きっと、変えてみせるから   作:るべおら

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短いです…


第1話 海鳴

 

 

 

『お母さん…あの…クッキー焼いてみたの…』

 

でも、お母さんは食べてくれなくて。

お姉ちゃんは美味しいって言ってくれたけど…

 

『お母さん…おやすみなさい…』

 

帰ってくる声はない。返事はない。

 

『…起きて、お母さん…フェイト…お母さん。見て…私を見て…』

 

『お母さん…お願い…私…を…』

 

部屋で、ずっと眠り続けるお母さん。起きていても、その紅い瞳に私が映る事は無くて。

悲しくて、辛いけど…

それがフェイトお母さんという人だった。

なのはお母さんを、深く…深く愛していた…

それ故に、壊れてしまった優しい心。

 

 

フェイトお母さん…きっと…きっと私が…

 

 

 

* * * *

 

 

 

「……あれ?ここは…山の中?」

 

瑞葉が目を開けると、そこはどうやら山の中の様だった。今はすっかり太陽も隠れ、月が辺りを照らしている。

前髪を擽る風は塩辛く、そこが海に近い事を教えてくれた。

大好きな、海鳴の街の香り。

…いや、確証は無いのだけれど。

 

「…」

 

自分の姿を見てみる。

格好は…白いワンピースを一枚着ているのみ。

…お気に入りのワンピースだ。

貰ったお給料で初めて買った服で、思い出の詰まったお気に入りの服。

…まあ、別に私は服なんて買うつもり無かったのに、Vが「女の子ならオシャレな服は買うべき」と何時もの真顔で言うものだから、つい買ってしまっただけなんだけど。

でも、愛着があって何時も着ていたワンピース。

 

…おかしいな、私、このワンピースは着てなかった筈なんだけど…

 

というより、持ってきた筈の荷物も見当たらない。

探してみるけど無い。上着のポケットに入ってたデバイスも…当然のように無い。

 

「ど、どうしよう…」

 

アームドデバイス『パルチザン』。

はやてさんが言うには私は「なのはちゃんとフェイトちゃんを足して2で割ったような戦闘スタイル」らしいから、それに合ったデバイスを開発するのはとても大変だったと聞いてる。

…折角作ってもらったのに…

 

「パル…」

 

デバイスが無いとなると、マトモな戦闘は出来ない。それ以前に、デバイスに登録してた補助系の魔法も使えないかも。

 

あるものと言ったら、今着ているワンピースと…

すぐそばに落ちていた、青い結晶体。

ジュエルシードだ。

…おそらく、私が未来で使ったやつだと思う。

所持品は、この二つだけ。

 

「…えっと…これからどうしよう?」

 

気持ちを切り替えよう、落ち込んでいても仕方ない。

…狙い通り、過去に来れたのかな?

…だとしたら私の戸籍なんて無いよね。

荷物も失くしちゃったし、どうやって生きて行くの?

そういえば、ジュエルシードを手に入れる方法や過去へ行く計算は綿密にやったけれど、いざ過去に来てからの事を何も計画してない。

Vはそのことについてやたらと気にしてたけど…

 

…あれ?そういえば。

 

「V?」

 

周りを見渡す。いつも側にいる口うるさい使い魔がいない…「ずっと側にいる」とかかっこいいこと言ってたのに…途端にこれだ。全く、困ってしまう。

…でも、いないと心細い…

 

とにかく…もう夜だし。

…この近くに街とかあるかなぁ。

無かったら死んじゃうなぁ…

 

Vもいない。パルもない。

 

「…とりあえず、歩くしか無い…かな?」

 

夜の森は非常に危ないと思います。もしかしたら野生動物が出る山かもしれないし。

というよりも、ここが「地球」だという確証も無いのだ。もし違う世界だったなら…魔獣とか出てくるかも。

…うん、なので私はとりあえず街に向かうことに。

幸い、この山は別に大きい山でも無いし…裏山くらいの大きさかな?きっとすぐに抜けられるだろう。

 

呟き一つ、そう零して。

瑞葉は歩き始めた。

 

…8歳の少女が1人で街に行くのは、それはそれで不味い気がしなくもないけれど。

 

 

 

* * * *

 

 

 

…歩いてみると、意外と早く街に着いた。見覚えある街並みが、やはりここは海鳴だということを保証してくれている。ひとまずは安心、と言ったところか。

 

とりあえず24時間営業という素敵なお店、所謂コンビニに入り新聞で日付を確認する。

すごいねコンビニ。時間旅行者の味方だね。

 

…日付を見ると、やはりここが過去だということがわかった。

時間移動は成功した、ということ。

 

ふぅ…と堪らず息を吐く。

 

「…よかったぁぁぁぁ〜…」

 

本当に良かった…これで失敗して「虚数空間に放り込まれちゃいました☆」じゃあんまりだもんね。

思いっきり肩の力を抜いて脱力する。

さて、過去に来れたはいいけど…

来れたは来れたで大変だ。

存在しない筈の私は、本格的に家なき子なのですよ…

今更自分の無計画さが嫌になりましたよ、流石に。もう、私の馬鹿。ついでにVも馬鹿。

 

残念ながらお金も持っていないため、何処にも泊まる事は出来ないし…どうしよう。

 

ふむむ…今ある手持ちで出来ることを考えるしかない…よね?となるとジュエルシードの場合は…

「宝石と偽って売りさばく→お金入る→嬉しい」

…うん、ちょっといい案かも、と思ったけどこれは普通に却下だ。

どこの世界に危険指定ロストロギアを宝石店に売りさばく魔導師がいるのだ。というか宝石と偽るって無理あるでしょ。単なる結晶体だし。

 

後はあるものはワンピースだけど…

「脱ぐ」

…脱いでどうする。酔っ払ったはやてさんじゃあるまいし…脱いだ所で何があるわけでもない。

「私を一晩買ってくれませんか?」

…いや、無理。というか私子供ですし…

そこ!耳年増とか言わないで!私はまだ8歳なの!

 

まあつまり…現状の改善余地なし。

いっそのこと高町家に転がり込むのもアリかもしれないと考える。

あの人たちなら、ワンピース1枚で深夜の街を徘徊している怪しさMAXの子供でも養ってくれそうだし。

…でも、迷惑をかけるのもなぁ…

ああ…でも…なのはお母さんもいる…よね?それはもう、会いたい。超会いたい。

 

「はぁ…」

 

行くあてもなく溜息をついていると…

 

「お、お嬢ちゃん…」

 

「はい?」

 

突然声をかけられた。そこにいたのは、白いシャツの変なおじさんで…

 

「ど、どうしたの…?」

 

そのおじさんは、私を心配して声をかけてくれたらしい。

…まあ、なんだか目が血走っているけど。

 

こ、これは…もしかしなくても、巷で噂の大変なヘンタイさんなのでは…?

 

「こんな深夜に、危ないよ?良かったら、う、ウチに…」

 

「空牙っ!!」

 

言い終わる前に蹴りを入れる。

先手必勝ということで、容赦なく変態さんに蹴りを見舞う瑞葉。ミウラさん直伝の蹴り技…それを…

容赦なく相手の股間にっ!!

 

「はぁぁぁぁぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

 

凄い叫び声をあげて悶絶するおじさん。

…ちょっとやりすぎちゃったの☆

…でも、ヴィヴィお姉ちゃんがこういう時は容赦なく、相手の股間を全力全壊って教えてくれたし…いいよね?

とりあえず、人目につかないような所にいかなければ。またこんな事があっても面倒だしね。

その場を離れ、人のいないであろう少し離れた公園に向かう。

 

…その途中、何故か変な人達に声を何度もかけられたけど、その度に股間を蹴り上げていった瑞葉。

後にこの辺り一帯の都市伝説で、深夜に白いワンピース姿の美しい少女に会うと、容赦なく股間を砕かれるという妙な話が出来た。

…以来、子供に白いワンピースを着せる親が増えたようだ。

そうすれば、何故か変質者が股間を抑えて退散するらしい…

 

 

 

 

 

 

公園の滑り台の上で、瑞葉はジュエルシードを手で弄びながら考える。

考えるのは、勿論これからのことだ。

未来を変える、その望みは変わらないけれど…とりあえず、活動拠点がなければ話にもならないし…

うう…

 

悩みといえば、もう一つある。

それは、今手に持っているジュエルシードについて。

 

どうやら、このジュエルシード…なんだか今発動中?みたいなのだ。

そこまで魔力は出てないが、微かに魔力の放出を感じる。

どうしよう…デバイスも無いし、私封印出来ないしなぁ…

と言っても、魔力の放出は本当に微々たるものだから大丈夫だと思うけれど。

楽観的かもしれないが、なんとなく瑞葉にはわかるのだ。

 

ポケットの無いワンピースだし、とりあえずこれは手に持っているしかない。

「邪魔だからその辺にポイなのっ!」

なんて、流石の瑞葉でもしない。

 

…はぁ…これからどうしよう…

なんかこう…アリサさんやすずかさんの家に転がり込めないかなぁ…

あの屋敷に行けば、餌くらい貰えるよね…

なんて、なんだか思考がよくわからなくなってきた瑞葉。

 

だが、そこで…

そこで、突然彼女は出会うことになる。

瑞葉自身の、運命に…

 

 

 

「そのジュエルシードを、渡していただけませんか」

 

上から聞こえたその声に、瑞葉は咄嗟に反応し顔を上げる。

そこにいたのは…

 

明滅する電灯の上に立つ一人の少女だった。

 

翻る、黒いマント。

 

風に流れる、美しい金糸。

 

そう、それは…

 

 

「…フェイト…お母さん…?」

 

 

瑞葉の母親。

過去のフェイト・T・ハラオウン、その人であった。

 

 




ミウラちゃん好きー
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