスの魔物を殴り、消し去る
そのまま他のアビスの魔物も倒していくが、あまりにも数が多かった
「ッ!?不味ッ!?」
一瞬の油断
目の前の敵に気を取られすぎた隙を突かれて背後からの攻撃に対応できなかった
アビスの魔物の攻撃がカナメに迫る
「ハァッ!」
だが、その攻撃は黒色の剣で弾かれる
そのまま謎の参戦者と共にカナメはアビスの魔物を殲滅した
「ふぅ…ありがとうございま………」
「久しぶり」
アビスの魔物を殲滅し終わり、手を貸してくれた人に感謝の意を述べようとしたカナメだが、その顔を見た瞬間、思わず固まってしまう
「ほ、蛍…久しぶりだな…」
そこにいたのは蛍
剣を仕舞い、にこやかな顔でカナメを見つめている
「この前…夜神の国からずっと見てたよね?」
かなり低い声で話し始める蛍
どうやら隠れていたつもりだったが気づかれていたらしい
近づいてくる蛍
少し気圧されたカナメは下がるが、ものすごい勢いで近づいてきた蛍に顔を両手で掴まれて逆に引き寄せられる
「なんで話しかけてくれなかったの?なんで私じゃなくて淑女の方についたの?なんで何も言わずにどっか行っちゃったの?ねぇなんで?なんで?なんで?」
息継ぎせず怨嗟のような…だが恨みだけではないような言葉を紡ぐ蛍
その眼には前にような明るく優しい炎のような光はあらず、泥のような、冷たく淀んだ闇だけが見えた
「少し、壺でお話しよっか」
有無を言う暇もなく、カナメはその場から姿を消した