誰にでも出来る簡単な仕事(大嘘) 作:V3
今日は気分を変えてゲームセンターでゲームを堪能した。
シューティングにアーケードに、カードゲームの類もした。
誰もいなかったので連コインもしたが。
シークレットなるものが当たった。
すると、後ろで鼻を垂らす少年がキラキラとした目を俺に向けていた。
欲しそうにしていたのであげれば、御礼に飴玉をくれた……イチゴ味だ。
コロコロと飴玉を転がしていれば、端末にメッセが入る。
確認すれば八咫烏からの緊急の仕事のようだった。
何でも、車の運転を頼みたいらしい。
断る事は出来ないのですぐに指定のポイントまで行く事にした。
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新幹線に乗って指定の座標に行けば、何故か準備があるからと深夜まで待たされた。
それも、街で一番の高級ホテルで待てと言われた。
代金は既に支払っていて、広い部屋で待っていれば軽食まで運ばれて……凄かったなぁ。
窓から見える空はすっかり暗くなり、時刻は午前1時を回ったころ。
職員らしき黒スーツにマスクの男に案内されてホテルの外に出る。
すると、そこには所謂ビンテージカーと呼ばれる赤い車が停車していた。
四人乗りであり、丸みを帯びた形状をしている。
窓は中が見えないほどのスモークであり、誰かいる気配はするが全く見えない。
「こんばんは。早速ですが、この車を運転して後部座席に座っているお方をナビの場所までお連れしてください」
「……注意事項は何でしょうか?」
「今回のルールは――」
今回はAさんではないが、別にそれはどうでもいい。
男の人から聞かされたルールは、兎に角、車を停めてはいけないらしい。
信号などはどうなるのかと聞けば、“止まらなくても問題ない”ように手配していると言われた。
“警察に捕まる事もなければ”、“絶対に人に遭遇する事も無い”と言われた。
何が起きても目的地に着くまで絶対にエンジンを止めてはいけない。
速度に関しても重要であり、最低で40キロで最高でも60キロまでしか出してはいけないと言われた。
それ以下もそれ以上もダメらしい。
そして、絶対に後ろを見てもいけないと言われた。
それは乗せた人物を見る事も、後方を確認する事もしてはいけない事らしい。
曲がる時はどうすればいいかと聞けば、目的地までは一本道らしい。
端的に纏める。
1つ、エンジンを止めるな。
2つ、何が起きても止まるな。
3つ、速度を維持しろ。
4つ、後ろを見るな……以上か。
「……他には?」
「ありません。念を押しますが、絶対に停まらないで下さい。後ろを見てもいけません。例え何が起きようとも」
「不測の事態が起きた場合は? 契約書にはルールの順守によって発生したあらゆる事象から“生命並びに権利を保障”するとありましたが?」
「えぇ“保障”します。勿論です……他に質問がなければ早速お願いします。到着時間はおよそ5時間後になります。キーを」
「……どうも」
俺はキーを受け取る。
そうして、言われた通りに後ろを見る事無く運転席に乗り込む。
バッグから缶コーヒーを出してホルダーに入れて。
シートベルトをかければ、背後から凍えるような風を感じた。
何かいる、それも人ではない。
獣でもなければ、およそ命のある何かでもない。
ゲームでいう人外の気配のようで……まぁいいか。
俺はシートベルトを着けてからキーを差し込む。
エンジンを掛けてブレーキを踏みながらクラッチを踏んだ。
ローギアにし、ハンドブレーキを下ろす。
アクセルペダルを踏み半クラッチにして――そのまま進んでいく。
「……音楽、かけていいですか?」
「――」
「かけまぁす」
後ろの人を見ずに確認する。
全く何を言っているのかは分からなかったが、かちりとボタンを押して音楽を掛ける。
何が入っているかと思えば、80年代のアイドルの曲だった。
明るく軽い曲調の音楽で、俺はそれを聞きながら運転をする。
MT車は久しぶりだが、別に問題はない。
俺はそのまま真夜中の街の中に消えていった。
「――」
「……ふぅ」
暫く走行したが、特に問題はない。
後ろに座るお客さんも凍えるような吐息を吐く程度だ。
信号に関しても、停まる事が無くスムーズに進んでいる。
霧が少し濃い程度であり、天候も問題はないが……ん?
《この先、事故により渋滞しています》
「……渋滞か」
問題発生だ。
渋滞ともなれば通り抜ける事も出来ない。
必ず止まらなければいけない状況だが……。
「「――!!」」
「……マジか」
見えて来た。
車で道が塞がっている。
警察官も何人か立っており、誘導をしている。
ちらりと横を見れば歩道が見えるが、“真夜中なのに人が多く歩いている”。
あそこを通れば停車する事も無く進めるが。
低速で走行しても人を轢いてしまうかもしれないが……まぁいいか。
「少し揺れまぁす」
「――?」
俺は42キロほどまで速度を緩める。
そうして、一応はウィンカーを出してから歩道へと侵入する。
瞬間、ぎょっとした顔で悲鳴をあげる人々が見えた。
慌てて避けていて――若い警察官が立ちふさがる。
「止まれぇぇ!!!」
「あぁ無理だなぁ」
クラクションは二回ほど鳴らしておく。
が、避ける筈もなく――ドンと車に衝撃が走る。
フロントガラスは割れなかったが、確実に跳ね飛ばした。
リアルな感覚であり、道を突破すれば後ろの方で大勢の人間の声が聞こえる。
が、俺はそれを無視して50キロまで速度を上げておく。
事故現場を突破し、そのままルートを進んでいく。
ぼけっと街の景色を眺めながら欠伸をする……ねむ。
「……ん?」
前から強い光を感じた。
見れば大型トラックが迫ってきている。
完全に逆走であり、居眠りか何かだろう。
避けようとハンドルを切ろうとすれば――動かない。
「んー? 故障かぁ?」
全くハンドルが動かない。
速度を緩めなければ……いや、停車しなければ確実にぶつかる。
トラックとの正面衝突。
ミンチは確実で……いや、いけるか。
俺はそのまま迫って来る強い光を見つめる。
一瞬、ハッとしたような運転者の顔が見えて――横に逸れた。
交差点に進入した瞬間、左から猛スピードでスポーツカーがトラックに当たった。
その衝撃で二台は互いに左右に弾かれる。
残骸などは車に当たったが、何事もなく道を通過していった。
ハンドルを軽く動かして見れば……。
「戻った……ふぅ」
良かったと思いながら再び運転に集中する。
トラブル続きであり、色々な事があるもんだと思った。
災難だと思っていれば――後ろの何かが手を伸ばしてきた。
いや、手というよりは黒い靄のようなものだ。
何をする気かと思っていれば――目を塞がれた。
「何も見えないなぁ……すみません。手を退けていただけませんか?」
「――」
何がしたいのかと思った。
が、俺は気にせずに車を真っすぐに進める。
大体の道は記憶しているから問題はないが――サイレンが聞こえて来た。
《そこの赤い乗用車!! 止まりなさい!!》
「……警察? さっきのか?」
どうやら追ってきたようだ。
どんどん迫ってきているが、生憎とスピードは上げられない。
俺は50キロを維持しながら車を走行させて――パンとタイヤが爆ぜる音が聞こえた。
「パンク? 今?」
ガタガタと車が揺れている。
制御不能であり――次の瞬間には子供の悲鳴が聞こえた。
何かを跳ねた。
また跳ねた。
若い女の悲鳴も聞こえる。
どんどんどんと次々と跳ね飛ばしていた。
《止まりなさい!! その先は行き止まりだぞ!?》
「……」
行き止まりと言われた。
制御不能の状態ではあるが、ルート通りに進んでいる筈だ。
目を隠されてもそれは分かる。
が、警察が嘘をつく可能性は考えられない。
真に迫る叫びであり――
「まぁ……いいか」
《止まれぇぇぇ!!》
アクセルを緩める事無く進み――強い衝撃を感じた。
車が吹き飛ぶほどの衝撃だ。
浮遊間のようなものも一瞬感じて――がしゃりと音がした。
着地したのか何が起きたのか。
考えていれば、ゆっくりと目から手が退けられた。
すると、フロントガラスは罅が入っていて血で真っ赤になっていた。
ボンネットの部分もボコボコの上に血まみれだった。
確実に大勢の人間をひき殺した形跡があり……ウォッシャー液を出す。
血の汚れをワイパーで拭きとれば、何とか見えるくらいにはなった。
車の赤に、人の血の赤を見て……腹が鳴る。
「……ナポリタンが食べたいなぁ。コンビニで買おうかなぁ」
「――――!!」
後ろのお客さんがガタガタと震えている。
怒っているのかと一瞬思ったが……笑ってるのか?
変わった存在だと思いながら、俺はそのまま目的地へ向かって車を進めて――
運転を続ける事……まぁそろそろ5時間かな?
夜明けであり、日がゆっくりと昇っていた。
既に街から出ていて、今は鬱蒼と生い茂る森の中を進んでいた。
車は廃車寸前なほどボロボロだが、普通に動いていた。
俺自身はどうなのかと問われれば……ひどい状態だ。
ホテルで用は済ませていた筈なのに急に催した。
それも大きいのと小さいの両方だ。
耐えられないほどであり、コンビニや道の駅は見えていたが……俺はそのまま垂れ流した。
臭いは自分でいうのもあれだが控えめだ。
が、不快感は凄まじく。大人としての尊厳も……まぁいいか。
そんな事を考えながら進んでいき――ナビが告げた。
《1キロ先目的地です。運転お疲れさまでした》
「ようやくかぁ…………あら?」
1キロ先目的地。
確かにそう言ったが――崖だ。
木々の先には何も無い。
断崖の絶壁で、その直前が目的地でもない。
確実に飛べとナビは言っていた。
俺はハンドルを握りながら少し考えて……まぁ、そうだな。
「問題は――ないかぁ」
「――――!!!」
俺はそのまま速度を60キロにあげる。
そうして、片手でハンドルを握りながら欠伸を掻き――崖の先へとダイブした。
浮遊間、そして下が見えた。
海であり、遥か下だ。
アイドルの歌声が車内に響いている。
ゆっくりとハンドルから手を離して缶コーヒーを飲む。
目を細めながら、迫りくる海を見つめて――強い衝撃。
フロントガラスは一気に砕けて塩水が流れ込み、体は水圧でバキバキと折れて――――…………
…………――――目を開ける。
「……ん?」
俺は……寝ていたのか?
車の運転席で、あのビンテージカーで……元に戻っている?
乗った時の状態でピカピカだった。
体の状態を見れば、怪我も無く、服装も綺麗なままだった。
どういう事かと考えていれば……窓をノックされた。
視線を向ければ、Aさんが立っていた。
ジェスチャーで降りて来いと言われた。
俺はナビを確認する……目的地についていると表示されているな。
ドアを開けて外に出る。
周りを見れば、海岸沿いにある駐車場だった。
朝であり、カモメが鳴いている。
「お疲れ様です。今回の報酬になります」
「どうも……あの、警察とかは?」
「……? 何の事でしょうか?」
Aさんは首を傾げる。
ボイチェンを使っているので、嘘をついているかは判断できない。
が、車は新品のようになっていて警察がやって来る気配も無い。
夢か幻か、はたまたキツネにでも化かされたか……まぁいいか。
俺は封筒を受け取る……なんか分厚くねぇか?
何時もの二倍くらい厚い。
それだけ今回は重要な仕事だったのか。
そんな事を思っていれば、Aさんからまたお願いしますと言われて――端末が鳴る。
確認してみれば……なんだこれ?
不明のアドレスからのメッセで――
《タ ノ シ カ ッ タ》
「……まぁいいか」
俺は端末を仕舞う。
そうして、Aさんが手配してくれた帰りの車に乗り込んだ。