誰にでも出来る簡単な仕事(大嘘) 作:V3
最近、めちゃくちゃ欲しいゲーム機が発売された。
何でも、最新の技術を使ったVRゲーム機で。
体を動かして、実際にゲーム内の広大なマップを冒険できるらしい。
ただ、めちゃくちゃ大掛かりな上にそれを設置する部屋も広くなくてはならない。
必要になる金は軽く数百万レベルで、今までの稼ぎでも少し厳しいくらいだ。
前回の仕事を終えて、俺はAさんに少しお願いをした。
『百万単位の報酬を貰える案件は無いですかねぇ』
『…………』
Aさんは暫く黙っていたが。
ただ一言、分かりましたと言って去っていった。
暫くして、連絡が来た。
何でも、俺の為に“特別な仕事”を用意してくれたらしい。
それは楽しみだと思ってもいない事を言った。
連絡が来て数分後には黒塗りの高級車が家の前に停まって俺を迎えに来た。
目隠しにヘッドフォンまでさせられて、車に乗り込んで暫く待てば……今回の仕事場についたようだ。
車の扉が開く音が聞こえて、全部外していいと言われた。
ヘッドフォンと目隠しを外し車の外に出れば……ホテルかな?
タワー型の高級ホテルであり、普通に他の人も出入りしていた。
妙に青白い肌の人たちで、薄ら笑いを浮かべていた。
中へと入ろうとすれば、同じような顔つきのドアマンが扉を開けてくれた。
そうして、一歩足を踏み入れて……ん? ホテルのフロントかな?
キョロキョロ周りを見る。
静かであり、先ほどまでいた人たちが消えていた。
何処に行ったのかと探していれば――口笛が聞こえきた。
視線を前に向ければ……なんかいるな。
「あれ? 今日は俺以外も来る感じだったのぉ?」
「……なぁんだ。あんまパッとしない人たちばっかじゃん。やだなぁ」
「あぁ、南無阿弥陀仏」
「無能そうな奴ばかり……私以外、脱落ね」
「……」
金髪ウニヘッドのホスト風の男。
明らかに、高校生くらいのマッシュヘッドの少年。
数珠を擦りながら手を合わせる袈裟を着た坊主。
長い黒髪にきつそうな目をした赤いスーツを着た美人。
どうやら、俺と同じように八咫烏に声を掛けられた人達のようだ。
改めて周りを見る。
シャンデリアに赤いカーペット、何処かのホテルのフロントだ。
豪華であり、まるで宮殿のように感じる。
しかし、ホテルの中でする仕事は何かと考えて……また誰かが入って来た。
視線を扉の方に向ける。
すると、そこには……へぇ。
「……あ! 井上さん!」
「……君も呼ばれたの?」
「は、はい! 今回は特別なお仕事で、報酬も多いって聞いたので……こ、怖いですけど。井上さんがいるのなら!」
「……あ、そ」
何でそんなに俺を頼りにしているのか。
変な子だと思っていれば――カツカツというヒールの音が響く。
屈強な体の男達を引き連れて現れたのは――Aさんだ。
「皆さま、ようこそお越しくださいました。今宵の仕事は特別なお客様に――心よりお楽しみいただく為の重要な仕事です」
「「「……」」」
全員がAさんを見つめる。
あんまり難しい仕事は嫌だなぁっと思って――
「仕事の内容は――スゴロクです」
「「「……は?」」」
「スゴロク……いいね」
「……ぇ」
楽しそうな仕事だと思っていれば、マッシュヘッドが手をあげた。
「どうぞ」
「……スゴロクって、その……サイコロを振って、マスを進めてゴールを目指す、あの?」
「はい、そのスゴロクです。皆様には、お客様が作られたスゴロクをして頂き――“ゴールを目指して頂きます”」
「……はは、何だよそれ。仕事ってか遊びじゃん! ちょー簡単じゃん……て、なる訳ないじゃん? どうせ、また何かやばいルールがあんでしょ?」
「時間の無駄よ。さっさと説明して頂戴」
「南無阿弥陀仏」
ルールは重要だ。
Aさんを見れば、彼女は指を二つ立てた。
「一つ、スゴロクへ参加すれば途中での離脱は特定の条件以外では認めません。二つ、マスに書かれた内容は絶対に実行しなければなりません。以上です」
「……マスに書かれた……なるほどねぇ、つまりマスを進めて何かをさせるって事かぁ」
「そのマスの内容って大体の事は分かんの? 例えば……死ぬ、みたいなのは無いよね?」
「詳しい内容はお答えできません。が、自らが命を絶つ事を強制するような理不尽極まりないものは無い事をお約束します。全て、実行可能な内容です」
「……あ、そ。ならまぁ……僕としては不安だけどさぁ。やってもいいかな?」
「ふん、関係ないわ。実行できるのなら、私に出来ない事はないから」
「……お姉さん、随分と自信があるねぇ。相当に、やり込んでる感じ? ま、俺もだけど」
「おばさんもおじさんも頑張りなよ? 目の前で死なれたら寝覚めが悪いからねぇ。ひひ」
「南無阿弥陀仏」
「……ぅぅ」
中々に個性的な面々だった。
他にも参加者が質問をしていき、Aさんが答えていく。
俺は静かに話の内容を頭の中で整理していった。
ルールについては二つのみ。
基本的に途中で抜ける事はできないのと止まったマスの内容は実行しなければならない。
自殺しろなんて理不尽な内容のものは無い。
途中離脱が可能な条件についてはゲームを進めれば分かる、と。
スゴロクなんて中学以来だ。
あの時やったのは人生ゲームだったが、そんな感じの内容か。
お金を貰ったり、アイテムを手に入れたり……まぁどうでもいいか。
全員がゲームの内容を考察していて――パンと手を叩く音が響く。
見れば、Aさんが手を叩いたようだった。
自然と全員の視線が彼女へと集まる。
「……担当者として、皆さまをお呼び出した上でこのような事を言うのはお恥ずかしい限りですが……今回に限り、参加を辞退する事も可能です」
「……へぇ、Aちゃんにしては随分と弱気じゃん。何? そんなにやばいって事?」
「お答えできません」
「……もう答えてるようなもんじゃん……ま、僕は参加するけどぉ? どうせ、ルールさえ守れば死なないしぃ」
「ふん、要らない気遣いね。さっさと案内しなさい」
「そうそう、此処に来た時点で俺たちはやるって決めてますからねぇ。はは」
「南無阿弥陀仏」
「……え? 何?」
「……い、井上さん」
全員がチラリと俺を見て来た。
俺は一応受けると伝えておいた。
泉春子さんも受けると承諾していた。
Aさんを見れば、静かに頷く。
そうして、彼女は手を上げて――ぱちりと指を鳴らした。
瞬間、全ての照明が消えた。
一気に真っ暗闇であり、全員が少し狼狽えて――電気がつく。
「「「……!」」」
全員の立ち位置が変わっていた。
いや、空間そのものも一変していた。
丸い木のテーブルを囲むように皆が立っていた。
テーブルの上にはスゴロクらしきものが置かれている。
光源となるものは、テーブルの上から吊り下げられている電球のみだ。
周りはよく見えない。
が、冷たい風が吹いていた。
耳を澄ませば風の音にのってうめき声のようなものが聞こえる。
人間か、獣か、得体のしれない何かの声で……さむ。
「……座りましょう。ゲームを始めるわよ」
「はいはい、お姫様」
「此処なに? 寒いんだけど」
「南無阿弥陀仏」
「ぅ、ぅぅ、怖いです……」
「……え、あ、うん」
おずおずと全員が席に座る。
すると、小さく折りたたまれていたスゴロクが勝手に開いていった。
コロコロと音がして普通のサイコロも出現し……誰か来る?
「「「……?」」」
靴の音だ。
真っすぐに此方に来ていた。
全員が気配のする方向へと視線を向けて……ほぉ?
「――」
「……鼠?」
「……鼠ね」
「……鼠じゃん」
「「「……」」」
鼠の格好とかではない。
完全に頭が鼠になった人間だ。
出っ歯であり、灰色の毛が生えていて目が赤い。
歯をカチカチと鳴らしているが、服装は執事のそれだった。
胸に手をあてて優雅に一礼し、鼠人間が指を鳴らす。
瞬間、パチパチと手を叩く音が響き――拍手が響く。
「「「……っ」」」
「……ん?」
「ひぃ」
拍手をしているのは誰か。
分からないが、観客的な何かか。
喜んでいるのなら良いと思っていれば、スタートの位置に小さな車が出現し――視点が変わった。
「……あれ? 此処は……運転席だ」
気が付けば車の運転席に座っていた。
周りを見れば、他の車にも参加者たちが乗っていた。
プラスチックの建物や巨大なサイコロ。
車の外を見れば……デカい鼠執事が見下ろしていた。
「「「……!?」」」
「……楽しそうだな」
他の参加者たちが盛り上がっているが声は聞こえない。
鼠の執事も歯を鳴らして笑っていた。
これから愉快なゲームが始まるのか、そう思って――目の前に数字が書かれた火が出て来た。
「……6?」
火は一瞬で消えた。
スゴロクの順番かと思っていれば――車内に声が響く。
《何この数字? って、あれ、私の声……あぁ手番って事ね。それじゃ》
カラカラとサイコロを振る音が聞こえた。
そして、右隣のオレンジの車のエンジンが始動する音が聞こえた。
見れば、あのきつそうな女の人で……進み始めたな。
《1、2、3……わ、カード? 何が……は? 1分以内に頭の毛を一本抜け、ですって……いつ! はい、これでいい?》
髪の毛を抜けという内容だったようだ。
クリア出来たようであり、チープなBGMが流れた。
次の順番は少年で……4マス進む。
やる事は5分以内にコーラを飲み干す事だったようだ。
本人は楽勝だったようであっさりとクリア。
その後も手番は流れていき……俺の番か。
「……これか?」
見れば、ダッシュボードの上にサイコロがある。
手に取って振れば……6だ。
エンジンが勝手につく。
アクセルを軽く踏めば、車が動き出した。
ハンドルは持っているが動くことはない。
アクセルを踏むだけで勝手に進んでいって……止まった。
俺が一番だ。
そう思っていれば、エアコンルーバーの隙間から何かが出て来た。
空中でそれをキャッチして中を開けば……あぁ、これか。
「……1分以内に食べろ……何を?」
俺は何を食べるのかと探す。
が、食べ物らしきものは何も見当たらない。
妙だと思って……右手が何かに触れた。
反射的に握れば、かさかさと動いていた。
これは何かと見てみれば……Gか。
「………………これか」
かさかさと動いているG。
何と無しにこれだと思って――口に入れる。
バリバリと噛み砕けば、何ともいえないえぐみが口内に広がる。
全く美味しくない上に、ざらざらとしていて……飲み込んだ。
「BGMだ。クリアっぽいなぁ」
《……え、アイツ何を食べたの……わ、私の番ね》
ゲームは進む。
女の人も今度は六マスだ。
次にやったことは煙草を吸う事のようで……吸った事が無いのか咽ていた。
《けほ、けほ、けほ……い、いけたのね》
「……ふむ」
妙な感じだと思った。
視線を上に向ければ、鼠の執事と視線が合う。
彼はにやりと笑って俺を見ていた。
まるで、その視線はこれからもっと面白い事になると物語っているようで……まぁいいけど。