起きたら所長がラスボスで上司だった件 作:村人その1
そこは、時間からも空間からも隔離された場所。
かつてすべての人類史を贄とし、その熱を光帯として収束させた終点の極地。
そして―もはや獣兆しはない、玉座を残して消滅した神殿の跡地。
なにもないというには語弊があるが、最早過ぎ去るのみとなったその場所に踏み入れる少年が一人。
戦いのあとが未だ生々しく残りながらも、静寂が支配するこの場所はあまりにも異質で、異常で、けれど少年にとっては紛れもない決戦の地、あるいは運命の場所に他ならなかった。
向かう先は、唯一残る玉座の元。
そこにいると確信できる"彼"に相まみえるために。
一歩、また一歩と歩みを進めるその先にいると信じて。
「―全くもって不愉快だ。こうして背けていたものを突きつけられると余計にな。そうは思わんか、我が運命にして異星のマスター。
そして、彼はやはりいる。
唯一この場に残る玉座に座す、残りわずかな余命しか残さぬ「憐憫の獣」だったもの。
「そうかもね。でも、その目の前のことを一つ一つ乗り越えていったのが"オレたちカルデア"だったんだ。それは立場が変わっても変わることはないよ。―ゲーティア」
「....まったく、そのクソがつくほどの度胸だけは一人前だな。いや、以前に比較すればより増したか」
溜め息をつきながら此方を見下ろすゲーティアの体は既に死に体。
あの時のように右腕はなく、最早脱け殻に等しい体にはあちこち亀裂が入り、さらにその内側はその外見以上の損傷を負っており、あとはただボロボロに崩れ落ちるのみであった。
二人しか知らないあの時の姿よりさらに弱々しいその姿を己の意地で隠しながら、ゲーティアは己の運命に対峙する。
一方、対峙する藤丸の体もこれまでの”計画”による過程で傷痕などが残り、ボロボロではあったが活動が困難なゲーティアに比べれば天と地ほどに差がある。
右手にはあのときと同じように3画の令呪と、あのときとは違う"刻印"が7つ。星と、それに向かって伸ばす手をあしらった紋様を描き、右手首から腕に”それ”かけて刻まれていた。
タイムリープ以前に袖を通したことのある魔術礼装「カルデア」の意匠を思わせる白い外套の魔術礼装の裾を揺らしながら、藤丸は運命に対峙する。
お互いに変わったことがある、変わらないから信念がある。
「....既にお互いに相互理解は不要だ。あれはそういう戦いであったはずだ。それでもここに来たということは」
「うん。宣誓を、しに来たんだ。人類を救おうとしたあなたに。あなただからこそ、”今こそすべてを救う”ってね」
「まったく。律儀というべきか、あるいはお節介だと返すべきか。まぁ、それが貴様という存在であったな。わざわざ残りわずかな時で消えるこの場所に訪れる必要もないだろうに」
「そうだね。皆からはこっぴどく言われたよ。危ないし意味もない。それになにより時間もない。そんな中でリスクにしかならない自己満足をするべきじゃないってね」
ーでも、それでも来なきゃ行けないと、思ったんだ。
それだけにために.....否、だからこそ来たのだと。
それだけは譲れないと、只人は獣だったものを真正面から見据える。
「........」
「それに、あなただってそう思ってたんじゃないかな。じゃなきゃこの空間をそんな姿になってまで維持していた理由がない」
そう、只でさえ崩壊し自然消滅を向かえるのみだったはずの時間神殿が2017年12月24日という今日この日まで残っていた理由。
実に一年近くもの間、誰にも悟られることなく、けれど藤丸立香の来訪を受け入れた理由。
「ああ、そうだ。そうだな。これは私の中でできた意地だ。お前との戦いのなかで生まれたこの意地が、何の保証もないこの邂逅を願った」
―貴様に会わなければならないと、そう思ったのだ。
それだけにために.....否、だからこそ待ったのだと。
それだけは譲れないと獣だったものは只人だったものを真正面から見据える。
「まぁどちらにしろ、これでお前の時と同じように私の役目は終わりだ。私の魔術王として残した力は、お前が知っているように"かの一柱"に任せている。あとはお前の好きなようにするといい」
「....ありがとう。たとえ二度目だとしても、それでもと人類を救うために、人類を焼却したあなたの人類愛を、オレは忘れないよ。ゲーティア」
そういって、ここでやるべきすべてのことを為した藤丸は踵を返す。
これからのことを見据え、本当にすべてを救おうと―
「ー今回の人理焼却は、それだけが目的ではない。貴様もわかっているだろう。この"物語"をなかったことにしたいのか、別物を作り出そうとしているのか、あるいは再演でもしようとしている"何か"の存在を」
「......」
藤丸の足が、止まる。
「どちらにせよ、今回のこれが魔術王の目に写らず、Aチームを相手取り、尚且つ人理焼却が始まる当日を起点としてやり直されている以上、此方が対処できることは限られている」
「....だからこそ、俺たちのためにも人理焼却を同じように」
振り向く藤丸の表情を見て、ゲーティアは皮肉げに笑みを浮かべる。
「私にも意地がある。負けるつもりは....貴様らに繋げるつもりはなかったがな」
そういいながら残る腕を掲げるゲーティアの体が、崩壊を加速させる。
「今回の黒幕がなにをたくらんでいるかは知らんが、切り札は多いにこしたことはない。貴様のその特殊な
「故にこれをもっていくといい。あいにくと、光や熱、エネルギーの運用には一家言有るのでね」
ゲーティアの腕を起点に収束する熱と光。
それはやがてあの光帯と同様の、けれどあまりにも小さなものとなっていく。
崩壊するからだ、そこから漏れる粒子すら絡めとる様が、ゲーティアの残りわずかな何もかもすら燃やし尽くして作られていくことは明白だった。
「.....」
「.....」
やがて掌ほどの大きさにまでなった光帯はその形状を安定させるとゲーティアの元を離れすっと藤丸の胸にはいっていく。
それを藤丸はなんの躊躇いもなく、恐怖もなく、ただ受け取った。受け入れた。
じわりと胸を起点に広がる熱とともに"それ"が何か、藤丸は理解する。
いや、あのときゲーティアと対峙した藤丸だからこそ、理解できる。
「私を知るお前にしか使えないものだ。好きにするといい」
「.....ありがとう」
大切なものを落とさないように、優しく、けれど力強く。光帯の入っていった胸を押さえながら、ゲーティアから託されたものを藤丸は引き継いだ。
ーそして、決別の刻来たれり
もう二度と、藤丸は振り返ることなく崩壊を加速させたゲーティアの元を離れていく。
もう二度と、ゲーティアは見下ろすことなく崩壊を加速させた空間と共に玉座でその時を待つ。
「―主よ、かの魂に、祝福を」
空に浮かぶ七天の星々が、照らすように輝きを放つ。
ー地球白紙化現象まで、後0ヶ月と7日