トリコの世界に転生したら、ブルーニトロに改造人間にされた話 作:あまんと
「……また失敗か。人間という種は、やはり脆い」
「地球のフルコースを調理するにあたり、あの八王どもが邪魔です。奴らのDNAを人間に投与し、意のままに動く屈強な兵隊を作るという計画でしたが……」
カプセルの中でドロドロの肉塊へと崩壊した人間を、冷徹な目で見下ろす。
我々ブルーニトロにとって、人間などただの奴隷、あるいはフルコースを調理するための養分に過ぎない。
地球のフルコースをより効率的に入手するために、その障害となる地球の灰汁、八王のDNAを利用する。その思いつきのもと、我々は、人体実験を重ねてきた。
だが相手はグルメ界の頂点に君臨する八王だ。直接血を抜くことなど不可能に近い。だから、我々はグルメ界の痕跡を漁り続けた。
烏王の羽。竜王の落とした鱗。鯨王の隕石の破片に付着した細胞。狼王、馬王、猿王、その他八王の毛や足跡から採取した細胞。全ての八王のDNAを少しずつ、長い時間をかけて集めた。
それらを四獣に拉致させた人間に投与し、実験を行うこと何千、何万人。ついにその時が訪れた。
「……ほう。この個体、全ての八王のDNAを拒絶せず、パズルのように融合し始めやがったぞ」
「奇跡的に適応したか。……覚醒を促せ。貴重なサンプルだ」
カプセルの培養液が抜かれ、実験体の人間が目を覚ます。
拘束具に繋がれた人間は、最初は状況が掴めないのか、眠そうに視線を彷徨わせ、キョロキョロと周囲を観察していた。
だが、我々と目が合った瞬間、実験体の目つきが変わる。
次の瞬間、実験体の肉体に異常な変質が起きた。額から生えた一本の角がビキビキと鳴り、さらにその両手の指先が、まるで生き物のようにうねる凶悪な触手へと変形していったのだ。デロウスの因子が、想定外の形で発現している。
「チッ、暴走か!」
実験体がその変形した10本の指の触手から、極太の破壊光線を無差別にぶっ放した。凄まじい閃光が実験場を巻き込み、壁や精密機械が消滅していく。制御が利いておらず、四方八方にビームが乱反射する最悪の状況だ。
「やめろ、サンプルを殺すな! 殺さない程度に痛めつけて捕獲しろ!」
我々は即座に動き出した。いくら八王のDNAを適合させたとはいえ、所詮は人間の急造品。その実力は、本物の八王には到底及ばないほどに脆く、弱い。
我々の一撃が実験体の腹を抉り、四肢の自由を奪っていく。すぐに満身創痍となり、地を這う実験体。完全に包囲し、拘束し直そうとした、その一瞬の隙だった。
フワリと、部屋の奥から調理中のフルコースの匂いが漂う。実験体は獣のような執念で顔を上げると、我々が制止するよりも早く、調理台の上にあった地球のフルコースの一品へと飛びつき、一瞬で胃袋へ収めてしまったのだ。
「貴様、調理中のエアを……ッ!?」
直後、実験体のグルメ細胞が異常なまでの歓喜の咆哮を上げた。
エネルギーが爆発的に充填され、ボロボロだった実験体の体力が一瞬で全回復していく。それだけではない。細胞の奥底に眠っていた八王の力が、一気に開花していくのが分かった。大気が爆発的に膨れ上がり、重力が歪む。
「バカな、適合率が跳ね上がって───」
驚愕する我々を嘲笑うかのように、実験体は、先ほどとは比べ物にならない密度と威力の破壊光線を全方位へと乱射し、辺り一体を空間ごとを消滅させる大爆破を引き起こした。
光が収まり、崩壊した瓦礫の中で我々が目にしたのは───
もはや影も形も残っていない実験場と、まんまと包囲網を食い破って脱走した、実験体の消えた足跡だけだった。
◇◇◇
戦争、貧困、飢餓。毎日が戦火に包まれ、夢も希望もない、ただ生きるだけで精一杯の地獄の時代。
私は前世の記憶を持ったまま、そんな最悪な世界で2度目の生を受けた。荒荒した街の片隅で、家族と飢えを凌ぎながら、なんとか細々と暮らす日々。
しかし、そんなささやかな日常すらも、ある日突如として現れた圧倒的な絶望によって、跡形もなく粉砕されることとなる。
地を揺るがす轟音と共に現れたのは、山のように巨大な、見たこともない化け物だった。逃げ惑う人々も、私の家族も、そして私自身も。その恐ろしい化け物の大きな口によって、まるで家畜のように無慈悲に喰われてしまったのだ。視界が真っ暗になり、私の意識はそこで一度、完全に途絶えた。
次に目を覚ました時。私は、二足歩行のデカいトカゲどもに囲まれていた。
寝起きで呆然とする頭の片隅で、私はこのデカいトカゲに見覚えがあった。私の、曖昧な前世の記憶が激しくアラートを鳴らす。こいつらは───『ニトロ』だ!
(ふざけんな! トリコの世界に転生してたのかよ私は!!トリコの世界って、もっとこう、食べ物には絶対に困らない天国みたいな転生先だろうが! なんで私は毎日毎日、あんなに飢えと戦わなきゃいけなかったんだ! )
それに、私や家族を拉致したのもコイツらだろう。怒りが一気に沸点に達する。
「あ、あぁぁぁぁぁッ!!」
怒りと共に、身体の奥からドス黒い力が怒涛の勢いで湧き上がる。気がつけば私の両手は禍々しい触手へと変形しており、その先端から勝手に極太のビームが射出された。
制御なんてできるわけがない。私はただ叫びながら、周りの空間に向けてそれをぶっ放し続けた。
暴走する力でなんとか抵抗しようとした。けれど、ニトロの一撃が、私の腹をいとも簡単に抉る。
「が、はっ……」
あまりの激痛に、再び意識が途切れそうになる。床に倒れ伏し、もうダメだと思ったその時。どこかから、今まで生きてきて一度も嗅いだことのないような、強烈で、官能的で、脳が溶けそうなほどの旨味の香りが漂ってきた。
私の中の細胞が、狂ったように訴えかける。───『あれを食え』と。
このまま大人しく殺されてたまるか。私は最後の力を振り絞り、今度は手のひらからニトロ達に向けて、視界を真っ白に染め上げる目眩しのビームを放った。突然の光に、ニトロ達が一瞬だけ怯む。
その僅かな隙を見逃さず、私は匂いの発生源へと猛ダッシュした。調理台の鍋の中に入っていた、その輝くような旨味の塊を、貪り喰らう。
「───ッッ!!!!」
私の中のなにかが、完全に目覚める感覚がした。抉られた腹の傷が一瞬で塞がり、身体中がはち切れんばかりの万能感で満たされる。
「近づくな!!」
怒りを剥き出しにして迫ってくるニトロ達に対して、私は再び、変質した身体中からありったけのビームを放った。生き残るために、周囲の私以外の全ての時間を遅くしてから、溢れ出るエネルギーをすべて光線に変えて放出した。凄まじい爆風を背に受けながら、私はなんとかこの死地から逃げおおせることに成功する。
エアを食べた影響か、一向に疲れる気配がない。けれど、食欲は一向におさまる気配がなかった。逃亡の最中、近くにいた獣を何匹か力任せに捕食したけれど、多少の空腹感が抑えられるだけで、これっぽっちも満足しなかった。
あの時、ニトロから逃げるために食べた食材を、もう一度食いたい。そして、その近くに並んでいた他の、とてつもなく食欲をそそる匂いを放っていた食材たちも、全部この口に放り込みたい。
あれは、絶対に地球のフルコースだ。私の細胞が、魂が、狂おしいほどにそれを求めている。
───待っていろよ。いずれ全部、残さず食ってやる。お前らクソトカゲ共を、全員ブチ殺してな!
だが、体力も底をつきかけており、それにまだまだ私は弱い。もしトカゲ達が追いかけてきたら捕まるか殺されるし、こそこそと逃げ回る生活は嫌だ。
故に、なるべく安全な場所で眠ることにした。なんとなく気配で分かる。私に組み込まれた鯨王の細胞が、ここは安全だと告げている。恐らくここは既に人間界の海だ。
ここで眠りにつこう。飽食のグルメ時代に突入するまで。そして─── GODが出現するその時まで。
私は、深い海の底で長い眠りにつくのだった。
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「か、会長ー!海底から裸の女の子が!女の子が出てきました!」
「ここらの海域からとんでもねー気配がすると思ってたが、こりゃとんでもない掘り出し物じゃな!いや、掘ってはねーな。引き上げものじゃな!」
なんかスヤスヤ寝てたら、魚捕まえるみたいなノリで網で引き上げられたんだが?