『何もかも上手くいくとは限らないので続きやります』
『今回は
美樹さやかが契約した。
私の経験上、それは様々な厄介事の前兆になる。
『
『必ずしもそうとは限らないようですが
『アニメ本編ではマミさんがマミったから縄張りを奪いに来たみたいなことを言っていたくせにマミさんの生死に関わらずやってきます性質が悪い!』
『マミさんが生きているのに現れるパターンは妹弟子ができたから様子を見に来ただけという噂があるけど真相は明らかになっていないね』
佐倉杏子。
美樹さやかや巴さんとはスタンスが真逆の魔法少女。
特に、美樹さやかはやや潔癖なところがあり、佐倉さんとは相容れない。
そして、彼女が見滝原に来るのなら美樹さやかとの接触は避けられない。いつか必ず対峙することになるし、そこからより大きな問題に発展する。
どうしょうもない、負のサイクルに入ってしまう。
『起こったことはもう仕方ないからこれから起こることへの対策をするべきなのですが何をすれば良いのか分からない!』
『確実な方法があるとすれば
佐倉さんを殺害してしまうのは論外として、しかし全員の関係を良好に保つ方法は思いつかない。
そもそも、佐倉さんはまだ見滝原に来ていない。しばらく様子を見よう。
「おーい、ほむらー。返事くらいしなって」
美樹さやかの声で意識を現実に向ける。
あれから既に日付が変わり、既に登校時間だ。
思考に没頭しすぎて気づかなかったが、美樹さやかが挨拶してきたのを無視してしまっていたらしい。
『コイツは気に入らない人からの挨拶を無視する性根の腐った奴こと
だから、そんなつもりはなかったのだが。
「もしかしてまだ怒ってる?まぁあんた、あたしに契約して欲しくなさそうだったしね」
昨日、どういうやり取りがあったのか詳細には覚えていない。
恐らく始終反応が薄かったことを怒っていると思われているのだろう。
実際、美樹さやかが契約したことについて、良い感情を持っていない。
持てるわけがない。
「でも、折角叶えたい願いを見つけたんだ。あたしの命を賭けても良いって思える願い。危険なことは承知の上よ。それなら、文句無いでしょ?」
何度か、似たようなことを聞いたことがある。
しかし、そのたびに彼女は絶望に負けてしまった。
この後に待ち構える運命を思うと、美樹さやかの晴れやかな声が聞くに堪えなかった。
『ところで、こころなしか
『考えられる要因としてはパート2のグリーフシードキャッチ失敗をまだ覚えていて
少し違和感があったが、そういうことなのだろうか。
複雑だ。あまり覚えていてほしくないのだが。
「ごめんなさい、ちょっと考え事をしていて。おはよう、美樹さん。まどかも、おはよう」
「ほむらちゃん、おはよ……」
まどかも、美樹さやかのことが心配なようで、不安げな表情を浮かべている。
昨日、工場から出てまどかと合流した際、契約したことを知られてしまっていた。
『以前にも説明したように
私がいるからか、キュゥべえは付近にはいないようだ。
だが、今いないからといって注意が疎かになっていてはいけない。起きたことを悔やんでも仕方がない、気を引き締めなければ。
「ねぇ、ほむらちゃん。ちょっと話があるんだけど……今日って、この後空いてる?」
放課後になって、まどかが声をかけてきた。
話というのは、十中八九美樹さやかの事だろう。
「ええ、大丈夫よ」
『そう言えば
『各パートでちょいちょい顔を合わせたり話はしてますが腰を据えて話し合うのはこれが初かもしれません』
昨日も会っているが、恐らくそういうことを言っているのではないのだろう。
意図的に距離を置いているからというのもあるが、落ち着いた状況で相談を受けるということは、これまでの時間軸でもあまりなかったことだ。
「ほんと?じゃあ、行こ」
まどかに連れられて、近くのファストフード店に入る。
まどかは軽食を頼んだようだ。私は空腹というわけでもないのでコーヒーを一杯注文し、まどかと向かい合せになって座る。
『コイツは育ち盛りの中学生のくせに食事をコーヒーだけで済ませる人間の屑こと
どういう食生活を送っていようと人の勝手だろう。
いざとなれば魔法もあるのだし。
『2026年8月28日に誰しもがこいつの昼食を見てドン引きしたことでしょう序盤で2~3回武蔵坊弁慶したDarkness農民よりも健康度が終わっています』
2~3回武蔵坊弁慶した、ダークネス農民?
なんなのだろうか、それは。どこの要素をとっても何のことか全く想像がつかない。
「えっと、話っていうのは、さやかちゃんのことなんだけど」
まどかが話始めたので、意味のわからない幻聴は置いておいてそちらに集中する。
やはり、美樹さやかが契約したことに関することのようだ。
「あの子は思い込みが激しくて、意地っ張りで、結構すぐ人と喧嘩しちゃったりして……」
「でもね、すっごくいい子なの。優しくて勇気があって、誰かの為と思ったら頑張り過ぎちゃって」
「魔法少女としては、あまり向いていない性格ね」
生き残ることだけを考えるなら、ある程度は狡猾で、利己的な方が良い。
最も、街を守るためにたった1人で戦ってきた巴さんや、まどかを救うために契約した私が今もなお生き残れているのだから覆し様はあるのだが。美樹さやかの場合、時間の余裕がないのが問題だ。
「そう、なの?」
「度を越した優しさは甘さにつながるし、蛮勇は油断になる。そして、どんな献身にも見返りなんてない。そこを弁えていないと、最悪命を落としかねない」
「……そう、なんだ」
『このあたりの話はできるだけ
『コイツは親友が死ぬ可能性を示唆して不安を募らせる人間の屑こと
『あんまり不安を煽ると
だからと言って、絶対に平気だなんて無責任な事を言うわけにもいかない。
ただ、幻聴の言うように不安を煽るだけで済ませるのも良くないか。
「大丈夫よ。そうならないように、しばらくは私と巴さんでサポートすることになったから」
「そうなんだ、良かった」
それまで沈んでいたまどかの声色が少し明るくなった。
「さやかちゃんね、自分では平気だって言ってたけど、きっと無理してると思ったから。気にかけてあげて欲しいのって、ほむらちゃんにお願いしようと思ってたんだ」
『ところで、この話をするならマミさんが同席していてもいいはずなのですがこの場には居ません』
『考えられる可能性としては
言われてみれば確かに。放課後になってすぐ此処まで来たが、まどかが巴さんに声をかけた素振りもない。
巴さんは言われなくても後輩の面倒を見てくれるタイプだからわざわざ言わなくてもいいと思ったのだろう。
多分、そうだ。
「ねぇ、ほむらちゃんは、平気なの?」
「……何のこと?」
「ほむらちゃん、マミさんとは違った意味でベテランって感じがするし、きっと魔法少女になってから長いのかなって。マミさんと同じようにずっと1人で戦って来たのかなって、そう思ったの』
幻聴のせいでとぼけた返事をしてしまったが、どうやら今度は私の心配をしてくれているようだ。
「怖くなったり、嫌になっちゃったり、しないの?」
「そんな感覚、とっくに麻痺してしまったわ」
『三つ編みメガネの頃は3人がかりでもビビっていましたが今の
私の話をしても仕方がない。不要な事を言って余計な心配をさせてしまうのも良くないし。
美樹さやかへの懸念が落ち着いたのなら、ここは切り上げておこう。
「さっきも言ったように、美樹さんのことはこっちでも気にかけておくわ。あなたは今の立場のまま、偶に美樹さんを労ってあげて。それが、少しは報いになるから」
「ほむらちゃん……」
まどかはまだ何か言おうとしていたが、私は席を立ち、その場を後にする。
悪いとは思うが、これ以上魔法少女の事情に立ち入らせたくはない。
「よぉーし!これからは私達3人で、見滝原の平和をガンガン守ってこー!」
「私たちもサポートするけど、あんまり無茶しちゃダメよ?」
少し時間が経ち、日が暮れてきた頃。巴さんと美樹さやか、そして私の3人は街へパトロールに繰り出した。
美樹さやかの経験が不足している以上、魔女との戦闘で不覚を取る可能性が高いため、しばらくは3人で───少なくとも美樹さやかは2人1組で魔女退治を行うことになっていた。
『見滝原の平和を守るため魔法少女の出動だ!』
『プレイ中の投稿者はまだ余裕があると思って
『居ないよりかは居たほうがワルプルギスの夜戦も楽なのでそれまでには一線級にまで仕上がってもらいます』
確かにワルプルギスの夜との戦いで足手まといになられるよりかは、多少なりとも成長させた方が良いのだろうが。
焦燥感ともどかしさが募ってゆく。何か、他にできることはないのだろうか。
「お、なんか見つけましたよ!」
「この反応は使い魔の結界ね。折角だし、1人で戦ってみる?私も、ちゃんと美樹さんの戦い方を見ておきたいし」
「はい!」
『そんなこんなしている内に使い魔と遭遇しました』
巨大な積み木が積み重なったような結界の中に、おもちゃの飛行機のような姿をした使い魔が飛び回って奇声を上げている。
『コイツはCVが
……言われてみると、なんとなくまどかの声と似ているような気がしないでもない。
美樹さやかは決して弱いわけではない。昨日も契約したてで魔女を撃破した実績がある。
使い魔一匹を相手に手間取るとは思えないので、私も様子見することにした。
「そんじゃ、いっちょやりますか!」
そう言うやいなや、美樹さやかはマントから7〜8本の剣を取り出し、使い魔に向かって投げつけ始める。しかし、そのほとんどは既のところで回避されたり、やや狙いがズレて外れている。
『
『流派技が使えるのは大きなアピールポイントですが当人のステータスを考えるとこれはちょっと微妙かもしれません』
『
近づいて切り伏せればそれで済むのはそうなのだろうが、個人的なことを言うとこちらの方が有難い。
爆弾を主体に戦っていた頃、何度か彼女を巻き込みそうになって、彼女自身からも苦情が来ことを思い出す。
あれから銃器を扱うようになったが、結局誤射のリスクがある以上、味方の全員が何かしらの遠距離攻撃を持っている方がこちらとしては助かるのだ。
「ああもう!すばしっこいなあ!」
闇雲に投げては埒が明かないと思ったのだろう。残りの数本をあえて使い魔の進路上に投げつけ、足を止める。
実戦はこれで2回目のはずだが、咄嗟のところで機転が利くあたり、やはり戦闘のセンスは高いほうなのだろう。
そして、本命の1本が使い魔目掛けて飛んでゆき、甲高い金属音が鳴り響く。
剣が、突如として伸びてきた槍によって弾き落とされたのだ。
『
『いくらなんでも
「なっ!?」
「ちょっとちょっと、何やってんのさアンタ」
自身の身の丈を超える大きな槍を携えた、赤い衣装の魔法少女がどこからともなく現れる。
間違いなく佐倉杏子だ。
使い魔はそのまま逃げてしまった。結界も、使い魔が離れるのと同時に解除される。
「あれ、魔女じゃなくて使い魔だよ?卵産む前の鶏シメてどうすんのさ」
「何を……使い魔だって人を襲うんでしょ?放っておいたら犠牲が出るのよ!?」
「だから、何人か人喰って魔女になるのを待てって言ってんの。そしたら、ちゃんとグリーフシードを孕むようになるからさ」
考え方も、私の知っている佐倉杏子と変わらない。つまり、美樹さやかとは決定的に相容れないということだ。
『コイツは何の罪もない一般市民を危険に晒して私腹を肥やす人間の屑こと
『初見の
『しかし投稿者も効率よくアイテム収集ができるならやるタイプなので人の事を言えません』
『ATM10とかで村人を生贄に必須素材を集められるなら迷いなく実施するタイプだしなんならやった記憶があるね』
幻聴の独白に耳を傾けている場合ではないのだが、中々の外道だ。
今更か。この間、一般人を囮にするとか爆弾を取り付けて敵に突っ込ませるとか言っていた気がするし。
「それとも、やれ人助けだの正義だののおちゃらけた冗談かますために、キュゥべえと契約したわけ?」
「そう……変わってしまったわね、佐倉さん」
『元カノが今カノに噛みついてきたからマミさんがたしなめに来たね』
佐倉杏子と美樹さやかの間に巴さんが割って入ってくる。
詳しくは分からないが、佐倉杏子と巴さんの間には深い因縁がある。どうやら、かつて師弟関係にあったらしい。
幻聴があたかも恋愛関係だったかのような事を言っているが、適当な脚色だろう。これはいつものことだ。
「この子は私の大切な後輩なの。あまり、変なことを吹き込まないでもらえるかしら」
その当時の事を私は知らない。どんなやり取りがあって、何故別れたのかも、聞いたことはない。
ただ、巴さんの神妙な面持ちが、事情が複雑なのだということを物語っていた。
「ッ!……そういや、マミとつるんでるって話だっけねぇ。ひよっ子に教導ってか。アンタは変わんないね」
巴さんが一緒に居るとは思っていなかったようだ。減らず口は言っても、先程までの余裕は消え、一気に警戒の度合いを高めている。
『
『幻覚の固有魔法を使う
『タゲ散らしだけでなく攻撃もできるので本来ならこの程度の人数差は余裕で覆すことができるのですが諸事情で今は使えません』
初めて聞く話だ。
本当なら、彼女は固有魔法を封じたまま今まで活動してきたことになる。なるほど、強いわけだ。
「んで、噂のイレギュラーもソッチ側かい。キュゥべえのヤツ、話が違うじゃんか」
佐倉杏子が一瞬こちらに視線を向ける。
キュゥべえから私のことを聞かされていたようだが、組んだところまでは知らなかったようだ。そう言えば、昨日の話し合いの場にはキュゥべえはいなかった。
『情報漏洩元がインキュベーターということが判明しました』
『編集中の投稿者が確認したところアニメ本編4話の最後でインキュベーターと
『これからプレイする
そうか。佐倉杏子とキュゥべえが接触したということは、美樹さやかの情報もキュゥべえが話したということだろう。
恐らく、佐倉杏子に状況を引っ掻き回させて、まどかを契約に踏み切らせるために。幸い、この場にまどかは居ないが。
そんなことを考えていると、後ろから駆けてくる足音と、叫ぶような声が聞こえてきた。
「さやかちゃん!大丈夫!?」
『
『コイツは何の力もないのに親友の危機に駆けつけずにはいられない人間の鑑こと
振り向くと、息を切らしたまどかと、その足元にはキュゥべえがいた。
甘かった。この状況をキュゥべえが作ったのなら、まどかを巻き込むのは当然といえる。
「まどか!?あんた、なんで……」
「おいおいおい、どうなってんのさ。もう1人いるなんて聞いてないよ!」
『
美樹さやかと巴さんは驚いているようだが、佐倉杏子の表情はますます険しくなる。幻聴の言うように何か勘違いをしているようだ。折角だ、利用させてもらおう。
「佐倉杏子。数ではこちらが有利だけど、このまま続けるつもりかしら?」
「あん?アンタ、どこであたしの名前を……いや、いい。確かにこれじゃ分が悪い。今日は出直す」
『このままだと
上手くいったようだ。
巴さんが何か言いたげにこちらを見つめているが、今は佐倉杏子に退いてもらうのが優先だ。
「あんたら全員ぶっ潰して、この縄張りをあたしの物にする。覚えときな」
そう言うと、彼女は建物の壁を蹴り上がり、屋上につたっていった。
場に張り詰めていた緊張の糸が緩む感じがした。
「暁美さん、今のは危なかったわ。もし勘違いされて鹿目さんが巻き込まれていたら……」
『コイツは一般市民を囮にして戦いを優位に進める人間の屑ことストーム1だね』
早速巴さんから追求がきた。私もそう思う。
狙いが何も分からない、正体の不明な相手ならこんなことは絶対にしないだろう。
ただ、佐倉杏子は頭の回る方だ。例え3対1でも───いや、巴さんが一緒に居る時点で、対決は避けて適当なところで切り上げていただろう。それに、無抵抗の相手に攻撃するような性格ではないはずだ。
「ごめんなさい。けれど、佐倉さんも不利な状況で敢えて仕掛けてくるタイプじゃない。退いてもらうならこれが一番手っ取り早かったわ」
「そうかもしれないけど……」
「マミさん!アイツなんなんですか!使い魔を放っておくって、そんなのおかしいじゃないすか!」
「美樹さん。そういう子もいるのよ、残念ながらね……」
『マミさんが理想の魔法少女すぎて
『
やはり、美樹さやかと佐倉杏子は相容れない。
しかし、この状況を打開できなければ、どちらかが犠牲になりかねない。そうなれば、まどかが契約する可能性が高まってしまう。
それどころか、今でさえまどかが2人の仲を取り持つために契約することだってあり得るのだ。
「魔女退治って雰囲気じゃ、なくなっちゃったわね。佐倉さんのことと、これからのこと、私の家で話しましょうか。良かったら、鹿目さんも来ない?」
普通ならまどかを巻き込むわけにはいかないと言うところだが、1人で思い詰めて契約に踏み切られたらたまったものではない。
今は、巴さんの提案を飲むしかない。マンションに向かう足取りが、何時になく重く感じられた。