穴開け空斗の難題   作:猫蜜缶

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前置∶彼の身に何が起きたのか?
2031/08/23


 何故こうなっているのだろう、何故こうなったのだろう。

 まるでテストの最後に出てくる難題なように、頭の中で同じコトをぐるぐると考える。

 

 何故俺は今、地上113階建てのビルから落ちているのだろうか、と。

 

 

「ま、じ、で……どうなってんだあああああッッ!!!?」

 

 

 いやいやいや、マジでなんでこうなったんだ。

 

 ずきずきと痛む頭に記憶が妙にモヤモヤしていていて、ここ数日のことがハッキリとしない。

 

 ただ覚えていることと言えば、今さっき何かが思いっきり頭にぶつかって、俺はビルの頂上から落とされた、ということだけだ。

 

 ということは、待てよ……確か俺はさっきまで戦っていたはずだ。

 つまり負けた? 

 

 ……いや、待て待て待て、そもそもなんで俺は戦ってるんだ。

 

 名前……俺の名前は、そうだ。

 これはわかる、鳶片 空斗(とびひら くうと)、俺の名前はそういう名前だ。

 

 で……そうだ、思い出してきたぞ。

 

 

「そうだ、そうだ……思い出したッ!! クソッ、あの野郎ッ!!」

 

 

 鮮明になる視界と頭。

 何故戦っているのか、何故負けたのか、そもそも何故俺はこんな上空にいるのか。

 

 刹那の思考の中、正常を取り戻した俺は頭を振って上を見上げる。

 するとそこにはスーツ姿の男が一人、俺を見下ろして立っていた。

 

 と言っても、そのスーツは随分と台無しにしまっている。

 なんせその異常に膨張した上半身により、収まりきらなくなった体がスーツを破り突き出ているからだ。

 

 控えめに言って、ちょっときもい。

 

 

「……いや、そんな感想とか考えてる暇はねーだろ!?」

 

 

 俺は俺自身にツッコミを入れながら、周囲へと視界を向ける。

 

 何でもいい近くに地面、というか地面じゃなくてもいい。

 最悪着(・)地(・)で(・)き(・)れ(・)ば(・)なんでもいい。

 

 全てを思い出した俺は今からどうにか助かる術を、右(・)手(・)の(・)先(・)の(・)円(・)環(・)に(・)委ねる。

 

 まるで蜂の羽音のようにブンブンとブレる音の鳴るそれは、俺の手先で小さな円を生み出したまま動かない。

 

 これを円というのは些か正しくないかもしれない。

 これは『円』と言うより『穴』なのだから。

 

 

「どうする、どうすりゃいい…………」

 

 

 瞬間的な思考の末、俺は下へと視線を向ける。

 そこにあるのは地面、間違いなく地面だ。

 

 

「……助かるには、そうするしかねーか」

 

 

 思考の果て、俺は一つの結論へと辿り着く。

 

 右腕を振りかぶり、思いっきり床へ向けて叩きつけるように振るうと、右手の先の円環が地面へと引っ付く。

 

 するとその円環、穴は引っ付くと同時に大きく広がると、俺はその中へと真っ逆さま、落ちていく。

 

 吐き出された先は直ぐ側、と言うか俺が生み出した穴の真横、突然現れた新たな穴。

 俺はそこから吐き出されて上へ飛んだ。

 

 まぁ要するに、俺は地面に当たることなく穴に落ち、その隣の穴から排出されて飛び出した、ってわけだな。

 

 ……もっとシンプルにしよう。

 俺の持つ力、俺というミ(・)ュ(・)ー(・)タ(・)ン(・)ト(・)の持つ『異常性』は、この穴──転移穴(ポータルホール)を生み出す、そういう力だ。

 

 世間はこう言う。

 それは病気だと、それはおかしいと。

 

 俺はおかしくないし、普通だし、なんなら平凡だ。

 今までも、これからも。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁっ……死ぬかと思った……」

 

 

 十数秒の落下と打ち上げの末、俺はなんとか無傷のまま地面へと着地。

 

 周囲の奇異な目に苛まれながらも、俺は汗を拭いながら立ち上がる。

 

 

「ミュータント……?」

「アレってヴィランじゃないの?」

「ヒーローは一体何をしてるんだ!」

 

 

 周囲の声と視線が痛いほど突き刺さってくるが、ここで気にしたら負けだ。

 

 そもそも俺はこんな一般人を気にしてる暇は──

 

 

「流石だな、空斗くん」

 

 

 突然、頭上から響く声に俺は上を向く前に、まず後ろへと飛び下がる。

 するとその瞬間、俺のいた場所にさっきまで頂上にいたはずの、肉達磨スーツ男が凄まじい轟音と共に着地してきた。

 

 もはや上半身にスーツはなく完全に上裸。

 というか上半身と下半身のアンバランスさでえぐいことなってる。

 

 あれでよく立ってられるな。

 

 

「……もうやめようぜ、社長さん。争いが無益すぎる」

「きみにとってはそうだろうね。だがワタシにとっては君を手に入れることが何よりも先決したいことなのだよ。その異(・)端(・)過ぎる能力、何が何でも手に入れたい」

 

 

 右手で握り潰すような仕草を取りながら、俺を舐め回すような目で見てくる。

 うん、キモい。

 

 

「とにかく。悪いが俺はお前とつるむ気なんてないね。例え一億円積まれようがな」

「……ふむ、残念だ。ということならば──」

 

 

 ボコボコと、妙な音が耳に届く。

 奴の方へと視線を向けると、体が更に膨張し始めていた。

 相変わらず下半身はそのままだが、右腕なんかはもう俺の体を握ることができそうだ。

 

 気味の悪さに俺は後退りしながら、穴を背後に出す。

 

 

「では、君を殺し、その肉体を解剖することで、その力を我がものとすることにしよう」

「そうやって暴力に走るの、よくねぇと思うけどなぁッ……!!」

 

 

 凄まじい勢いで突進する奴に、俺は急いで穴に潜り込むと同時に閉じ、そして新たな穴を空けて潜り、閉じ、潜り、閉じ、それを繰り返して、奴の視界から逃れる。

 

 走り回るやつから少し離れたところ、そして奴の死角へとたどり着き座り込むと、爆音で鼓動する心臓を収めるべく、深呼吸を繰り返して思考に浸る。

 

 さて、なんで俺はこうなったのか。

 今なら明確に思い出せる。

 

 たった1週間前まで普通の人間だった俺が謎の力を手にし、あの子に導かれて戦いに身を投じるまで。

 何があったか。

 

 今ならちゃんと思い出せる。

 

 思い出すんだ、1週間前のことを。

 

 今、この状況を脱する策を探るために……!

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