誰にでも出来る簡単な仕事(大嘘)   作:V3

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8:簡単な作業で食事を提供するだけの仕事①

「……多いなぁ」

「「「――!」」」

 

 一週間ぶりのバイトの日。

 何時もの場所で集合し業務の説明を受けてバスに乗り込んだ。

 2時間ほど揺られて連れて来られた場所は……レストランっぽいなぁ。

 

 温かみのある照明器具。

 白いクロスの掛けられたテーブルに、一つにつき2脚の椅子。

 黄金の燭台がそれぞれのテーブルに置かれていて俺たちを呼ぶための小さなベルも置かれていた。

 床には赤を基調とし黄金の刺繍が入った高そうな絨毯。

 壁は血のように真っ赤であり、部屋の広さは100人どころか300人入っても十分と思えるほど広い。

 

 何故か、高価そうな花瓶に飾られている花は……ハマカンゾウか……変わってるな。

 

「……それにしても、天井が高くて、置いているものも大きい気が……?」

 

 全体的に巨人でも来るのかと思える空間だが。

 特にそれに関して気にしている人間は俺以外にいなさそうだった……まぁいいか。

 

 これから行う事は――食事を作る事だ。

 

『皆様にはお客様に対して、“簡単な作業”を行った食事をご提供頂きます』

 

 簡単に言えば、オーダーが入ってその通りの食事を提供する。

 勿論、ルールは存在する。

 

 一つ、オーダー通りの簡単な作業を行った食事を提供する事。

 二つ、お客様の所作を見て、適切な行動を取らなければならない。

 三つ、食事に関係しない事は質問をしてはならない。

 四つ、バトラーに呼ばれれば必ず別室へと向かわなければならない。

 五つ、食事を提供すれば速やかに厨房へと戻る事。厨房に戻るまで決して振り返ってはならない。

 六つ、お客様を待たせてはいけない。

 

 ルールに関してはそれほど難しいものじゃない。

 質問をしていた人間もいたが、本当に“簡単な作業”らしい。

 資格に関しても国からの仕事であるからこそ、特例として不問とすると言っていた。

 呼び出しの条件に関してや具体的に作るものに関しても聞いていたが……案の定、答えてはくれなかった。

 

 集められた人間たちを観察する。

 男女比率に関しては5対5っぽいがあまり関係なさそうだ。

 出身地や性別というよりは……太っている人間が多いかな?

 

 比較的、ぽっちゃりやら肥満体系の人間が多い。

 どういう選考基準かは分からないけど……まぁいいか。

 

「No! ミーの包丁を返してくださぁい!」

「……?」

 

 何やらハスキーなボイスが聞こえて来た。

 何事かと見れば……もめてる?

 

「……ですから、何度もご説明を致しましたが。必要な道具は全て揃えています。ですので、携帯類以外のものに関しては全て此方でお預かりすると」

「そんなの聞いてませぇん! 包丁は料理人のソウルデース! 返してくださぁい!」

「……大変だなぁ……ん?」

 

 職員らしき人が困惑しているのがマスク越しでも分かる。

 色んな人がいるんだなぁっと思っていれば……その職員と目があった。

 

 スタスタとこっちにやって来て……え?

 

「井上隆様ですね? 申し訳ないのですが、この方の包丁を一時的にお預かりして頂く事は可能でしょうか?」

「No! 誰ですかこの人は!?」

「この方はベテランの方です。我々が信頼しているお方ですので、この方がお預かりして頂けると承諾して頂ければ……貴方様の近くに置いておくことを特別に許可します。どうでしょうか?」

「ぐぬぬ……分かりました! 背に腹はかえられぬデース。よろしくお願いしまぁす!」

「あ、はい」

 

 職員の方から革のケースに入った包丁を受け取る。

 背が高くガタイの良い金髪に青い目の外国人は慎重にと言ってきた。

 取り敢えず片手で持ちながら、これは後で適当な場所に置いておくからと伝えておく。

 

「ご親切にどうもデース! Oh! 自己紹介がまだでしたぁ! 私はマイケル! マイケル・ハマーでぇす! アメリカ出身の料理人デース!」

「井上隆です。フリーターです」

「イノウエタカシィさんデースねぇ! 覚えました! 先輩、よろしくお願いしまぁす!」

 

 片手を掴まれて強引に握手をさせられた。

 ふんぶんと腕を振る明るいマイケル。

 良い人なんだろうなぁと思っていれば……奥の扉が開かれた。

 

 全員が視線を向けて……ほぉ。

 

「「「……ヤギの頭?」」」

「お待たせしました。もう間もなく、ご主人様がご到着されます。皆様は“上等な方々”であるとお話は聞いておりますので、ご主人様も今宵の食事を大いに期待されております……くれぐれも、粗相の無いように」

 

 カツカツと革靴の音を上品に立てて現れたのは――歪なヤギの頭をした老紳士だった。

 

 燕尾服を完璧に着こなす均整の取れたスタイル。

 渋みのあるダンディーな声であり、色気すらも感じるほどだ。

 が、頭がつぎはぎだらけのヤギの頭だった。

 白かったり黒かったり茶色であったり毛が無かったり。

 まるで、適当に部品を集めて素人が繋げたようなそれ。

 継ぎ接ぎの隙間からは枝のような……いや、アレは珊瑚か?

 

 白っぽい赤い珊瑚が生えている。

 何ともいえない異様さだった。

 全員が狼狽えているのが分かる。

 

 コスプレか特殊メイクか、全員がひそひそと言っている。

 が、彼はパンと手を叩き「私語は慎んでください」という。

 恐らく、この方がバトラーなんだろう。

 俺のような料理の素人たちはへらへらとしているが、マイケルのようなプロっぽい人たちは姿勢を正していた。

 

 ……そういえば、いつの間にか八咫烏の正規職員がいなくなっているが……まぁいいか。

 

「――いらっしゃったようですね」

「「「……!?」」」

 

 古時計の音が響く。

 何処から鳴っているのか分からない。

 が、入口の方から何かの気配を感じて――ゆっくりと扉が開かれて行った。

 

「「「――」」」

 

 闇の中から現れたのは――巨人だ。

 

 身長は2メートルはある巨体。

 扉やら天井が高かったりした理由が理解できた。

 純白のドレスは凹凸の激しい体のラインがくっきりと分かる。

 嗅いだことのない落ち着く香りがして、誰かが唾を飲むのが分かった。

 顔は見えない。赤い変わった帽子のようなものを被っていて黒いヴェールのようなものが掛かっていた。

 が、それよりも特徴的なのは――腕だ。

 

 金属……いや、甲殻類っぽい?

 

 つややかな光沢を放つ灰色のそれは明らかに人の腕じゃない。

 軽く動かせばギチギチと音が鳴り、指は刃物のように鋭く長かった。

 一歩進むごとにべちゃりと音がする。

 まるで、泳いで来たかのような水音だ……いや、この匂いって……あぁ。

 

 何となく分かった気がした。

 少し考えていれば、ご主人様とやらはそれぞれの椅子に座る。

 そうして、バッと全員が此方を見て来た……ん? 波の音か?

 

 奇妙なさざ波の音が聞こえてくる。

 チラリと周りを見れば他の人間も気づいているようだった。

 俺以外の全員が異様な光景と音に息を呑んでいた気がする。

 すると、バトラーがいつの間にか持っていた小さなベルを鳴らす。

 

「それでは皆様――仕事を始めて下さい」

「「「……!」」」

 

 全員がハッとする。

 そうして、自分の担当のお客さんのテーブルまで行く。

 予め、テーブルの番号札は見ていた。

 なので、俺も迷う事無く自分の担当のテーブルへと行く。

 

 お客様の前に立つ。

 二人は下を見つめて微動だにしなかった。

 

「ご注文をどうぞ」

「「……」」

「……?」

 

 注文を伺った。

 すると、二人がゆっくりと手を上げる。

 仮に右の人をAとし、左の人をBとする……Aさんは怪我してるのかな?

 

 二人が完全に手を上げるまで静かに待つ。

 彼女たちが手を上げていき……。

 

「――メダマヤキ」

「――タマゴカケゴハン」

「……味付けは?」

「「…………」」

「……塩? ……醤油? ……ソース? ……不要ですか?」

「「――」」

 

 音が聞こえた。これは……ソナー音?

 

 いや、ソナー音にしてはすぐに音が消えて……いや、少し長い音も?

 

 短い音と少し長い音の組み合わせで……Y……E……S……あぁ、Yesか。

 

「……焼き加減は?」

「「…………」」

「……拘りはありませんか?」

「「――」」

 

 ……これもYesか。

 

「……油は?」

「「…………」」

「……拘りはありませんか?」

「「…………」」

「……不要ですか?」

「「――」」

 

 ……なるほど。

 

「……お一人様で卵一つでよろしいですか?」

「「――」」

 

 ……Yesね。

 

「卵の種類は……鶏でよろしいですか?」

「「――」」

 

 確認の為に他にも幾つか質問をしようとし……二人はゆっくりと手を下げた。

 

「…………少々お待ちを」

「「……」」

 

 二人はもう何も言わなかった。

 俺は一礼し、すぐに厨房へと向かい――

 

「味付けは何ですか? 言っていただかないと作れませぇん!」

「「……」」

「Why? 目玉の焼き方はなんですかぁ? 片面だけ? 両面だけ?」

「「……」」

「オーノー!!」

 

 随分と苦戦している様子のマイケルの声が響く……まぁ何とかするだろう。

 

 俺はマイケルを見る事無くさっさと厨房へと向かう。

 中に入れば俺が一番だったようだ。

 

 俺は取り敢えず、マイケルの包丁を目立つところに置いておいた。

 そして、広い厨房の中で、食材が入れられている冷蔵庫へと向かう。

 中を開ければ卵が沢山入っていた。

 俺は卵を二つ取ってから、フライパンを取りコンロの方へ向かう。

 火をつけてから、油も敷かずに卵を割り入れる。

 じゅーっと音がして卵が焼かれて行った……よし。

 

 ほどよく焼けた目玉焼き。

 それを置いてあったフライでこそぎ取る。

 そうして、上に置かれていた白い皿をとって盛り付けた。

 

 目玉焼きの完成で、次にご飯が入っているであろう炊飯器を開ける。

 中にはほかほかのご飯があり、置いてあった黒いお椀に入れる。

 そうして、上に卵を割り入れて……うし。

 

「……」

 

 俺は二つを持って再びお客様の元へと向かう。

 その時に、何人かとすれ違った。

 全員が頭を抱えていた気がするが……まぁいい。

 

 お客様の元へと向かう。

 食事を置こうとすれば、二人はまたしてもゆっくりと手を上げていく。

 手を上げるまで待てば、顔を此方へと向けてきて……置けって事ね。

 

 食事をそれぞれのテーブルに置く。

 ナイフやフォークなどのものは置かれていない。

 が、持って行けという指示は無かった。

 俺はそのまま踵を返して厨房まで戻っていった。

 

 振り返らずに厨房の扉を開けてに中に入って……ん?

 

「おい、どうするよ? 目玉焼きに卵かけご飯って……味つけは?」

「し、知らねぇよ。俺だってそうだけどよ。聞いても答えねぇのに……ま、まぁ醤油でいいだろう?」

「……?」

 

 戻って来たのは素人っぽい人たちだ。

 明らかに味付けをどうしようかで迷っていた……何で?

 

 質問をちゃんとしていなかったのかと思っていれば一人が気づいてこっちに来た。

 

「あ、アンタ! さっき持ってったよな? 味付けはどうしたんだ?」

「え? 何もしてませんけど?」

「は、はぁ? 冗談だろう……いや、いいよ。その、お疲れさん」

「……? はぁ」

 

 彼は可哀そうなものを見るような目を俺に向けて食事の準備に向かう。

 何でだろうと思っていれば、何名かが食事の作業を終えて持っていく。

 そして、また別の人間たちが帰って来る。

 その中には放心状態のマイケルもいた。

 

「Happeningですよぉ……どう、すればぁ」

「……どうしたの?」

「ほわ! あ、あぁ貴方ですか……ミーの包丁は!?」

「そこ」

「お、おぉ! 良かったぁ……て、そうじゃなくてぇ! あ、貴方! 目玉焼きと卵かけご飯ですかぁ!?」

「え、うん」

「おぉ! も、もう出したんですよねぇ!? お願いしまぁす! 先輩! Help me!!」

 

 マイケルは滝のように涙を流して助けを求めて来た。

 そんなに悩む事かと思いながら何で悩んでいるのかと聞く。

 すると、彼は「全部デース!」という。

 

「味付けは言わない! 塩? 醤油? ソース? 焼き加減も言わない! 油に拘りもない! そもそも、卵の数をを聞いてもwill say anything! 何を質問しても答えてくれませんでしたぁ! 不思議な音が偶に聞こえたりはしましたがよく分かりませぇん! これではどうする事もできませぇん! 料理人として下手なものは出せないのデース!」

「……質問は手を下げるまでした?」

「え? そ、そうデース! 他にも聞こうとしたらぁ手を下げたので黙れと言われたような気がしたのでぇ……仕方なく帰ってきましたぁ」

「……もうちょっと具体的に状況を説明できる?」

「……? えっと。先ずはでぇすね――」

 

 俺はマイケルの話を聞いていく。

 その間にも、質問を終えた人間が帰ってきたり、食事の作業を終えて持っていったりしていた。

 マイケルは音に関してもしっかりと聞いていて分かりやすいように丁寧に説明してくれた。

 俺はそれを全て聞き終えて……うん、同じだな。

 

「……うん、だったら同じだね……そのまま出したらいいと思うよ」

「……What? そのままとは……どういう事ですか?」

「ん? だから、ただ卵焼いたものとただご飯の上に卵をかけたものを出せばいいんじゃないの?」

「…………ジョーク?」

「いや、マジだけど?」

 

 マイケルは顎に指を添えて考える。

 暫く考えて――ポンと手を叩く。

 

「分かりました! 質問に答えてくれなかった理由が! そして、音に関しては……恐らく、お客様たちの言葉デース! ですよねぇ!?」

「……うん、さっきの意味はハイって意味だと思うよ?」 

「Oh! つまり……! 味付けは不要、焼き加減にも拘りが無い、油もNo、ただの目玉焼きで、ただの卵かけご飯でぇ……あ、カトラリーはぁ?」

「いらないと思うよ? どうやって食べるかも分からないし、下手に出したら……ね?」

「おぉ、た、確かに……Yes!! Yes!! Yes!!! 理解できまぁした!!!」

「「「……!」」」

 

 マイケルのデカい声に何名かが此方を見ていた。

 マイケルはすぐに作業を始めに行く。

 すると、何名かがマイケルの作る姿をジッと観察している事に気づく。

 その後に入って来た人間たちは、他の人間から情報を聞いてすぐに動き出していて――

 

 

 

「「「……」」」

 

 全員が食事を出し終えた。

 厨房の中で、全員が呼ばれるまで待機していた。

 ぼけっとする者や談笑する者たち。

 そわそわとしている者や顔色が悪いもの。

 マイケルを見れば、緊張した面持ちだった。

 俺は暇すぎて欠伸を掻いていた。

 

 暫く待ち……厨房の扉が開かれた。

 

「……皆さま、最初の素敵な一品をお作りいただき誠にありがとうございました」

「「「……ほ」」」

「……そして、中でもご主人様が“胸躍った”料理を作って頂いた方々に……僭越ながら、私からスペシャルなもてなしをさせて頂きます。これより名前をお呼びする方々は私の後についてきてください。呼ばれなかった方々は、引き続き暫くの待機を。では――」

 

 バトラーが名前を呼んでいく。

 声がいいからこそハッキリと聞き取れた。

 次々と名前が呼ばれて行って……18人か。

 

「ふふ、何だろうなぁ?」

「美味いご馳走かなぁ?」

「楽しみぃ!」

 

 きゃぴきゃぴとはしゃぐ若者たち。

 彼らはそのまま厨房から消えていった。

 

「「「……」」」

「……先輩、ミーはとても不安でぇす……彼らは何をされるんですかぁ?」

「さぁ? まぁ予想だけど……もう帰ってこないんじゃないかな?」

「「「……!」」」

 

 全員が俺の方に視線を向けて来る……え、何?

 

「な、なぁアンタ! どういう事だよ!?」

「帰ってこないって……お、おい!」

「私たちはどうなるの!?」

「……落ち着きなよ。別にオーダー通りの料理を作ったら問題ないから、ね?」

「「「……っ」」」

 

 全員が顔面蒼白で離れていく……フォローになってなかったかな?

 

「……オーダー通り……やってみます。ミーは一流の料理人! 不可能はないのデース!」

「うん、頑張ろう」

「はい!」

 

 マイケルは白い歯でにかりと笑う。

 他の人間たちも怯えながら闘志を燃やしていた。

 俺はそんな人たちを見ながら、今日の夕飯の献立を考えていた。

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