仕事、仕事、仕事……仕事を受け続けた。
大金を得て、それでレアもののゲームを購入し。
夢中になって遊びまくった。
遊んで、遊んで、遊んで、遊んで……今もそうだ。
「……」
「くぅん」
コンテナルームの中で、コントローラーを握ってカチカチと操作する。
今やっているゲームは“ヘルクライム・ハンドラー”というマニアの中では有名なゲームだ。
簡単に説明すれば、バベルと呼ばれる巨大な塔のようなステージを舞台に。
頂上を目指しながら、キャラクターのレベルを上げたり強い装備を手に入れていく。
王道なファンタジーゲームでありながら、リアルを感じさせるようなグラフィックに一流の声優たちによる吹き替え。
最上階までは100層あり、全てのステージが精巧に作られていて様々なクエストにおいても作り込まれていた。
無駄がなく、クエストの進行度や他キャラクターとの交流もエンディングに関わって来る。
マルチエンディング方式であり、そのエンディングもいまだに全てが明かされている訳じゃない。
海外の一部の店舗にて販売された希少なゲームだ。
開発会社は当時は有名であったものの、このゲームの開発に20年を掛けて。
莫大な費用も投じた事によって、数十年先のゲームのクオリティと言わしめるほどの伝説的なソフトになった。
が、どういう訳か。数年経った頃に、このゲームが市場に出回らなくなっていった。
理由は不明であるが、元々ソフトを持っていた人間たちも気づいたら無くなっていたと言っていた。
当時は都市伝説などと言われて、残ったソフトたちはオークションなどで高値で取引されるようになった。
ソフトの消失は今でも起きているようで、確認できるだけでも残っているソフトはたったの……数百本のみらしい。
現在の市場価格は完品であれば3000万円もするほどだ。
ソフトだけでも、1000万はする貴重な品で。
俺はこれを手に入れる為にあるオークションに参加し……無事にゲットした。
費やした金は4000万にもなったが、何とか競り落とせた。
発送元はちゃんとした会社であり、手続きも速やかに行ってくれた。
海外からの発送だったが、思っていたよりも早くに着き。
梱包は厳重でありながら丁寧にされていた。
評価とお礼のメッセを済ませて、俺は対応するゲーム機にソフトを入れて――ドはまりしていた。
クリアまでの総プレイ時間が最低でも500時間は掛る大ボリュームのゲーム。
当時としては画期的な育成システムを導入し、リアルに近づけながらも飽きさせない工夫があった。
簡単に言えば、敵はクソほどに強く攻略も超がつくほど難しいが。
手順を踏んでキャラクターを強化し、強い武器を手に入れれば絶対に攻略は出来る。
だからこそ、プレイヤーは成長をしっかりと実感し、強敵との戦いに勝利した時の高揚感もすさまじいのだ。
まるで、麻薬のような中毒性であり、クリア以外の寄り道のようなクエストや探索要素も充実している。
最新機と比べても見劣りしない。いや、より洗練されたものであると分かる。
容量はそれに比例して一つでパンクするほどであったが、それも納得の内容だ。
このゲームをするが為にチューニングを施して、処理速度の向上やテレビ画面の改良など。
専門家を雇ってしてもらったが……完璧だ。
楽しい、楽し過ぎる……目が離せない。
「わん!」
「……ん? ご飯?」
「くぅん」
「……違う? 気分が悪いとか……違う?」
「わん! わん!」
イチが吠え始めた。
俺はゲームを中断し、どうしたのかと聞き――端末が鳴る。
誰かと見れば……Aさんか。
この前も掛けて来てくれた。
が、俺はゲームがしたいからと仕事を断った。
これは二回目の連絡で……出るか。
「はい」
《八咫烏のAです。やって頂きたい仕事があるのですが……今、お時間は》
「すみません。今回も行けないです」
《………………理由を聞いても?》
「え、あぁ……ゲームがしたいので、はい」
俺は正直にゲームがしたいから行けないと伝えた。
少なくとも、今すぐにお金が必要な状況じゃない。
無理して行く必要はなく、今は楽しいゲームに集中したい。
その事を伝えれば、Aさんは静かに息を吐く……ん?
《分かりました……では、報酬を2倍……いえ、3倍払います。今回の仕事であれば1500万ほどに》
「あ、いえ、今は結構です」
《……………………………………分かりました。お忙しい所、大変、失礼致しました》
Aさんは通話を切る。
凄くためがあった気がしたが……まぁいいか。
俺は端末を置き、ゲームを再開しようと――耳をつんざく音が響く。
「――ん?」
窓から一瞬見えた強烈な光。
そうして、次の瞬間には……電気が全て消えた。
停電であり、ゲームの電源も切れていた。
俺は静かにコントローラーを置く……なるほど。
「……」
オートセーブ機能は搭載されていた。
停電であってもバックアップは取っている。
もし、それが無かったとしても逐一、手動でセーブはしていた。
何も問題は無い……が、暫くはゲームが出来なさそうだ。
「……ん?」
端末から音が鳴った。
今度は何かと見れば……Aさんからのメッセージか。
《お仕事を受けられる時はご連絡を。何時でもお待ちしております》
「……まぁいいか」
今、暇になったから仕事を受けてもいいが。
今日は少しゲームに夢中になって……仕事をする気が出ない。
俺が端末を置けば……イチが悲しそうな目を俺に向けて来る。
「……雨だけど……散歩に行く?」
「……わん!」
散歩に行くかと聞けば、少し考えたように黙り……笑って吠えた。
俺はそれを見て、雨の散歩用の犬のレインコートを出しに行く。
イチは嬉しそうに俺の周りを回っていた……そんなに?
何故かは分からない。
が、無性に嫌な予感がする。
虫の知らせのようなもので…………あれらを持って行くか。
#
「……」
雨の中、傘をさして歩く。
台風は消えてなくなり、これから天気のいい日が続くと言っていた気がするが……まぁそういう事もあるか。
前を歩くイチはすっぽりと黄色いレインコートを着込んでいる。
柳さんに雨の日に散歩に行く時に少し困ると話せば、彼女はペット専門の服などを売っている店を教えてくれた。
そこへと行けば、癖の強い心が女性だと聞いてもいないのに教えてくれた店長さんが待ち構えていた。
何でも、彼女はエスパーらしくお客が来るタイミングが分かるらしい。
別にどうでもいいので、レインコートを売ってはいないかと聞けば、彼女は即答で売っていると言った。
案内された一角には犬や猫に鳥用のレインコートなど。
幅広く揃えていて、言ってくれればオーダーメイドも受けつけていると教えてくれた。
彼女は手早くイチの体を測り、そこからサイズの合うものを幾つか見繕ってくれた。
値段はそこそこ高かったが、必要な経費なので念の為に色違いを三着買った。
『うふ♡ 貴方、見かけによらず優しいのね♡ 今度一緒にお食事でも♡』
『いえ、結構です』
『もうぅ♡ 恥ずかしがらないでぇ♡』
『いえ、結構です』
『これぇ♡ 私の連絡先よぉん♡ 後で必ずTELしてよぉん♡ お姉さんとのや・く・そ・く♡』
『いえ、結構です』
『いいからほらほらぁ受け取れやぁぁぁぁ!!!』
何度断っても言い寄って来る。
鬼気迫る顔であり、鬼瓦部長と同じくらいの迫力を感じた。
単純な力もルミ先輩くらいありそうだった。
仕方ないので連絡先だけ受け取れば、彼女は3割引きのクーポン券をくれた……まぁいいか。
イチが嬉しいのならそれでいい。
そう思いながら、散歩を続けて――イチが走り出した。
「え、あ……何だ?」
俺は慌ててイチを追いかけた。
イチはそのまま路地裏の方へと駆けて行く。
俺はそんなイチを追いかけていく。
狭い路地裏であり、ゴミなども散乱していた。
イチはそれらを器用に飛び越えて進んでいく。
俺もゴミなどを避けてイチを追いかける。
走って、走って、走って………何だ?
イチが独りでに開いた扉の中に入っていく。
勝手に入ったらまずい気がするが。
飼い主がついていかないと保健所に連れていかれてしまう。
俺は考える間もなく扉の中へと飛び込んで…………は?
「……えぇ」
「わん!」
扉の先に広がっていたのは……霧の世界だ。
辺り一帯に濃い霧が満ちていた。
俺は後ろを振り返る……まだ、あるな。
まるで、アニメで見た……どこにでも繋がっている扉のようにそこにある。
恐らく、このままイチを連れて帰ってもいいんだろう。
が、イチはふりふりと尻尾を振ってはしゃいでいた。
まるで、此処で遊ぼうといいたげで……まぁいいか。
「……」
俺は取り敢えず、これみよがしに前方に架かっている橋へと近づく。
大きな木で作られた立派な橋だ。
どれだけ長いのかは分からない。
が、恐らく相当な長さがあるんだろう。
渡れば帰って来られない気がする。
危険を本能が感じ取っているが……俺は立てられている看板に目を向ける。
「……試練に挑まぬ者、渡るべからず……あぁ、やっぱり……Aさんは……いないか」
これは試練らしい。
まぁどう見てもそうとしか思えない。
周りを見ても俺とイチ以外に動いている者はいない。
俺たちだけであり……まぁどうでもいいか。
看板を続けて読めば、ルールらしきものが書かれていた。
【水の上を越えてはならぬ】
【仲間を傷つけてはならぬ】
【全ての将像をあるべき場所へ戻せ】
【一度戻せし像、再び持つ事は許されぬ】
水の上を越えるなというのはそのままの意味だろう。
仲間を傷つけるなという意味はこの場合でいえばイチになるが……違うような気がする。
全ての将像というのが今回は重要そうだ。
それは一度、指定された何処かに置けばもう一度やり直す事は出来ない、という事か。
考えてみて……何となく……ゲームっぽい気がした。
「……まぁいいか」
俺は看板から目を逸らす。
そうして、イチに目を向けようとし……いない?
先ほどまでそこにいた。
が、少し目を離した隙に……声が微かに聞こえた。
橋の先からであり、先に行ったようだ。
俺はすぐに追いかけようとし……念の為に。
「……あぁ」
橋を渡る前に下を見た。
万が一にも水が張っていればルール違反になるからだ。
だからこそ、見て見れば……骨で埋めつくされていた。
骨、骨、骨骨骨……全部、骨だ。
動物なのか人間なのか。
判別できないほどに骨で埋めつくされていた。
まるで、全て誰かが平らげた後のように感じる光景だ。
もしも、そうであれば途轍もない大食漢で…………まぁいいか。
「……置いていくか」
雨は此処では降っていない。
だからこそ、慎重に傘を畳んでから看板に立てかけておく。
帰りに回収できればいいが、まぁ出来なくても安物なので……どうでもいいか。
俺は橋を渡る。
走って霧の先へと向かう。
イチの鳴き声は聞こえるが、どんどん遠くなっているような気がした。
「イチ! イチ!」
呼んでみる……返事は無い。
俺はイチの名を呼び続ける。
そうして、ひたすらに橋の上を走っていく。
走って、走って、走って――――…………
…………――――あぁ。
「……何処だ?」
一瞬、意識が飛んだような気がした。
気が付けば、何処かの部屋の中で立っていた。
部屋の中には無数の蝋燭が火を灯した状態で置かれている。
周りを見れば、白を基調とした襖……だったものが散乱している。
襖はビリビリに破かれていた。
そして、べったりと赤い血の跡のようなものがついている。
いや、残骸だけじゃない部屋中だ。
下には木の床板がはられているが。
傷やら血によって傷つき汚れていた。
脇ではちょろちょろと水が流れる音が聞こえる。
視線を音のする方向に向ければ、石で作られた大きなかめとその傍に血染めのひょうたんが置かれていた。
水はかめから溢れ出していて、何故か部屋を囲うように流れている。
このままでは移動できないが……まぁ今はいいか。
「……これか」
視線を前に戻す。
正確には部屋の中心で……置かれている。
12体の小さな木像だ。
台のようなものの上に並べられていた。
近づいて見て見れば、それぞれが異なる姿をしていた。
「……動物? ……鼠、牛、虎……あぁ、十二支か」
それぞれが動物を模していると分かる。
が、普通の動物ではない。
二本の足で立っており、それぞれに遥か昔の人間たちが着ていたような装束を纏っている。
その手には武器のようなものを持っていて、表情は武人のように険しい。
「……これは?」
傍に置かれていた古びた紙。
広げて見れば何も書かれていない……いや、違う。
ジッと見ていれば、ゆっくりと紙の中心部分に何かが浮かび上がって来る。
見ていれば、それは四角い空間を表していて……此処か?
赤い点が部屋の中心をさしている。
恐らくは現在位置で……これはマップか。
「……」
マップを丸めてしっかりと持つ。
そうして、先ずは何処に行くべきかを考えて――音が聞こえた。
「……!」
何かが走ってくる音だ。
ドタドタと響いていて音はどんどん大きくなっていく。
すぐに退路を確認するが――動けない。
囲むように水が流れている。
この状態ではどう考えても移動する時に水を越えなければならない。
水を拭うか、吸い取らない限りはどうしようも――来る。
気配を感じる。
おぞましい気配であり、殺気を放っていた。
無数の足音のような響いていて、俺は音のする方向に視線を向けて――それが姿を現した。
「――――ッ!!!」
「……!」
それを一言で表すのなら――巨大な手だ。
鋭利な刃物で手首をから切り取られた手。
血の気が失せて青白くなり、腐敗が進んでいる状態の手だ。
体長は俺の体なんて簡単に握り潰せるほどに大きく。
指はまるで足のように床に立てられていて、指先が擦れて血で赤黒く変色している。
手の甲には真っ赤に充血した目があり青い血管のようなものが手全体に広がっていた。
化け物の目が大きく見開かれて俺を睨みつけていた。
口も無ければ、爪も牙も無いが……捕まれば命は無い事だけは理解した。
「……?」
それは部屋の前で止まっている。
俺をジッと睨むだけで襲ってこない。
それは体を震わせて手首の断面から無理矢理に不気味な鳴き声を発して――去っていった。
気配がどんどん遠のいていく。
そうして、完全に消えた事を音で認識した。
今のは何だったのか。
アレが今回の試練によって厄介な存在なのか。
そんな事を考えて――周りを囲んでいた水がジュっと蒸発した。
「え……あぁ……」
一瞬、何が起きたのかと思った。
が、すぐに状況に適応する。
水が消えた事で通れるようになった。
そして、水の音も止まっているようでまた塞がれる心配も無い。
恐らく、アレは俺にあの化け物への対処法を見せる為の演出だろう……だったら……。
俺は像を持つ前にかめの方に向かう。
そうして、血染めのひょうたんを持ち栓を抜く。
ひょうたんを水に沈めて水を補充し……よし。
水の中から出す。
そして、よく水を払い持ってきたハンカチでひょうたんの表面と手を拭く。
ハンカチをポケットに戻し、すぐに栓を差し込む。
俺はひょうたんについていた紐を手首にストラップのように巻き……これでいい。
すぐに像の方へと戻る。
そうして、その中から……鼠の像を取る。
「……北だな」
俺はマップを片手で開き、少し移動する。
すると、マップの赤い点は上に移動していく。
それを確認し、俺はマップを閉じてから像をしっかりと両手で持つ。
速やかに像を正しい場所へと置く。
そうして、何処かにいるであろうイチも見つけなければならない。
此処がどういう場所で、何の目的であるのかは分からないが……まぁ……
「何とか……するしかないか」
俺は覚悟を決めて……薄暗い廊下へと一歩を踏み出した。