誰にでも出来る簡単な仕事(大嘘) 作:V3
ゲームを購入し、一日中プレイする毎日。
臨時収入を得て、最近はコンテナハウスをレンタルした。
そこにゲームを全部持ってきて、俺専用の快適空間を作ったが……最高だった。
誰にも邪魔されない幸せ空間。
緊急で入る依頼さえ熟しておけば大金が手に入る。
定期的に閉鎖病棟で女の人と会話して薬を散布するだけだ。
色々と誘惑はされるが……まぁいい。
今日も今日とて仕事だ。
最後に受けた仕事から一週間が経ったが……これかぁ。
「「「……」」」
説明を受けて、霧深い山中にやって来た30名あまりの若者たち。
ほとんどが十代やら二十代であり、俺は少し浮いていた。
皆が手に斧を持っていて、これから木こりのような仕事をするのは一目瞭然だ。
Aさんは時計を見ながら待機している。
時間になれば作業開始であり……今回も変わった仕事だとは思う。
やる事は単純明快――“枯れ細った白い木”を切るだけだ。
それも10分以内に生えているそれを一本切ればいいだけだ。
力仕事と呼べるほどの力はいらない。
枯れ細っているからこそ、上手くやればたった一振りで切り倒せるだろうと教えれらた。
ルールは必ず、10分以内に1本切る事。
一本切れば時間はリセットされるらしい。
切り倒したら、青い光を目指してきっちりと100歩進めと言われた。
100進めば、10秒ほど待てば自由に動いていいらしい。
切っていい木の総本数は123までであり、それを超えて切ってはいけない。
それさえ守れば飯でも煙草でも好きにしていいと言われた。
若者たちのほとんどがチョロい仕事と考えている様子だ。
俺自身も今日も簡単だと思いながら待機して――
「時間になりました。それでは、皆さま青い光を目指して100歩進み。仕事を始めてください」
「「「はい」」」
全員がチラリと光を確認し、口に出しながら歩を進めていく。
俺は青い光を目指してスタスタと歩いて行った。
歩いて、歩いて、歩いて…………おぉ。
100歩きっちりと進めば霧が濃い事もあって誰も見えなくなった。
ただ、すぐ近くにはいるようで声はハッキリと聞こえる。
「おーい! 慎吾!! だいじょうぶかぁ?」
「あぁ! 白い木? こっちにあったぜぇ!」
「洋子! こっち来れるぅ?」
「無理無理! てか、白い木あったけど? もう切っていいのかな?」
「……」
若者たちの会話が聞こえる。
そして、カッカと木を切る音も聞こえ始めた。
改めて周囲を見る。
すると、青や黄色に赤い木が無数に生えている。
カラフルな森であり、テーマパークに来たみたいだった。
暫く歩いて、枯れ細った白い木を探し……あった。
明らかに、枯れ細った白い木だ。
事前に参考にと見せられた写真とも一致している。
俺は斧を振りかぶり――カッと木に当てた。
瞬間、当たりが良かったのか気はべきりと音をたてて折れた。
これで先ずは一本目だ。
このまますぐに進むもよし、暫く休憩するもよしだが……まぁ進むか。
疲れてきたら休もうと思いながら、そのまま青い光を目指して歩いていった。
「……ふぅ」
10本目の伐採を終える。
アレから歩いて行っているが、今何処にいるかも不明だ。
が、相変わらず若者たちの声は聞こえてくる……でも、少し減った気がするな?
「洋子ー? おーい……いないの?」
「昭! 昭ぁ! 何だよたく……てか、まだ終わんねぇのか?」
「……み、皆さん! 一回、集合しませんかぁ!? ぼ、僕! LEDで照らすんでこっちに!」
「いやいや! 見えねぇし! てか、アンタ誰よ!」
「ぼ、僕は中川っていいます! 青洲大学の」
「いや興味ねぇよ! てか、昭ってやつみてぇか? 角刈りで日にやけててぇさぁ」
「……」
賑やかだと思いながら、俺は歩を進める。
進んで、進んで、進んで……お?
「……ぁ」
「んあ? アンタらぁ……いや、別にいっか」
霧の先に進めば、初めて人と遭遇した。
角刈りに小麦色に焼けた肌のマッチョマン。
そして、黒を基調とした服を纏った目が見えないほどにぼさぼさの髪をした小柄な少女だ。
自分とはまるで異なるタイプの人間たちであり、仲良く会話をしようとも思わない。
マッチョマンもそう思ったのか、自己紹介もせずに木を探し始めた。
「お、あったあった。よっと――うし」
「あ」
「……あ? 何すか?」
「……いや、何でもないよ」
「……すか。んじゃ、お先」
マッチョマンは木を切り倒して先へと進んでいく。
彼の姿はすぐに見えなくなった。
俺は彼が切り倒した――“枯れていない白い木”を見つめる。
明らかに間違いだ。
が、完全に油断していたようだった。
どうなるのかは分からないが……視線を感じた。
「ぁ……ぅ」
彼女は枯れ細った白い木の前で立ち止まっていた。
俺はゆっくりとそれに指を指す。
「あってるよ」
「ぁ……ありがとう、ございます」
「いえいえ」
彼女はそう言って小さな体で斧を振る。
そうして、三回ほど振れば木は倒れた。
俺も周囲を見て、すぐに枯れ細った白い木を見つけて――伐採する。
「うし」
「……」
俺はそのまま青い光を目指して歩いていく。
土を踏む音がすぐ近くから聞こえてくる……ついてきてるな。
どうでも良い事だと思いながら、俺は進んでいき……お?
「ひぃ!」
「……」
歩いて行けば、地面に――おびただしい血が広がっていた。
近くには小麦色に焼けた肌の逞しい腕が転がっている。
偽物ではなく明らかに本物の人の腕だ。
俺はそれをマジマジと見つめて……まぁいいか。
「ぇ、ぁ、か、数……い、今、何歩……ぅ、ぁぁ」
「――あと43歩進みな」
「え? あ、えっと……っ」
腰を抜かす彼女に正しい歩数を告げる。
彼女は震えながらも立ち上がって、そのままゆっくりと進み始めた。
俺も血だまりを超えて歩き出す。
歩いて、歩いて、歩いて――
#
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……うぅ」
「はい、水」
「あ、ありがとうございます!」
あれからどれだけ時間が経ったか。
伐採した木の数もこれからするのを含めれば122本目になる。
1万歩は軽く進んでいて……そろそろ終わりそうな気はする。
あんなにも賑やかだった声は疎らになっていた。
確実にもう俺たちを含めて4人くらしいかいない。
若い女が一人と若い男が一人……声からの判断だけど。
「な、なぁ? い、いるかぁ?」
「い、いるいる! ね、ねぇ、これ、まだ終わらないの? わ、私、さっき……し、死体を」
「い、言うなよ! 言うんじゃねよぉ……う、うぅ、楽な仕事だって聞いたのに、こんなの、知らねぇよ」
「……数、数えてるよね? わ、私、一応記録してて……次で123本目なんだけど」
「お、俺も一応は数えてたけど……これで、終わるんだよな?」
「し、知らないけど……が、頑張ろう! 絶対に生きて帰ろう! そんでさ、皆で居酒屋でねぇ!?」
「お、おぉ! 良いじゃん良いじゃん! よぉし、そんじゃ最後、やってやらぁ!」
「わ、私も進むよ! ファイトー!」
「「……」」
若者二人は進んだようだ。
俺は時計を確認する……まだ余裕はあるな。
少女に目を向ける。
彼女は俺の視線に気が付いて立ち上がる。
「い、いけます! お、お水、えっと」
「ん、貰うよ」
「あ、す、すみません」
空になったペットボトルを受け取りバッグに入れる。
そうして、俺も立ち上がってダミーを無視して目的の木の前に立つ。
互いに視線を交わしてから、木の伐採にかかり……うし。
「……じゃ、進むよ」
「は、はい」
俺たちは青い光を目指して進み始める。
100を数えて進んで――悲鳴が聞こえて来た。
「な、なにこれ……白い木ばっかじゃん! え、嘘!」
「す、すげぇ! こ、これってさぁ!? ボーナスステージってやつじゃねぇ!?」
「やったー! 神様ありがとー! これで家に帰れるんだぁ!」
「うぉぉぉよっしゃぁぁ!!」
「……?」
「……」
若者二人の方も“似たような木”が生えているようだ。
彼らは何も考えずに木を切ったようだった。
互いに健闘を称え合って、後で連絡先を交換しようと言い合っていた。
そうして、そのまま進んでいったようで……視線を感じた。
「……どうかした?」
「ぇ、いや、その……これ、もしかして」
「あぁ、うん。全部――違うよ」
「……!」
俺は簡潔に答える。
白といってもその種類は複数存在する。
事前に見せられた写真からして、目的の白い木のカラーは……まぁピュアホワイトの類だと分かっていた。
「霧が濃くて分かり辛いけど……アレはアイボリー。あっちはオフホワイト。あれはぁ……スノーホワイトだね、うん」
「わ、分かるんですか? えっと、そういう資格を」
「え? いやいや、持ってないよ? ただそう見えてるだけだから」
「……?」
少女は困惑していた……まぁいいか。
俺はそのまま無数の木の中を歩いていく。
これは違う、これも違う。
これも、これも…………あった。
「……これだね」
「……全然、分からない」
「あぁ……まぁいいよ。それじゃ」
「え? い、いいんですか? 折角、見つけたのに」
「……? いいよ。探せばいいだけだし」
「……っ! ありがとうございます!」
彼女は深々と頭を下げる。
俺はひらひらと手を振って……立ち止まる。
「……今、何本目?」
「え、あ……これで123本目です」
「あ、そ……忘れないでねぇ」
「……?」
俺はそれだけ伝えて霧の中を歩いていく。
探して、探して、探して……あるじゃん。
目当ての木を見つけた。
俺は斧を振りかぶり――一撃で切り倒した。
そのまま、青い光に向かって歩いていく。
彼女の気配は感じないが、恐らくは無事だろう。
俺はそのまま100歩を進めて……ん?
進んでいけば――またカラフルな森になった。
赤や青に黄色に、まるで振り出しだ。
勿論、枯れ細った白い木もある。
まるで、まだ仕事は続いていると言わんばかりで……まぁいいか。
俺はそのまま木を無視して青い光を目指して歩いていく。
歩いて、歩いて、歩いて…………お?
段々と霧が晴れていく。
そのまま進んでいけば――山の入り口に立っていた。
「お疲れ様です」
「どうも」
Aさんが立っていた。
その手には金の入った封筒らしきものがある。
今回もちゃんと業務を終えられたようで……俺一人かぁ?
周囲を見ても誰もいない。
あの少女は失敗したのか。
そう考えて――気配を感じた。
「……ぁ!」
「……お疲れ様です」
振り返れば視線があう。
あの少女であり、無事に超えられたようだった。
彼女は小走りで此方へと向かって来て、Aさんから封筒を受け取っていた。
彼女は呼吸を乱しながらもすぐに中身を確認する。
「こ、こんなに、これだけあったら……あ! すすすすみません!」
「いえ、問題ありません……それでは、次回もよろしくお願いします」
「はい」
「あ、はい……あ、それと……ありがとうございました!」
「ん? 何が?」
「え、いや、その、色々と助けて貰ったので、その、御礼を」
「え? 何もしてないけど……まぁいいから。帰ろう。ここ寒いからさ」
「あ、はい……あ、私、
「俺は
「い、井上さんですね! よろしくお願いします!」
「……何が?」
「へ!? あ、いや、連絡先を……うぅ」
彼女は顔を真っ赤にする。
何をそんなに緊張しているのかと思いつつ、連絡先くらいならいいかとルインのアカウントを教える。
彼女は慣れた手つきで登録を済ませて、ぺこりと頭を下げて来た。
正直、こんなおっさんが女子高生とやり取りするなんて社会的な危険を感じるけど……まぁいいか。