「………何をしに来たの?」
蛍は宙に浮かんでいる赤色の目を睨みつける
ナタで1度だけあった死の執政
(なんでこのタイミングで?)
「……そんなに警戒しなくていい。私は少し話をしに来たんだ」
だが、ロノヴァからは敵意を感じられなかった
蛍も警戒を解いてベッドに座り込む
「それで?なんの用?」
「消えてしまった彼…カナメについての話だ」
「カナメ!?彼は今どこにいるの!?」
蛍は立ち上がって掴みかかる勢いでロノヴァに詰め寄る
「そんなにいきり立っても現実は変わらないよ。彼はもうこのテイワットにはいない」
「………」
ロノヴァの口から出た言葉はニコの推測に似ているものだった
もう彼はこの世界にはいない
その言葉を聞いて蛍は膝を着く
「……なんで…なんでカナメが…」
「最後まで話を聞きなさい」
「意味ないよ…だって…カナメは…」
「私はいないと言っただけで死んだとは一言も言ってないけれど?」
その言葉に蛍はハッとする
コロンビーナも死んだかどうかは分からないが
ならカナメも…
「なら…カナメはどこにいるの?」
「……いると言うより…産まれるといった方が正確だ」
「産まれる?」
(何を言ってるの?産まれるって…)
「何を考えているか知らないが…人間の女から出産してくるわけじゃない」
「あ…………」
ロノヴァにジト目で見られ、蛍は顔を赤くする
彼女が脳内で何を想像していたかは彼女の面子の為にも秘密にしておこう
「……このテイワットに…カナメ・ニシダと言う人物は存在していない」
ロノヴァが静かに話し始める
「だけど彼は昨日までこのテイワットで生きていた…それは何故だと思う?」
「…………」
(そういえば…あの時ドットーレが…)
『ほう?4つの影の造物か…』
「もしかして…あなた達?」
「……そうだ」
静かに肯定するロノヴァ
「……正確にはイスタロトが作り、私とナベリウスが管理をしている」
「管理?」
「ああ。この世界のカナメは…簡単に言えばカナメ・ニシダという人物の生きた時間を寄せ集めて作った存在。どれも既に人生が終わった時間だけを集めてるから…なにかを理由に自分の死を自覚した時、彼の存在は崩壊してしまう。だから私は彼が少しでも”自分”を思い出さないように監視しているの」
ロノヴァの口から語られたカナメという存在はあまりにも信じられないものだった
「……管理って…彼の自由はどうなるの?」
「…本来なら、私たちの元で鎖に繋いで管理するはずだったんだ。これでも自由は与えている方だと思うが?」
蛍はロノヴァを睨みつける
「なぜ…今そこを気にする?カナメに帰ってきて欲しくないのか?」
「ううん。カナメには帰ってきてほしい。この後…カナメを自由にするために倒すべきなのは誰なのか分かっただけ」
「……私に勝てるとでも?」
「絶対に勝つ。今回はあなたじゃないけど」
その場をピリついた空気が支配する
「まぁいい…復活させるにはこの世界のカナメの体が必要だ」
「……この世界のカナメは蘇らないの?」
「不可能だ。彼はとある天の使いと共に釘に抗い、その身を砕いてしまった」
ロノヴァの声からは少しの悲しみを感じた
「今、その魂は天の使いと混じり、もはや分けることは不可能になってしまった。だが、この世界のカナメは月とも関わりがあったようでね。月を中心にして彼を作り出していたんだ。今回も同じように作り出す」
「………何が言いたいの?」
「簡単なことだ。イスタロトがもう始めているが、いくつかの世界線からカナメと彼と深い関わりを持つ人物の記憶を融合させる」
「つまり…またカナメを作るの?」
「ああ」
「っ…」
倫理的にはかなり危ういことだと思うが、カナメに会う ためならば…
「……分かった。それで?ただそれだけなら私の元に来るわけないでしょ?」
「……はぁ…君たちにはあることをしてもらおう」