誰にでも出来る簡単な仕事(大嘘) 作:V3
たった一日で30万円を稼いだ日から三日後。
端末に連絡が入り、俺はまたしてもバイトを受けに来た。
上下共に青いジャージ姿であり、またしても同じビルの会議室へと案内された。
今回は前回とはまた違った人間たちで。
何故か、女性の比率が多いような気がする。
8対2くらいであり、男たちは比較的、年配の人が多い気がする。
ざっと数えて……まぁ40名というところか。
俺はゲームの攻略本を見ながら待つ。
すると、扉が開かれて……Aさんだな。
彼女は台の前に立ち、礼をしてからお決まりの挨拶をする。
ちらりと俺を見て来た気がするが、そのまま業務の説明を始めた――
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「……」
バスに揺られてやってきた場所は……病院だ。
恐らくは、閉鎖病棟の類だろうか。
前と同じように目隠しをされた状態で連れて来られたが。
前回と違って此処は街の中にある病院だった。
それなりに大きな病院であり、名前は……“白雲病院”か。
病院の中に入れば、青白い顔のおばさんが受付にいた。
彼女を無視してAさんは病院の中を進んでいく。
そうして、全員でついていけばかたく閉ざされた隔壁があった。
カードキーで開けて中へと入れば、またしても隔壁がある。
今度は指紋やらで開いて……やけに厳重だな。
全員が不安そうな顔をしていた。
が、目的の場所にはあっという間についた。
「……それでは皆様、事前にお伝えした部屋番号へと行き、業務の遂行をお願いします」
「「「……」」」
全員が黙って自らの部屋番号の扉へと向かう。
俺の担当は21番で……此処だな。
鉄の扉の前に立つ。
そうして、渡された鍵束を使って三つの鍵を開錠していく。
全てを開錠して、ノブを掴んでゆっくりと開けた。
すると、狭い部屋にはシャッターのようなものがある。
「……」
席につき、予めボタンの位置などを確認しておく。
バッグを開けて軽食やら飲み物などを蓋を開けておいておいた。
準備が整い、マイクに向かって準備が整ったと話しかけた。
瞬間、ブザーが鳴り響き、目の前のシャッターが開かれ始める。
開かれて行けば、部屋の全貌が見えてきて……いるな。
「……?」
白い空間に驚くべきほどに整った容姿の女性がいた。
黄金のような背中まで伸ばした髪に、宝石のような青い瞳。
凹凸のある体に加えて、清楚な白い衣装。
男にとっての理想。いや、俺にとっての理想的な容姿をしている。
本能がそう感じるほどには美しい容姿だった。
シャッターが展開されると同時に扉の鍵は自動で閉まる。
俺は視線を彼女の瞳に固定する。
すると、彼女も俺の対面にゆっくりと座った。
「こんにちは」
「……どうも」
鈴の鳴るような綺麗な声だった。
これも俺の理想そのものだ。
事前に聞かされていた通りの情報だ。
今回の俺の業務は簡単だ。
目の前の女性と常に会話をする事。
そして、1時間おきに彼女の部屋に薬をボタン操作で散布する事だ。
勿論、守らなければならないルールもある。
それは、絶対に彼女の言葉を肯定してはならない事。
それから、何があっても彼女に心を許してはいけない事だ。
瞬きはいいが、明確に目を逸らす行為はNGらしい。
だからこそ、部屋に入った時点でボタンの位置を確認し、手はボタンに置いておくことになる。
ルールを頭の中で確認しながら、俺は他愛のない日常の会話をし――
「お名前は何ですか?」
「……井上隆です」
「隆さんって呼んでもいいですか?」
「ダメです」
「……では、井上さんと?」
「ダメです」
「………何とお呼びすればいいですか?」
「イノッチでお願いします」
肯定しないようにとはそれなりに難しい。
そんな事を考えながらも業務を遂行していく。
彼女は自分の容姿に絶対的な自信があるんだろう。
胸を見せつけてきたり、俺を褒めたりして誘惑してくる。
が、俺は全てを否定する。
「……趣味は、何ですか?」
「ゲームです」
「わぁ! 私もゲームが大好きなんですよ!」
「……例えば?」
「えっと、マイティボイジャーとかアダムスキージャックとか。後は――」
凄い。凄まじいほどのゲーム愛だ。
ぺらぺらと語り始めて、全てが俺好みのゲームだった。
もしも、仕事以外で会っていれば親友になりたいとさえ思っただろう。
彼女は身を乗り出して、俺に対して色々と質問してくる。
俺はその質問に簡潔に答えていき――ブザーが鳴る。
薬の時間だ。
そう思っていれば、彼女は急に怯え始めた。
「いや、いや……薬は、嫌です。凄く、苦しくて、凄く、辛くて、だから」
「散布しまぁす」
俺はボタンを押して薬を散布する。
ぷしゅっと音がして青い薬が散布されて行く。
薬はあっという間に部屋の中に充満する。
すると、彼女の様子がおかしくなっていき……倒れた。
「……大丈夫ですか?」
「はぁはぁはぁはぁはぁ、助けて……お願い、私を、此処から」
「大丈夫そうですね……そういえば、最近、とんかつが美味しい店を見つけまして」
俺は気にせずトークを続ける。
彼女はその間も床に倒れていたが。
絶対に此方から目をそらさない。
薄く開いた目からは妖しい光が灯っていた。
時間は進んで……そろそろ終わりそうだな。
今回の仕事はトータルで6時間の仕事だ。
6時間ぶっ通しで喋り続けるが、飲食物の持ち込みは大丈夫だ。
飲み物を適度に飲みつつ、軽食なんかも食べていれば6時間でも問題はない。
問題があるとすれば彼女の状態だ。
最初に会った時とは違って今は傷だらけになっている。
血が出ており服もボロボロだ。
見えてはいけない部分が見えそうになっていて吐息も熱がこもっていた。
薬の散布の度に暴れたり取り乱していたが。
そのせいで体中を掻きむしったりしてボロボロだ。
心配になるレベルであるものの、仕事なので割り切って対応する。
「……イノッチさん……死んでも欲しいものはありますか?」
「うーん、どうでしょうか」
「……あるんですね。それは何ですか?」
「……まぁ、ラブクリエイトの初回限定版ソフトですかね」
ラブクリエイトの初回限定版ソフト。
それは30年前に発売された伝説のソフトだ。
たった10本しか発売されなかった上に、その内の9本は色々な理由でこの世にはもう存在しない。
残りの1本だけは確認されておらず、もしも市場に出れば軽く10億の値がつくとも言われていた。
俺が喉から手が出るほどに欲しいソフトで……彼女はゆっくりと背中に手を回す。
「私それ……持ってますよ」
「……!!」
背中から彼女が手を出す。
すると、そこには――ラブクリエイトの初回限定ソフトがあった。
それも箱付きであり、新品未開封と思えるほどに状態が良い。
本物である事はまず間違いない。
そして、あの状態であれば20億……いや、もっといくかもしれない。
俺は彼女に視線を向けながらも、視界の端でソフトを認識する。
彼女は三日月のように口を歪めて笑う。
「取引、しましょう? 私を此処から……いえ、最後の薬を散布しないだけでいいです。それで、これは貴方に差し上げます」
「どうやって渡すと?」
「簡単です……ほら」
彼女がソフトを強化ガラスに近づける。
すると、ソフトだけがガラスをすり抜けて来た。
すぐ近くに死ぬほど欲しかったお宝がある。
それだけで興奮しそうになる。
が、すぐに彼女はソフトを引っ込めた。
「ね? 約束は守ります。大丈夫ですよ。たった一回だけです。一回だけなら、ね?」
「……」
俺はごくりと喉を鳴らす。
たった一回で10億以上の価値があるお宝が手に入る。
素晴らしい提案で……ブザーが鳴った。
彼女は目を細めて笑みを深める。
「さぁ手を離して? 気持ちを落ち着けて、そのまま何もせず」
「散布しまぁす」
「……は?」
ボタンをかちりと押す。
瞬間、再び薬が散布されて行った。
彼女は初めて驚いたような顔を見せて来た。
すると、別のブザーが鳴り響き強化ガラス前にシャッターが下りて来た。
時間であり、俺はようやく帰れると考えて――バンと彼女が強化ガラスを叩く。
「何故? 何故? 何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故……何でなの?」
「何でってそれはぁ……仕事だからですよ?」
「仕事? 仕事なら何でも言うとおりにするの?」
「契約したのならまぁ……それが?」
俺は当たり前だろうと彼女に言う。
すると、彼女は端正な顔を歪めて笑う……怖い。
「面白い。面白いですね、貴方……気に入りました」
「へぇ」
「また、来てください。ずっとずっと……待っています」
「嫌です」
「ふ、ふふ、ふふふふふ」
彼女は目をかっぴらいて俺を見つめていた。
俺は飲み物を飲みながらそんな彼女を見つめて……シャッターが完全に降りた。
瞬間、扉のロックが解除された。
俺は席から立ち上がって荷物をバッグに入れる。
そうして、部屋から外に出て……ん?
「お疲れさまです。今回の報酬です」
「……他の方々は……あ、いや、いいです。ありがとうございます」
またしても俺だけだ。
先に帰ったのか、それとも……まぁいいか。
今回もそれなりに分厚い封筒だ。
20万はかたいだろうが……ん?
封筒を見つめていれば、Aさんが別の封筒を渡して来る。
「……これはお願いなのですが……もしも、此方から緊急で仕事の依頼をした時に、必ず受けてはもらえませんか?」
「……この封筒は?」
「契約料のようなものです。勿論、その依頼が終わった後もお支払いは致します……どうですか?」
「受けます」
俺は封筒を受け取る。
臨時収入であり、これでもっとソフトが買える。
俺は笑みを浮かべながら、やはりこの仕事は天職だと思って――
『また、お話ししましょう♡』
「……ん?」
「……? どうかされましたか?」
「……いえ、何でもありません」
頭の中で囁くような甘い声。
脳がとろけそうな声で……まぁいいか。