起きたら所長がラスボスで上司だった件 作:村人その1
本日はあいにくの曇天....否、吹雪である。
などと思うが、カルデアという組織がこんな南極のど真ん中にあることを考えれば吹雪こそが通常通りといえる。
壁の一面がガラス張りになっているからこそ覗く光景は辺り一面真っ白の南極だが、それに負けず劣らず、カルデアの廊下は汚れが見えないほどに真っ白。
傷一つないその様子からは僕たちが人類を救った痕跡を掬い上げることはできない。
「........」
「随分顔が暗いわよ。それでも私のマスターだと豪語した人類史最後のマスターなのかしら」
いつの間に、何て思うのはとうの昔。すでに日課にまでなった彼女の神出鬼没な登場に口はいつも通り動く。
「......7人もいただろ」
「7人いた人類最後のマスター、その1人ね。つまり、人類最後のマスターよ」
「むちゃくちゃだ」
「でも事実よ」
「....ほとんどはキリシュタリア達の活躍だ」
「でも貴方はそのほとんど"以外"で活躍したわ」
「.....嫌み?」
「事実よ」
ため息を付きながら視線を向ければ、そこにいたのはいつものように小悪魔のような笑みを浮かべた皇女様。僕....カドック・ゼムルプスという魔術師のサーヴァント、アナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァ。
「相変わらず、悩んでばかりね。今日くらい楽しめばいいのに」
「今日だからこそ、なんだよ。君が退去する、今日だから」
自分が何を為せたのか。
人理焼却は、それこそ大冒険だった。話の途中で乱入するワイバーンから始まり、あらゆる歴史を巡り、特異点を解決していく。そして最後、現れてしまった人類悪。ビーストI、「人理焼却式ゲーティア」との戦い。まさに前人未到の冒険譚の矢面に立ったのは、やはりというかなんというか、キリシュタリアだった。そのことに不満はない。ないが、それでも僕はできた人間じゃない。胸の奥に暗いものが貯まるのを確かに感じているからこそ、それを吐き出せないかと白い風景を見つめる。
「でも人理を救ったあとの亜種特異点は貴方が解決したじゃない」
「....キリシュタリアやデイビッドなら、もっとうまくやったさ」
「難しい人ね」
「そうもなるさ、レフ教....ソロモン王だって言ってただろう。"備えておけ。人理焼却を退けたことで、貴様らはようやく人理の危機立ち向かう権利を得たのだ"って」
「....元々敵だった人の言葉よ」
「それでも、備えておくべきだ。魔術協会の使節団が来る明日が、カルデアがもっとも脆くなる瞬間なんだから」
そして、彼女が......僕のキャスターがいなくなるということはカドック・ゼムルプスという存在がマスターからただの魔術師に戻ることを意味していた。その平々凡々な僕に何ができるのだろうか。
「カドックさん。アナスタシアさん。奇遇ですね」
少し思考に耽っていたからか、近づいてきたらしい第三者に気付かなかったらしい。顔を上げて見れば、そこにいたのはどこかいつも希薄に感じる少女の姿が見えた。
「あら、マシュ。今日は元気そうね。よかったわ」
「はい。先ほどドクターの検査が終わったのでこれからシミュレーションルームで特訓の予定です」
そう告げるマシュの声は、1年前に比べると感情から来る抑揚があるのを感じられるようになっていた。
「....あまり、無茶はするなよ」
「はい。ですが、今のままでは皆さんの力になりませんから」
そういってシミュレーションへ向かうマシュの背が、直視できなかった。第4特異点でソロモンの姿で現れたゲーティアがカルデアに干渉したことを切っ掛けに前線から一時的に身を引くことになった頃からだったか。彼女が何かにとりつかれたように必死になってシミュレーションに挑み続けていたことを思い出す。
「マシュは強いわね。自分に混ざった存在が何かも分からない、この先の命も長くないだろうことも察して、それでもなおあなた達のために頑張っているわよ」
ーあなたはどうするの?
「....決まってるだろ」
そういって向かうのは資料室。自分に、今、できることを。この先起こるかも分からないけど、自分以外にもできることだけれど、それでも彼女のように。
ー"悪"ね。なにを持って"悪"とするのかしら。
カルデアに協力の意思を見せ、特異点の解決を手助けした"教授"を名乗るサーヴァントが新宿で言った。
ー謎を謎と思わないことこそが、完全犯罪を行うための大前提なのだよ
頭に残るその言葉に、とりつかれるように。
ー地球白紙化現象まで、後0ヶ月06日