TS異世界転移したので最強無双ダウナーお姉さんごっこをします 作:ゆきゆき(ダウナーお姉さん(本物))
◇◇◇
「ふむ……エル=レイヴィア? なるほど、あの子が君の言う問題児か」
「はい。あいつは研修前から暴力沙汰を起こし、そして研修で俺に毒を付与しました。追放しましょう」
「まぁまぁ……聞けば暴力沙汰もあちら側からやった、という話ではないか。それに研修での件は自業自得な面もある。お前はもう少しマニュアル通りに進める、ということを意識するのだ。よいな?」
「しかし……」
「しかしも何もない。分かったら戻れ」
ギルドマスターがニコニコと笑顔を浮かばながらそう言い放つ。
彼は温厚だが、それはそれとして無駄に研修生と戦ったロッカスの行動には呆れていた。これだから冒険者は……
「で? 彼女は今何をしているのかな?」
「低級の依頼ですよ。やけにニコニコしながら凄い勢いで草むしりしてました」
「ほう。それはいいね」
◇◇◇
草むしりつまんね〜〜〜〜〜!!!
ボクは魔法によって身体を全自動で操作しながらそんなことを考えていた。
常に笑顔になるように表情筋も固定している。これで少なくとも外見上は悪く見られないはずだ。
しかし、全自動で動いているとはいえ暇は暇だ。一日中草むしりしなきゃいけないのマジ?
しかも1週間やらなきゃ昇級しない?
これが洗礼ってやつか。ボクはメラメラと心を燃やした。
「頑張ってるねぇ!」
「いえいえ」
◇◇◇
「……はい、確認しました。Eランクに昇格おめでとうございます。簡単な討伐依頼は受注できますが、くれぐれも命を大切にしてください」
「はーい」
ボクはゴブリン退治の依頼を適当に受注した。
草むしりすぎでイライラしているんだ、ちょっと憂さ晴らしといこう。
ボクは竪琴をぽろんぽろん鳴らした。
適当に鳴らしてるだけでそれっぽいのが良いんだよねぇ……
「ははは、あの女めっちゃ演奏下手だぜ」
「あはは、死の音色〜」
ぽろんぽろん。
「ウッ……!? ぐ、ぐるじ……わ、わかった、謝る。謝るから……ッ!」
分かったならいいんだよ。
◇◇◇
『ヤバい新人がいる』という噂が流れ始めていることをエルは知らない。
そんな
「あっ、スラクアさん」
「まさかあんた今この“クラウス”に話しかけたのか?」
「あれ、そんな名前だっけ」
「もはや原型残ってねぇじゃねぇか」
最近頭の中をガチャガチャしてるからね。ついでに名前もガチャガチャされちゃったんだろう。
「で? あんたはまた何をしにここへ?」
「聞いてくれよクラウンくん、ボクはついに冒険者になったんだ」
「クラウスな」
「それと!! この綺麗な竪琴も手に入れてねぇ!!」
「うるせぇ」
「音色が綺麗で参っちゃうねェ!!」
「だからうるせぇって。どこからそんなデケェ声出してんの?」
「このぺったんこのお腹からだよ」
ボクはぽろんぽろんと竪琴を奏でながら口を回す。そういえばクラウソさんも冒険者だ、もしかして依頼がかち合ったとかないよね?
「あるわけねぇだろ。ゴブリン退治なんてしばらくやってねぇ」
「B級冒険者ってゴブリン退治しないんだ……」
「そんなんE級やD級の仕事だからな。ま、どうせあんたはすぐ上がれそうだし……半年後にはもうこんなことしてねぇかもな」
「ふぅん」
ボクは頭をガチャガチャさせながら考えた。まぁさっさとランクを上げるに越したことはない。ダウナーお姉さんする(動詞)にもお金は必要だ。
ボーナスチンピラもあまり当てにはできない。ああいうのは臨時収入として扱うべきなのだ。
「つーか巣の中入らねぇのか? さっさと終わらせた方がいいだろ」
「え? もう殺したけど」
「は?」
クラウシさんが疑うような目つきでこちらを見た後、巣となっている洞窟の中へと入って驚きの声を上げた。
多分巣の中には毒でぶっ倒れたゴブリンたちで溢れていることだろう。
「おい、どんな手品だ? 俺にも教えてくれよ」
「ダウナーお姉さんパワーに決まってるだろう」
「ああ、秘密ってことか。まぁ冒険者に秘策は付き物だしな」
「ボクの音楽は死を運ぶのさ」
「音楽ってほどだったか? せいぜい“音”だろ」
「音楽だもん……っ!」
ボクは頬を膨らませた。ぶっ殺すぞ。
◇数ヶ月後
「くくく、ボクも最近は景気が良くてねェ……ごくごくごく、ぷはぁーっ!」
「いやぁ、ご馳走様です。あ、姐さん、あいつ新入りっすよ。ちょっとかましましょうや」
「エ〜?」
ボクはよく分からない酒っぽいものを呑みながら、名前も知らない冒険者に返事をする。こいつ誰だよ馴れ馴れしいな……
そんなことを考えながら、名前も知らない彼が指差した新入りを観察する。
フ〜ン?
なかなかガキっぽくていいね。ダウナーお姉さんが映えるってものだ。
外見は黒髪の少年、歳は……16歳くらいだろうか。勇者とか主人公とか、そういう感じの雰囲気がある。ふざけんな主人公はボクだぞ。
「……なんか用か?」
「おいおいテメェよぉ、ここがどこだか分かってんのかぁ? 冒険者ギルドはお子様が来る場所じゃあねェんだよぉ〜〜〜ッ!」
名前も知らない彼が突然立ち上がり、推定勇者くんの襟を掴む。
なんだコイツ、めちゃくちゃテンプレみたいなモブじゃねぇか。
それならもっと前にボクに絡んできていれば良いものを……
最近は襲われることも少なくなっちゃって刺激が足りない。なんでだろう。全然心当たりがない。
「ホゲェァ〜〜〜ッ!?!?」
「ふん」
フラッフラで襲いかかったかませ役くんは合気道みたいな技で綺麗に地面へと投げられ、そして勇者くんは彼の頭を踏みつけた。
なかなかやるじゃん。
ボクはテンションが上がってぽろんぽろん音を出した。未だ一曲も弾けないのは内緒だ。
「黒き髪を揺らし、華麗なる舞いが男を退け———「誰だよあんた」
おや、話しかけられてしまった。それなら自己紹介をするべきだろう。自己紹介というのはマナーなのだ。
ボクはあなたに危害を加える気はありませんよ、という意思表示である。
きっとクラソソさんもそう言っている。
「失礼、まずは自己紹介といこう。ボクはさすらいの吟遊詩人でありダウナー『おいエル=レイヴィア!! ギルドマスターがお呼びだ!! 早く来い!!』うるせぇぞクソが!! ぶっ殺されてぇのか!?」
せっかくのダウナーお姉さんタイムを邪魔しやがって……マジぴえんだわこの野郎。
ボクはぽろんぽろんと竪琴を鳴らしてギルドマスターの体調を破壊した。多分今頃突然トイレに行きたくなっているはずだ。
「改めまして……ボクはエル=レイヴィア。以後お見知り置きを」
「あ、あぁ、うん」
そう言ってボクは丁寧にお辞儀をした。
顔を上げると、どうやら既に勇者くんは冒険者登録手続きを始めているようだった。
……ぽろん。
ぽろん(悲しみの音色)