誰にでも出来る簡単な仕事(大嘘)   作:V3

16 / 16
16:10時間ほど共同生活するだけの仕事

 午前6時頃……知らない場所だ。

 

「……」

 

 無数の家が建っている。

 それも、全く同じ外観の家が無数にあった。

 それなりに大きな家であり、どれも二階建てだ。

 

 道路を見れば、車どころか人も通っていない。

 鳥の鳴き声も聞こえなければ、生活音の一切がしない。

 

 奇妙な街であり、映画で見たゴーストタウンに似ている。

 しかし、こんな広い敷地で全く人がいない場所なんて聞いた事が無い。

 少なくとも、日本の中でこんな場所があったとは思えなかったが……まぁ、いいか。

 

「……ふ、あぁぁ……ねむ」

 

 自然と欠伸が出た。

 今回もバイトであり、多くの参加者が来ると事前にAさんから聞いていた。

 

 他の参加者は説明を聞いてからバスで来るらしい。

 俺はAさんじゃない人の運転する車に乗ってやってきた。

 因みに、今回の仕事内容やルールも道中で説明された。

 

 今回もそれほど難しい内容じゃない。

 時間こそ、少し長く設定されはいるが。

 まぁ楽なものだと思いながら待っていれば……来たな。

 

 バスのエンジン音が聞こえて来た。

 街の入り口の方を見れば、ライトの光が見えてきて――バスが何台も入って来た。

 

 バスはそのまま俺の立つ場所を通過し、ゆっくりと停車していく。

 バスは合計で五台で……中から人が降りて来る。

 

「「「――? ――!」」」

 

 楽し気な声が聞こえる。

 バスの中で仲良くなったのか。

 まるで、テーマパークに来たかのようだった。

 

 ……拘りは……無さそうだな。

 

 若者も老人も、男も女もいる。

 外国人と思えるような人間もいた。

 共通するような点はあまりなく、まるで適当に集めて来たかのような人選だった。

 

 人数は……まぁ200から300くらいか。

 

 かなり多いと思った。

 今までの仕事から考えればかなりの大所帯だ。

 まぁ家が幾つも建っている事からそれなりの人数を用意するとは思っていたが……ん?

 

「……あれって……あ」

 

 見知った人間を見つけた。

 二人であり、彼らは俺に気づいて手を振って来た。

 正確には一人が安心したような顔で手を振り、もう一人が顔を真っ赤にして不気味な笑みを浮かべていた。

 

「せんぱーい! やはり、先輩デース!」

「マイケル? あぁ道理で……出なかった訳だ」

 

 目の前に立ったのは――マイケルだ。

 

 今朝、悪いとは思ったが連絡をしたが。

 出なかったからこそ、仕方がないと諦めてペット用のホテルにイチを預けて来た。

 一応、何かあった時の事も考えてホテルの人間には大金を渡してある。

 まさか、同じ仕事を受けていたとは思わなかった。

 俺が何で仕事を受けたのかと疑問の視線を向けていれば、マイケルは頬を掻きながら苦笑する。

 

「そ、その……実は、ミーのフレンドが……借金を作って、いなくなってしまいましてぇ……ミーは連帯保証人になっていたので、その……すぐに1000万円を用意しないといけないのデース」

「あぁ……でも、この仕事を達成しても700万じゃなかったっけ? 残りの300万は?」

「そ、それは大丈夫デース! ミーにも貯金があるので、それを足せば何とか……あぁ、す、すみませぇん! どうでもいい話を長々と……気にしないでくださぁい! ミーはノープロブレムデース! ハハ!」

「……分かった」

 

 マイケルの事情を知る。

 そうして、マイケルから今回の仕事について質問をされて……視線を感じた。

 

「ん?」

「ひぃ!」

「……? お知り合いですかぁ?」

 

 視線を向ければ、電柱に隠れる女性。

 マイケルも気づいて知り合いかと聞いてきた。

 

「あぁ……前の仕事でね。気絶したから――着替えさせた」

「What!? ききき着替えさせた!?」

「ちょ!? おぉ!? おぅぃ! なななな何言って!?」

 

 マイケルにそのまま伝えればマイケルは口をあわあわとさせる。

 そして、聞いていた女性も慌てて出て来た。

 

 その装いはまるで喪服のように感じた。

 黒尽くめであり、夏なのに肌を露出しないような長そでだ。

 暑くはないのかと一瞬思ったが、此処は何故かひんやりとしているのでそうでもないかと認識を改める。

 そんな事を考えていれば、女性は目を白黒させながら呪文のように早口で何かを言っていた……?

 

「――と、兎に角! こいつと私は何でもないから! こいつが勝手に、私を、ぬ、ぬが……ぐぎぅぅ!」

「うん、着替えさせた」

「い、言うなぁ!? クソ、クソクソクソ……も、もういいわよ。べ、別に、こんな体、幾ら見られようたって、か、価値なんてないし、ひ、ひひ」

「そ、そんな事、言わない方がいいデース! 悲しくなりまぁす!」

「そんな事分かってるわよォ!! クソがァァ!!」

「ひぃぃ! この人怖いデース!」

「……仲良いね」

 

 あっという間に打ち解けた二人。

 その時になって、改めて全員で自己紹介する事になった。

 

 マイケルの名前は知っている。

 女性の名前は知らなかったが……柳黒美(やなぎくろみ)というらしい。

 

「……一応、学校の先生、高校の……な、何よ」

「いや、何でこの仕事をしているのかって」

「そ、そんなの人の勝手でしょ! ま、まぁ……親の借金返済にすぐにお金がいるから……ぐす」

「ミーと同じような境遇ですねぇ……頑張りましょう! 柳さーん!」

「うぅぅうぅっさい!!」

「ひぃぃぃ!」

 

 マイケルは柳さんに怒鳴られて怯えていた。

 本当に仲のいいコンビだと思っていれば――スピーカーの音が鳴る。

 

《皆様、只今より土地管理者より鍵をお渡しします。速やかに受け取り、それぞれの家にお入り下さい。繰り返します――》

「「「……」」」

 

 アナウンスが流れる。

 すると、そのタイミングでじゃらじゃらという音が聞こえて来た。

 視線を道の先に向ければ、体中に無数の鍵をつけた謎の黒い覆面の大男が現れる。

 全員が異様なものを見るような目をそれに向ける。

 

 謎の鍵男はぴたりと止まる。

 そうして、手に持っていた拡声器を口に寄せた。

 

「鍵――配りまーす」

「「「……!」」」

 

 男の声だった。

 全員がハッとして男の元へと向かう。

 

 俺たちはすぐに向かう事はしなかった。

 何故ならば、鍵を受け取る前に確認すべきことがあるからだ。

 俺は二人に視線を向ける。

 そうして、事前に説明されたであろう――ナンバーを聞く。

 

「……ミーは……12番デース!」

「え? 私も12番だけど……まさか」

「……俺も12番だ……偶然とは思えないけど……まぁいいか。よろしく」

「「……」」

 

 12番というのは――チームの番号だ。

 

 今回の仕事はチームに別れて行う。

 3人1組であり、それぞれの担当する家にて――10時間、過ごす事になる。

 

 ルールは3つだ。

 1つ、時計のタイマーのカウントが10時間を終わった事を告げるまで外に出てはならない。

 2つ、それぞれに役割を決めてそれを全うしなければならない。

 3つ、鐘の音が聞こえれば、必ずそれぞれの部屋に戻りベッドに入らなければならない。

 

 以上であり、それぞれの役割が今回は重要だ。

 役割は3つある。

 

 1つ目は、“掃除をする者”。

 2つ目は、“ゴミを出しに行く者”。

 3つ目は、“買い出しに行く者”。

 

 今回は特殊なルールなようで。

 それぞれの役割についてもルールが設けられていた。

 

 掃除する者のルールは――“リビングにある異物を全て3分以内にゴミ袋に入れる事”。

 

 ゴミを出しに行く者のルールは――“ゴミ捨て場にゴミを捨てるまで決して振り返ってはならない事”。

 

 買い出しに行く者のルールは――“道を間違えない事”。

 

 細かいルールでいえば、先ず初めに合図となる音が聞こえるらしい。

 それを聞けば、掃除者以外の者は一旦部屋へと戻らなければならない。

 掃除が終了すれば、先ず初めにゴミ出しをしに行く者を呼ぶ。

 袋に纏めたゴミをその役割の人間に渡し、掃除をする者はゴミ出しに行った人間が帰って来るまでリビングで待つ。

 帰ってくれば、次に買い出しに行く者を呼ぶ。

 買いに行くものは決まっていて、部屋にメモ書きと店までの道を示す地図が置かれているらしい。

 

『もしも、それぞれの役割の中で行えなくなった者が出た場合……役割は残った人間の中の一人が請け負う事になります』

 

 失敗すれば……そういう事になる。

 

 人がいなくなった場合、それについても音で判断が出来るらしい。

 特別な音であり、必ず分かるだろうと教えられた。

 

 リスクはある。

 が、今までの経験からして複雑に考える必要はない。

 そう思いながら、俺たちは早速、家の鍵を取りに向かった――

 

 

 

「……広くて綺麗な部屋デース!」

「中々……悪くないわね。寧ろ、私の家より遥かに……うぅ」

「……ゲームもある」

 

 管理者から38番の鍵を渡された。

 道を歩いていき、表札らしきものの番号を見ていって――38番の家を見つけた。

 

 中へと入れば、広くて綺麗だった。

 無駄な家具は置いておらず、すっきりとしている。

 ソファーや机に、観葉植物、壁掛けのカレンダーもあった。

 他には大きな液晶のテレビであったり、コーヒーを入れる為の小型の機械。

 棚には本やDVD、テレビの下の引き出しを開ければゲームソフトもあった。

 二階には俺たちが寝る為のベッドが置かれた部屋が三つあった。

 

 他の部屋に繋がる扉などを開けていく。

 すると、トイレやシャワールームがある。

 洗濯機なども置いてあったが……まぁそれはどうでもいいか。

 

「……」

 

 マイケルはキッチンのある部屋で嬉しそうにはしゃいでいた

 柳さんは棚に入れられている映画のパッケージを手に取ってぶつぶつと何かを言っている。

 俺は静かにリビングに置かれている全てを記憶していった。

 

 飾られた絵画に、置かれている物。

 数や位置に、色や形など……よし。

 

 俺はしっかりと目に焼き付けた。

 これで、まぁ問題は無いだろう。

 

 ゲームをしようとすれば、柳さんがDVDを入れてしまう。

 俺は彼女の後頭部をジッと見つめる。

 すると、彼女は俺の視線に気が付いて振り返り……無言で、自分の隣にクッションを置いた。

 

「……」

「……」

 

 無言で隣に座る。

 再生ボタンを押せば……ホラー系か。

 

 彫りの深い外国人の男と明らかに高校生とは思えない体つきの女性。

 教師と生徒の禁断の恋であり、真夜中のドライブ中に車が故障して……へぇ。

 

 二人で映画を鑑賞していれば、マイケルの足音が聞こえてくる。

 

「あ! そういえばぁ……役割はどうしましょうかぁ?」

「俺が掃除をするよ。他は……決めてくれる?」

「OK! では……ミーが買い出しで、柳さぁんがゴミ捨てで出どうでしょうかぁ?」

「……………………嫌だけど、やる、わよ……うぅ」

 

 役割を決め終えた。

 マイケルは手を叩き、キッチンの方でポップコーンを見つけたと教えてくれた。

 食べるかと聞かれれば、俺よりも先に柳さんが食べると即答する。

 マイケルはニコニコと笑いながら、ポップコーンを作りに行った。

 

 冷蔵庫にあるものは基本的に勝手に使っていいらしい。

 その他も自由であり、万が一、何かを壊しても弁償はしなくていいと言っていた。

 ちらりと簡素なタイマーに目を向ければ……動いているな。

 

 時間が進んでいっているようだった。

 10時間をきっちり計っている。

 俺はカチカチと音が鳴っているのを聞きながら、俺は映画に移る男が“にやりと笑った”のを見ていた。

 

 

 

「……さて」

 

 あれから一時間ほど経った。

 すると、奇妙な音が鳴り響いた。

 鳥のような何かがケラケラと笑っているような音だ。

 柳さんはびくびくとしていたが、恐らく、これが合図であると俺は悟った。

 だからこそ、マイケルに柳さんを部屋へと連れて行くように伝える。

 

『頑張ってくださぁい! 信じていまぁす!』

「……」

 

 二人が部屋に入ったのを音で確認した。

 瞬間、タイマーの数値が変わり――3分を計り始めた。

 

 制限時間であり、まるでゲームの任務のようだ。

 そう感じながら、俺は取り敢えず、棚から出した黒いゴミ袋を広げる。

 何の変哲もないゴミ袋であり、大体のものは入るだろう。

 

 異物というのが何か分からないが……いや、あった。

 

「――――♪」

「……これだな」

 

 明らかに、先ほどまで無かった筈の人形が置いてある。

 モノクロの人形であり、目にハイライトは無い。

 虚ろな目であり笑っていて、不気味な男の人形だった。

 それが机の上に置かれている。

 カタカタと揺れながら鼻歌のようなものを歌っていた。

 俺はそれを手に取って袋の中に入れる……止まらないな。

 

「……まだ、あるのか」

 

 タイマーは進んでいる。

 つまり、まだ異物があるという事だ。

 恐らく、リビングの中で見える範囲にある筈だ。

 

 俺は探す。

 探して、探して、探して……これか。

 

 見つけた。

 今度は、カレンダーに貼られていたバッジだ。

 またしても、謎の不気味な男であり、その顔のバッジが貼られていた。

 冷静に探せばなんてことは無いのだろう。

 そう思いながら、俺はバッジをカレンダーから剥がして袋に入れる――音が鳴った。

 

《GOOD!》

「……」

 

 タイマーも止まった。

 そうして、通常の時間を刻むスタイルに戻る。

 俺は袋をきつく縛り、早速、ゴミ出しに行く担当の柳さんを呼びに行く。

 

 二階へと上がり、扉をノックする……ゆっくりと扉が開かれて行った。

 

「い、いけた……の?」

「うん。大丈夫。じゃ、お願いします」

「う、うぅ……はぃ」

 

 柳さんはゴミ袋を受け取る。

 そうして、ポケットの方を漁って……地図?

 

「……持ってたの?」

「え、あぁ……いや、部屋の中にあったから。ゴミ捨て場の位置、書いてたし。ほら」

「……本当だ」

 

 柳さんはそれだけ言って下へと降りていく。

 緊張している様子であり、怯えてもいるとも感じた。

 失敗すれば命はない。

 俺としては簡単だとは思うが……まぁいいか。

 

「……よし……よ、よし…………いや、やっぱり…………よし!」

「行かないの?」

「いいぃぃ行くわよ!? は、はぁ!? い、行くに……よぉし!」

 

 柳さんはノブに触れたり離したりを繰り返していた。

 が、一向に外に出る気配がない。

 あまり、時間を掛け過ぎてもダメなような気がするが……ん?

 

 音が止まったような気がした。

 気になって、タイマーの方に目を向ければ……止まっている?

 

 動いていない。

 完全に止まっていた。

 何故なのかは分からない。

 が、恐らくは……あぁ、そういう……。

 

「……大丈夫?」

「ひぃ! だだだだだ大丈夫に決まってぇぇ!! ……怖い」

「……まぁ自分のペースで行ったらいいよ。多分、問題なさそうだから」

「……? そ、そう? なら……」

 

 柳さんは目を閉じる。

 精神統一でも始めたのか。

 俺は彼女から離れて、ソファーに座る。

 適当に置いてあった雑誌を手に持って眺める。

 

 

 

「よ、よし! 行って来るわ!」

「うん、気を付けてね」

 

 どれくらい経ったか。

 体感にすれば……まぁ10分か。

 

 ようやく決心がついたようだった。

 彼女はしっかりとノブを握り――回した。

 

 ゆっくりと扉が開かれて行く。

 外のひんやりとした空気が中に入って来た。

 彼女はそれだけで背筋をぞくぞくとさせていた。

 

「ドアは閉めるから……振り返らないように、ね」

「う、ううううん! いいいいってきまひゅぅ!」

 

 彼女はそのまま歩いていく。

 手と足が同時に出ていてまるでロボットみたいだったが……まぁいいか。

 

 俺はドアを閉める。

 そうして、彼女が帰って来るまで暇なので……。

 

「ゲームしよう」

 

 テレビの元へと行き、下の引き出しを開ける。

 中には様々なゲームソフトが入っていた。

 俺はどれにしようかと思い――悲鳴が聞こえた。

 

「………………いや、違うな。うん」

 

 一瞬、柳さんかと思ったが。

 彼女の声はもっと野性的というか汚いというか……まぁいい。

 

 俺は“キリングレース”というデスゲーム系のレーシングゲームをとる。

 パッケージを開いてソフトを機械に入れる。

 そうして、コントローラーを持つ。

 

「……腹減ったな」

 

 先ほど、ポップコーンをたらふく食べた。

 が、腹は鳴らずとも“少し空腹”だった。

 運動もしていないのに何故なのか。

 少し疑問に思ったが……まぁ、いいか。

 

《キリングゥゥゥレェェェス!! 皆殺しぃぃぃ!! ひゃっはー!》

「……」

 

 血みどろの画面。

 それを見ながら、俺はキャラクターを選択する。

 その間も、遠くから悲鳴のようなものが聞こえる気がするが……別にいいか。

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