誰にでも出来る簡単な仕事(大嘘) 作:V3
日曜日、午後1時の――東京、浅草。
「わぁ!」
「……」
「うぅ?」
男二人、肩を並べて座る。
俺の足元ではイチが静かに座っていた。
飲食店ではあるが、ペットの同伴も大丈夫な店で良かった。
窓から見える市民はせわしなく動き回っていた。
俺はご馳走を前にしていた。
そう、この店名物の“ケニバルデラックスバーガー”だ。
肉厚なパティに玉ねぎやピクルスに、どろりと垂れる濃厚なチーズ。
本場のアメリカのハンバーガーにも負けないボリュームで――かぶりつく。
「はぐ、あぐ、あぐ……んー! デリシャス!」
「……美味いな」
「わん!」
今日は仕事は無い。
休日であり、イチを連れてマイケルと一緒に東京の浅草に遊びに来た。
名物を食べようかとも思ったが、何故か、マイケルはハンバーガーが食べたいと言った。
まぁ別にいいかと最近巷で流行っている“ケニバルバーガー”という店に来た。
ケニバルバーガーは日本で誕生したハンバーガーのチェーン店だ。
創業者……というよりはレシピの開発者はケニー・バルカンという外国人らしい。
彼のレシピを譲ってもらった日本人がそれを改良し、商品として売り出したのが店が生まれたきっかけと聞いた事はある。
ケニー・バルカンは既に死んでいるが、彼は生前、自分の店を開くことが夢だったらしい。
が、結局、それが叶わないまま彼は自殺した。
理由は不明だが、遺言書によってレシピはケニバルバーガーの社長へと渡った。
一店舗目である此処が出来たのが5年前だが。
看板メニューであるシンプルなハンバーガーは他の店舗でいうビックサイズ級のボリュームでありながら価格はたったの200円だ。
ドリンクとポテトのセットを注文しても、500円で食べれる店はどこを探してもケニバルだけだろう。
ジューシーな肉はまるで最上な肉のように柔らかく。
バンズに至っても、小麦の上品な香りがとても良い。
ピクルスもチーズも最高だが……このソースが良いな。
謎のソースであり、このソースの味は再現不可能と言われている。
それほど複雑怪奇な味わいで、初めて食べるマイケルも目をキラキラと輝かせていた。
「Why!? どうやって、この味を……It`s a mystery!」
「……うま」
インスタで若者がよく投稿しているとマイケルは言っていた。
それもあって、料理人である彼は前から行きたいと思っていたらしい。
ただ、客層が若い子が多いのと東京は人が多く迷いやすいからと中々行けなかったらしい。
別に、家の近くの店でもいいじゃなかったのかと聞けば――
『No! やはり、一号店! 本場の味を先ずは食べないと!』
『あぁ……確かに』
「……」
ハンバーガーを食べながら周りを見る。
確かに、客層は10代20代が多かった。
皆が皆、映え映えと言って写真を撮っていた。
俺は美味いハンバーガーを堪能しながら、ゲームの事を考える。
「……そういえば、アレから、その……仕事は?」
「ん? あぁ……まぁぼちぼちかな」
「そ、そうデースかぁ……先輩は、怖くないんですか?」
「怖い? そりゃ怖いよ。間違ったら、ねぇ……まぁルールを守れば大丈夫だし」
「ほ、本当に怖がっているんですか? ミーにはちっとも……あ、いや! ごめんなさい!」
「いや、別にいいよ……それより、日本語うまいよね。5年以上は住んでるんでしょ?」
「え!? なななな何で5年は住んでるって分かったんですかぁ!?」
「……いや、面接の時に聞かれなかった? 5年以上日本で過ごしている方ですかって……出身がアメリカだから、ビザとか色々聞かれてると思ったけど」
「……あ! た、確かに聞かれました……でも、5年以上って何か関係があるんでしょうかぁ? 要するに、日本に住んでいる方限定の仕事って事デース……でも、人種で拘っている感じもしませんでした」
「……何でかなぁ」
本人と確認できるものの提示もあったがこれは普通だろう。
後は、国が定期的に無償で行っている“健診”や“採血”を欠かさず行っているかも聞かれた。
面接の時間自体は短かかったし、何かの機械を弄っていたが……まぁいいか。
「……先輩ほどのお人なら心配はないと思いますがぁ……でも、やっぱり、もうやめた方がいいんじゃ?」
「え? 何で? めちゃくちゃお金貰えるじゃん」
「お、お金は大事デース。でも、それ以上に命は一つだけデース……ミーと先輩はもうフレンドデース。フレンドに死なれたら、ミーはすごく悲しいです。先輩も、ミーが死んだら悲しいですか?」
「………………うん」
「Oh……すごく間がありました」
悲しいとは思う。
が、まだ生きているので断言はできない。
マイケルは笑みを浮かべながら涙を流していた……器用だなぁ。
俺はハンバーガーを食べながら、浅草の景色を堪能し……ん?
声が聞こえた。
少年たちの声で、どこか聞いた事があるような気がして振り返る。
「おい! 翔太! てめぇまたイカサマしただろ!」
「そうだそうだ! 絶対におかしいって! 何で五回もやって五回も勝てるんだよ!」
「ふふ、馬鹿だなぁ。僕みたいにさぁ、ここ使えって? アレには必勝法があってな」
「…………へぇ」
「……? どうかしましたか?」
「いや、何でもないよ」
振り返った先には三人の高校生がいた。
ハンバーガーや飲み物を載せたトレイを持っている。
仲良さげであり、翔太と呼ばれた少年は――“マッシュヘッド君”だった。
見間違いじゃない。
本人であり、五体満足で生きていた。
この前の仕事で死んだと思ったけど……まぁいいか。
「……そんな事もあるか」
「ん? そんな事ってなんですかぁ?」
「いや? 奇跡ってものがさ。あるんだなぁって思っただけ」
「んー? 難しいデース。哲学ですかぁ? んー……あ! それなら、これ! これで奇跡を起こしてくださぁい!」
「……何これ?」
マイケルは何かの箱を見せて来た。
それは、マイケルの食べていた“ケニバルニャッピーセット”のおまけの玩具が入った箱だ。
「ふふぅ。実はこの箱にはぁ玩具以外にもあるものが入っている可能性がありまぁす! それはぁ……何と! 金のチケットデース!」
「……それが何かあるの?」
「What!? 知らないんですかぁ!? 金のチケットは1万人に1人しか当たりませぇん! もし当たったら、5年間タダでハンバーガが食べられまぁす!」
「へぇ……凄いね」
「きょ、興味ありませんかぁ?」
「いや、あるよ? ある……うん」
マイケルは訝しむような視線を向けて来る。
俺はさっさと開けようと箱を受け取った。
マイケルは手を合わせて神とやらに祈っていた。
「……何に祈ってるの?」
「それは勿論、奇跡の神様デース! 先輩も祈ってくださぁい!」
「……あ、うん。お願いします、はい」
「ノー! 軽すぎまぁす! て、もう開けて…………へ?」
「ん? これ……ハズレ?」
中にはチケットらしきものは入っていた。
が、金ではなくまるで白金のようにキラキラしていた。
俺はゴミ箱に捨てようとし、マイケルが立ち上がった。
「ほぉぉぉぉぉ!! ででででで出ましたぁ!!! ぷぷぷぷプラチナチケットデース!!!」
「「「……!?」」」
「ぷら、ちな……え、当たり?」
「当たりも当たりぃぃ!! 大当たりデース!!! 100万人に1人の奇跡デース!!! 一生ハンバーガー食べ放題デース!!! ほぉぉぉぉぉ!!!」
「「「――!!」」」
マイケルがバカでかい声で騒いでいた。
その結果、周りのお客さんも気づいて手を叩いてくれた。
お店の人も慌てて出てきて、記念撮影を求められる。
マイケルは俺の腕を掴んで、共に写真を撮ろうと言ってきた。
「……犬もいいですか?」
「はい! 勿論です!」
お客さんに道を開けて貰う。
そうして、イチとマイケルと共に店長らしき人と写真を撮ろうとする。
マイケルの手にはマスコットキャラの猫のチニーズちゃんがあった。
俺はお店の人の指示でチケットを上に持たせられる。
「はぁい! ケニバルぅ!」
「「「にっ」」」
ぱしゃりとフラッシュが焚かれた。
すぐに写真が出てきて、お店の人と共に出来上がった写真を見る。
ゆっくりと写真が浮かび上がって来て……ん?
「……誰?」
「ん? どうかされましたか?」
「……見えてます?」
「え? えっと……どれ、でしょうか?」
「……何でもないです」
お姉さんが困惑していた。
俺が指を差した場所にある者が見えていなかったようだ。
マイケル達もであり、イチを見ればニコっと笑っていたような気がした。
俺の目には俺の背後に“黒い靄”や“白い靄”などが見えていた。
俺の頭やら肩に触れていて、薄っすらと笑みのようなものも見える。
チケットを持つ手にも何かが触れているように見えるが……うーん。
「お祓い……行った方がいいのかな」
「お祓い!? ジャパニーズお祓いですかぁ!? ミーも行きたいデース!」
「……うん、また今度ね」
「はい!!」
「……くぅん」
マイケルにチケットを渡す。
彼はチケットを掲げながら嬉しそうだった。
ハンバーガーを食べたい時は何時でも声を掛けて欲しいと彼は言って……良い奴だな。
―おまけ―
「そういえば……ベジタリアンになったんじゃ?」
「ん? 何の事ですか? ミーはお肉大好きデース! 特にハンバーガーは大好物デース!」
「あぁ……凄いね」
「……? ありがとうございまぁす!」