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「………………なぁ、蛍…一旦放してくれないか?」
「嫌」
旅人が持ち歩いている家でもある塵歌壺の中、ベッドに押し倒されているのはカナメ
カナメの腰辺りに馬乗りになり、両手を抑えて押し倒している蛍は息が荒い
「やっと…やっと見つけたんだもん…もう放さないよ…」
一応20代の成人男性であるカナメが抵抗しようとしてもビクともしない驚異的な力で両手首を締めあげられる
人としての危機感が最大限警鐘を鳴らしている
「稲妻の…御前試合から…ずっと…カナメのことしか考えられなかったんだよ?」
ぽつりぽつりと蛍の口から言葉がこぼれる
「モンドから…ずっと…ずっと一緒に旅してたじゃん…なのに…なんで?稲妻で淑女がしてきたことを見てきたはずだよね?あの女がやってきたことは…抵抗軍のみんなを…哲平を…殺したんだよ?」
稲妻…抵抗軍に邪眼をばら撒き、内輪揉めを狙った策は結果として旅人と親しくいていた人を含めた大勢を殺した
それは事実だ
「………そうだな」
「カナメは…良い人だよ…ね?じゃあさ…ファデュイなんか裏切って…また私と旅しようよ。パイモンも寂しがってるよ?」
「それは…できない…」
蛍が固まる
信じられないと言ったような顔で少し震えている
「痛っ!?」
「そっか…そうだよね…前さ…雷蛍術師に聞いたんだよ…」
雷蛍術師?ファデュイには同じ服装の人達が沢山いる
カナメとの付き合いが長い雷蛍術師はいるにはいるが…
「モンドの…覚えてる?まだ来たばっかの私がボコボコにされてたあの人…」
清泉町にいるあの娘だろう
転移してから何かとお世話になっていた
「もう今は簡単に倒せるようになったんだよ?色々聞いたんだよ」
ニヤリと笑う蛍
その顔には嗜虐心と優越感が満ちていた
「カナメの可愛いとこ…ぜ〜んぶ教えて貰ったんだ」
ちょっと時間かかったけどね…と言ってカナメの首を触る蛍
カナメはこそばゆい感覚に思わず震えてしまう
その反応を見て蛍は頬を赤く染める
「カナメはうなじが弱い…ほんとに…あの女が知ってるのが許せないけど…まぁ教えてくれたし良いか」
「お前…あいつに何したんだよ…」
「ちょっとお話しただけだよ?どうせ他のファデュイも毎日ように倒してるんだし…変わらないよね」
もう歩けないかもしれないけど…
耳元で囁かれた声にゾッとする
ここまで…変わってしまったのか
「他にも色んなこと聞いたんだよ…ほら、もう家族と変わらないでしょ?なら、
「……狂ってるな…」
「狂わされたんだよ…カナメに」
嘘の、裏切りの代償か
「責任…取ってくれるよね?」
「………すまない」
「っ…………ふーん…やっぱダメかぁ…」
一瞬諦めたか、と思ったがすぐに甘い考えだと知った
蛍がカナメに顔を近づける
蛍の右手は胸、腹と下がっていく
「あとは…既成事実…だけ」
行くとこまで行ってしまった
蛍は有無を言わさずズボンを脱がせ始めている
動こうとしてもどこからか生えてきたツタで四肢を縛られてしまう
抵抗も虚しく、蛍がズボンのチャックに手をかけたその時、誰かが塵歌壺のドアをノックした
「……ちょっと待ってて」
蛍はカナメから降りるとそのまま寝室を出る
おそらく確認しに行ったのだろう
(どうにかして逃げないと…)
雷元素で焼き切ることを考えるが、草元素とは相性が良すぎる
更に締め付けられる可能性すらある
「あとは…力で…」
歯を食いしばって千切ろうとする
だが、急に体の力が抜けた
視界の隅が赤く染まる
(これって…まさか…)
もはや慣れてしまった感覚
そのまま意識が途切れた
カナメの体は、赤黒い目の沼に沈み、その場には何も残らなかった
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「ッ…ああ…最悪の気分だ…」
カナメは息を吹き返し、むくりと起き上がる
そこはカナメに与えられたテント内であり、どうやら帰ってきていたようだ
「ここは…おれ…蛍に…」
「全く…君は私を困らせるのが好きなんだね」
知らないはずだが何故か知っている声
後ろを振り向くと死の執政ロノヴァがそこには居た
「凡人が誰の許しを得て振り返ってる?」
「ッ…」
空気が張り詰める
テント内を支配してるのは濃厚な死の気配
慣れてなかったら気絶していたかもしれない
「まぁいい…君の貞操が奪われかけていたところを回収してあげたんだ。礼の1つくらいあっても良いと思うのだけど?」
「それはありがとうございました」
腕を組み少しむくれているロノヴァに頭を下げる
彼女は少しこちらを見てまた顔を逸らしてしまった
頭を上げてロノヴァと向き合う
何もしゃべらず、ただ向かい合うのみ
(なんか…怖くないな…)
死の執政…女皇や道化から聞いていた天理の影でありファデュイの敵でもある
だが、今目の前にいるのはそんな荘厳な雰囲気は無く、ただただ不機嫌な女性だけだ
「あの…まだ他になにかありますか?」
「………フンッ」
何も言わずにロノヴァは消えていった
結局、微妙な空気のまま、その日の夜は明けていった