朝の5時に連絡が来て……仕事だ。
何時ものビルで説明を受けて。
青を基調とした作業服に着替えた。
そして、バスに乗り込んで2時間ほど掛けて移動したか思えば……立派な洋館の前に立っていた。
「「「……っ」」」
「……?」
「――♪」
周りは何故か霧が出ている。
民家らしきものはなく、平地に立派な洋館が一つ立っていた。
ツタのようなものが壁中に伸びている。
門の先には庭があり、噴水もあって中々に豪華だった。
集められたのは30人の若者たちで……妙に肌が白くて線の細い男女が多いな。
怯えているのは恐らく、場の雰囲気がお化け屋敷のように感じるからか。
恐怖を感じているのなら、慎重な性格の人間が多いという事か……まぁいい。
チラリと見れば……ルミ先輩がいる。
何時ものようにイヤホンを挿して音楽を聴いていた。
楽しそうであり――目が合う。
彼女は目を細めて笑う。
俺は小さく頭を下げた。
「……時間となりました。それでは、皆さま――業務を開始してください」
「「「はい」」」
全員が道具を持って洋館の中へと入っていく。
扉は開け放たれていて中へ入ると……おぉ。
「す、すご」
「はぁ……どんな人が此処に?」
全員がきょろきょろと周りを見ていた。
入った瞬間に広さは実感できたが。
それ以上に内装に拘っていて、ところどころに黄金で出来たものが散りばめられていた。
黄金の壺に、黄金のオブジェ。
黄金の柱や黄金の階段に……何だ、アレ?
視線を向けた先。
中心に立っているのは……黄金の像だ。
それもやけにリアルな像だった。
天へと手を伸ばして、破顔したかのように緩み切った表情の男。
涙や涎を流しているようであり、涙の粒ですらも細かく作られていた。
それどころか服の傷やら汚れらしきものも……まぁいいか。
俺がマジマジと像を見ていれば肩を叩かれた。
振り返れば――指で頬を突かれた。
「……何でしょうか?」
「ふふ……どう? 気に入った?」
「……これですか? ……まぁ……良い出来ですね」
「ふふ、そうだねぇ。良い瞬間に出来たって、喜んでたんじゃないかなぁ……なんてね! あはは」
先輩は笑っていた。
そうして、片手を上げて今回も頑張ろうと言って……行ってしまった。
気づけば、もう誰もいない。
全員が仕事に向かったようで……俺も行こう。
俺は道具を……“特殊な掃除機”を持って移動を始めた。
#
「……」
黙々と掃除機で――虫を吸い取っていく。
普通の虫ではない。
明らかに、異様な見た目をした虫たちだ。
ベースとなったものは分かるが、人間のような特徴も持っている。
羽の部分が人の目のようになった蝶々や大きなムカデかと思えば足が人間の指であったり。
今度は大きな蜘蛛かと思えば人の口を開いたかのような異様なフォルムをしていたり……まぁいいか。
今回の仕事は――“害虫駆除”だ。
薬を使ったり、専門の知識を必要としない。
ただ、この特別製の掃除機を背負って虫を吸い取るだけだ。
どんなに大きな虫であろうとも、この掃除機であれば吸い込める……らしい。
ルールも勿論ある。
1つ、業務終了まで屋敷から出てはならない。
2つ、虫に噛まれた場合は30分以内に解毒剤を打ちこまなければならない。
3つ、黄金に触れてはならない。
4つ、業務時間が終了するまでに合計で500匹以上の虫を吸わなければならない。
「……」
腕時計を確認する。
仕事が始まって……およそ1時間ほどか。
吸い込んだ虫の数は……136匹だ。
業務が終了するまでの時間は残り3時間ほどだ。
この調子でいけば……まぁ問題はないだろう。
腰につけた解毒剤を確認しておく……ちゃんとあるな。
最初に渡された解毒剤の数は2つ。
つまり、2回までは虫に噛まれても安全だ。
普段の仕事と違ってそれなりに安心感はある。
今日は全員が達成できるんじゃないかと思って――カサカサという音を聞いた。
「ん?」
足を止める。
そうして、薄暗い廊下の奥を胸のライトで照らす。
黄金の壺やら甲冑が置かれているが何も無い。
両開きの扉があるだけで――地面が少し揺れていた。
「……」
俺は扉へとライトを向ける。
何かの気配を感じる。
音がどんどんハッキリと聞こえるようになって――俺はダッシュで道を引き返した。
瞬間――扉をぶち破ってゴキブリのような化け物が大量に這い出て来た。
「「「――――」」」
「……」
ライトを無理矢理に後方へ向けて照らす。
すると、真っ黒く変色した舌のようになった体のゴキブリたちだ。
その大きさは10センチほどある。
それが群れを成していて――バック走行に切り替える。
スイッチをオンにして、掃除機を前に向けた。
瞬間、バキュームの音が鳴り響き――飛び掛かって来た虫を吸い込んでいく。
「「「――――!!!」」」
「……」
激しく目と手を動かす。
虫たちは俺の隙を狙って来ようとする。
それに対処しながら、俺はバック走行を続けて――横に飛ぶ。
「いててててて」
そこは階段だ。
俺は階段を転がりながら降りていく。
壁に体を打ち付けて止まり視線を上げれば――虫たちがもぞもぞと動いていた。
「やべ」
俺はすぐに立ち上がる。
瞬間、虫たちはまた俺を追い掛けて来た。
再びバック走行で掃除機を動かしながら逃げる。
一匹、また一匹と吸っていき――何かが横の扉を開けて飛び出してきた。
「やぁ!」
「どうも」
見ればルミ先輩だった。
助けに来てくれたのかと思えば――今度は蛾のようなものの大群が扉から出て来た。
数が増えてしまった。
俺たちはバック走行をしながら、互いにカバーしあう。
ノルマ達成には近づいているが、このままでは――いや、いける。
最初に渡された屋敷内の見取り図。
そこに書かれていたものを思い出せば、この廊下の先に地下へと降りる為のエレベーターがあった筈だ。
そこに入って地下へと行けば、この危機からは脱する事が出来る。
しかし、すぐそこまで迫っている虫の注意を逸らす方法は――
「井上君! もしかして、エレベーターかな?」
「はい」
「はは! やっぱり――僕を信じてくれる?」
「はい」
ルミ先輩は俺の言葉を受けて嬉しそうに笑った。
そうして、俺に対してエレベーターへとダッシュで向かうように言ってきた。
俺はそれを信じて前に向き直って走る。
瞬間、背後から虫が迫る音が聞こえてきたが――ルミ先輩がカバーに入ってくれた。
俺は全力で走る――あった。
地下へと繋がるエレベーターだ。
俺はすぐにボタンを押す。
すると、エレベーターの扉はすぐに開く。
先輩を見れば――解毒剤の一つを掴む。
「あげるよぉ!!」
「「「――――!!!」」」
先輩が解毒剤を虫たちの方へと投げた。
瞬間、虫たちは動きを止めて解毒剤に群がる。
その羽音は興奮しているように高まって――先輩がエレベーター内に入る。
俺はすぐに閉じるボタンと地下へのボタンを押す。
扉が閉じられていく中で、虫たちが迫って来る音が聞こえる。
俺とルミ先輩はエレベーターの隙間に掃除機を構える。
そうして、吸い込みを開始して――虫たちが押し寄せて来た。
ギリギリであり、中に何匹かが入ってきそうになった。
が、何とか虫を吸い込んでいき――扉が閉まる。
エレベーターはすぐに地下へと移動を始めた。
気づけば、全身が汗に塗れていた。
俺はホッと胸を撫でおろして先輩を見て……あ。
「……つぅ! はは……ドジっちゃったね」
「……」
一匹の虫が先輩の腕に噛みついていた。
先輩はすぐに叩き落として掃除機で吸い込む。
虫は簡単に吸われて、先輩はすぐに腕を捲った。
すると、そこには噛まれた跡があり僅かに血が滲んでいた。
先輩はすぐに解毒剤を使おうとした。
が、俺はそれよりも早く先輩の腕に解毒剤を打ちこんだ。
先輩は少し驚いたような顔をしていた。
「……っ! ……貸し一ってことかな? ふふ」
「ん? いや、さっき助けて貰ったので……はい」
「……やっぱり、井上君って面白い子だね!」
「はぁ……どうも」
俺は空になった解毒剤をポケットに仕舞う。
そうして、掃除機をしっかりと持ち――チンとエレベーターから音が鳴った。
「「……」」
ゆっくりと開かれた扉。
俺たちはそぉっと外に出る。
そうして、周囲をライトで照らしながら確認する……暗いな。
ぽちゃぽちゃと水の滴る音が聞こえる。
じめじめとしていて、少しかび臭かった。
布で覆われた何かが積まれているが……まぁいいか。
俺たちは警戒しながら進む。
先ほどのでかなり虫は吸い込めたが……まだ必要だ。
「……此処にも黄金がありますね」
「うん。そういう場所だからね……ふふ」
「……?」
そういう場所……どういう意味だ?
奇妙な虫が多く徘徊している洋館。
そして、これみよがしに置かれている黄金の造形物。
此処に置かれているのは人を模した像ばかりだ。
手を伸ばしているものが多い。
何かを持っていたようなものまである。
どれもこれもが泣いて喜んでいるようで……ん?
足を止める。
すると、何処かで見たような顔の像を見つけた。
「……」
「ん? どうかした?」
先輩が声を掛けて来る。
俺はライトで像の一つを照らしながらジッと見つめて……参加者の一人か?
こんな顔をしていた人間がいた気がする。
が、似たような顔の人間が多かったからこそ断言はできない。
何故、そんな人間の像が置かれているのか……まぁいいか。
俺は先輩に謝り、また歩みを再開した。
歩いて、歩いて、歩いて……すすり泣く女の声が聞こえた。
「……あっちですね」
「んー?」
俺は声のする方に向かう。
先輩は怪訝な顔をしていたが……。
荷物を避けながら進んでいく。
すると、すぐに泣いている女性を発見した。
「ひぃ!」
俺のライトに照らされて怯える女性。
その背には掃除機が背負われていて……参加者か。
周りを調べるが虫はいなさそうだった。
俺は邪魔をした事を詫びて、すぐに先輩と共にこの場を離れようとし――
「ま、待って!」
「……何でしょうか?」
「……」
女性が呼び止めて来た。
俺は振り返り用件を尋ねる。
すると、女性は頑張って笑みを浮かべながら片手を差し出してきた。
「げ、解毒薬……1つ、譲って……くれ、ませんか?」
「……何故?」
「……」
俺が何故かと尋ねれば、女性は自らの足に被せていた布を取る。
足には噛まれた跡。そして――足が変異していた。
バッタの足のようになっている。
最早、人としての足の原型が無くなりつつある。
彼女は涙と鼻水を垂らしながら、必死に笑みを浮かべる。
そうして、その場で土下座して必死に懇願して来た。
「お願い、します……お願い、しま、す……死にたく、ない」
「――どうぞ」
「……井上君?」
俺は最後の解毒剤を女性に渡す。
すると、彼女はがばりと顔を上げて両手で解毒剤を受け取った。
何度もお礼を言いながら解毒剤を注入する。
「じゃ」
「あ、ありがとう、ございます! う、ぅぅ」
俺はそのままその場を去る。
さっさとノルマを達成しておきたい。
そう思いながら進み……先輩が声を掛けて来た。
「何か?」
「……何で、渡したの?」
「何で……いや、欲しいって言ってたので……人として普通の事、ですよね? 多分」
「……普通、か……うん、そうだね! それが当たり前だね! やるじゃん! うりうりぃ!」
先輩はにかっと笑って俺の頬を突いて来る。
俺は何の事かと思いながら、虫の音が聞こえた方へと向かい――
#
「……」
「ふぅ……よっし!」
虫の吸い込み作業を続けて……残り時間は40分ほどか。
計測器を見れば、もう少しで500だった。
先輩の方は今ので500に到達したらしい。
前半は虫の数も多かったが。
後半は虫があまり出て来なくなった。
他の参加者が吸い尽くしたのかと思ったが……誰とも会わなかったな。
掃除機や作業服の残骸が転がってはいた。
が、近くには異様に大きな虫の化け物が立っているだけだった。
人の声のようなものを発していたが……どうでもいいか。
「井上君はあと、どれだけ?」
「……後は……10匹ですね」
「そっか……なら、大丈夫そうだね! ほら!」
先輩が扉を開けた。
すると、部屋の中からかさかさという虫の音が聞こえて来た。
中に入って確認すれば……いるな。
「「「――あああぁあああぁ」」」
人の言葉を発する虫たち。
壁に張り付いていて不気味な鳴き声を上げていた。
ベースは蝉だろうが、人の体を無理矢理に変えたような見た目をしている。
肌色であり、近くには掃除機や作業服の残骸が散らばっていた。
「1、2、3……あぁ惜しい! 1匹足りないね!」
「まぁ、はい」
俺は掃除機を向ける。
そうして、吸い込もうとして――虫たちが泣き叫ぶ。
「「「助けてぇぇぇぇ助けてぇぇぇぇぇ俺は人間だぁぁぁぁぁ!!!!」」」
「……」
虫たちは口々に叫ぶ。
そうして、部屋中を飛び回り始めた。
人間の記憶らしきものを語っていて、親や祖父母の話をし始める。
もっと生きたい、もっと遊びたい。
もっとやりたい事がある。
口々に叫んでいて――俺は掃除機をつけた。
「「「あああああぁぁぁぁ!!!」」」
「……」
ゴゴゴと音がしてどんどん蝉の化け物たちを吸い込んでいく。
一体、また一体と吸い込んでいけば、それらは俺を呪うと言い始めた。
一生呪い、絶対に許さないと叫んでいて……終わった。
部屋の中はゴミが散らばっていた。
本棚から本がばらまかれていて、これを片付けるのは大変だと思って……ぎぃっと扉が開く音がした。
振り返る。
すると、そこには――半分がバッタになったあの女性が立っていた。
「お、お願い、します……薬を……もっと、もっと……下、さい、おねが、い」
「井上君……どうする?」
「……」
ルミ先輩は俺の隣に立ち尋ねて来る。
先輩にはまだ一本だけ解毒剤が残っていた。
女性にもそれが見えたようで、泣きながら必死に手を伸ばしてきた。
これで助かる、やっと家に帰れる、そう言っていて――俺は掃除機をオンにした。
「え? あ、あああ――あああぁぁぁぁ!!!!」
「……」
俺は無言で女性に掃除機を向け続ける。
彼女は床に腕を差して必死に耐えていた。
俺はゆっくりと彼女に近づいて、吸い込みを続ける。
「何で!!? 何で何で何で何で!!! 私は虫じゃない!!! 私は人!!! 人間だからぁぁ!!」
「……」
彼女は必死に助けを求めていた。
が、俺はそれを無視して吸い込みを続ける。
次第に彼女の腕が床から放れていき――すぽっと抜けた。
彼女は泣き叫びながら掃除機の先端に当たる。
体が吸い込まれれれば、ミチミチという嫌な音が聞こえて来た。
女性は痛いと泣き叫んでいたが、俺はそれを無視する。
そうして、その大きな体が段々と吸い込まれていき――彼女がぎろっと俺を睨んできた。
彼女が俺の腕を掴む。
そうして、ビキビキと首を無理矢理に伸ばして――手に噛みついてきた。
「――いて」
ぶしゅりと血が噴き出す。
一瞬の油断であり、明らかなミスだった。
彼女はにやりと笑った。
そうして、その顔は完全に化け物に変わって――呪いを吐く。
「ざまぁ、み――――…………」
吸い込みが終わる。
女性は完全に掃除機の中に吸い込まれた。
カウントを見れば、500になっている。
しかし、残り時間を確認すれば……ダメだな。
間に合わない。
タイムオーバーであり……ゲームは終わりだ。
掃除機を切る。
そうして、ゆっくりと手を下げた。
「ふぅ……先輩」
「ん? 何かな?」
先輩に視線を向ける。
先輩はニコニコして俺を見つめている。
が、その目には妖しい光が見えた。
俺はそんな先輩を見つめて――
「――お疲れ様です。じゃ」
俺はそのまま部屋から出て行く。
残された時間は少ない。
薬さえあればどうにかなるが、そんな都合よく解毒薬が転がっている筈がない。
ゲームオーバーは確かだ。
だからこそ、悔いが残らないように……あぁ……いや……。
「……ゲーム無いし……やる事ないな」
俺はぼそりと呟く。
そうして、欠伸をして――袖を掴まれた。
振り返る。
すると、先輩が立っていた……何か嬉しそうだな。
「ねぇ、何でさ……これ、奪わないの? 必要、だよね?」
「え、あぁ……はい」
「じゃあさ。奪ったらいいじゃん! ほら、簡単だよ! こんなに近くにいるんだよ? 僕くらいなら、井上君だって簡単に抑え込めると思うよ? ほらほら、ほぉら♡」
先輩はふりふりと腰を振る。
まるで、奪えと誘っているようで――
「いや、しませんよ?」
「……何で?」
「何でって――人から物を奪うのは犯罪じゃないですか」
「……それも、当たり前だから?」
「え、まぁ……はい。ルールは絶対ですし、法律だって……普通じゃないんですか?」
正直、先輩の言葉が理解できなかった。
法律に反することはしてはいけない。
それが仕事であり、明確に許しが出ているのなら別だが……。
そもそも、そういう契約も結んでいないのであれば進んでやる事でもない。
この件に関しては奪ってもいいという許し何て出ていない。
だからこそ、普通の考えで動くのが――“当たり前じゃないのか”。
「――」
先輩は目を大きく開いて黙っていた。
俺はそっと先輩の指を外す。
そうして、そのまま適当に歩き去ろうとして――首に何かが刺さる。
「……え?」
見れば、解毒薬が注入されていた。
先輩が刺していて、振り返れば――先輩が笑っていた。
「――あはぁ♡」
三日月のように口を歪めて、その頬は赤らんでいる。
熱の籠った視線であり、色を感じるというよりは――ひどく狂気的に見えた。
「やっぱり――君は、最高だね!」
「……どうも」
先輩はその場で踊り出す。
仕事中であり、まだ虫は潜んでいるかもしれない。
それなのに、無警戒で歌いながら踊っていた。
まるで、踊りたいほどに興奮しているようだった。
先輩はずっと歌って踊っていた。
俺はその場で座って見つめて――アラームが鳴る。
「……先輩」
「――あ! ご、ごめんね! 私、嬉しくなるとつい、踊っちゃうんだ! ふ、ふふ」
先輩は笑う。
その頬には薄っすらと汗が伝っていた。
先ほどまでの狂気に満ちた笑みじゃない。
人としての純粋な笑みだった。
先輩は前を歩いていき、俺は立ち上がってそんな彼女を追っていく。
暫く歩いて行けば――彼女は足を止めた。
「井上君……今日も、楽しかった?」
「……はい」
俺は素直に答えた。
すると、先輩も楽しかったと言って――此方に視線を向けて来た。
「これからも、楽しい事をさ! たぁぁくさん――しようね♡」
「……あぁ……まぁ……はい」
どういう意味なのかと一瞬考えた。
が、まぁ肯定すればいいかと返事をする。
先輩は鼻歌を歌いながら再び進み始めた……まぁいいか。