TS異世界転移したので最強無双ダウナーお姉さんごっこをします 作:ゆきゆき(ダウナーお姉さん(本物))
◇バルグノクス迷宮
「ここがダンジョン……中は思ったより綺麗だね」
『なんだか寒いねぇ』
ボクはついにこの街一番の有名どころ……ダンジョンへとやって来ていた。
ちなみにダンジョンってのはこの街以外には存在しない、とのこと。遺跡とか古代都市はあるのにねぇ……
『おっと、敵だよ』
きぴー、だかぴぎー、だかの鳴き声を出しながら現れたのは……なんとも可愛らしいスライムだった。
そういえば見たこと無いな……
「見て! スライムくんが踊っているよ。かわいいね」
『“ヘルファイア”』
そんな可愛いスライムくんはパチモン原初の魔女によって消し炭にされてしまいました。
彼女のせいです。あ〜あ。
「というか、消し炭にしたら魔石とか取れないでしょ。分かってるのカナ?」
『も、もちろん』
テメー適当に自分の力見せつけるためにブッパしやがったな。まぁこれから反省するならいいけど。
『この迷宮の過去最高到達地点は地下76階……せっかくだ、私たちで更新してやろうじゃないか』
「なんなら最下層まで辿り着いちゃおう。ほら……ね?」
ボクは中指と親指で輪っかを作った。これが欲しいんだよなぁ。
永久に自由な暮らしが出来るくらいのやつが、ね。
『金なんかより名誉だろう』
「それもあるけどさ、何よりはまずお金だよ」
ま、どうせこんな浅い階層の魔物じゃ収入も期待できないだろう。
じゃけんさっさと深いとこまで潜りましょうねぇ。
◇地下12階
「けほっ……おっと、まさかアレは攻略中の冒険者かな? よーし、それじゃあボクの演奏を聴かせて……」
『ふざけてる場合か? どう見ても死にかけじゃないか』
「ゼナにしては真面目な発言、ありがとう。仕方ない、まずは治療してあげよう」
どうせ元から治療はする気だった。順番が入れ替わっただけである。
『私が治療しよう』
「魔法使う場面全部でしゃばってくるなこの魔女……」
『なんてったって魔女だからね』
「じゃあ人骨とか煮込もうぜ。スゴク魔女っぽいよ」
『いいね』
「冗談だって」
『キミの骨とかどうだい?』
「ダウナーお姉さんの出汁なんか取っても旨みは出ないよ」
そんなこんなでボクたちが寸劇を繰り広げていると、しれっとゼナが治療していた冒険者たちが目を覚ました。
「いくらまで出せるかな? 今ならボクの詩を聞いてくれるだけで2割引きのサービスもしてるよ」
『それ最初に値段提示しないと効果あるのか分からないだろう』
「ゼナっちは黙ってて」
『なんだいその呼び方……』
「あ、あの!」
ボクによるパーフェクトな計画を邪魔してきたゼナへのお説教をしようとしたその時、冒険者パーティの中の1人が話しかけてきた。
「た、助けてくれてありがとうございました!!」
「いいってことよ」
「お礼はなんでもします!」
「ん? 今なんでもするって「はい! 私たちの持ってるお金全部渡しても構いません!」
わぁお、こりゃあヤバいぜ。そんなに貰っちゃっていいのか?
(他のパーティメンバーを見る)
(全員顔が青ざめている)
ダメみたいですね……
「ま、まぁまぁ落ち着いて。ボクはそんなに法外な値段を要求したりはしない……全財産の半分でいいよ」
『結構要求するねぇ』
「それぐらいなら是非!!!」
「待て待て、話は終わってないよ。大サービスだ、ボクの詩を聞いてくれるのならさらに50%引き……どうだい?」
「聞きます!!!!」
この子多分リーダーっぽいけど、大丈夫なのかな……
まぁいいや、そこまではボクの管轄ではない。
ボクはその場で座り、竪琴を取り出した。
これより詠うのは、とある少年の詩……
内容は決まっていないが、まぁボクならその場でこう……なんとかなるだろう。
◆◆◆
ぽろん、と弦が鳴る。
昔々、と言うほど昔でもない頃。
とある国のとある家に、ひとりの少年がおりました。
少年には、大きな夢がありました。
世界をこの手に収めること。
幼き日、皆の前でそう語った少年を大人たちは困ったように笑いました。
けれども少年は、本気でした。
ぽろん。
少年の家には父と母と、小さな妹がおりました。
食卓には毎晩、四つの皿が並びました。
けれども、言葉が並ぶことはありませんでした。
父の声は低く、母の声は高く。
ふたつの声はいつも、壁越しにぶつかり合っておりました。
少年は妹の耳を塞ぎ、代わりに歌を口ずさみました。
世界の王様になる歌を。
王様になれば、こんな声は全部止めさせられるのだと。
ぽろん、ぽろん。
やがて、ある冬の朝のこと。
食卓に並ぶ皿は少なくなりました。
家族は分かたれ、少年の手に残ったのは小さな妹の手だけでした。
ぽろん。
少年は考えました。
王様になったとて、もう止めるべき声はどこにもない。
ならば、この夢は何のためにあるのだろう、と。
それでも少年は、夢を手放しませんでした。
手放してしまえば、自分の中には何も残らないと知っていたからです。
理由のない夢を抱えて、少年は空っぽの器のように日々を生きておりました。
ぽろろん。
そしてある日、ある夜……少年は空に願いました。
神でも悪魔でも誰でもいい。
この夢を叶える力をくれ、と。
そうして遥か彼方で、青い月が微笑みました。
ぽろん。
力を得た少年は、しかし独りでした。
だから少年は、仲間を探しました。
ある者は、居場所を持たぬ者でした。
ある者は、知恵を持て余した者でした。
ある者は、自分を偽り続けていた者でした。
ある者は、ただ少年の歌を、面白いと笑った者でした。
ある者は……天使のような者でした。
くだらない話で笑い、くだらない理由で怒り。
彼らは少年の馬鹿げた夢を、誰ひとり笑いませんでした。
ぽろん。
少年は知りました。
夢に理由など要らないのだと。
共に見てくれる誰かがいれば、それだけで十分なのだと。
ぽろん、ぽろん、ぽろろん。
そして……少年は世界を手に入れようと、最後の———
◇◇◇
……うーむ、ここから先は思いつかない。仕方ねぇから『ここから先は読者のご想像にお任せします』エンドだな。
「最後の……?」
「すまないね、ここから先は思いつかない。みんなで自由に考えるといい」
「へぇ〜」
ボクは立ち上がり、その場から立ち去ろうとした。
「あの、お金は!!」
「また会ったらでいいよ」
なんだか気が変わってしまった。ボクは逃げるように迷宮の奥へと走る。
……
『自殺エンドとかどうだい?』
「そんな物語今どき売れないよ」
珍しくちゃんとダウナーお姉さんしてる