『逆ミラクルが起こったので続きやります』
『今回は
家に帰った私は、最低限の寝支度を済ませてベッドに沈み込む。
まどかは今日、巴さんの家に招かれ、魔法少女についての説明を受けたことだろう。たった1つの奇跡の代わりに全てを失うことになる、あの契約について。
巴さんはずっと1人で戦ってきたからか、共に戦う魔法少女の仲間を欲しがる傾向がある。まどかを契約させたくない私としては、この状況の巴さんは厄介と言わざるを得ない。
『状況は最悪に近いです一番不味いのは
『具体的な願いがなくて契約までの猶予がある
『
言われてみると、それが一番痛いかもしれない。
美樹さやかは魔法少女の存在を知れば、遅かれ早かれ上条恭介のために契約をする。そして、現実と理想のギャップに苦しめられることになる。
そんな美樹さやかを、まどかは放って置くことができない。
美樹さやかを魔法少女から人間に戻すため、あるいは生き返らせるため、まどかが願いを使ってしまうところをこの目で何度も見てきた。
『ここから状況を巻き返すには複数回のスーパープレイが求められますがまだ終わったと決めつけるのは早計です』
『今やらないといけないのはマミさんの警戒を解く、
状況を整理すれば、やるべきことはその辺りになってくるだろう。
……どれも、これといった解決案は思い浮かばない。
巴さんとはどこかで共闘できれば敵でないことを分かってもらえるかもしれない。問題は、共闘を申し出て受け入れられるかどうかというところか。
まどかの憧れも、魔法少女の戦いが命懸けだということが分かれば一旦落ち着くかもしれないが……
上条恭介の腕に至っては、解決のためのあたりもつけられない。
今日はいつもよりもどっと疲れた。頭が回っていない感覚がある。
もう寝てしまおう。朝になればなにか思いつくかもしれない。
目を閉じてから意識を喪失するまで、そう時間はかからなかった。
翌日、教室に入ると、まどかと美樹さやかの視線が刺さるのを感じた。おおかた、グリーフシード目的で契約阻止を狙っている利己的な魔法少女と思われているのだろう。
『滅茶苦茶睨まれています特に
『正義感が強くてやや思い込みの強いところがある
どう動くべきか。
授業中も考え続け、結局休み時間になっても結論は出ないでいた。
今のまどかに契約の意志があるか、先に確かめた方が良いかもしれない。完全に放って置くわけにはいかないが、しばらく契約しないという確証が持てたなら、多少動きやすくなる。
この時間帯、2人は屋上にいるはずだ。
『
『屋上に上がる理由なんて焼いていってアイスティーを盛ってそのまま昏睡させるくらいしか無いから仕掛けに行ったと見て間違いないね』
何の話だろうか。
幻聴は、時折まったく意味のわからない内容になることがある。
かと思えば、口調は別として理路整然と状況の整理を行ったり、私の起こした行動に対して補足情報を話したりする。
そういうものだ、と言われたらそれまでなのかも知れないが。
なんとなく、違和感を感じる。
もっとも、幻聴が聞こえることそのものが異常事態なのだが。
屋上に着くと、まどかと美樹さやか、そしてキュゥべえが居た。
別の方向から視線を感じる。反対側の建物に巴さんも居るらしい。見張りのつもりだろう。
「昨日の続きかよ」
「いいえ、そのつもりはないわ」
『そうですただ屋上で焼いていってスッゲぇ白くなったらアイスティーを振る舞うだけです』
『そのまま地下室へ連れ込んで大胆な告白をして2人は幸せなキスをして終了だね』
この場にいるのは3人と1匹だが。いや、巴さんも入れると4人か。
……今は、幻聴の茶々に付き合っている場合ではない。思わず額を手で押さえる。
「そいつがあなた達と接触する前にケリをつけたかったけど、今さらそれも手遅れだし」
『ひと昔前のゲームならセーブ&ロードでやり直せましたがそんな甘いことは許されません』
『「なんでさっさと時間を巻き戻さないんだよ糞珍歩アホアホ犬野郎」というコメントが殺到しているけどこれには訳があるね』
『
『しかも巻き戻す時間も自分では決められず例の病室で起き上がるところからスタートしてしまいます色々と使い勝手が悪い!』
『そもそもワルプルギスの夜の討伐には一度も成功していないから有効打の模索という意味でもどんなひどい展開になっても捨てゲーをするわけには行かないね』
任意のタイミングで時間を巻き戻せたらどれだけ良かったろう。でも、もしそうだったら、私の心は今以上に人間性を失っていたのかもしれない。
一度咳払いをして、改めて向き直る。
「で、どうするの。あなた達も魔法少女になるつもり?」
「私は……」
「あんたにとやかく言われる筋合いはないわよ!」
ある。
あるのだ。けど、それを話す訳にはいかない。
以前に、ソウルジェムの抱える秘密を皆に打ち明けた事があったが、誰にも信じて貰えなかった。
ましてや、今は敵対視されている。余計に出鱈目だと思われるだけだ。
「昨日の話、覚えている?」
「うん……」
「なら、いいわ。忠告が無駄にならないことを、祈ってる」
これがどこまで効果があるのかはわからない。だが、言わないよりはマシな筈だ。
『
……今からでも補足を入れるべきだろうか。
しかし、話は巴さんも聞いているはずだし、この場にはキュゥべえも居る。迂闊なことは言えない。魔法少女の戦いは命懸けだとでも言えば少しは契約から遠ざけられるだろうか。
「……まだ、なんかあんのかよ」
余計に不審に思われてしまったようだ。美樹さやかの怒気の籠もった声が胸に突き刺さる。
早々に立ち去った方が良さそうだ。
「いいえ、要件はそれだけ。じゃあ」
「あ、ほむらちゃん、待って!」
2人と1匹に背を向けようとして、まどかに呼び止められる。
「ほむらちゃん……あの、あなたは、どんな願い事をして魔法少女になったの?」
あなたとの出会いをやり直すためだ。
なんて、そんなことをこの場で言う訳には━━━
『ここで本当の事を言えばワンチャンあるけど多分無理だね』
『毎回参謀にタイムリープのことを話して君の行き先は病院だされたプロフェッサーを彷彿とさせますデータが足りない!』
やはり、そうだ。本当の事を打ち明けても、どうせ信じて貰えない。
私は黙って背を向け、その場から去った。
『さぁ放課後になりました好き勝手に動けます』
『好き勝手に動けるとは言っても状況が状況なので実質一択だね』
巴さんは、どうやら2人を連れて魔女退治をしているらしい。
危険な行為だが、巴さんは強い。相性の悪い相手でなければ一般人を守りながら戦うことなんて造作もないことだろう。
だが、それが2人の憧れを刺激する。
大量に銃器を展開し、派手な必殺技もある彼女の戦い方は華やかで、まるでアニメの魔法少女そのものだ。
端から見れば、命を懸けた戦いをしているとはとても思えない。
彼女の戦いに魅了されて契約する可能性も無くはない。私は、先回りしてできるかぎり魔女を撃破することにした。
『
『ソウルジェムは魔力を消費すると濁っていって完全に濁り切るとゲームオーバーで人類滅亡だね』
『つまりグリーフシードはマナポーションのようなもので何をするにしても欠かすことができません』
数体の魔女を倒し、廃ビルを通りかかったところで、また魔女の反応を捉える。それと、良く知った反応がもうひとつ。
『先を越されました』
『再走しろ』
どうやら、この魔女は先に巴さんに見つかっていたようだ。とはいえ、まだ使い魔の相手をしているかもしれない。結界の入り口を━━━
『倒されました』
『記録は0∶00で多分
魔力の反応が1つなくなるのを感じる。
それと同時に、前方にグリーフシードを持った巴さんと、そこに駆け寄るまどか、美樹さやかの姿が見える。
『完走した感想ですがマミさんが最強です皆もマミさんを使おう!』
『マミさん1人に全てを託す戦法ならほぼ全ての魔女をWRで撃破することも夢じゃないね』
『そういうわけで画面の前の
……そういえば、この幻聴は物事がうまくいかない時により大きく騒ぐ気がする。私の元の性格を考えるなら、責め立てられるような幻聴で無意識に自虐をすることは、まぁ無くはないのだろうが。
『ところで、マミさんがこちらになにか投擲したね』
「へっ?あっ?!」
幻聴に気を取られていたせいで、反応が遅れてしまう。
目の前まで迫った━━━恐らくグリーフシードを手で受け止めることは叶わず、額にコツンと硬質なものがぶつかった感覚がした。
「ご……ごめんなさい、そんなつもりじゃなかったの」
受け止められると思っていたのだろう。巴さんは予想外のことが起きて驚いているような、困ったような、そんな顔をしている。
「お詫びっていうわけじゃないんだけど、もし良かったら使って頂戴。あと、1回くらいは使えると思うから」
心なしか、巴さんの態度が軟化しているような気がする。
『コイツは人の罪悪感を引き出して心に付け入る生粋の詐欺師こと
『マミさんは真面目なので自分が悪いことをしたと思ったら素直に悪いことをしたと思って謝ってきますそこを利用するんだ!』
言い方は気になるが、巴さんとの関係が悪くなった時にこれは使えるかもしれない。もっとも、意図的にそんな状況を作るのは難しいような気もするが。
そんなことを考えながら、床に転がったグリーフシードを拾い上げる。
『グリーフシードを投げてよこすという行為ですが、一歩間違えれば棘の部分が目に刺さってそのままDIEするので皆さんも気をつけてください』
確かに、グリーフシードは底部から棘が生えている。これが壁に刺さっているところを以前見たことがあるので、見た目相応に鋭利なのだろう。
……私も偶に投げることがある。
今度から控えよう。危ないし。
「……ありがとう、使わせてもらうわ」
この空気の中であなたの獲物だからとか、誰にも頼るつもりはないなんて言えるはずもなく。
私は、巴さんの好意を受け取ることにした。
「……」
なんとなく、気まずい。
向こうも対応を決めかねているようで、互いに見合わせたりこちらに視線を送ったりしている。
「じゃあ……私は先に行かせてもらうわ」
キュゥべえもいる以上、あまり長居する訳にもいかない。
彼女たちに背を向け、この場を去る。
「悪い子じゃ、なさそうだよね」
「良い悪いっていうか、思ったより抜けてるところがあったというか……」
「そうねぇ。一度しっかり話し合いをすれば、もしかしたら協力しあえるのかも知れないわね」
彼女達が見えないところまで移動してらから、そんな声が聞こえてきた。無様なところを見せてしまったが、少しは印象の改善ができたかもしれない。
『ミラクルが起こってマミさんとの関係改善に希望が見えてきたね』
『投擲されたソウルジェムを額で受け止めることで結果として間の抜けた雰囲気を醸し出し剣呑な空気を払いましたしかしなぜ急に反応をやめてしまったのでしょうか』
お前たちのせいだろう。
なんて、幻聴に言っても仕方がない。
今回は良い方向に転がったからどうにかなったが、毎回そうなるとも限らない。
とはいえ、光明が見えたのも事実だ。
うまく行けば、ここから巻き返せるのかもしれない。
最悪の状況から始まったと思っていた今回の時間軸で、希望が見えてきた。
それがなんだか、少しだけ、嬉しいと思ってしまったのだった。