TS異世界転移したので最強無双ダウナーお姉さんごっこをします 作:ゆきゆき(ダウナーお姉さん(本物))
『私の記憶通りなら、魔力を持たない人間の足で2週間程度この方角に進むと……セントリアとかいう王都があるはずだ』
「ちなみにそれっていつぐらいの話?」
『守護歴とかいうのが制定されるよりは遥か昔だ。あぁ、あの時代は厳しかった……何がどう厳しかったかは抜け落ちていて思い出せないが、世界は滅びる寸前だったはずさ。最後の砦、というような場所だった』
「記憶抜け落ちすぎじゃない?」
『仕方ないだろう。おそらく9割くらいは消えている。かろうじて残っているのが魔法に関する知識と、その他が少しづつ……もはや今の私の性格すら、オリジナルとは乖離しているかもしれないゼナね』
思い出したかのように変な語尾つけるのやめてね。
『不思議なのは、キミの記憶が混ざっていることだ。だからキミの本当の姿も知っている』
「ふーん……ふーん!?」
『本当の姿?』
悪魔くんちゃんは箱にお帰り! ボクは箱から顔を出していた悪魔をぐいぐいと中に押し戻す。
お肉を串に刺して焼いていたゼナは、それを見届けてから再び話し始めた。
『キミ……公園で女装してダウナーお姉さんごっこをしていたっていうのは……私でも流石にどうかと思うぞ……?』
「あー聞こえなーい」
『というか、そっちこそこちらの記憶が混じっていたりはしないかい? 知識とも言える。例えば私は、キミの持つ現代知識というモノがある程度分かるのだが……』
「心当たりはないけど……あぁ、もしかしてボクが魔法をある程度使えたっていうのはそれが原因?」
『他にはないかい? なにか……具体的なエピソードの記憶とか。私はその部分がかなり欠けている』
うーん……ん?
◆◆◆
「はぁっ、はぁっ……」
息を切らし、私はその場でへたり込んだ。
私の家は崩れ、そして使用人は見つからない。
周囲の光景は様変わりしていた。
何もかもが混ざり合っている。
何が起きたのか、私には何一つ理解できなかった。
ただ分かるのは……
◆◆◆
「丁度今思い出したよ。これは……いや、いつだったっけ……」
『何か思い出したのかい?』
「なんというか、メチャクチャに壊れた家や自然に囲まれている光景だったかな」
何が起きたらあぁなるのか……物理的に変な印象だった。
バグったゲームみたいな……
『ふむ、なるほど……ところで質問なんだが、キミは何か忘れていたりしないのかい?』
「ボクが忘れる? そんなコトあるワケが……いや、あったわ」
ボクは異空間にしまっておいたスマートフォンを取り出した。たまに魔法で充電したりして、一応まだ生きているが……
ボクの記憶に無いメモがあった。
顔認証は死にました。なぜなら生まれ変わったからです。
ボクはパスワードを入力してスマホの画面を点け、件のメモを彼女へと見せた。
「日本語読めるよね?」
『あぁ。これは……調査記録? 何のだ?』
「分からない。パスワードも掛かってるけど、そのパスワードにも心当たりが無い」
『待て、今頑張って思い出す……ダメだな。秘密結社を本気で作ろうとしていた記憶しか思い浮かばない』
「え?」
ボクってそんな事してたの?
『ふむ……キミはどうやら、気付かぬ内に大半を忘れているようだな。おそらく無意識的に少しは残っているんだろう。そのせいで気づくのが遅れた……待て、羽鳴メイという名前に聞き覚えは?』
「メイちゃん? もちろんあるに決まって———」
…………?
メイちゃんって……どんな顔だったっけ……
「けほっ……思ったよりも深刻かもしれない。何故ボクの記憶がこんなことに……」
『仮定はある。が、正直に言ってあまり根拠も無い』
「一応教えてくれ。ボクにも共有しておいた方が、後でやりやすい」
『単なる“バグ”という可能性だ』
「バグ?」
そんなゲームみたいな……でも、確かにそもそもこの世界は結構ファンタジーだし……おかしくもないのか?
『なんらかの原因があって、もぐっ……私たちの魂が融合した。むしゃむゃ……結果、記憶の一部がランダムに、んぐっ、互いに上書きされた……ふぅ。はぐっ、もぐ……まぁ可能性に過ぎない。第一そうだとしたら、もぐもぐもぐ……もっと人格や意識が壊れていても、んくっ、おかしくない』
話すか食べるかどっちかにしようね。
『あぁ、今思い出したぞ。キミも同じことをつい最近やっていた。ブーメランというやつではゼナぁ?』
「ふ、ふふ……言うじゃないか」
バカにしたような笑みを浮かべるゼナ。テメーそれ別に正当化する理由になってねぇからな。覚えとけ!
『……さて、もう時間も遅くなってきた。私はそろそろ寝ることにする』
「見張りは?」
『そもそも不要だろ?』
ぱちん、とゼナが指を鳴らす。瞬間、周囲に透明なバリアが展開された。
『キミも元から出来たはずだ。記憶によれば悪魔に見張りはさせて自分は寝ていたらしいが……やはりキミは、少々常識に囚われているような気がするな。飛躍が足りないゼナねぇ』
「常識、ねぇ……」
『常識の無い人間のフリをしていても、私には分かるぞ。キミは狂いきることが出来ない……邪悪な本性と善良な意思、どちらも両立している……実に人間らしくて結構だが、両立したまま迷いは捨てられるはずだ』
「フン、分かってるじゃあないか」
『私はキミで、キミは私だ……少なくとも今は。だから互いに教え合おうじゃないか』
いいね。相互理解も知識の探求も、どっちもボクは好きだぜ。
『ふふ、それじゃあおやすみ。一緒に寝るかい?』
「ところでさ……」
『うん?』
「いや、なんというか……さっきちょっと変なこと思い出してさ」
『うんうん』
◆◆◆
「やぁ少年」
「……?」
「私はゼナステリア=ルーメンエルド……キミの名前は?」
「えっ、いや、あの……」
「名前は、と聞いている」
ずい、と私は彼に顔を近づける。オイオイこの子赤面しちゃってるぞ……可愛いねぇ^^
◆◆◆
◇この記憶は——————!?
『黙秘する』
「やっぱり同類じゃないか……!」
※クラウスくんの名前がよく忘れられているのは、この件と全く関係ありません。