第4放棄区画。かつてはメガロポリスの工業地帯だったというその場所は、今や赤茶けた砂とひび割れたコンクリートが延々と続く墓標の群れだった。
空を焦がす黒い煙が、目的地を雄弁に物語っている。
『ラスト、現在地から三キロ先に熱源反応。ニューロ社の輸送機で間違いないわ。ただし……先客がいるみたいね』
「だろうな」
コックピットの中で、ラストは忌々しげに息を吐いた。
メインモニターを拡大すると、地面に突き刺さるように大破した流線型の輸送機と、その周囲をうろつく三機のT.O.K.E.N.の姿が映し出された。どれもアペックス・インダストリーズ製の旧式量産機だが、手入れは最悪。あちこちの装甲が剥げ落ち、手製のペイントで下品な髑髏が描かれている。
「所属なしの野良傭兵……残飯漁りのハイエナどもか」
『彼らも必死なのよ。通信、開くわ』
ノイズと共に、下卑た笑い声がコックピットに響いた。
『おいおい、どこから迷い込んだか知らねえが、ポンコツのスクラップが歩いてるぜ? ここは俺たち「マッド・ドッグス」のシマだ。おこぼれが欲しけりゃ、這いつくばって――』
ラストは通信のボリュームを切り、スロットルを全開にした。
重厚な駆動音と共に、錆びついた機体が土煙を上げて猛進する。
『なっ……!? 撃て、撃て!』
狼狽したハイエナどもが、慌ててアサルトライフルを構え、無数の弾丸をばら撒いてくる。
数発が機体の左肩を掠めた。
「ッ……!」
優雅に避ける技術も、重力を無視した機動も、このツギハギの機体にはない。あるのは、死線を潜り抜け続けた泥臭い経験則だけだ。
ラストは機体を大きく横へ滑らせ、崩れかけのビル残骸の陰に身を隠した。
直後、追ってきた一機目が不用意に角を曲がった瞬間――死角から突き出したラストの右腕が、その脚部を容赦なく薙ぎ払った。
『ぎゃあっ!?』
バランスを崩して倒れ込む敵機。ラストはすかさず、機体にマウントしていた規格外の武装――どこかの戦場で鹵獲した重機用の大型パイルバンカーを、敵機の胸部装甲に押し当てた。
引き金を引く。爆音と共に射出された極太の鋼鉄杭が、いとも容易くコックピットを貫く。
「あと二機」
残るハイエナたちはパニックに陥った。
『ヒィッ、化け物……っ!』
背を向けて逃げ出そうとする敵機の背中に、ラストはワイヤーアンカーを撃ち込み、無理やり引き倒す。もがく機体の頭部を装甲の厚い右脚で踏み砕き、機能停止に追い込んだ。
最後の三機目は、もはや戦意を喪失し、武器を捨てて荒野の彼方へ逃げ去っていった。
「雑魚狩りなんて割に合わねえ仕事だ」
ラストは荒い息を吐きながら、機体の熱を逃がすためにパージ・バルブを開いた。肩の被弾箇所がズキズキと痛み、彼は無意識にコンソール上の鎮痛剤のボトルへ手を伸ばしかけ、思いとどまった。
『お見事』
「口動かしてないで、貨物のスキャンを頼む。他の連中が嗅ぎつける前にズラかるぞ」
ラストは機体を歩かせ、黒煙を上げる輸送機の残骸へと近づいた。
装甲をこじ開け、機体内部のカーゴスペースへアクセスする。散乱する瓦礫の中に、1つだけ無傷のまま厳重にロックされた軍用コンテナが転がっていた。
機体のマニピュレーターで物理ロックを引きちぎる。
プシュゥゥゥ……と、凍りつくような冷却ガスが吹き出し、コンテナの蓋がゆっくりと開いた。
「……は?」
モニター越しに中身を確認したラストは、思わず間抜けな声を漏らした。
金塊でも、最新兵器の設計図でもない。
そこに入っていたのは、透明な保存ポッドと、その中に眠る『人間』だった。
11、2歳ほどの華奢な少女だ。色素の薄い髪と肌。体には大きすぎる無機質なラボ着を纏っている。
『ビンゴね。それが貨物よ』
アイリスの声には、驚きはなかった。
「おい、冗談だろ。これが機密貨物? どう見ても人間のガキじゃねえか。人身売買の片棒を担がせる気か?」
『人間? いいえ、それは部品よ』
「何?」
『ニューロ・ジェネシス社が極秘裏に開発していた、機体制御用の生体演算ユニット。それが彼女の正体。生きたまま連れ帰れば、クライアントから莫大なボーナスが出るわ。傷をつけないように回収してちょうだい』
その時、ポッドの中の液位が下がり、少女がゆっくりと目を開けた。
硝子細工のように感情のない、透き通った青い瞳。
彼女はポッドから身を起こすと、目の前に立つ巨大なツギハギのT.O.K.E.N.を見上げ、鈴を転がすような、しかし一切の抑揚がない声で言った。
「
その言葉の響きに、ラストの背筋に冷たいものが走った。
それは恐怖ではなく――激しい同族嫌悪に似た、薄ら寒い不快感だった。
「……クソが」
ラストは悪態をつき、機体のマニピュレーターを慎重に操作して、少女をコンテナごと拾い上げた。
今は考える時ではない。まずはこの厄介な「拾い物」を、自分のガレージへ持ち帰るのが先決だった。