トリコの世界に転生したら、ブルーニトロに改造人間にされた話   作:あまんと

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第2話

 

 

「───なるほどな。ニトロに拉致された挙句、人体改造をされてしまったと」

 

 

 豪華な調度品が並ぶIGO会長室。ふかふかのソファに腰掛け、食材を凄まじい勢いで食い尽くしていく私を、一龍は静かに見つめていた。

 今の私は、どこからどう見てもただの人間だ。けれど、一龍の目は誤魔化せない。

 

 

「確かに、お前さんの体からは、なんとも妙な匂いがする。……ワシがかつてグルメ界で戦った、あの八王たちと同じ気配を感じるわい。まぁ、強さは全く比べ物にならんがの!」

 

 

 そう言って、豪快に笑う一龍。しかし、一龍の笑顔はすぐに消えた。その瞳に、静かな怒りの炎が灯る。部屋の空気が、一瞬で圧搾されたように重くなった。

 

 

「……だが、笑い事ではないな。ブルーニトロめ……まだ若い少女に、とんでもない実験をしてくれたものだ。8つの細胞を、しかも八王ほどの生物の細胞を無理やり1人の人間に纏めるなど、狂気の沙汰としか言いようがないわい」

 

 

 ぽつりと、しかし底冷えするような低い声が会長室に響く。

 一龍の背後から立ち上る、静かだが苛烈な怒りの炎。そのすさまじい覇気に圧され、部屋中の観葉植物が一瞬で枯れ果て、豪華な調度品がミシミシと悲鳴を上げる。あまりのプレッシャーに、私は本能が警鐘を鳴らすまま、気づけばソファを蹴って部屋の隅へと飛び退いていた。

 私が冷や汗を流しながら身構えていると、一龍はハッとしたようにその凄まじい威圧感を霧のように霧散させた。

 

 

「おっとすまん。怖がらせてしまったのう」

「いや大丈夫……」

 

 

 まだバクバクと激しく打っている心臓を落ち着かせながら、私はあえて不敵に笑ってみせる。

 

 

「怒ってくれてありがとう、一龍。でも、私を若い少女扱いするのは違うよ?」

「ん? どういうことじゃ?」

「私、ニトロに拉致されてから数百年間深海で寝てたって言ったでしょ? つまり、実年齢で言えば、とっくにおばあちゃんなんだ。なんなら一龍より年上かもよ?」

「わっはっは! そりゃあ確かにな!実年齢数百歳のお嬢ちゃんか、こりゃ一本取られたわい!」

 

 

 さっきまでの凍りつくような重圧が嘘のように消え去り、張り詰めていた私の肩の力も、その笑い声につられて自然と抜けていった。

 ひとしきり笑った後、一龍はふぅと息を吐いて椅子の背にもたれ、天井を仰いだ。先ほどまでブルーニトロへ向けていた、あの底知れない怒りの炎は完全に胸の奥へと収められている。

 だが、彼がゆっくりと視線を落とし、その鋭い眼光が再び私を射抜いた瞬間、室内の空気が再びきりと引き締まった。

 

 

「おぬしから悪意の類は感じられんが一応のう。なんせ八王関連じゃ。おぬしをこのまま街に出せば、街が数個吹き飛ぶ可能性がある。現時点での危険度を把握しとかにゃならんから、ちょっと場所を変えるぞ」

 

 

 一龍に連れられてやってきたのは、広大な訓練場だった。捕獲レベルの高い猛獣の襲撃にも耐えられるよう、四方の壁や床は超硬質の特殊岩盤で覆われている。殺風景で、ただただ広いその空間の真ん中にぽつんと立たされた私は、一龍との手合わせを前に、自分の肉体の致命的な弱点に気づくことになった。

 

 

「一龍、これ……引っ込められないんだけど」

 

 

 私は自分の額を指差した。これは、竜王デロウスがその生涯に1本だけ生やすといわれている牙、それが頭から生えた物。

 数日経って体力が回復しても、額から生えたこの角だけは、どう頑張っても頭の中に引っ込んでくれない。常時露出。前髪で隠すのも不可能な存在感だ。

 

 

「フフ……随分小ぶりじゃが、そりゃデロウスの牙か?ともなれば、そう簡単には隠せんか。まあ良いではないか、立派で。それで、その角からはどんな技が出るんじゃ? レーザーか? 斬撃か?」

「いや……」

 

 

 試しに角に意識を集中してみる。……何も出ない。ビームも出なければ、衝撃波も出ない。身体の別の箇所に生やし直して武器にできるわけでもない。完全に額のど真ん中に固定されている。ただめちゃくちゃ硬くて、強固な角が頭にくっついているだけだ。

 

 

「これは……もしかして、頭突きで突っ込むしか使い道がないのでは?」

「……ぶっ!わっはっは!!」

 

 

 一龍が思わず吹き出した。竜王の伝説の牙を有しておいて、攻撃方法が猪突猛進の頭突きのみ。絵面がシュールすぎる。

 

 

「面白い! ならば、その頭突きをわしに見せてみよ!」

「笑うな! よし、行くぞーーーっ!!」

 

 

 頭突きしか武器がないなら、せめて脚力で補うしかない。そう意識した瞬間、体内の狼王の細胞が飢えた獣のように目を覚ました。

 人間のものだった私の両脚が、衣服を内側から引き裂かんばかりに膨れ上がる。一瞬にして太腿から下がフサフサとした野性味あふれる毛に覆われ、地を掴む足先には鋭い爪が突き出す───まさに『狼王ギネス』の脚そのものへと完全変質した。

 その異形の獣脚が、爆音と共に訓練場の地面を蹴り抜いた。ドガァン!!! と空気が爆裂する。

 ただの頭突き。しかし、私の体は八王全てのキメラだ。まだ力の殆どが目覚めていないとはいえ、狼王の脚力による突撃は、もはや人間ミサイル。

 一龍は驚いたように目を見開き、しっかりと避けたが、背後の壁は、触れてもいないのに風圧だけで粉々に粉砕された。

 

 

「……ほう」

 

 

 一龍が頬に冷や汗を流しながら、感心したように顎をなでる。

 

 

「ただ突っ込むだけで、これほどの破壊力か。技もへったくれもないが……凄まじい威力じゃな」

「正直私も驚いてる……」

 

 

 私は首を回しながらぼやいた。そんな私に、一龍はふっと表情を和らげ、ポケットから頑丈そうな小型の端末を取り出して手渡してきた。

 

 

「よし、お前さんの実力はよう分かった。戦闘に関してはずぶの素人じゃということがな。条件付きで外に出ることを許そう。このGPSを持つことと、行き先を伝えることを義務付ける。無いだろうが、絶対に民間人に危害を加えるなよ。ワシとしてもお前さんを討伐したくはない。肝に銘じておくんじゃぞ」

「分かってるよ。そんなことしないってば」

 

 

 手渡された頑丈な小型端末をポケットの奥に放り込み、私は一龍にひらひらと手を振って訓練場を後にした。

 こうして、監視付きではあるものの、私は外出の許可を手に入れた。さっそく端末に最初の行き先を入力し、私は久しぶりの外の世界へと飛び出した。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 私は、ここがトリコの世界だと気がついてから、ずっと食べてみたい食材があった。それは───フライアダックだ。なんてことない人間界の捕獲レベル15程度の食材だが、アニメで見た実食シーンが非常に美味そうだったのだ。

 そして今、私の目の前には、丸焼きになったフライアダッグがあった。じっくりと炙り焼きにした肉は、最高の香りを漂わせている。

 

 

「いただきます!」

 

 

 輪切りにした肉に、大きな口を開けて豪快に齧り付く。上品な肉汁が口一杯に広がった。

 

 

「うまーーーい!」

 

 

 エアに比べれば勿論劣ってしまうが、私は今、あのフライアダックを食べている。かつて、フライアダックより優れた食材である筈の、グルメ界の獣を生きたまま食らった時より強い満足感を得ることができた。

 

 肉を食い尽くし、骨だけが残る。だがお楽しみはまだまだ終わっていない。寧ろ私は、肉よりもこちらの方が楽しみだった。

 近くに生えていた、花弁一枚一枚が鍋のように大きく肥大化している花、カナベン草から花弁を1枚もらい、油を注ぐ。この花、なんと非常に耐熱性が高いらしいのだ。手を伸ばせば簡単に食べる物が手に入るグルメ時代に感謝しながら、油が充分に温まるのを待つ。

 油が温まったら、フライアダッグの骨を入れる。事前に持参していた3枚の皿に揚がった骨を別け、2枚の皿にそれぞれ、塩とのり塩をふりかけていく。

 さて、実食といこう。まずはそのまま。

 

 

「たまんねぇ〜!!!」

 

 

 カリッコリッとした骨。コンソメ味がデフォルトで付いていて、ポテチよりも歯応えがあって中毒性がある。やはり素材の味をそのまま活かすのが旨いのか!?

 しかし、味の探究者である私は、これだけでは満足できず他の味にも手を出してしまう。続いては塩味だ。

 

 

「うーん、そんな変わらない」

 

 

 最後に、のり塩味だ。コンソメ味に負けないように、海苔の分量を多くした。いざ実食。

 

 

「お前がナンバーワンだ……!」

 

 

 拙者、前世はのり塩ポテチがマイフェイバリットフレーバーだったで候。完全な出来レースだった。

 

 のり塩骨をぽりぽりと齧りながら、私は満足感とともにこれからのことに思いを馳せる。

 一龍との一戦で痛感した。私の細胞のポテンシャルは凄まじいが、それを扱う私の技術が完全に素人だ。ただ突っ込むだけでも強いけれど、今のままグルメ界へ戻っても、ブルーニトロを狩るどころか返り討ちに遭うのがオチだろう。

 私は、夢に見たフライアダックを食べても完全に満足できないような身体になってしまった。地球のフルコースを食べない限り、私の食欲は鎮まらないのだ。こんな身体にしてくれたブルーニトロに絶対に復讐を果たす。

 

 

(それに、まだGODが出現するまで時間はある。焦る必要はない)

 

 

 当面の目標は、この人間界でじっくりと戦い方を学ぶこと。私は、残ったフライアダックの骨を最後に1本カリリと噛み砕き、そう目標立てるのだった。

 






カナベン草はオリジナル食材です!
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