TS異世界転移したので最強無双ダウナーお姉さんごっこをします 作:ゆきゆき(ダウナーお姉さん(本物))
ぽろんぽろん。
ぽろん。
ぽろん?
ダメだ、全然演奏できない。ま、まさかこのボクに音楽の才能が無いと……そう言いたいのか……!?
おかしい。ソソククさんもボクには音楽の才能があると言ってくれていたはずだ。
「いや言ってねぇよ。つーか誰だよソソククって。クラウスだよ。“ク”しか残ってねぇじゃねぇか」
「やぁB級冒険者のクラウスくん」
「あんたは上がるの早すぎなんだよ。もうB級だって? マジで歴代最速じゃねぇのか」
「ぽろんぽろんしてたらいつの間にか……ボクなんかやっちゃいましたぁ?」
「まぁギルドマスターや他冒険者に色々“やっちゃった”のは確かだ。なんで追放されてねぇの、あんた」
そんなそんな。ボクはただこの竪琴を演奏していただけだよ。ぽろん。
「あんたがそれ鳴らしたら呪いが起きるって言われてんだよ。俺ん近くでそんな危険物使うんじゃねぇ」
ぽろんぽろんぽろんぽろん!!!
「やめろっつってんだろ!?!?」
「大丈夫さ。音楽は心を安らげる……ボクの曲を聞いていってくれたまえ」
「だからそれ音楽じゃねぇって。“音”だよ。ぽろんぽろん鳴らしても繋がってねぇから。連続した“音”だよ」
「くそぅ……ボクは許せねぇ。この世界が」
「あんたマジで滅ぼしかねない気迫あるからやめてくれよ」
「滅ぼしてもいいのかい!?」
「ダメだ。道徳とか学んでねぇのかあんたは……」
道徳は成績『5』しか取ったことがない。ボクの倫理観は普通に考えて正常である。
「おい、エル=レイヴィア」
「キミは……あぁ、デイブくんか」
「ロッカスだ。誰と間違えてんだテメェ。研修の時に自己紹介はしたはずなんだが……」
「人の名前覚えるの苦手でねぇ」
「少なくともこの街の冒険者に“デイブ”なんて奴いねぇぞ。誰だよそいつ……ってまた乗せられるとこだった。ギルマスからの依頼だとよ」
「あーん?」
ボクはぽろん、と音を鳴らしながら書類に目を通す。
護衛任務……?
ハッ、このB級冒険者サマに護衛なんてしょうもない依頼を任せるというのかい?
「こいつ最近まで冒険者ですらなかったのに……何故こんな態度を取れるんだ?」
「……?」
「ダメだ、こういう時のこいつは何も話を理解していないぞ」
「はやく追放されねーかな」
そんなことしたら『TS異世界転移したのでダウナーお姉さんごっこをしていただけなのに追放されました。ソリソリと一緒に復讐して「ざまぁ!」します』が始まってしまうじゃあないか。
「……まさかとは思うが俺か? その……よく分からない名前」
「原型ねぇじょねぇか」
「さっきも言ったんだよ、それ……」
悲しみに満ちた顔を浮かべるシシシシさん。お、出目が揃った。フィーバータイムだな。
「ボクは人の名前を覚えるのが苦手でねぇ」
「苦手の範疇超えてるだろこれ」
「あんたあの新人の名前覚えてるか?」
そう言ってクラクラさんが1人の男を指差す。
あぁ、勇者(仮)くんね。もちろん。
「クラウスくんだろ」
「違ぇよ!! あいつはシュンだ!! クラウスは俺!!」
「あれ、そうだったっけ? ボク記憶力弱くてさぁ……」
「胸でかけりゃなんでも許されると思ってんじゃねぇぞマジで」
「え〜?」
ボクは胸を両腕で抱えて下からチラチラとクラシアンを見上げた。
お? なんか頬紅潮してない? 気のせいカナ?
「つーか依頼の話だよ。お前これ絶対受けろよ、受けなかった時怒られるの俺なんだぞ。マジでなんで俺が怒られるのか分かんねぇんだけど。何なの? お前ギルマスに何したの?」
「いやぁ……ボクにはなんとも……」
「クラウス、俺怖くなってきたわ」
「俺もだ」
ボクは微妙な雰囲気を変えようと竪琴に手を伸ばすが、2人が何やらジェスチャーをしてきたので手を止めた。
何……?
あ! あぁなるほど、弾いてほしいってことね。
ボクはぽろんぽろんとコンサートかってくらいにかき鳴らした。
2人は耳を塞いでいたが、ボクのこれは脳内に直接響くタイプの楽器なので意味はない。
もしかするとテストしてくれてたのかも。いやぁ、彼らは優しいなぁ……
◇◇◇
「フフフ、キミが今回の依頼主かな? 自己紹介をしよう。ボクはさすらいの吟遊詩人兼史上最速のB級冒険者兼ダウナーお姉さんのエル=レイヴィアさ。短い間だけどヨロシクね」
「あ、あぁ。よろしく頼む」
「ところでキミの名前は……アチコチさんで合ってるかな」
確かそんな感じだった気がする。
「ラルフだ。誰と間違えている?」
「おっと、これは申し訳ない」
「……おい、本当にコイツ腕は立つのか?」
「はっ。オーヴァのギルドマスターが保証する、とのことです」
「アイツが認める、か……まぁいい。仕事はやり遂げるんだ、いいな?」
「もちろんさ。ダウナーお姉さんに失敗は無い」
「今からでも気が狂いそうだ……これならクラウスを付ければ良かったか?」
いや、彼はボクより弱いんだから、護衛任務ならボクの方が安心だ。
ボクのことをもっと信用してくれたまえ。
「雇われた者の態度ではないな……いくらエルフだからといって、ここまでの奴は見たことがないぞ」
「えへへ」
「褒めていない」
◇◇◇
おや、魔物の気配。
ボクは足を強化し、キリンのような脚力でその気配の元へと駆ける。
キリンって足早かったっけ? まぁいいや、とにかく早いってことだよ。
ともかく。他の護衛の冒険者たちを置いてけぼりにしながら、ボクは先に移動した。
「試したいのがあるんだよね」
近頃は魔法の検証ばかりしている。少年を見つけたら、性癖を破壊すべく近寄ったりはしているんだけど……最近はどうやらボクの悪い噂が広まっているらしく、親に『あの人に近づいちゃダメ』と言われている子が多いそうだ。
そんなこんなで魔法の検証に使う時間は増えていった。その中で編み出したのがこれだ。
ぽろん、と魔力を込めて竪琴を鳴らす。
イノシシのような魔物は、ボクへと突進してきていたが……突然、その動きが停止する。
前までは結構単純な“ポイズン”という魔法、あるいは改良版の“ポイズン”を音に乗せて放っていたのだが、今回はもう根っこの部分からオリジナルだ。
なんかやってることの効率悪い気がしたんでね、単に神経やら脳組織の一部分だけをバグらせる魔法を作ってみたのだ。まぁ上手くいったんじゃなかろうか。
人に向けていいものかは分からないけど。治し方分からんし。
「おい、勝手に飛び出すのは……ちっ、もう終わってんのか。なんで〝
「なんだいその呼び方」
「あ? 知らないのか? お前あの街じゃそう呼ばれてるぜ。ガキにも悪い意味で大人気だ。ぽろん、と音がしたら呪われるってな」
「失礼な、呪うだなんてそんな野蛮なことはしたことないよ」
「じゃああの原因不明の吐血や嘔吐は何なんだ?」
「偶然体調不良が重なったとかじゃないかな? というかキミ誰?」
なんか最近知らない冒険者に話しかけられることが多いなぁ……しかも揃いも揃って粗暴だ。クラッシュを見習え。
「あー、楽しく会話しているところ悪いんだが、今日はここで野営をする。全員、準備してくれ。君たちもだ」
「はーい」
「ちっ」
依頼主さーん! 今この子舌打ちしましたー!(小学生)
◇◇◇
「守りの加護を。外敵より身を護る奇跡を。我らに、この地に、守護を与え給え———“ホーリー・フィールド”」
「何それ、魔法?」
「光魔法、“ホーリー・フィールド”という。魔力は大きく消費するが、しばらくの間魔の者たちを退けることが……いや、お前は話だと魔法使いと聞いているぞ。知らないのか?」
「ボク吟遊詩人だしぃ?」
「吟遊詩人というだけでは冒険者はやっていけないだろう。剣か魔法か、拳か。それとも弓か。何かしらの戦闘技能が無ければパーティにも入れないはずだが」
「えっ、そうなの」
てっきり歌でバフする吟遊詩人とか居ると思ってたは。
まぁよく考えたら歌うだけでバフ与えるってちょっと変だよね。まぁ今のボクなら出来ないこともないんだけど、それは歌とかじゃなくて魔法の力だ。
「で? お前はどこで魔法を習ったんだ」
「独学だよ。学校とかで習うものなのかい?」
「ああ。基本はそうだ、効率的な詠唱や魔法の成り立ち、最低限の基礎訓練をそこで行う。一部の才ある者たちなら通わない場合もあるが、な」
「話を聞く限りだと、別にそれ1人でもできそうな内容だけど」
「最初のイメージを掴む、というのが本来は難しいのだ。数年かけて学び、訓練し、ようやく使えるようになる……お前は違ったようだな、見た限りだと」
「ボクは天才だからねェ!」
「自信があるのは良いことだ」
最初は普通の依頼主だなって思ってたけど、案外色々話してくれるいい人じゃあないか。ボクはあなたのこと見直したよ。えーっと……ラルフさんだ。ラルフさん。
今度はちゃんと覚えてるだろう? ボクだってやろうと思えばできるのだ。