マイクロバスから降りて歩いていく。
険しい山道であり、今回の参加者は……少なくとも6人以上か。
「「「……」」」
全員が無言で山道を登っていく。
先頭ではAさんがスタスタと歩いて行っていた。
山道と言っても、最低限の舗装しかされていない。
石もあれば枝も転がっていて、道には亀裂も走っている。
普通の靴でも歩きにくい道だが……凄いな。
Aさんの装いは黒いビジネススーツだ。
その上に、歩きにくそうなヒールの靴を履いている。
足元を見ても違和感は無いが、彼女の足元だけ綺麗に舗装された道なんじゃないかと思える。
それほどまでに迷いも乱れも無い歩調だった。
隣から荒い呼吸音が聞こえる。
見れば、汗まみれでひぃひぃと言っている。
「ひぃひぃひぃ……ま、まだ、歩くの?」
「もうちょっとじゃないですかぁ? 頑張りましょう!」
「ひ、ひぃぃ」
今回の参加者には柳さんとマイケルがいる。
他の三人は面識は無いかったが、気さくな人たちで道中で自己紹介はした。
一番先頭を歩いている浅黒い肌のスキンヘッドの男性。
整えられた髭が特徴的で、笑った時の白い歯が自慢らしい。
茶色のレンズのサングラスを掛けていて逞しい体つきをしていた。
服装は白いシャツに派手な赤いジャケットにジーンズだ。
彼は
年齢は38歳で、建設会社の社長をしているらしい。
参加した詳しい理由は濁していたが、どうしてもそれなりの額のお金が今すぐに必要らしくこの仕事に参加したようだ。
二番目を歩く若い女性。
化粧が濃く目つきが鋭くて口数は少ない。
グラマラスな体系で、香水の臭いをぷんぷんとさせていた。
服装は白い片方の肩が露出したオシャレそうな服に黒い少し大きめのベルトに紫色の長ズボン。
黒いオシャレそうとしか言いようがないサンダルのようなものを履いていた。
高そうな腕時計にアクセサリーを身に纏っている。
彼女の名前は
一流商社の受付嬢をしているらしく、年齢は23とこの中では一番若い。
参加した理由は不明だが、どうしても金が欲しいのは雰囲気で分かる。
若いからか、元々肉体労働をしていたのか。
あまり疲れてはいなさそうだったがイラついているのも何となく分かった。
三番目を歩いている小太りの男性。
以前はトラックの運転手をしていたそうだが、事故によって怪我をしてしまい。
その後、後遺症で運転が出来なくなったようだ。
事故自体は相手の急な飛び出しによる不慮の事故であったが。
相手は子供でニュースでは自身の名前は隠されていたが。
噂が地元で広がってしまい、実質的に経歴に傷がついてしまったらしい。
引っ越しも考えたが、退職金も出ない上に保険にも入っていなかったそうで。
会社からの見舞金も少なく、金がない状態では引っ越しも出来ないと困っていたそうだ。
そんな時に八咫烏の求人を見つけて参加する事を決めたらしい。
服装は動きやすそうな作業服に、灰色のジャンパーを羽織っていた。
軍手や安全靴も履いていて、何となく用心深そうな人だと思った。
年齢は28歳であり、彼も20代だ。
今回も個性的なメンバーだとは思ったが……まぁどうでもいいか。
最初は全員と話もしていたが。
目的の場所は思ったよりも遠く。
今では全員が黙々と地面を見つめて歩いていた。
俺は特に息切れもしないが……ん?
「……霧? 妙な感じだなぁ、おいおい」
「さむ……コートいるじゃないの。はぁ、チッ」
「ぼ、僕の上着で良ければ」
「は? いらないわよ。デブの着たやつなんて……臭そうだし。ふっ」
「う! そ、そうですよね。はは」
前の三人のやり取りを眺める。
すると、柳さんが俺の肩を突いてきた。
視線を向ければ手招きしてくる。
俺は彼女に近づいて耳を寄せて――
「あの女、性格クソ悪いけど……もしかして、今日ってグループ系?」
「あぁ……さぁ?」
「さぁって……この中で経験者はアンタなんだからさぁ」
「あぁ、そうですね……はい」
「はぁぁ、たく……ま、グループならアンタがいれば心強いけど」
「……何で?」
「……ふっ」
柳さんはにやりと笑う。
首を傾げていればマイケルが何の話かと聞いて来る。
柳さんは仕事終わりに何を食べに行くかを話していたと言った。
マイケルは目を輝かせながら、自分も行きたいと提案し……Aさんが止まる。
「うぉ、どうし……あれ? アイツらはぁ」
「……私たち以外にもいたの?」
「わぁ、1、2、3…………僕たちを含めて5グループでしょうか?」
「「「……」」」
霧の先から現れた人間たち。
6人で固まっていて、そのグループが4組姿を現した。
俺たちを含めれば全部で5グループで……総勢30人が参加している事になるのか。
彼らの近くにも八咫烏の職員たちが立っている。
あの人たちが彼らを別ルートで案内して……アレはCさんか。
彼は俺の視線に気づいて片手をあげた。
俺は小さく頭を下げる。
よく見ればルミ先輩も参加していた。
ラフな格好であり、ニコニコと笑って俺に手を振ってきて……あれ……あの子は、もしかして……あぁ、やっぱりそうだ。
「……」
彼女も俺に気づいて此方を見て来た。
ぼさぼさだった黒髪は綺麗に整えられていた。
肩まで伸ばしていて、前髪は赤いカチューシャで留められておでこと目がしっかりと見えていた。
体が成長したのか、最後に会った時よりも大人っぽく感じた。
自信なさげだった表情はきりっとし、立ち姿もぴしっとしている。
服装は黒いロングスカートに襟付きの白いブラウス。
首にはお客様から貰ったお守りを下げていた。
下は黒いブーツで、動きやすそうな見た目をしている。
彼女は俺を見つめて――目を細めて笑う。
「……泉春子さん」
「……ん? あの女以外に知り合いがいたの?」
「え、そうなんですか? 誰でぇすかぁ?」
「……まぁいいか」
「「……?」」
俺は視線を逸らす。
そうして、周りに目を向ける。
霧が濃く何があるのかは分からない。
が、風の音が聞こえており、まるでそれが声のように響いていた。
不思議な空間であり、此処も何か特殊な場所なのかと思って……気配を感じた。
視線をそちらに向ける。
すると、そこには……何かが立っている。
「「……」」
白を基調とした狐の面をしていた。
赤い着物を着ている子供であり、手には青い光を放つ提灯を持っている。
何時の間にいたのか、最初にはいなかった筈だ。
音もなく現れて、呼吸音すら聞こえない。
地蔵のように静かに立っているその姿は、可愛らしさよりも不気味さを感じさせる。
彼らは俺たちの視線を受けてゆっくりと頭を下げる。
無数の鈴の音が何度も鳴る。
シャンシャンシャン、と。
何の合図かも分からないその音にほとんどの人間が戸惑う。
職員に尋ねる人間もいる中で。
その双子のような存在の間の後方に――豪華な祭壇のようなものが突如現れた。
「何だよ、あれ」
「これ……特殊演出みたいな? え、テレビ番組?」
「す、凄い……美味しそうだなぁ」
「「「……」」」
豪華な祭壇には様々なものが供物として捧げられていた。
牛一頭でも使ったような巨大な霜降りの肉やマグロの頭。
新鮮な野菜の数々や米俵や高そうな酒の瓶が幾つもある。
他にも黄金や宝石などもあり……凄いなぁ。
一体、どんな神様を祀っているのか。
あの供物の量は尋常じゃない。
相当に格の高い存在なのか。
そんな事を思いながら見ていれば――脳内に声が響く。
『供物を捧げよ――上等であれば、褒美を与えよう――探せ、探せ――我に、捧げよ』
「「「……!?」」」
謎の声だ。
威厳ある声であり、聞くだけで体が震えた。
俺以外にも聞こえていたようであり、ほとんどが怯えた表情で周りを見ていた。
「ななな、何だぁ!? さっきの声は!?」
「き、気持ち悪い! ちょっと何よこの演出は!?」
「そ、そんな事、言わない方がぁ」
「デブは黙ってろ!」
「ひぃ」
「「「――! ――!?」」」
他のグループも騒ぎ始める。
今の不気味な声は何だと。
一体、何をさせるつもりなのかと。
すると、彼らの前にAさんが出て行った。
「皆さま、落ち着いて下さい。仕事のご説明を始めます。よく聞き、迷わず仕事をしてください」
「な、何言って?」
「仕事って、何をさせようってのよ!」
Aさんは説明を始める。
先ず最初に、今回の仕事は――“供物を捧げる”事だと告げる。
正確には、神へと捧げる為の供物を探す事らしい。
今、この山には多くの宝が眠っているらしい。
それらを今から探しに行き、制限時間である2時間以内に戻って来なければならない。
勿論、探してきてすぐに供物を捧げる行為は可能で。
改めて他の供物を探しに行く事も可能だとAさんは言う。
「今回の仕事の“基本報酬”は200万円となりますが……供物として捧げたもの以外は、持ち帰る事を許可して頂いております。勿論、我々の目を信じてくださるのであれば、その場での換金もさせて頂きます。それらは謂わば……追加報酬と考えていただければ幸いです」
「「「……!」」」
Aさんの言葉に誰かが喉を鳴らしたような気がした。
中には、追加報酬がどの程度のものか聞く人間もいたが。
Aさんはそれは自分の目で確かめて欲しいという。
ルールの説明が手短に行われた。
1つ目、時間制限である2時間以内に上等な供物を捧げる事。
2つ目、捧げた供物はその人間の手には二度と手に入らない。心して選べ。
3つ目、フクロウの鳴き声が聞こえれば、30秒以内にフクロウを探し見つめなければならない。
4つ目、上等でないものを神に捧げてはならない。
以上だが……上等なものとは何だ?
今までのものと比べてひどく曖昧だ。
どういう基準なのか分からない。
だからこそ、俺はAさんにその事について質問した。
すると、Aさんは俺に指を指す……ん?
俺だけじゃない。
1人1人に指を指していった。
「皆様にとっての上等な品を……私から説明できるのは、それだけです」
「は、はぁ? 何よそれ……訳わかんない」
「んー? 俺たちの……現金とかか?」
「僕なら……美味しい料理とかかな。へへ」
「「「……」」」
俺はAさんの説明を聞き、何となく分かったような気がした。
が、確証はない。
だからこそ、柳さんやマイケルに説明する事は出来ない。
少なくとも、誰かが供物を捧げてみない限りは説明できない。
「そして、もう一つ。今回の仕事では、それぞれを6人で1つのチームとさせて頂いております。チームでの行動でも、単独での行動でも可能です。供物に関してはお一人一度まででお一つまでが可能とさせて頂きます。複数の供物は捧げないようお願いします。グループの中で1人でもお客様が求める供物を捧げる事が出来れば、他の方々は供物を捧げずともよい事とします」
「そ、それって……1人が捧げる事が出来たら、後の人はそれでオッケーって事ですか?」
「はい」
「「「……っ」」」
今の説明で全員が同じチームメンバーを見た。
恐らく、心理戦のような事も発生しそうだが……まぁいいか。
Aさんは説明は以上だと告げる。
タイムリミットの2時間は霧が完全に晴れて太陽が見える頃らしい。
一応、残り時間が10分となれば合図となる鈴の音を響かせてくれるようだ。
つまり、時間が経てば経つほどに視界は良くなる。
物やフクロウを探す上では好条件にはなるが。
その一方で、判断を誤れば帰って来るタイミングが……面白いな。
俺が考えていれば、Aさんは誰も質問がもう無い事を確認する。
そうして、徐に両手を広げた。
「それでは、皆さま――始めて下さい」
「「「……!」」」
Aさんが手を叩く。
そのタイミングで何人かは走り出した。
残っている人間たちはチームメンバーと話していた。
俺たちのグループでも西村さんが呼び掛けてきて作戦会議を開こうと提案する。
断る理由も無いので参加しようとして……二人が来た。
「やぁ!」
「どうも……久しぶり」
「……久しぶり、ですか……ふふ、そうですね。井上さん」
ルミ先輩と……泉春子さんだ。
ルミ先輩は泉さんをチラリと見る。
が、特に気にも留めずに俺に話し掛けて来た。
どういう風に動くのか、一緒について行ってもいいかと。
俺は構わないと思ったが、彼女のチームメンバーたちはちらちらとこっちを見てきていた。
「……あの……チームはいいんですか?」
「んー? まぁ大丈夫じゃない? 別に僕は僕で仕事すればいいしさ!」
「そうですか……まぁそうですね」
ルミ先輩は嬉しそうに笑っている。
彼女にとってはどんな仕事も面白いものなのか。
そう思いながら見ていれば……泉春子さんがぼそりと呟く。
「……変わりませんね……そういうところ」
「……そうかな?」
泉春子さんに視線を向ける。
彼女を見れば表情は笑っているが、目は笑っていなかった。
闇のような光の無い目で、ちょっとおそろしく感じる。
「……井上さん……頑張って下さいね」
「え、あ、うん。泉さんも」
「――勝手に死なないでくださいね?」
「え、あ、うん。泉さんも頑張ってね」
「……ふふ」
泉春子さんはそれだけ言って霧の先へと歩いて行った。
ルミ先輩が静かだと思って見れば……笑ってる?
「……やっぱり、僕も別で行動しようかなぁ。ごめんね!」
「え、あ、はい。どうぞ」
「うん! じゃ、お互いに頑張ろうねぇ!」
ルミ先輩は手を振って走り去る。
俺は西村さんが呼んでいるのでチームに戻る。
円陣を組んでいて、西村さんは取り敢えずバラバラに動いて行動しようと提案した。
「その方が効率もいいしさ! 取り敢えず、霧が晴れるまでに帰って来るってことで!」
「いや、それはやめた方が良いと思います」
「……井上君だったよね。何で?」
「……危険だからです。はい」
「……アンタ、なぁんか他と違う気がしたけど……もしかしたら、慣れてるの?」
「え、あ、はい」
「「「……!」」」
三人が驚いていた。
柳さんはあちゃーと言った顔をしていた……何で?
「そ、それなら話が早いけどさ! ど、どうなるの!? これって失敗したらさ!?」
「ぼぼぼぼ僕たち帰れますか!? まさか、死んだり」
「デブ! 黙れよ! アニメの見過ぎなんだよ!」
「ででででもぉ!?」
「まぁ、その……可能性はありますね。はい」
「「「……!?」」」
三人が顔面蒼白になる。
俺が真顔で言ったからいけないのか。
そう思って笑って見れば、もっと怯え始めた……難しいな。
「……まぁルールを守っていれば死にませんから……それじゃ、チームで供物を探しに行くという事で」
「え、あ、ちょ!?」
「もももももう行くんですか!?」
「ちょ、ちょっと待ってよ!? まだ心の準備がぁ!?」
「……? 時間がないので、行かないなら此処で待っていてください。じゃ」
「「「ま!?」」」
俺はマイケルと柳さんを連れて歩き出す。
すると、ドタドタと言いながら三人が追いかけて来た。
何はともあれ、チーム全員で行動が出来る。
単独で捜索するのは確かに効率はいいかもしれないが。
霧が濃い状況で不確定要素のフクロウの捜索は中々にきびしい。
不安やら緊張している状態であれば、30秒以内にフクロウを探す事も出来ないだろう。
……単独の方が良いって言われたら、まぁそれでも良かったけど……言う事を聞いてくれたし……まぁ、うん。
「「「……っ」」」
三人は怯えているが、しっかりと周りを見ている。
それだけ出来ればまぁ十分だと思いながら、俺たちは霧の山での宝探しを開始した。