「……」
小走りで長い廊下を走る。
和室から一変し、石に囲まれてしまっていた。
石の間には窓のような隙間があり、そこに火のついた蝋燭が置かれている。
先ほど、念の為にと持ってきた緊急用の荷物からヘッドバンド風のライトを装着した。
これはある事を検証する為のものだが……ここらへんだな。
他にもオイルライターやメモ帳なども持ってきている。
こういう事もあると色々と持って来ていた。
使うかは分からないが……まぁいい。
「……!」
音が聞こえた……やっぱりか。
化け物の指音であり、俺は周りを見る。
すると、二つの部屋に繋がる扉を見つけた。
その周囲には蝋燭が幾つもあり、光源としての機能が十分に確保されていた。
俺は短い思考で二つを同時に開ける。
そうして、もう一方は開けっぱなしにし、もう一方へと入って扉を静かに閉める。
「……」
中を見ればベッドのようなものとボロボロのタンスが置かれている。
部屋の中は蝋燭が少なく、薄暗い状態だ。
俺はタンスへと駆け寄って中を開けた。
そうして、中へと入ってヘッドバンドに灯るライトを消す。
ヘッドバンドを片手で素早く脱ぎ捨てて、タンスの中に置いた。
そうして、タンスから出てそっと扉を閉じ、ベッドへと駆け寄り下の僅かな隙間に体を潜り込ませた。
「……」
木像を傷つけないように両手で抱える。
ライトを消した事で部屋は更に暗くなっていた。
指音はどんどん大きくなっていく。
ドンドンドンドンと――扉が勢いよく開け放たれた。
「――――」
扉を開けていた筈の部屋をスルーしたようだ。
ノータイムで此方に来たのがその証拠だ。
隙間から僅かに化け物の指が見えていた。
それらがゆっくりと歩き、タンスの方へと近づいて――指で突き刺した。
「――? ――!!」
バラバラと残骸が転がる。
巨大な手の化け物は目の前に転がったヘッドバンドを――踏みつぶす。
何度も何度も指で踏みつけていた。
まるで、怒りをあらわにするように見えた。
そうして、少し落ち着いたのか周囲を確認するような素振りを見せて……そのまま走り去る。
気配はどんどん遠くなっていき…………いなくなったな。
「……ふぅ」
俺はベッドの隙間に隠れながら思考する。
今の短い間の化け物の行動と今までの行動を踏まえて作戦を練る。
先ず初めに、俺は水を入れたひょうたんを持ってきたが。
これは正解だったと断言できる。
何故ならば、ここに来るまでにも化け物とは何度か遭遇したが。
逃げ場がない状況で、試しにと化け物が来る道へと壁まで水で線を引いてみれば……化け物は襲い掛かる事無く退散した。
つまり、化け物も俺と同じように水の上を越える事が出来ない。
これは化け物と遭遇した場合の対処法の一つだ。
だからこそ、最初にあの仕掛けを見せてから俺自身に必要なものを取らせた。
このひょうたんが必須アイテムで……それと水のラインはそう長くは保たない。
引いてから化け物が来て退散すれば一瞬で蒸発する。
引いて数分経っても蒸発するのは実験で分かった。
だからこそ、水のラインで化け物を閉じ込めるという事は残念ながら出来そうにない。
後は……光だな。
何度か遭遇した状況を考えてみた。
すると、その時は比較的、周りが明るくなっていたような気がする。
火の灯った蝋燭の本数が多く、ヘッドバンドのライト無しでも周りが見えるほどには明るかった。
つまり、あの化け物は音などに反応するというよりは……光によって相手を探知する存在のように思える。
光が強い場所に長時間いれば、高確率で化け物が向かって来る。
だからこそ、ヘッドバンドをしていて蝋燭の本数も多い状況であれば……今のように確定で向かって来る。
「……」
俺は呼吸を整える。
そうして、ベッドから這い出した。
見れば、部屋の外が暗くなっていた。
恐らくは、化け物が走って来た時の風圧で火が消えたんだろう。
目を凝らさなければよく見えないが、全く見えない訳じゃない。
これくらいの暗さであれば、探知される心配は無いが……デメリットもあるな。
俺は部屋から出る。
そうして、周囲を警戒しながらマップを広げた。
マップには今まで通った道が記録されていくが。
想像以上に迷路のような構造をしているので……もう少しだな。
「……よし」
他のルートも開拓しながら、先ずは北を目指して進んでいく。
この木像を置ける場所は北のエリアの何処かにある筈だ。
俺はそう思いながら、薄暗い廊下を歩いて行った。
歩いて、歩いて、歩いて……ようやく最初の目的地らしき場所に来た。
無事に来られたのは良いが……問題が発生していた……そう、化け物だ。
「――?」
「……」
先ほどから同じエリアをうろうろとしていた。
距離を取りながら、部屋の中からこっそりとそれを確認する。
そのエリアには一つだけ扉が存在していた。
比較的広いエリアであり、火の灯った蝋燭もそれなりに置いてある。
今までとは違い、両扉の部屋であり、扉には重そうな木の閂のようなものがされていた。
恐らく……いや、間違いなくあの部屋に木像を置くポイントがある筈だ。
だが、一向にあそこから化け物が離れる気配がしない。
ほとんど同じ場所をうろうろとしている。
幸いにも此方に来る気配は無いが……よし。
俺はとある部屋で見つけたアイテムを取り出す。
それは“古そうな小さな箱型のカメラらしきもの”だ。
これはかなり便利なアイテムで、真っ暗な中でもフラッシュ無しにハッキリと被写体が撮れるのだ。
そして、他にも見つけたのが……このタイマー式の目覚まし時計だ。
「……」
不気味な目覚まし時計だ。
人の頭蓋骨のようになっている。
ダイヤルを回せば、5分単位でタイマーがセットで来て最大で60分後にも起動できる。
試しに使ってみれば、時間ぴったりに周囲を明るく照らすように光り輝き。
カタカタと顎が震えて音が鳴り響くようだった。
別の部屋に隠れて使っていたから分かるが、動いている時間は……およそ10分ほどだ。
カメラを使ってあるものを撮りその写真を使えば、あの化け物を誘導するデコイになる。
それを発見したからこそ……此処で使わせてもらう。
「……」
カメラは無限に写真が撮れる訳じゃない。
最初は5枚と表示されていて、もう既に3枚分は使ってしまった。
1枚は最初の実験で使用し、もう2枚は先ほど使った。
俺はその場で手に入れた……俺が映った写真を部屋の中に隠す。
2枚ともであれば、見つかりにくそうな家具や置物の中に隠す。
そうして、タイマーを10分後にセットしてから部屋の中心に目覚ましを置く。
これで準備は完了であり、敵に察知されないように薄暗い廊下を歩いていき……化け物にギリギリ探知されない部屋の中に入る。
俺は扉を開けた状態で、物陰に隠れる。
そうして、奥の部屋のタイマーが作動するのを待ち…………起動した。
「――――!!!」
化け物の不気味な鳴き声が響く。
どたどたと移動を開始して、ピカピカと光っている部屋の中に入っていき――俺は飛び出した。
急いで閂の扉の前に走る。
音も何も気にしていられない。
奥の部屋から化け物が暴れている音が微かに聞こえた。
時間はあまりなく――閂に触れる。
「よ、っと」
木像を下に置き、閂を両手で持ちあげる。
そうして、急いで閂を外し――扉を押し開ける。
力いっぱいに押せば、音を立てて扉が開かれて行く。
すると、後ろで化け物の声が聞こえた。
俺は何とか隙間を作り、木像を拾い上げて――視線が合う。
「――――!!!」
「やべ」
部屋から化け物が飛び出してきた。
壁に衝突しながらも、ぎょろりと目玉を動かして俺を睨んできた。
俺はすぐに扉を閉じるが、化け物は此方に向かって走って来る。
扉を閉めて横を見れば、固定式の閂が置かれていて――全力で倒した。
瞬間、ガゴンと音がして閂がされて――ドンと扉に化け物がぶち当たる音が響く。
「うぉ」
「――!!!」
ドンドンドンと何度も衝撃が走る。
不気味な叫び声も響いていて、思わず声が出てしまった。
扉が大きく揺れていて壊されるかと思った。
が、想像以上に丈夫なようで……音が止んだ。
「……いる?」
気配は消えていない。
恐らく、部屋の前にいるんだろう。
出て来るところを襲おうという魂胆なのか。
最悪の場合は、今ある道具で何とかするしかないが……まぁいいか。
俺は扉から目を逸らし、中央に鎮座する石台に目を向ける。
まるで、祭壇のようであり、その後ろには巨大な右手の像が置かれていた。
木の根のようなものによって支えられていて、向けられた掌の中心には闇のように黒い瞳が……あれ? 何処かで見た気が……まぁいいか。
俺は木像を台へと持って行く。
そうして、その上に木像を置いて……下から根っこが出て来た。
それらが木像に纏わりつき。
像の内部へと侵入していく。
何か起こるのかと思ったが……他に変化はないな。
これでいいのかと思いつつ、部屋の前にいる化け物をどうしようかと考えて――化け物の叫び声が聞こえた。
「ん? 何が…………水の音?」
耳を澄ませば、水が流れる音が聞こえた。
何か起きたのかと思っていれば、下げた筈の閂が自動的に上がった。
そうして、扉が勝手に開いていき……おぉ。
歩いていく。
すると、部屋の外は先ほどよりも明るくなっていた。
先ほどは無かった蝋燭たち。
宙に浮いていて、青い火を灯していた。
見れば、化け物も遠くから俺を睨んでいたが……水が引かれているな。
水の線が部屋中に走っていた。
そうして、俺が通れるだけの道が作られていた。
まるで、水のラインの橋であり……俺はそれを通っていく。
「――――」
「……」
化け物はどんどんと指を地面にぶつけて威嚇してくる。
俺はそれを一瞥し、そのまま元来た道を帰っていく。
見れば、奥まで蝋燭の火が続いていて水のラインも続いていた。
アレを頼りに通って行けば、間違いなく元の部屋まで行けるんだろうが……なるほど。
今回の試練の事は何となく分かった。
あの手の化け物を上手い事やり過ごす。
アイテムなどを使って注意をひいたり機転を利かせて危険を回避したりなどしていきながら。
全ての像を正しい場所へと置いていくだけだ。
こういう類のゲームは何度かしたが……面白いな。
「ふふ……まぁどうでもいいか」
面白くても、面白くなくても。
これが仕事なら――ただ果たすまでだ。
例え、どんな結果になろうとも。
仕事を果たせるのなら……“結果なんてどうでもいいんだからな”。