誰にでも出来る簡単な仕事(大嘘) 作:V3
もうすぐハロウィンですね。
そろそろ寝ようかと思った夜の10時。
風呂にも入って歯も磨いて、イチが先に布団に入っているのを確認し俺も寝ようとして……連絡が来た。
『夜分に失礼します。八咫烏のAです。急で申し訳ありませんが、とある仕事で欠員が出てしまい……今から来れますか?』
『今から、ですかぁ……ふぁ』
『緊急ですので、仕事の報酬も多めに出させて頂きます……200万でいかがでしょうか?』
『行きます』
連絡を終えて支度をする。
青いジャージを着てバッグを持つ。
念の為にとエアコンもつけておき、マイケルにも何かあった時の事を考えてメッセージを送っておく。
返事は来ないので仕事中か寝ているのか……まぁいいか。
用意を手早く済ませた。
そうして、外に出れば……既に車が止まっていた。
目隠しをさせられて車に乗り込み。
そのまま暫く揺られていれば目的地に着いたと教えられた。
ついた場所は何故か、新幹線のホームだった。
何処なのかと見てみれば……字が全く読めなかった。
妙に霧も濃かった。
人数にすれば50人くらいはいたと思う。
全員がキョロキョロと周りを見ていて……汽笛が聞こえるな。
「「「……?」」」
全員が光の発生源に視線を向ける。
すると、線路を走って……汽車?
煙突から蒸気を出している汽車。
新幹線のホームに赤と白の汽車が来た。
周りの人間は困惑したり写真を撮ろうとしていた。
が、写真は撮れなかったようで……まぁいいか。
「……どうぞ」
「あ、はい」
汽車から出て来た車掌さんらしき人。
肌は病的なほどに青白く、ボロボロの制服を着ていて目は虚ろだった。
ぎこちない動きで、自動で開いた客車へと繋がる扉に手を向けていた。
何故か、はしゃいでいる若い人たち……変わってるなぁ。
俺たちは客車の中へと乗り込む。
そうして、普通の客車の椅子に座り待つ。
ボケっと窓を見ていれば、すぐに汽車は出発する。
暫く、若い人たちのはしゃぐ声を聞きながら外の景色を眺めていた。
何故か、陽気な兄ちゃんたちに話しかけられて。
どこの大学かと聞かれて、フリーターの35のおっさんだと伝えればひどく驚いていた。
『え!? マジっすか!? めっちゃ若くみえたんで同じくらいかって……アンチエイジングってやつっすか!?』
『……? 別に何もしてないけど』
『うぇぇ!? マジっすかぁ!? すっげ! バリえぐいっすねぇ!』
『……えぐい?』
知らない言語で盛り上がりながら彼らは去っていった。
俺は窓にうつる自分の顔を見た。
すると、確かに最近になって妙に肌艶が良くなって髪の太さもしっかりとして……まぁいいか。
そんな事を考えていれば、あっと言う間に到着した。
汽車が止まり、アナウンスで目的地に着いたと知らされた。
全員が外に出て……驚いた。
今までの仕事場とはまるで雰囲気が違う。
霧が出ている深夜であるが、ハッキリと見えるほどに明るい場所だ。
まるで、昼間のようでありその原因は目の前に広がる――テーマパークが原因だ。
どんどんと緑色の花火が上がり、何かがひゅうひゅうと飛んでいた。
客らしき人たちのはしゃぐ声が此処まで聞こえている。
誰しもがテーマパークだとはしゃいでいて……あぁだから若い人たちが多いのか。
そんな事を考えていれば……なんか来たな。
「よっ! はっ! ほっ! へぁ!」
「「「わぁ!」」」
大きなカラフルな玉に乗り、その上で青い火の球をジャグリングしながらピエロの格好をした太った人が現れた。
彼は陽気な声を出しながら、俺たちの前で軽業を披露し――くるくると回って着地する。
「いで! つぅ……はぁ、くそくそくそ……ニィィィ!」
「「「……?」」」
着地時にぐぎっとあからさまな音がした。
ピエロはぼそぼそと何かを呟き――満面の笑みを浮かべた。
何故か、ジャグリングをしていた火の球は宙に浮いている。
彼は上を向きアホみたいに口を開けて、それら全てのみ込んでいった。
まるで、アニメのキャラクターだと思っていれば全員が拍手をする。
ピエロは派手な動きで一礼し――再びニッと笑う。
「はぁい! 皆さぁんようこそぉ! 我らが愉快なぁ――マドン・エス・ランドへぇ! ぱふぱふぅ!」
「「「ははは!」」」
「……?」
全員が嬉し気に笑っていた。
俺は妙な気配を感じランドの方を見て――ピエロが至近距離に迫る。
「んー! ダメダメェ! 私を見てくださいよぉ♡ 仕事はもうちょっと、ですから、ね♡」
「あ、はい」
「んー! 淡泊ぅ! まぁそういうのも……アリでぇす! それじゃ、早速ぅぅ君たちがこれからやって貰う仕事の発表を――はぁい!! ずばり!! 閉園するまでの間ぁランドのスタッフとしてぇ働いてもらいまぁす! ぱふぱふぅ!」
「わぁ! 面白そう! あ、でも……俺たち此処の事知らないし、特別なスキルも――うぉ!」
「もぉん! 心配ないよぉ! このランドで働くうえで大切なのはぁ“お客様たち”に楽しんでもらう事だけぇ! 知識も経験もぜぇんぜん要らないんだよぉ! ただ、場所は何処って聞かれたらぁ後で配る地図を見せて、此処! って教えてあげてねぇ?」
「えぇ何それぇ? それなら別に地図を渡せば――わぁ!」
「のんのん! 地図はスタッフしか持っちゃいけないんですぅ! そして、お客様はスタッフとの触れ合いがだぁい好きなんですよぉ? だからだからぁ、絶対にぃぃぃ……渡すなよ?」
「「「……?」」」
剽軽なピエロだと思っていれば、彼は簡単にルールを説明した。
1つ、地図は絶対に無くしてはならない。
2つ、何があってもお客様に感情をぶつけてはならない(怒っちゃダメだぞぉ♡)……。
3つ、決して大きな声(80db以上)を出してはならない……やけに具体的だな?
4つ、お客様からの質問には必ず答えなければならない。
5つ、アトラクションも飲食物も自由に楽しんでいいが自己責任。
以上であり、それを守ればランド内では自由に移動して良いらしい。
何故か、仕事中だというのにアトラクションで遊んでいいようだ。
若い人たちは純粋に喜んでいたが……まぁいいか。
「はぁい! ではではぁ、皆さんの格好を我らの仲間として相応しい装いにぃぃ――あ、チェンジィィ!」
「「「うわ!?」」」
ボンと音がして、足元から煙が上がる。
せき込みながらも煙を払って自分の体を確認して……何これ?
「わぁ! すご! コスプレじゃん!」
「すげぇ! 俺これミイラ男じゃねぇ!?」
「ぎゃははは! お前、それナースじゃん! 男なのにミニスカって! えぐいえぐい!」
「いやお前だって何だよそれ! 何時の時代のダンサーだよぉ!? ぎゃははは」
「……これ、普通の制服か?」
濃い青色を基調とし黒いラインの入った制服。
他のコスプレとは共通点が無い。
まぁいいかと思っていれば視線を感じて……ん?
「……ふっ」
「……?」
何故か、ピエロが俺を見て笑っていた。
意味ありげな笑みで――すぐに彼は視線を逸らした。
「はい! では、早速仕事を始めましょうかぁ! あ、勿論! 終わったら服を戻して荷物も返しますからねぇ! それじゃ、レッツ――ショータァイム!」
「「「……!」」」
まるで、盛大に歓迎するようにファンファーレが鳴り響く。
そうして、ランドへと入場する為のゲートが開かれた。
仕事が始まった。全員が大きな声を出さないように気をつけながらも我先にとダッシュする。
若いっていいなぁと思いながら、俺は普通に歩いて向かい――
「全力で――楽しませてねぇ!」
「……あ、はい」
ピエロが何かを言ったが。
ファンファーレの音が大きくて聞き取れなかった。
俺は返事だけをしてそのままランドへと向かった。
「……」
「「「――」」」
ランドの中心に謎の噴水エリア。
見上げれば、得体のしれない不気味な彫刻を中心に水が意味不明な動きで流れ落ちたり上がったりしていた。
変なところだと思いながら周りを見る。
すると、お客様らしき化け物の見た目をしたそれらが歩いていた。
ゾンビ風であったり、異形であったり、バリエーションは豊富だ。
仮装をコンセプトに……という訳でもないだろう。
俺はただ入場ゲートで渡された地図をしっかりと持ちながら待機していた。
「あ! 若おっさんじゃん!」
「ん? あぁ……元気?」
「元気って何だよそれぇ! てか、何時から立ってんの?」
「ずっと」
「ふ! え、えぐいって……いや、まぁいいけどさ! にしても、ここすげぇな!」
金髪オールバックの厳ついお兄さんが語り始める。
ルール通り声量には気を遣っているようで少し安心した。
彼曰く、ヒュニバよりも面白く、お客も含めて全員のコスプレの完成度が高いと。
アトラクションも思わず叫びそうになるほどにはスリル満点だったらしい。
「……けど、さっきさ? 他の女の子たちが客にビビらされてよ? 叫んじまってたけど……気づいたらいなくなってたんだよ。不思議じゃね?」
「うん、不思議だね。気をつけなよ」
「……? おぅ」
「あのぉ」
「……? 何すか? お! と、あぶ」
「……?」
お兄さんと話していれば、彼の背中を叩く存在がいた。
振り返れば、脳みそ丸出しで目玉が飛び出したゾンビの男が立っていた。
お兄さんは叫びそうになったがぐっと堪える。
そうして、引きつった笑みで用件を聞いていた。
「そのぉ、ブラッド・マウンテンに行きたいんですけどぉ。何処に行けばいいですかぁ?」
「え、ブラッド・マウンテン。あ、ちょっと待って……あぁ、此処っすね!」
「あぁ、此処かぁ。そうかそうかぁ。どうもご親切に」
ゾンビマンは脳みそに手をあてる。
頭を下げるのかと思っていれば――ずぼりと指が脳みそにめり込む。
ぶしゅりと血が噴き出し、それからミチミチと音がして――頭を取った。
「ありがとぉぉぉうぅぅぅぅ」
「うわぁ!? あ!?」
「……! ひひぃ! 良い反応ですねぇ!!」
お兄さんは叫んでしまった。
慌てて両手で口を塞いで――ゾンビマンが彼の体に抱き着く。
「うわ!? な、放せや!?」
「ひひひぃ!! 良い!! 良い!! 人間っていいなぁ!!」
「あ、あぁ!! ぎぎゃあ!?」
ゾンビマンは大きく口を開けて――お兄さんの脇腹に噛みつく。
ブチブチと音が鳴り、お兄さんの脇腹の肉を噛みちぎる。
お兄さんは悲鳴を上げてその場に転がる。
両手で傷口を抑えているが、血だまりになるほど流れている。
周りを見れば、他のお客様も彼をぎろっと見てゆらゆらと近づいて来る。
「あ、やめ、くる、な! あ、あぁ!! お、おっさん!! 助け!?」
「……ごめん、無理だと思う」
「あ、あぁ!? 何言って――ぎゃあああああ!!?」
「「「――!!!」」」
ゾンビたちが殺到する。
肉を喰らう音やら骨を噛み砕く音。
お兄さんの手だけが見えていたが、ゾンビの一人がその腕を掴んで――引き千切る。
「んー! うめぇぇ!!」
「……場所変えるか」
まるで、キャンディーのようにお兄さんの腕をしゃぶる太っているゾンビ。
邪魔しては悪いからと俺は場所を移動しようとし……ん?
「きゃあああああ!? おろしてぇぇ!!! おろしてぇぇ!!?」
「「ひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!! 楽しいねぇぇぇ!! ねぇぇぇ!!!」」
「いやぁぁぁぁ!! おろして――へ?」
「「はぁい♡」」
「あああああぁぁぁぁ!!!」
白い煙のような何かが空を舞っていた。
それがミニスカの警察官の格好をした女性を建物よりも高くあげて――落とした。
視線で追っていけば――べちゃりと地面にぶつかった。
まるで、ビルの屋上からトマトを落としたかのような惨状。
視線を逸らして周りに意識を向ければ、他にも悲鳴やら怒声が聞こえてくるのが分かった。
逃げまどっている同僚たちを眺めながら道を歩いて行けば黒尽くめの老婆にキャンディーを渡された。
ルールで食べてはいけないと言われていない。
指で少し砕いてから、地面を歩いていた鼠に食べさせてみる。
すると、口にしたであろう鼠は舌を出して必死に舌を洗うようなしぐさをした。
ひぃひぃと言っているように聞こえて……ぺろっと舐める。
「……激辛だな。辛い」
「う、うぶ! ぶ、うぅ! もうだべれな、だず、助げ、でぇ!」
「……?」
「痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃぃぃぃぃ!!! いらないいらないぃぃぃ!! こんなぬいぐるみぃぃぃぃ!!!」
「「「きゃきゃきゃきゃきゃ!!」」」
キャンディーを眺めながら歩いていれば、別のスタッフを見つけた。
一人は道着のようなものを着ていて腹が風船のように膨らんでいる女性。
脂汗がひどく俺に手を伸ばして歩いて来て――目の前で破裂した。
「…………もう食べれないな」
「痛い痛い痛い痛い痛いぃぃぃぃぃぃ!!!」
べっちょりと全身に掛かった血。
ゴミ箱にキャンディーを捨ててから、ポケットを漁ればハンカチが入っていた。
顔を拭ってから、道の端っこで可愛らしいぬいぐるみたちに手足を伸ばされているバニーガールの女の人を見る。
べきべきべきやらみちみちみちと音が鳴っていて人体の不思議が如く手足がゴムのように伸びていた。
が、どんなものにも限界があり――ぶちっと千切れた。
「ああああぁぁぁぁぁぁ――――…………」
「「「きゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃ……遊ぶぅ?」」」
「結構です」
ぬいぐるみが真っ赤に目を輝かせて俺を見て来た。
俺は片手を上げて遠慮すると断りを入れた。
そうして、再びもう少し静かな場所を探しに向かう。
その間も、花火の音やら悲鳴やら叩きつけるような音が聞こえていた。
「……賑やかだなぁ」
「もし、ちょっと」
「あ、はい」
後ろから優し気な老婆の声が聞こえた。
お客様だと思って振り返り――とんでもない化け物が口を開けていた。
「――――――ッ!!!!!!!!!」
「……」
凄まじい叫び声だ。
今まで聞いたどんな音よりも迫力があり、どんなものよりも恐怖をあおる音だ。
空気が激しく振動するほどのシャウトでそれを真正面で俺は聞いて……。
「……用件は何でしょうか?」
「…………あら?」
「ん?」
「……あ、いえ、おほほ……ポッピーズダイナーは何処かしらぁ?」
「此処ですね」
「あ、どうもぉ……ふふ」
デカい化け物の頭をしたお客様は去っていく。
何故か嬉しそうだったが……まぁいいか。
#
「どこですか?」
「此処です」
「どこですか?」
「此処です」
「どこですかどこですかどこですかどこですか――」
「此処です――っと」
「「……!? 頂戴頂戴ぃぃぃ!!」」
「ダメです」
巨大な目玉をぎょろぎょろと動かしながら、かれこれ1時間ほど同じ質問するお客様。
そして、彼に場所を示していれば半透明の何かが手に持ったマップを奪おうとしてくる。
ひらひらと躱しながら、お客様への対応をし……理解したようで去っていった。
「「べぇぇぇ!!」」
「……」
半透明の何かも去っていった。
俺は周りを見て、此処も賑やかだと感じた。
アトラクションらしきジェットコースターは物理学に反する動きをしていて。
コーヒーカップのようなものは高速で回転し上下さかさまになっていたりする。
遠心力によって弾き飛ばされたお客様を一歩後退し回避。
お客様の体が建物の壁に激突して残骸が飛び散った。
ころころと頭が転がって来て、にぃっと笑う。
「頭、そこ、置いて?」
「はい」
頭を持ち上げる。
そうして、歪な形のポストの上に置く。
すると、頭だけのお客様は常識ではありえないほどに口角を上げてお礼を言ってきた。
俺は頭を下げてから、再び業務に戻る……それにしても……。
「……ふあ、あぁ……ん、んっ」
欠伸をしてしまった……ねむい。
あれから様々なお客様に対応した。
神経を逆撫でするような事を延々と言うお客様や目の前でスプラッターなショーを見せつけて来るお客様など。
耳が痛くなるほどのデカい声の人には前職で慣れているので問題ない。
スプラッターも、まぁ見て来たから特には。
マップを盗まれそうになる時は気配を感じるので躱せば済む。
何度も同じ質問をする人や嫌な事を言い続ける存在も前の職場で慣れている。
時間はそれなりに経ったと思うが、まだ閉園する気配は無い。
暇なのでランド内を歩いていた。
何処もお客様で一杯で、休めるところはないかと探し……ん?
「何だ、あの小屋?」
派手なランドには似つかわしくない薄汚れた小さな小屋。
気になったので、俺は扉まで近づき……扉を開けた。
「ひぃ!」
「……お疲れ」
「し、閉めて! 早く!」
「あ、はい……暗くない?」
「い、いいから! ひぃ!」
小屋の中に入れば先客がいた。
パンと派手な花火が上がって彼女は怯える。
そばかすに丸眼鏡を掛けていて目の下にクマがあり、腰まで伸ばしたぼさぼさの黒髪。
その装いはシスターのそれで、胸はかなりデカかった。
扉を閉めて、こんな薄暗い部屋で何をしているのかと聞く。
すると、彼女は一瞬キョトンとした顔をした。
「……え、冗談、でしょ? あ、アンタ、此処の恐ろしさを、り、理解していないの!?」
「え、あぁ……分かるよ」
「分かって、それって!? あ、あぁ……こんな仕事、受けるんじゃなかったぁ! う、うぅ!」
「……つまり、此処に隠れてるって事?」
「あ、当たり前でしょ!? 何時までこんなところに……うぷぅ!」
「バケツ取ってこようか?」
「いらないわよぉ! うぅ!」
今にも吐きそうな女性。
大変だと思いながらも、此処では休憩も出来ないからと出ていくことにした。
すると、女性は何処に行くのかと聞いて来る。
「何処って……何処か?」
「や、やめなさいよ! き、危険よ! こ、此処にいれば安全だから、ね? ね!」
「……怖いの?」
「こ、怖いわよ! 一人でなんて耐えられない、だから、此処に……うぶぅ!」
「……大変だね。じゃ」
「あ、あぁ!」
俺は扉を開けて外に出ようとした。
すると、扉の前には何かが立っていた。
見れば元は白かったであろう血まみれのマスクをつけてこれまた血まみれの作業服を着た――チェーンソーを持つ男が立っていた。
「ご用件は?」
「――フゥぅゥゥ!!!」
「ひぃ!」
男が興奮したような息を吐く。
そうして、ぶぅんと音がして――チェーンソーを振り回す。
咄嗟に後ろへと飛んで避ける。
すると、ドアを破損させた上にやたらめったらに振り回して――壁板に引っかかった。
「……逃げようか?」
「わ、わぁ!」
腰を抜かす女性の手を掴む。
そうして、無理矢理に立たせて走る。
外に出れば、お客様たちが武器を持って騒いでいた。
拳銃の音に斧を振る音。
剣同士をぶつける音に、不快な音も聞こえる。
まるで、パレードでも始まったかのように行進していたが……うわぁ。
「え? な、何で目を!?」
「……閉じてた方がいいかなぁっと思って?」
咄嗟に女性の目をマップを持った手で覆う。
パレードをしている化け物たちの武器の先端には、明らかに一緒に来た“参加者たちのパーツ”がぶっ刺さっていた。
ショッキングであり、アニメであればお茶の間には放送できないものだろう。
女性はガタガタと震えていたが、何とかパレードを超える事が出来た。
そうして、再び噴水前に戻って来て……ん?
異様な雰囲気に周りを見る。
霧が濃くて先が見えなくなっていて……音だ。
ガン、ガン、ガンと一定のリズムで何かを打ち付ける音が響く。
何かが近づいて来ていて……あぁ。
「「「――!! ――!! ――!!」」」
「なななな、何!? 何よ!?」
「……さぁ?」
槍やらさす股やらハルバードやら。
様々な武器を地面に打ち付けながら化け物たちが現れた。
何かを叫んでいるが人が理解できる言語じゃないだろう。
まるで、呪文のようで――浮遊感。
「ん?」
「――!?」
「UGYAAAAAAAA!!!」
下を見る。
すると、大きく口を開ける骨のドラゴンがいた。
女性は必死に口を押えて声を我慢していて――俺たちは食われた。
ゴロゴロと転がる。
そうして、何かに当たって止まる。
「骨のシート?」
「……!?」
目の前には安全バーらしきものが。
俺たちは咄嗟にそれにつかまり――ドラゴンが凄まじい勢いで飛ぶ。
咆哮していて、骨の一部がバラバラと砕けていく。
そうして、形が変わっていきトロッコのようになった。
骨のトロッコは空の上の線路を激走する。
凄まじい速度であり、風によって体や顔が凄まじい事になっていた。
安全バーは降りていない。
だからこそ、放せば確実に死ぬ。
そう理解しているからこそ、俺たちは必死になって安全バーを握った。
「……!?」
「あ、うん。炎だね」
トロッコは激しく回転する。
すると、目の前には激しく燃え盛る城がある。
黒い煙も立ち昇っていて、トロッコはそこに目掛けて――突っ込んだ。
レンガがバラバラと砕けて、激しい炎の熱が体にかかる。
焼けるような熱さで、皮膚に激痛が走った。
痛いと思って横を見れば、女性は歯をがっちりと噛んで耐えていた。
トロッコはそのまま反対の壁をぶち破り外に出る。
トロッコはそのまま垂直で上昇していった。
半端じゃない加速であり、風で顔が痛い。
何とか薄く目を開けて前を見れば、線路が途切れていて――また浮遊感。
「……!? ……!!!」
「あ、うん。落ちるね」
「――!!?」
トロッコはそのまま自由落下を始めて――地面が迫って来る。
ぐんぐんと速度が上がっていき、お化けのようなものが周りを飛ぶ。
けらけらと笑っていて、死ぬ死ぬと何度も連呼していた。
大丈夫かと思って横を見れば――顔色が土みたいになっていた。
「……!!!?」
「……面白いね」
小さく笑って地面を見る。
どんどん地面が迫っていって――すり抜けた。
地面の先があった。
広い洞窟のようになっている。
周りを見れば、真っ赤な体の鬼のような存在が無数にいる。
酒を飲みながら笑っていて、踊りも踊っていた。
「ハハハハ!! 飯だぁぁ!! 飯が来たぞぉぉぉ!!」
「新鮮な人間だぁぁぁぁ!!」
「大釜にぶちこめぇぇぇぇぇ!!!」
「……大釜だってさ。知ってる?」
「――!!?」
女性は歯をガチガチと鳴らしながら首を残像が見えるほど横に振る。
凄い人だと感心していれば、トロッコはらせん状の線路を走り始めた。
何処に繋がっているのかと見れば……血だまりの釜?
ぐつぐつと煮えたぎる真っ赤な血が入った大釜だ。
よく見れば、他の参加者のパーツを投げ入れていた。
他にもいろいろな具材をぶち込んでいるようで……あぁ。
「俺たちは食材って事か」
「……!!?」
女性の震えがすさまじくなった。
電動マッサージ機を超えるほどの振動に凄いと思っていれば――トロッコの速度が上がる。
どんどん加速していって、大釜に近づいていく。
近づけば近づくほどにむせ返るような血の臭いと肌を焼くような熱を感じる。
この感覚は本物だ。
ルールは守ってはいるが、アトラクションに乗っている状態であれば、もしかしたら……まぁ、そうだな。
「……別に、いいか」
「――!!?」
トロッコの底から金切り声のようなものが響く。
まるで、俺たちを嘲笑っているかのような音で。
そのままトロッコは進み――線路を超えた。
真っすぐに血の海へと進んでいる。
隣を見れば、女性が涙と鼻水と小水をぶちまけながら口を大きく開いていく。
スローモーションに感じる中で、俺は肌が焼けていく感覚を味わいながら真っすぐに――――
――――トロッコは静かに進む。
暫く進んでがたりと揺れて……止まった。
周りを見れば、ゲート前であった。
後ろには大釜の直前に繋がる窓のようなものがあったが……消えた。
「……面白かったな」
安全バーから手を離す。
そうして、トロッコから降りようとすれば……ピエロが手を差し出してきた。
「御手を♡」
「どうも」
彼の手を借りてトロッコから降りる。
地面に足をつければ彼は手を離した。
そうして、三歩下がってから優雅にお辞儀をする。
「今宵のお仕事……実に、実にぃ! 大変面白みのあるものでしたぁ! お客様方も我々も! 非常に!! ギンギラギンのバッキバキに興奮致しましたぁ! そしてそしてぇ、此方がぁ――報酬でーす」
「どうも」
派手な動きで背中に手を回したかと思えば。
急に真顔になって封筒を渡してきた。
情緒が不安定なのかと思っていれば――
「ふご!」
「……彼女は?」
「あぁ、そうですねぇ……まぁ、うん、珍しい事ですがぁ……オッケーでぇす!」
トロッコで寝ている彼女を見る。
いや、精確には寝ているというよりは気絶していた。
口を大きく開けて白目を剥いている。
涎や鼻水や涙で顔面はすさまじい事になっていて、ほのかに小水の臭いもしている。
それでも絶対に叫ぶ事は無く、手には強い力で握られたマップがある。
「ではではぁ、またまたのまたぐらの再会を願いましてぇ――ばいならぁ! ぱふぅ!」
「……服と荷物は、後……彼女は?」
「……更衣室はあっちです、はい。荷物もそこに……連れて帰って貰えます?」
「え?」
「…………チッ、はぁ」
ピエロは舌打ちしため息を零す。
そうして、ポケットから財布を出して……千円札を出してきた。
「……」
「……」
無言の圧力を感じる。
俺は千円札をジッと見つめてからゆっくりと顔を上げる。
すると、ピエロも顔を上げていた。
互いに暫く見つめ合う。
俺はまた千円札を見つめて……そっと受け取った。
「……はぁい!! ばいにゃらぁ!!」
「あ、はい」
ピエロはそのままダッシュで帰っていく。
俺は受け取った千円札をポケットに入れる。
そうして、チラリとでかでかと更衣室と書かれた看板のある建物を見つめた。
「……俺が着替えさせるのか?」
「ふがぁ!」
「……まぁいいか」
俺はトロッコへと戻る。
そうして、先ずは気絶している彼女を運ぼうとし……重い。