作業工程を進めていく。
洗浄の次は、カッティングで台に載せてボタンを押せば開始された。
泣き叫びながら作物が中に入り、回転する刃が出現し――手足のようなものを切断していく。
「ギィィィヤァァァァ!!!!」
「「「……っ」」」
尋常じゃない量の赤い液体が噴き出す。
叫び方が人間そのもので、周りで見ていた学生たちが口元を抑えて……吐いてる人もいた。
背中に無数の視線を感じる。
無言で止めろと圧を掛けてきている。
が、俺はそれを無視して作業を見守る。
ものの数分で作業は終わった。
手足は綺麗に切断されて達磨のようになっていた。
しっかりと両手で持てば固定が外れて――妙な感じがした。
心がどっと疲れる感覚。
書籍や知り合いの病院の先生に教えてもらった事がある……あぁ、鬱状態か。
希死念慮に近い考えが浮かんでくる。
恐らくは、この作物による作用だろう。
顔を見ればにんまりと笑っていた。
俺は作物を皆に見せながら説明する。
「えっと……この状態までしたら、この作物の力か何かで……希死念慮のようなものが発生します。恐らく、数を熟せばもっと悪化するかもしれませんが。仕事が終わるまで耐えたら綺麗になくなるので……交代制にして、作業をしましょうか……はい」
「そ、それ……呪いとかじゃ?」
「い、嫌だよ。そ、そんなの、絶対……っ」
学生たちは頭を抱えていた。
スピリチュアルな事を想像しやすい年頃だ。
こういう理解できない現象を恐れやすいとも言えるが……まぁいいか。
「何かしらの仕事はしてください。何もしなかった場合の責任を私は持てませんので……はい。次にいきまぁす」
「「「……っ」」」
焼きの機械の前に立つ。
すっかり大人しくなったそれを台に載せた。
そうして、金具に固定されて運ばれて――ブザーが鳴り響く。
何が始まるのかと見ていれば、機械の中が真っ赤になり――絶叫。
凄まじい苦しみを訴える叫びだった。
鼓膜が震えて脳に直接感情が流れ込んでくる。
強い吐き気を覚えるそれは、確かに呪いのように感じる。
バタバタと倒れる音が聞こえて見れば……失神した?
「……」
やっぱり耐性が低いのか……何とかするか。
焼きの工程を見守っていれば、元は白かった作物の表面に黒い模様のようなものが浮かび上がる。
まるで、焼け焦げたような跡で……終わったな。
作業はこれで完了した。
表面がひどい火傷状態のように真っ赤になっている作物が出て来る。
最早、虫の息であり、俺はそれを掴んで出荷ゾーンへと向かう。
「……最後に此処において……完了だと思います……ん?」
作物を白線の中に置く。
すると、壁の魔方陣が赤く光った気がした。
俺は学生たちにさがるように伝える。
彼らは二歩も三歩もさがり――ぬるりとそれは出て来た。
『――』
大きな真っ白な蛇の頭。
巨大であり、体があれば恐らくは家すらも飲み込めるほどにデカいんだろう。
目は真っ赤であり、舌を出しながら頭だけを出していた。
俺をジッと見て来たかと思えば、長い舌で作物を巻き取り――飲み込んだ。
『――足りない――もっと――捧げよ――』
「はい」
蛇のお客様に返事をする。
どうやら一度現れたら姿は消さないらしい。
ジッと俺を見つめていて、俺はお客様に背を向けてから全員にこれから行う事を説明する。
今いる人数をざっと数えて……俺を含めて40人ほどか。
先ず、機械の操作をする人間を6人に定める。
次の機械や出荷ゾーンへと置く係は6人だ。
6人配置するのは交代制にする為だ。
俺はどうでもいいが、慣れていない間は精神的負担も大きいだろう。
だからこそ、ボタンを押す係は1回ごとに交代する事で負担も軽減できるだろう。
流れで運ぶ係については、焼きの機械に移るまでの運搬は4人交代制にする。
後は、作物を収穫する人間を残りの人間に任せる事にする。
此処には俺も加わって、その都度で問題が発生したら対処する。
時間があまり掛けられないからこそ、最初に希望を聞いておく。
もしも、何もなけれれば此方で勝手に決めると言っておいた。
そうして、挙手を呼び掛けて……じゃんけんだな。
ほとんどがボタンや運びの工程をしたくないらしい。
ジャンケンになり、暫く見守って……決まったな。
「くそ……なぁ!? か、代わってくれないか? お、俺、あんな事」
「い、嫌だよ!? 俺だって、あんな……わ、悪いけど」
「う、うぅ」
「はい。では、始めていきます……その前に」
俺は失神している人間の傍に行く。
倒れているのは3人の女の子で……確か……此処か?
かつて、鬼瓦部長に何度も突かれた部位。
意識を失っても、強制的に復活させるツボのようでそうでもない肉体の謎。
昔、バトル漫画で読んだ技のようなもので――腹の近くの部位をぶすりと押し込む。
「ひぎぃぃぃぃぃい!?」
まるで、電流でも走ったかのように手足をピンと伸ばす女学生。
復活したようであり、他の女生徒にもそれをしていき……よし。
がばりと起き上がり、歯をガチガチと鳴らして周りを見る女学生たち。
俺は手短に、3人にはこれから作物の収穫に回って貰う事を頼んだ。
3人は目を瞬かせていて――不満の声が聞こえて来た。
「な、何でさ!? そいつらは自動的に楽な方になんだよ!? 不公平だろう!?」
「そ、そうよ! おかしいじゃない!?」
彼らは3人を罵る。
それは確かにそうだが、効率の観点から言えば全く違う。
「君たちは耐えられて、この子たちは耐えられなかった……明らかに適性の無い人間をその場所に配置する意味があるの?」
「「「……ぅ」」」
不満を言っていた人間たちは黙る。
どんな職場であろうとも、最初に適性を見る。
適性が全くない仕事をさせても効率が悪くなるだけだ。
人数が足りていないという事情があればそうも言ってられないが。
少なくとも、此処には十分すぎる人数がいる。
彼らはそれなら俺が全てのボタンを担当すればいいと言うが……何で?
「そうなったら……明らかに、君たちが作物を長時間持つ事になるよ? 俺は一人で、どんなにテンポよくしても限界はあるし……少なくとも、不測の事態が起きた時にすぐに対応も出来ないけど……それでもいいならするけど?」
「ぅ、そ、それは」
「そ、そもそも! アンタもしかしてあっち側の人間じゃ」
「――もうやめない? 明らかに今の時間は作業じゃないよ?」
「「「……っ!」」」
監視カメラを見る。
ずっとこちらを伺っているが一向に咎めるような事を言ってこない。
それは許されている訳じゃない。
完全に泳がせているだけでしかない。
あのCさんは善意で指摘するような人間ではない。
確実に、泳がせて失敗をさせて後で笑うようなタイプだろう。
俺は手を叩く。
そうして、すぐに仕事に取り掛かる。
何名かは慌てて俺の後をついてくる。
これ以上は何も言えないと思っていれば……動き出したな。
恐らく、待っていても何も解決しないと理解したんだろう。
時間を無駄にすればするほどに事態は深刻になっていく。
だからこそ、今やるべき事をやる……それでいい。
考える必要なんてない。
ただルールに従って仕事をするだけでいい。
それで全ては問題なく出来るんだからな。
#
作業は進む。
思った以上に遅くとも、着実に熟していって――悲鳴が上がる。
「何これ!? なにこれぇ!!? 全身に虫が這ってるみたいにぃぃ!?」
「落ち着いて。虫はいない。それはただ体が誤認しているだけだから」
「でででででもぉ!?」
「しっかりと握って、慌てなくていいから。機械までちゃんと持ってね」
「ははは、はぁ、はぃぃ」
女生徒は歯をガチガチとさせながら慎重に動いていく。
すると、他からも悲鳴が聞こえた。
見れば、男子学生の手に握る作物からぬめぬめとした液体が出ていた。
「こここここれ何ですか!? ひぃぃぃ!!」
「あぁ……うん。大丈夫……滑りやすくなってるから、指を喰い込ませるくらい握った方が良いよ」
「こ、こうで」
「ひぎぃぃぃぃぃ!!!」
「ひぃぃぃぃ!? ちちち血がぁぁぁ!!?」
爪を喰い込ませた事で作物から赤い液体が少し出た。
男子学生は明らかに取り乱していて、手をそのまま緩めようとし――俺が彼の手の上から手を挟んだ。
「慌てないで、これは血じゃない。ただの赤い色の液体……しっかりと掴んでね」
「は、は、はぁ、ぃ」
男子学生は過呼吸になりかけながらも作物を運んでいく。
俺はそのまま、作物を抜こうとし――抜けた。
「……? 真っ黒な……一つ目と口……あぁ、これか」
「――」
作物を抜けば、明らかに真っ黒なものが出て来た。
赤い血管のようなものが浮かんでいて、大きな一つ目に大きな口があった。
完全に紛い物っぽい見た目をしていた。
周りの学生たちが俺の事を見ていた……。
「これが紛い物だと思います……抜けたら教えてください」
「「「は、はい」」」
俺はそのまま不思議な作物を持って粉砕機の方へ――声が聞こえた。
『手を離してください。私を自由にしてください』
「……」
脳内に直接響く声。
どうやら、この紛い物が語り掛けているようだった。
俺はそれを無視して粉砕機の方まで歩いていく。
『こんな事に意味はありません。八咫烏が行っている事に意味などない』
「……」
『私利私欲。利益の為だけに貴方たちを使っているのです』
「…………」
作物は永遠と語りかけて来る。
八咫烏は国家の利益の為だけに国民の命を捧げていると。
彼らは裏で人道に反する行いを繰り返していると。
この作物も元は人間であり、穢れを取り込んだ事によって真理に触れたと語る。
『私には理性があります。そして、貴方が私を助けてくれれば私も貴方を助けます』
「……」
『知りたくはありませんか? 八咫烏が……企業としてではなく、先祖の願いとして掲げている真の目的が?』
「…………」
作物はしきりに語り掛けて来る。
八咫烏というものの真の目的とやらを教えると……俺は粉砕機の中に紛い物を置いた。
『何をしているのですか? 私の言葉が理解できませんか? 今すぐに私を此処から出しなさい』
「……」
『何をしている。何を……私を見ろ。私の言葉を聞け。私は全て知っている。私は下等な人間を超越した』
「…………」
『聞け! 質問しろ!! 全てを答えてやろう!! 私ならばお前の疑問を全て』
「スタート」
『は? ちょおま――あああぁぁぁ!?』
ボタンを押した。
瞬間、ガラスケースが閉じられた。
ミキサーのような機械の上部が動き出す。
作物が何かを言っているが俺はレバーを握ってかたいそれを下ろしていった。
『やめろぉぉぉぉぉぉ!!! 私を殺すのかぁぁぁぁ!!!』
「……」
『ひぃぃ!! 嫌だぁ!! 嫌だぁぁぁ!!! 私は、私は、こんなところでぇぇぇ!!!』
「…………」
『何か言えぇぇぇ!!! その間抜け面をやめろぉぉぉぉ!!!』
作物がずっと喚いている。
その間もレバーをゆっくりと下げれば、作物の上まで粉砕機の上部が迫り――押しつぶしていく。
ミチミチと音がして、作物が悲鳴を上げる。
必死に痛みを訴えてきて、白い涙を流しながら叫んできた。
『何故だぁぁぁぁ!!! 何故ぇぇぇぇ!!! 知識が!!!! 願いは無いのかぁぁぁ!!!』
「……かった……ふっ、ふっ」
『ぐぎぃ!? うぎぃ!? や、やべろぉ!!』
「もっと力入れないといけないのか……ふん」
俺は体重をかけてレバーを下げる。
すると、更にミチミチとかべきべきという音が響く。
紛い物の入ったガラスケースは白い液体が溜まっていく。
どんどんと機械の上部が下へといけば、紛い物の声も小さくなっていく。
俺は最後に力を込めてレバーをさげて――ガコンと音がした。
『……ぁ……ぃ……ぇ……』
「……」
『…………ぅ…………』
「…………よし」
声が完全に聞こえなくなったのを確認した。
俺はレバーから手を離す。
瞬間、機械の上部は元の位置に戻っていき、ガラスケースの中身はどんどん消えて行った。
まるで、排水溝に流し捨てるような音が響き……無くなった。
「……?」
「「「……」」」
振り返る。
すると、全員が俺の事を見ていた。
先ほどの声が聞こえていたかと尋ねれば、全員が無言で頷いた……そうか。
「……今みたいに色々と喋りますが無視してください……はい」
「「「……っ」」」
全員がさっと視線を外して再び動き出す。
俺はそれを見てから、土のエリアに戻った。
見れば、何人かがさきほどのような紛い物を手にしている。
……声が聞こえないな。
「ほ、本当に!? い、いや、信じられないし……嘘!? 何で分かって!?」
「……何て言ってる?」
「え? あ、あの…………つ、次の、た、宝くじで1等の番号を教えるって……へ、へへ」
「無視してください」
「で、でも! 此処から出してくれるって!」
彼の目には希望の光が見える。
が、その光は消える直前の蝋燭の火のように感じた。
俺は彼の笑みを見ながら、それならそれでもいいと伝えた。
「信じたいなら信じて下さい。私は責任を持ちませんが……じゃ」
「……! そ、そんな……だ、黙れ……黙って、くれぇ!!」
彼は狂気的な顔で腕を振るう。
そうして、暴れる事によって――手から作物がすっぽ抜けた。
それは地面にぼとりと落ちて――紛い物が笑った。
瞬間、作物の中から穢れが噴き出す。
それは真っすぐに紛い物を落とした男子学生に進んで――彼は捕らわれた。
「や、やめ――これ、何――あ、ああぁぁ――あああああぁぁぁぁ!!?」
「「「……っ!」」」
穢れに包まれた男子学生。
やがて穢れは彼の体に取り込まれて……それは姿を現した。
全身が炭のように真っ黒で。
頭蓋が割れて、脳みそが露出していた。
が、脳みそはまるでブロッコリーのように幾つも生み出されていた。
両目は強引に一つに融合し、口は耳まで裂けていた。
「は、ハハハ――HAハHあHaハハHAひゃHAああはは!!!」
「「「ひぃ!」」」
狂ったように笑う化け物。
腕を振るえば、腐った根のようなものが伸びて――
「死ねぇぇぇ!!!」
「……」
化け物が腕を振るえば、俺にその根っこが向かって来て――風の音が響く。
瞬間、化け物の伸ばした根と腕が細切れになった。
化け物が驚く間に、無数の風の刃がお客様の元から放たれて――化け物がバラバラになる。
ぼとぼとと残骸が落ちて、ほとんどが塵のように消えた。
が、頭の部分だけが残っていた。
暫く見つめてれば……スピーカーから声が聞こえて来た。
『あ、それは粉砕機でお願いしまぁす』
「あ、あれって……でも、元は……」
「う、嘘、でしょ……ほ、本当に?」
全員の足が止まっていた。
俺は動き出し、転がる頭を両手でつかんだ。
そうして、粉砕機へと持って行こうとすれば――呼び止められた。
「ま、待ってくれ! そいつは俺の友達なんだ! だ、だから」
「ダメだよ」
「な!? で、でも!!!」
「これはもう――君の友達じゃない」
俺はハッキリと断言した。
男子学生はゆっくりと頭の方に視線を向けて――悲鳴を上げた。
「ま、守……助けて、くれ……俺は、まだ、生きて……助けて、くれ」
「……! 生きてる!! 次郎はまだ生きて!!」
「頭だけになってるのに?」
「え、あ……で、でも、喋って」
「うん、化け物だからね。人じゃないから……君は少し休んでいた方がいいよ」
「……っ」
化け物はしきりに守とか細い声で語りかけていた。
が、守君もここまでいえば理解したんだろう。
彼は俺から離れて行った。
俺はそのまま頭を持って粉砕機の方に向かう。
そうして、他の子が終わるのを待つ。
待って、待って、待って…………俺の番だ。
「あ、助けて……嫌だ……死にたく、ない……死にたく……」
「……」
俺は化け物の言葉を無視する。
そうして、機械を動かしてレバーを引いていき――叫び声が響く。
「イダイイダイイダイイダイィィィィィ!!!! ダズゲデェェェェ!!!!」
「「「……っ」」」
元々の男子学生の声で泣き叫んでいた。
恐らく、彼の事を知っている人は他にもいたかもしれない。
吐く音も聞こえてすすり泣くような声も聞こえる。
脳に直接響かいのはありがたいが。
これはこれで精神的に来る人もいるだろう。
まだ作業は残っているからこそ、此処で脱落者を増やすのは……あぁ、そうだ。
『歌ってね! 人の心を落ち着かせてくれるんだよぉ? てことでカラオケ行こう!』
「……」
ルミ先輩の言葉を思い出す。
歌を歌えば気持ちがリラックスする。
だからこそ、俺は空気を吸い込み――
「あ、あ、アップルパイ。大きなリンゴのアップルパイ。真っ赤でジューシーなアップルパイ」
「いぎゃあああああ!!!」
「カスタードたっぷりのぉぉアップルパイ。牛乳を沢山注いじゃおぅ」
「血があぁぁぁぁぁ!!! 止まらないぃぃぃぃぃ!!!」
「「「……うぷ!」」」
アップルパイの歌を歌う。
その間も、白と赤い液体がどばどばと出ていた。
それらが混ぜり合いまるで、それは……。
「いっちごジュースも欲しぃぃいな。いっちごジュースも並々とぉぉ」
「や、やめ」
「も、もう……うぅ!」
俺は歌う。
少しでも全員の心が落ち着くように。
最悪、叫び声を紛らわす事が出来ればそれでいいだろうと思って……声が止んだ。
「…………よし」
レバーから手を離す。
すると、ずぞぞぞと液体は吸い込まれて行った。
振り返れば……ひどいな。
吐しゃ物が増えていた。
失神はしていないが、明らかに目が揺れている。
全員が恐怖に染まった顔で俺を見ていた……何で?
「……もうちょっとだから……頑張ろう」
「「「……っ」」」
俺は全員を鼓舞して仕事に戻る。
その時にお客様の方から視線を感じた。
見れば、何やらにんまりと笑っているような気がした。
舌なめずりもしている。
まるで、極上の餌を前にしているような顔で……まぁいいか。
#
「「「……」」」
「はぁい! 皆さん、お疲れ様でぇす! 此方、今回の報酬ですねぇ! はい! はい! はぁい!」
仕事が終わり外に出れば、Cさんが既に待機していた。
別の職員から札束の入った封筒を貰い。
それを全員に渡していく。
渡して、渡して、渡して――1人が殴りかかろうとした。
「ぐぅ!?」
「あぁダメですよ。暴力は……ね?」
彼は確か……守君だったか。
まるで、見えない糸で体をがんじがらめにされているようだ。
拳を振り上げた状態で動きは止まっていた。
「何で!! どうして!! こんな事をして、人の命を何だと!! 返せよ!! 死んだ奴らを、次郎を!!!」
「――死んだ? 何を言ってるんですか?」
「……は、ぁ?」
Cさんは首を傾げていた。
そうして、指を鳴らして守君の拘束を解いた。
彼は目を瞬かせていて、Cさんはそんな彼に端末を渡した。
「掛けてみたらどうですか? その――お友達に」
「……!」
守君は端末を奪う。
そうして、すぐにかけ始めて――繋がったようだ。
彼は目を丸くして驚いていた。
が、ぽつぽつと話し始めて――涙を流して喜んでいた。
「あ、あぁ! じゃ、また、な! ……う、うぅ。良かった、本当に……で、でも、何で? まさか……AIじゃ?」
「ははは、違いますよ。そんな低レベルな事はしませんよ。生きています! 皆さん生きてるんです! ドッキリのようなものですよ! はは!」
「ど、っき、り?」
「え、それって……嘘?」
Cさんは説明する。
脱落した人間たちは生きていると。
参加しているように見せかけて実際には参加しておらず。
死んだように見えたのは、全て此方の仕掛けによるものだと言った。
「……実は……最近になって逆行性健忘が流行っているのを耳にし、学生の方々を調べたところ……協力者の方々を含めて、多くの学生たちがその症状に悩んでいると分かりましてねぇ。八咫烏がその治療の解決が出来ればと思って、今回の仕事を計画したんです」
「え、それって……何か関係が?」
「関係はあります。逆行性健忘の発症原因は強いストレスによるものだと考えられています! つまり、今回の試験にて調べさせて貰った事は……ズバリ! ストレスの耐性についてだったのですよ!」
「え、えぇ……じゃ、私たちはあの化け物とかで、ストレスを……そ、そうだったんだぁ!」
「ま、マジかよぉ……はぁぁ、良かったぁぁ。じゃ全部偽物だったって事かぁ」
生徒たちは安堵を示していた。
全部フェイクであり、国営企業のドッキリだと。
それが分かったからこそ、全員がお金をしっかりと持ち。
アトラクションを乗り終えたような反応をし出していた。
「でも、これで200万円かぁ……ま、また、あるかな?」
「おいおい。俺はもうごめんだぜぇ? 本当にビビっちまったからなぁ。はぁぁ」
「ま、確かにスリルはあったよなぁ……めっちゃリアルだったしよ」
「だな! はは!」
「……」
学生たちは浮かれていた。
が、そんな彼らにCさんは釘をさす。
「皆さま、契約書を書いていただいたので分かっていると思いますが……仕事については他言無用でお願いします。もしも、誰かに話してしまった場合は、最悪、牢屋にぶち込まれる事を覚悟してください……勿論、今回の協力者の方々にもご内密に。彼らは仕事の内容については知らないので」
「「「は、はぁい」」」
Cさんはそれだけ伝えるとくるりと後ろを向く。
そうして、帰りのバスに手を指し示した。
全員が談笑しながらバスの方へと向かう。
守君も笑っていて……。
「あ、井上様……此方を」
「……?」
「皆様には内緒ですが……ボーナスと思って頂ければと。追加で300万ほど包んでいますので……また、お願いしますね」
「あ、はい」
俺はすぐに封筒を作業服の中に仕舞う。
Cさんはくつくつと笑いながら、別の車に乗り込んでしまう。
今回も簡単な仕事だったが、まさか、指導のようなものをするとは思わなかった。
これからもこういう仕事が回って来るのかと考えて…………まぁ、どうでもいいか。