TS異世界転移したので最強無双ダウナーお姉さんごっこをします 作:ゆきゆき(ダウナーお姉さん(本物))
◇◇◇
その少年は、金に困っていた。
だから冒険者になった。
彼が見つけたのは一つの依頼。
内容は古代都市までの護衛。
難易度と比べれば破格の報酬であり、過去に参加した者は参加できないため、基本的には新人のみが受けられるという少し変わった依頼だった。
戦闘経験は無かった。だが訓練はしてきた。ならば問題ない、少年はそう考える。
その結果、E級に上がった直後にも関わらず彼はその依頼を手に取ったのだ。
……その後に待ち受けることも知らずに。
◇◇◇
『ぐるるるるる……!』
「ひっ……」
古代都市に住まう魔物は、オーヴァ近辺のものと比べても数倍は強い。
オーヴァ周辺では魔物を倒せていた彼だったが、ここの魔物に対しては……勝てないこともないのだが、その圧から尻餅をついてしまう。
剣は手を離れ、その場へと転がった。
周囲には誰もいない。
軽い気持ちで歩き回っていたせいで、逸れてしまったのだ。
少年はガタガタと震えながら、相対している狼のような魔物を見つめることしかできない。
『がうっ……!』
狼が大きく口を開け———その瞬間、動きを止める。
ぽろん、ぽろんぽろん。ぽぽろん、ぽぽろん……
「やぁやぁ少年。ボクはエル=レイヴィアさ、吟遊詩人をやっている……もしかして、もう知ってたりするのかな?」
「か、〝
「あ?」
◇◇◇
ボクは固まった。おい、どういうことだ。なぜボクがそんなまるで『関わったら殺される』みたいな扱いになっているんだ……?
ぼ、ボクはただダウナーお姉さんしてる(動詞)だけなのに……
「よしよーし、良い子だから泣かない。ね?」
「う、うぅ……殺さないで……」
「うんうん、ボクの話は誰から聞いたのかなぁ?」
「ひっ……え、えっと、クラウスさんから……」
クラシアめ……あいつは一回お仕置きだな。
「実はね、ボクはそんな怖い人じゃあないんだよ」
「うぅ……ほ、ほんと?」
「そうだよぉ。じゃなきゃキミを助けないって。ほら、狼さんの動きが止まってるでしょ?」
「ほんとだ……」
というか、なんでこんな若い子が冒険者なんかやって……まぁ金が無いだけか。
この依頼はランク制限くらい付けた方がいいんじゃないか?
せめてD以上からにしとかないと死人出そうだぞ。
「ほら、泣き止んでくれたまえ。生命の砕ける音を聞かせてあげよう」
ぽろん。狼の頭は爆散し、脳髄や血が周囲へと飛び散った。
獣なんて、ダウナーお姉さんにかかればこんなもんである。
「こ、殺される……!!」
「あっこら待て」
少年は突如逃げ出した。ま、待ってくれたまえ少年くん。ボクを置いていかないで!? ねぇ!? なんで逃げ足そんな早いのカナ!?
◇◇◇
「次からは近くに居るよう言っておかなければな……いや、すまない。迷惑をかけた」
「いやほんと迷惑だったよ」
ぴん、と金貨が渡される。
「全然迷惑じゃなかった。安心してボクに任せるといい」
「はっはっは、頼りになるな」
そう言いながら依頼主……あぁまた名前忘れそう。いや、確かラルフだったはず……合ってるよね?
ラルフはそう言いながら1枚の板を見つめていた。
「これは……おそらく魔導具なんだろうが、内部がグチャグチャになってしまっている。ここまで壊れていては研究にも使えそうにない」
「研究はできるでしょ」
「おや、お前はそう思うのか? ならばやろう。どうせいくらでも落ちているものだ」
ぱしっ、と板状の推定魔導具を受け取る。こりゃあ確かにボロボロだ。土まみれだし、内部も酷い有様であった。
でもまぁ、少し興味は湧いたよ。後で個人的に調べておこう。
「おっと、また看板……いや、これは少し違うか。魔導具に近いな。古代都市では看板すらも魔導具だったのか……この辺りはまだ探索していなかったからな、新たな発見が多くて楽しいぞ」
興奮してるとこ悪いけど、それ多分夜のお店の看板だぞ。
もしかしてここって治安悪いタイプの場所だったのか?
「おお、ここは中々綺麗に残っているな」
えー? どうせまたくだらない……と思っていたが、今回は違うようだ。
これは……工場の跡地らしい。
「あまりにも広いな、このエリアは。探索するとすれば次の時だろう」
「ふーん……」
なるほど。魔導具用の部品工場だったらしい。
作っていたのは……『スクロール製作所』って書いてるし、そのままスクロールだろう。
「ねぇラルフさん、スクロールって分かる?」
「む? なんだそれは」
「いや、分からないならいいよ」
見たことはないと思っていたけど、もしかしてそもそも現代には存在しない……?
まぁそれなら色々使えるかもしれない。これは大儲けの予感がする……!
あとは断片的にでもいいから、製法について知りたいんだけど……まぁそれはこっそり探そう。あと2日あるし。
「今回は中々に面白い。遺物の回収が捗る捗る」
「そりゃあ良かったね」
◇◇◇
2日経った。結局製法は見つからなかったっていうね。
そもそも残っている可能性自体がかなり低いよねぇ。
加工用の機械か、あるいは魔導具みたいなものがあれば良かったんだけど……それらしきものは見当たらなかったし。
絶対あるはずだけどな。どこいった? 看板が残ってて機械が残ってないとかあり得るか?
疑問は絶えないがひとまず帰ることとする。依頼では今日が古代都市での滞在最終日だ。ここからは依頼主をオーヴァの少し北の街……ネクシアへと送り届ける。
それが終われば依頼も終わりだ。
「さて、みなさん。古代都市での探索中、護衛しただきありがとうございました。ネクシアまで行けば解散となりますが、まだ一応道中で襲われる危険性もありますので、よろしく頼みますよ」
返事の声は一斉に。しかし言い方は人によってバラバラであった。まぁ冒険者ってそういうものだよね。
ボクは板状の魔導具をチラチラと観察しながら他の冒険者たちを見守っていた。
なんか少年を助けたあたりから、ボクが監視役みたいな立ち位置にされたんだよね。いやまったくもって遺憾だ。ボクをもっと暴れさせろ。遺物拾いももっとやりたかった。ブーブー!
「冒険者というのはやはり騒がしい。しかしそれでこそ冒険者なのだ。特にうるさいエル=レイヴィアには銀貨を1枚贈呈しよう」
「金貨よこせー!」
「強欲だな……」
ボクは金貨が欲しいんだよぉ〜〜〜ッ!
◇◇◇
「おい〝
「なんだいそのゴミみたいな質問は。少年でもない年の男がボクに話しかけるんじゃない」
「ショタコンなのは結構なんだが、あいつ怪しくねーか?」
「ボクからしたら、ボクに突然話しかけてきたキミの方が怪しいけどね。最近は本当に馴れ馴れしい奴が多い気がするよ」
「なんかお前話しかけやすいんだよ」
知らねぇよクソが。ボクに話しかけていいのは可愛い子だけだって話が聞こえてないのか?
まぁいい、確かに彼の言うことも一理ある。
なんかアイツ自分の情報全然開示しねーからな。
研究者だとか、元冒険者だとか言ってはいるが……具体的な部分が全然見えてこない。研究者にしては色々雑だ。
ボクの見立てでは、古代都市なんか調べようと思えば簡単に調べられるはずである。
あの看板も『掠れて読めない』ってほどじゃない。ちゃんと解読すれば『萌え萌え♡メイドカフェ“アストライア”』という真実にも辿り着けるはずなのだ。それをなぜか『読めないだろう』と一蹴する。
「ボクの見立てでは『お忍びで新人冒険者を品定めしているS級冒険者』と見たね」
「おお、ありそうだなそれ」
「だろー?」
「勘がいいな」
ボクたちの背後にラルフさんが突如出現する。脳がオートで動いて衝撃反射障壁、脳破壊等の魔法陣を準備した。
まぁ戦う気は無いだろう。反応できるかのテストってところのはずだ。
「合格だエル=レイヴィア。うちのクランに来てもいいんだぞ?」
「ボクは孤独なダウナーお姉さん吟遊詩人として生きていくと決めているんだ。キミの誘いには乗らないよ」
「残念だ」
「俺は?」
「お前は不合格だ」
「そうか……」
本当にテストしてただけってんならその遺物くれねー?
ボクちょっと興味あるんだけど、それ。
「残念ながら、研究機関にこれを持ち寄るまでは仕事なのでな。渡すのは無理だ」
「そうかい」
ボクは彼が見ていない隙を狙って遺物をひとつ盗んだ。
このメモリーみたいなやつが一番大事そうだ。機密情報とか入ってねーかな。
「……まぁいい、私は何も見ていない」
「ありゃ、バレた」
三人称視点がAIっぽくなる、あるあるだと思います
まぁこの小説は使ってないんだけどさ