『運命をねじ曲げたので続きやります』
『今回はお菓子の魔女戦をなんとかしてマミさんを生存させたところからだね』
翌日。
教室に入ると、まどかはどこか浮かない様子だった。
美樹さやかはいつもと変わらないように見えるが、きっとあれは空元気だろう。
無理もない。
これまで憧れていた世界が、実際は死と隣り合わせだったということを突きつけられたのだから。
実際には巴さんは死ななかったが、魔法少女は命懸けだということは分かってもらえたはずだ。
『マミさんがマミればこれ以上ない抑止になりましたが一応
『そうなると問題なのが
美樹さやかが契約するとまどかが契約する可能性も高まる、という話は以前にも整理した通りだ。
彼女の契約を阻止するには、原因となる上条恭介の腕を治してしまうのが一番手っ取り早いと思うが、結局その方法は何も思いつかない。
『
『他に回復魔法が得意な魔法少女といえば
幻聴が私の全く知らない魔法少女の名を挙げている。
千歳ゆまは辛うじて知っている。たしか、美国織莉子の襲撃があった時間軸で佐倉杏子と行動していた魔法少女だ。
後半の2人のことは全く知らない。
もちろん、適当なことを言ってだけの可能性もあるが。
『そもそも
『今の
また、私の知らない情報だ。
そういえば、千歳ゆまのことは深く考えたことがない。美国織莉子の襲撃以来一度も見たことがないため、気にしても意味がないというのもあるが。
確かに彼女の魔法は回復に特化していた。
それなら、上条恭介の腕を治すことができるかもしれない。しかし、今幻聴が話したことが事実だとすれば、これから彼女を探してもきっと意味は無いのだろう。
『環いろはは2017年にサービスを開始して既にサービスが終了しているソーシャルゲームマギアレコードの主人公だね』
『環いろはの固有魔法は回復だと思われていましたが後半で巻き戻しだと判明し魔法少女まどか☆マギカが元々時間を巻き戻して運命を変えようとする物語だということを思い出させてくれました』
『ちなみにマギアレコード以外の時間軸では契約前に交通事故で死亡することが確定していて
私がメガネを外すと人が1人死ぬとでも言うのか。とんだバタフライエフェクトだ。
『最後の
『何事もなければ神浜市で生存しているはずだけどドッペルシステムも魔女誘導装置のウワサもない神浜でどれだけ保つのかは議論の余地があるね』
『
神浜市。
見滝原からは離れたところにある新興都市だ。もちろん、今まで意識したこともない。
なぜ、幻聴がそんなところにいる魔法少女のことを知ってるのだろう。
これは、本当に私の頭が生み出しているものなのだろうか。
『あっそうだここでいう祈祷力とは祈る方の祈祷力であって決してちんちんの先っぽの力という意味ではありません』
『ちんちんの先っぽの力で生き死にが決まる世界観だったらここまでの大ヒットを記録していないので皆さんも間違えないように気をつけてください』
……私の頭が生み出しているものであってほしくない。
切実に、そう思った。
『ゲーム媒体で回復系が割り当てられることが多い魔法少女といえば
『これで正式に回復系魔法少女をあてにできないことがわかったね』
『誰かの怪我を治すなんて結構ありそうな願いでしたが現実はそんなに優しくなかった!』
『一説によると願いの性質もあってマミさんの治療魔法で治せるんじゃないかと噂されているけど真偽は定かでないね』
巴さんの魔法で?
たしか、巴さんは交通事故から生き残るために契約したはずだ。その割に、固有魔法はリボンだが。
そう考えると、たしかに治療が得意でもおかしくはない。
彼女は今日、体調不良で休んでいるらしい。
昨日のフォローも兼ねて、放課後に話をしにいくことにした。
その後、大きなトラブルもなく放課後を迎えた。
強いて言えば、キュゥべえがまどかに接触したが、これは契約の意思があるかを確認するためのものだったようだ。
契約するつもりが無いことが分かると、これでお別れだなんて言っていたが、奴がこの程度で諦めるとは思えない。
『インキュベーターがこの程度で諦めていたら
『こいつは大口契約を絶対に逃さない営業の鑑ことインキュベーターだね』
だからこそ、契約に至る原因を潰しにいくのだ。
巴さんの住むマンションには幾度か足を運んだことがある。
もちろん、これまでの時間軸での出来事で、この時間軸では今日この時まで付近を訪れたことすらない。
「暁美さん……?どうして、この場所を……?」
そのため、私がどうやって住所を特定したのかという巴さんの疑問は至極全うだったし、呼び鈴を押す前に言い訳を考えておくべき事柄だった。
『コイツは人を付け回して住所を特定し突然押しかけてくる人間の屑ことストーカーだね』
『端から見ると完全にヤバいやつですこのまま警察に通報されてパクられるところまでは覚悟しておいたほうが良いかもしれれません』
「……先生から聞いたの。今日、巴さんが休んでいるって聞いて。心配だから見舞いに行きたいって言ったら、教えてくれたわ」
我ながら苦しい言い訳だった。
クラスも学年も違う上に、私はつい先日転校してきたばかりで、表面上は巴さんと何の繋がりもない。
「そ、そうなの……立ち話もなんだし、上がっていって?」
『まさかの警戒ゼロで家に上げてくれたね』
『
私のことはすっかり信用してくれたのか、それとも突然のことでやや混乱したのか、思いのほかすんなりと部屋に入れてくれた。
「巴さん、昨日のことは……」
「大丈夫、もう整理はついたわ」
意外だ。
重く受け止めて結構引き摺るタイプだと思っていたが。
「1人で戦うのが怖くて、寂しくて、だから鹿目さんや美樹さんを巻き込もうとしてしまった。契約を無理強いしたわけじゃないけど、もし契約してしまっていたら、彼女達はこの先ずっと魔法少女の使命に囚われることになっていた……」
神妙な面持ちで語っていた巴さんは、ふとこちらに笑いかける。
「これで、良かったのよ」
どこか寂しそうな笑みで、そう言った。
『浮かれに浮かれていろんな問題を見なかったことにしていたマミさんですが最終的に反省したし立ち直れました』
「巴さん。この前言ったことを、覚えてる?」
「え?」
「あなたはもう、1人じゃない。これからは、私も一緒に戦う」
『
「暁美さん……本当に、いいの?」
『一度味方だとわかると途端にチョロくなるのが魔法少女巴マミです見てくださいよこの顔!』
そうなのだろうか。
いや、たしかに今の巴さんの顔は期待に満ちて輝いているが。
チョロいというのは、私の中の巴さんのイメージとはやや異なる。初めの方の時間軸では味方だったことも多かったが、その頃の印象はチョロいというより、少し怖かった。
……それは魔法少女の真実を知った時のイメージからか。
この時間軸の巴さんが知ったら、また同じことが起きるのだろうか。
「ええ。これからよろしく頼むわね、巴さん……それで、少し相談があるのだけど」
そろそろ、本題を切り出そう。
「このままだと、美樹さんが契約してしまうかもしれない。それを阻止したいの」
「美樹さんが?昨日のことで、すっかり幻滅しちゃったと思ってたけど」
「美樹さんの幼馴染に上条恭介という男子がいるのだけど、彼は事故で片腕が動かなくなっているの。それを治すために、きっと美樹さんは契約してしまう」
事実、繰り返しの中で美樹さやかが契約しなかったのは、彼女が魔法少女の事を知らないまま過ごした時間軸くらいだ。
「それって、普通に治療したんじゃ治らないの?」
「そうね。少なくとも、今の技術だと治せない」
『
『ここは治らないと答えるしか無いけど
「暁美さんって、転校してからまだ1週間も経ってないわよね?それに、昨日まで美樹さんとの折り合いも良かったわけじゃないでしょうし……どうやってそのことを知ったの?」
『早速追求されましたこの間までの浮かれ具合が嘘のような冷静さです』
しまった。
巴さんに相談するのはほとんど思いつきの実行であり、深く追求された時のことは何も考えていない。
これが佐倉さんなら細かいことは気にしないのだろうが、巴さんはそうはいかない。
「……暁美さん?」
嫌な汗が頬を伝うのを感じる。
心なしか、巴さんの表情がだんだん険しくなっているように見える。
「……クラスメイトが、そういう噂話をしているのを聞いたの。美樹さんが頻繁に見舞いに行っているということも」
『ストーカーを白状する訳にもいかないからとりあえずこの場は誤魔化すことにしたね』
『
「そう……」
どうやら、納得してもらえたようだ。
使える時間には限りがあるが、ある程度の段取りは考えてから動くべきだろう。今度からはそうしたい。
「美樹さんには、このことは話してあるの?」
「いいえ。もし治せなかったら、魔法でも科学でも治せないことになる。そうしたら、もうキュゥべえの売る奇跡に縋るしかなくなると思って」
「話しておいた方が良いと思ったけど……考えがあるなら、良いわ」
『ところどころヒヤッとする場面がありましたがとりあえずマミさんは
これで美樹さやかの契約を阻止することができれば、後はワルプルギスの夜の対策に集中できる。
もしかしたら、今回で本当にまどかを救うことができるのかもしれない。
逸る気持ちを抑えることができず、私は巴さんを連れて病院へ向かった。
「ところで」
病院の受付で上条恭介の病室を聞いた後で、巴さんは困ったような表情を浮かべ、私を見る。
「その人の前で変身して、魔法を使うの?そんなことして大丈夫なのかしら……」
『民間人に魔法少女のことをどれくらい知られて良いのかは基準がはっきりしていないね』
『一説によると宇宙の意思により魔法少女のことを知った民間人は暗殺されてしまうらしいですが詳細は不明!』
『そうでなくても
巴さんの疑問に続いて幻聴が意味不明な補足を入れているが、問題はない。
「大丈夫、考えがあるわ。こっちに来て」
そう言って、一旦人気のない場所に移動する。
『やめろこんな人気のないところに連れ込んで一体何をするつもりなんだこんなことをして君になんのメリットがあるというんだ頼む考え直してくれ!』
『人気のないところに連れ込んでやることと言えばカツアゲか良からぬ事だね』
「……私の魔法を使うわ。巴さん、私の手を掴んでいて」
念のため、魔法を使うことを宣言する。
ここまできてそんな誤解はされないだろうと思うが、そう言及されてしまうとどうしても不安になる。
「えっと、こうかしら?」
別に誤解はされていなかったようで、巴さんはきょとんとした顔で私の手を握る。
巴さんの手の温もりが伝わってくる。
思えば、こうして人と手を取り合うのは何時以来だろうか。
もう誰にも頼らない。
そう決めてから、一体どれだけの時間が経ってしまったのだろう。
……感傷に浸っている場合ではない。
私は変身して、左腕の盾を操作した。
「このまま、手を離さないで。手を離せば、あなたの時間も止まってしまう」
色彩の失われた、自分たち以外のすべてが停止した世界を、巴さんは目を丸くして見渡していた。
「時間を、止める?それが暁美さんの魔法なの?」
「そうよ。これなら、誰にも見られずに魔法を使える」
『時間を止めれば
『このまま
ここまで来たのだ、今更止めるつもりもない。
病室に入ると、色素の薄い髪色をした男子がベッドに横になっていた。
直接話したことはほとんどないが、間違いなく上条恭介だ。
『コイツは今回のターゲットでバイオリンにしか興味を示さない人間の屑こと上条恭介だね』
それは流石に酷い言い草だと思うが。
……もしかして、頻繁に見舞いに来てくれる美樹さやかには好意を示さず、志筑仁美の告白を受け入れるのはバイオリンにしか興味がなくてそれまで恋愛なんて考えていなかったからじゃないのだろうか。
なら、志筑仁美の前に美樹さやかが告白すればそのまま受け入れるのだろうか。
「この人ね」
巴さんの確認に、私は頷く。
「じゃあ、いくわよ」
巴さんも変身し、上条恭介の左腕に手を翳す。
『マミさんの魔法は命を繋ぎ止めるためのものだとされており固有魔法がリボンなあたり神経や腱が切断されても治せるのではないかと噂されています』
私は治療の魔法はあまり得意ではない。
視力の矯正や負傷治療程度ならできなくはないが、動かなくなった腕の治療なんて、どうすれば良いのかも分からない。
そういう意味でも、私でなく、巴さんにやってもらう必要があった。
しばらくして、巴さんが顔を上げて私に向き直った。
「ねぇ、暁美さん。治ってるかどうかの確認はどうすればいいのかしら……」
あまり考えていなかった。
確かに、時間が止まっていると腕が動かせるかどうかなんて確認ができないか。
『コイツは人を巻き込んで起きながらノープランで動く人間の屑こと
「……一旦、病室の外に出ましょう。私がお見舞いに来たという体で彼と話して、腕が治っているか確認してみる」
巴さんは私の提案に特に異存はなかったようで、私たちは一緒に病室の外まで向かった。
「ここで待ってるわ」
巴さんが変身を解除するのと同時に、私も変身を解除する。
世界に色彩が戻り、静寂が───幻聴のせいでそう思えない瞬間が多々あったが、ともかく人々が動き出す気配を感じられるようになる。
「失礼します」
ドアをノックし、改めて病室へ入る。
「え?えっと……どちら様ですか?」
「暁美ほむらです。上条恭介君、よね?最近、見滝原中学に転校してきたの。同じクラスだったから、顔合わせがてらお見舞いをしようと思って」
『普通は友達とかと一緒に来て紹介されるような気がしますが友達が1人もいない投稿者にはそのあたりのセオリーがわかりません』
「転校……そう言えば、さやかがそんなことを言ってたっけ」
流石に、私のことは伝えられていたらしい。
学校で起きたこと、日常であったこと。美樹さやかは彼にそういったことを頻繁に話しているのだろう。
少し、羨ましく思う。
「事故で左腕が動かなくなってしまったとか」
「ああ、これ……」
何かを言いかけた上条恭介が目を見開く。
彼の左手は、ちゃんと動いていた。
まさか動くとは思っていなかったのか、言葉を失って放心している様だ。
『やりました』
『現代医療での治療が不可能だった負傷が寝て起きたら突然完治していて医学界に震撼が巻き起こること間違いなしだね』
確かに。こういう場合、関係者にはどう説明されるのだろうか。
とにかく、このままここに居て面倒になるのも嫌だ。上条恭介が放心している隙に病室を後にする事にした。
「成功よ。ありがとう、巴さん」
「本当に?」
病室の外で待機していた巴さんに結果を伝えたが、彼女はどこか浮かない顔をしていた。
「魔法で治そうとした時にね、手応えがなかったの。時間が止まっていたからかもしれないけれど」
血の気が引く感覚がした。
手応えが無いということは、つまり既に治っていたということになる。
既に治っていたということは、つまり───
「まさか……」
『終わりました』
『うんこをしたらトイレットペーパーがなかった時と同じくらい終わりました』
『液状のうんこが出たのにウォシュレットもトイレットペーパーもなかった時と同じくらい終わりました』
『しかし投稿者は液状のうんこをしても拭かないのでまだ希望はあります』
『くっさきったな死ね』
頭が痛くなってきた。
焦燥感からか。それとも何時にも増して汚い幻聴のせいか。きっと両方だろう。
動揺している私に、巴さんが次に取るべき行動を提案してくれた。
「美樹さんを、探しましょう」
結局、巴さんの言うとおりに美樹さやかを探すことにした。
もし契約しているのだとしたら、魔女を探して歩き回っているはずだ。
なら、こちらも魔女を探せば遭遇しやすいだろうということで、二手に分かれて魔力の痕跡を探っている。
廃工場付近を訪れて反応を探ると、魔女の反応を見つけた。
そちらを見ると、1つの建物に足取りの覚束ない人々が入って行くのが見える。
恐らく、魔女の口づけを受けているのだろう。
『この場所と操られている人々の挙動を見るにアニメ本編の4話で出てきた魔女です』
『プレイ中の投稿者はまどポで
美樹さやかとそこまで強い因縁のある魔女はいないはずだが。
ひとまず、巴さんに魔女を見つけたことを連絡し、廃工場に入る。
内部に結界は形成されておらず、廃工場そのままの景色が広がっていて、操られている人達が集まっていた。
その中に、見覚えのある姿があった。
「あれっ危ないんだよ!ねぇ仁美ちゃん、離してっ!」
まどかと、志筑仁美がいた。
どうやら操られているのは志筑仁美だけらしい。
『
『これまでの行動で魔女を探す流れになっていなければ
幻聴の言葉に、背筋が凍る。
数時間前まで、これですべて解決するかもしれないと考えていた自分を恥じた。
契約の芽を潰して満足して、その結果まどかが魔女の犠牲になるなんて、考えたくもない。
「鹿目さん!どうしてこんなところに!」
「ほ、ほむらちゃん!?仁美ちゃんの様子がおかしくて、後を着いてきたの、そしたら……」
まどかは私を見ると、人々が集まっている方を指さす。
「混ぜちゃ駄目な洗剤を混ぜようとしてるの!危ないってママが……!」
見れば、確かに風呂桶のような容器に洗剤を入れようとしている。
『酸性洗剤と塩素系洗剤を混ぜることで発生する塩素ガスは第一次世界大戦でも使用された最も有名な毒ガスだね』
『ATM10で鉱石倍加機構を作るときに扱った塩素ですが混ぜるな危険の洗剤を混ぜることでも発生させることができその場合恐らくスティーブは死にます』
なるほど、集団自決を引き起こそうとしているのか。
魔女にしては、やり口が賢しい。
「あれは私がなんとかする。あなたは安全な場所に───」
「あら?暁美さん、ごきげんよう。そうだ、暁美さんもご一緒に新しい世界へ旅に出ませんか?」
『コイツはパート1からちょいちょい出てるけど今までフォーカスされてなかった緑担当こと
『アニメ本編の緑担当は
志筑仁美がこちらを認識したようだ。
よく見ると、まどかは彼女に捕まって身動きが取れない状態にある。
もう時間が無い。先に洗剤をどうにかしてからだ。
変身して、時間を止める。
洗剤の入った容器を回収して窓の外に放り投げ、まどかの所に戻ってくる。
『一応魔女戦が控えているから
「あれっ、ほむらちゃん、今……え、みんな止まってる?」
志筑仁美に当身を繰り出した後、まどかに触れる。
初めての時間が止まった世界の反応を見るのは、今日で2回目だ。
「落ち着いて。私の魔法で、時間を止めてるの。今のうちに、志筑さんと安全な所に避難して」
「そんなことができるんだ……ほむらちゃん、凄いね……あれ、仁美ちゃんは?」
「大丈夫、気絶してるだけだから」
『コイツは誰も見てないのを良いことに女子学生に暴行を加えた人間の屑こと
『首筋を叩いてもそんなに簡単に気絶するわけ無いのでかなり強めに叩いていますし後遺症が心配です』
……大丈夫なはずだ。多分。
巴さんもこっちに来てるし。
それより、まどかを避難させよう。
「私に触れていないとあなたの時間も止まってしまうから、手を離さないで。着いてきて」
「う、うん……!」
工場から出れば安全だろうか。
念のため、入り口から少し離れた所の物陰まで連れ出してから、まどかに向き直る。
「ここまでくれば、安全だと思う。じゃあ、手を離すわね」
「手を離したら、私の時間も止まっちゃうんだよね。ほむらちゃん、頑張ってね」
まどかの応援を背に、再び工場に入る。
魔力の反応を探ったところ、どうやら工場内の一室を根城にしているようだ。
「暁美さん!」
『マミさんが合流しましたこれで珍歩で操作しても勝てます』
巴さんの声だ。廃工場に魔女が居たとだけしか送れなかったが、魔力を辿ってここまで来れた様だ。
「間に合ったみたいね。さ、行きましょう!」
「ええ、気をつけて。この魔女は沢山の人を操っていた。相応に強力なのかもしれない」
扉を開けると、魔女の結界が広がっていた。
まるで、水中の中にメリーゴーラウンドをいくつか積み重ねて、それを内側から見ているようだ。
この結界には見覚えがある。
『ハコの魔女は相手のトラウマを刺激して動揺を狙う精神攻撃系を得意としているね』
『魔法少女は怖すぎて死んだり大発狂大脱糞死をすることはありませんが似たようなギミックがあって精神攻撃を受け続けるとどのみち人生が終了します』
幻聴がやかましいが、確かに不味いかも知れない。
「早速お出ましね!」
巴さんは張り切っているようだ。その調子で速攻で片付けてくれれば、杞憂に終わるのだが。
現れた魔女は、モニターに翼が生えたような見た目をしていた。
やはり、見たことがある。
「巴さん、そいつの画面を見ては駄目!一気に片を付けて!」
返答は返ってこない。
巴さんは、魔女を見つめて硬直している。
『different storyではマミさん単騎で撃破できていたのでワンチャンさっきの呼びかけで注意がそっちに行った可能性があります』
『コイツは利敵行為で仲間になった魔法少女を謀殺して見滝原のグリーフシードを独占しようとする人間の屑こと
援護に入ろうとするが、デッサン人形に翼が生えたような見た目の使い魔が邪魔をしてくる。
そもそも、魔女と巴さんの距離が近すぎてここでは誤射しかねない。
『フィジカルでは最強のマミさんですが精神攻撃への耐性は並程度なので
そうこうしている内に、使い魔が巴さんの腕を掴み、引き伸ばしていく。
こんなところで巴さんを失う訳には───
そう思った瞬間、使い魔が切断され、巴さんが解放される。
『利敵行為で大ピンチだったのが突然好転したね』
『しかしこの攻撃は何でしょうか今の見滝原に斬撃属性を扱える魔法少女は多分1人しか居ません青色で鎧のような衣装で誰かを助けたいという性質の願いを叶えたのは1人しか居ません!』
青色の軌跡によって、目にも留まらない速度で使い魔が両断されてゆく。
魔女はそれに向かって画面を向けるが、何の効果も無いとでも言うように、あっさりと接近され、剣に貫かれる。
「美樹、さやか……」
『そう「あ」から始まって「き」で終わる青色で切断属性持ちの魔法少女は1人しか居ませんがたった今青くて切断属性持ちの魔法少女が増えました』
『プレイ中の投稿者はワンチャン浅子小巻であって欲しいと思っていたけど案の定
結界が晴れていく。
巴さんも、我に返ったようだ。
「2人とも、危ないところだったんじゃない?」
「美樹さん……ありがとう。やっぱり、契約していたのね」
そうじゃないかとは薄々思っていたが、実際に目にすると込み上げてくるものがある。
美樹さやかは、契約してしまった。
思わず膝から崩れ落ちてしまう。
「ちょ、そんなにショック受けることある?」
美樹さやかが私を立ち上がらせ、これからのことを話し合おうと、一度巴さんの家に集まるという話になったが、よく覚えていない。
美樹さやかが契約してしまったことでこれから起こる負の連鎖を、どう対処するか。
私の頭は、そのことでいっぱいだった。