せっかくエルフに転生したのに、死亡フラグが多すぎる 作:もななな
太宰治が羨ましい、と思う。
彼の人生を詳しく知っているわけではない。
しかし少なくとも名作を書けるだけの才能を持ち、女にもモテたと聞く。
若くして死んだ非業の天才。私は太宰治をその程度しか知らないが……。
そんな人生でも羨ましかった。
なにせ、私の前世は無能だったと言って良い。
頭は悪く、運動は苦手。見目も正直良くはない。
小太りで、万が一にも異性にモテるようなことはなかった。
なにか一つ極めでもすれば、多少は人生に意味を見出せたのだろう。
けれど、残念ながら飽き性で、あらゆることが続かなかった。
渋々始めた清掃と内職のバイト、そして親の年金で食いつなぎ──。
五十代になる頃には日々の不摂生で長患いした結果、死んでしまった。
両親は良くなかっただろう。
酒癖の悪い父親。人の心がわからない母親。
毎日怒声が響き渡るような実家。
そんな場所で生きていれば、何も自信が持てなくても仕方ないではないか。
環境が良くなかったのだろう。
友人に恵まれなかった。助けてくれる人もいなかった。
本当に弱い人間というのは、助けたいような存在ではないのだ。
弱いかどうかもわかりにくい。
可愛くもかっこよくもなく、無様で、関わり難い。
むしろ死んでほしいとすら思うような存在。
それこそが本物の弱者である。
────などと宣ったが。
そんなことを宣って許されているのはせいぜい三十路までだ。
後の人生の責任を取るのは自分しかいない。
結局、私は自分の生きざまという負債を背負って、惨めに死んだのである。
なんともくだらない生き様であったと思う。
それに比べれば、羨ましいではないか。
羨ましいと言ってしまっても、いいのではないか。
私こそが人間失格なのだから。
ああ、来世は願わくば、人間以外に生まれたい。
来世も人間だなんて、きっと耐えられないだろうから。
そうだ、エルフにでも生まれ変わりたい。
今やり込んでいるゲームのキャラクターのように。
エルフのような綺麗で、可憐で、強い存在。
そうなりたいと、願ってしまった。
◆
物心がつく、という表現がある。
赤子の頃など大して意識などないともいう。
実際のところはどうかわからないが──。
私は気が付いた時には十四~十五歳ぐらいの姿になっていた。
いや、すぐに成長しすぎじゃないか? まだ六歳だぞ。
エルフというのは成長が早いのだな……。
そう、私はエルフに転生した。
ファンタジーの、耳が長い亜人である。
大抵は人間より見目麗しく、能力も高い。
私もその例に漏れない存在に転生したのだ。
艶やかな黒髪は腰ほどまで伸びている。
エルフの風習で、よほどのことがない限り、髪を切ることはないそうだ。
ちなみに見目麗しい美少女である。
なにはともあれ。
私は今、狩りの稽古をしていた。
「薄汚い獣人の群れが、森に侵入したようです」
木々を飛び、宙をかける。
前世からすれば考えられもしない運動神経である。
さすがはエルフと言っておこうか。
先導しているのは私の育手《そだて》。
エルフには親という風習がない。村ぐるみで育てるのだ。
中でも一番面倒を見るのが、育手と呼ばれる存在。
要するに未熟な者を一人前まで育てる教師のような役割だ。
頭に鹿の頭蓋骨を被り、烏の羽で体を覆った怪人。
彼が”育手”のナムである。
「
「しかし師よ。私も意識がはっきりしてきて一年ちょっとです」
「三歳の頃から鍛えているはずですよ、貴方は」
そう言って、師が武具を構えて、木から飛び降りる。
武具は杖剣。鹿の角を削って、刃にしたような武具。
Fの形をしているそれは、そのままではただの木剣以下の武具でしかない。
しかし──師の杖剣が青く輝く。
下にいた獣人が、鋭き刃の無き杖剣で、背中から貫かれる。
奴らは猿と狗、そして人を混ぜ合わせたような奇怪な姿をしていた。
それよりも師の魔術だ。
蒼の魔術──蒼の波動を扱い、自身や武具を”硬化”する魔術。
矢のように撃ち出す事もできるとか。
エルフ全体とは言うまいが、我々魔剣士にとって必須の魔術だった。
そう、魔剣士。魔術。
ファンタジー好きな人間ならば聞き覚えのあるだろう言葉の数々。
それもそのはずである。
この世界は伝説の死にゲー「ソウルレスボーン」の世界なのだから。
「まず一匹」
杖剣を獣人から引き抜き、死体を振り払う。
周りには五~六体ほどの獣人。
「ギャギャッ!!」
「ギャギャギャギャギャ!!」
明らかに話し合うような知性はなさそうだ。
ともあれ、私も既に杖の魔術を使える。
多少は師の援護をしておこうか。
蒼き波動を心の中で浮かび上がらせ、それを撃ち出すイメージ。
私の杖剣から蒼の波動が撃ち出される。
それは矢のようにまっすぐ飛んでいき、獣人の頭を貫いた。
これで二体の怪物が命を落としたわけである。
慄いた獣人たちが一目散に逃げようとするも、それを師は許さない。
杖剣を高く掲げ、円を描いたかと思うと、それぞれの獣人の上から一瞬にして、蒼き直剣が降り注ぎ、命を落としたのである。
当然ながら直剣は実際にあるものではない。
蒼の魔術によって作り出されたものである。
「流石です、師よ」
飛び降りて、そう称える。
しかし師は気分を良くするどころか、溜息を吐いた。
「この程度、基礎の基礎です。早く覚えなさい。”新芽”のシェン」
「無茶を仰る。私はまだ六歳ですよ」
ネットで読んだ小説ならば、ステータス画面が出てきて簡単にスキルを習得──なんてことが出来るものだが、残念ながら、この世界にそんな便利なものはない。剣にしろ、魔術にしろ、自力で覚えていくしかないのだ…………もっとも長命種である私には無限の時間があるが。
とはいえあまり時間をかけると本編時間軸を超えてしまうかもしれない。どうせ、あるかどうかもわからない本編ストーリーなどに関わる気もないが、どのみちこの死にゲーの世界では力が必要だ。
そして教えてくれる師がいる。
知力と技量が高いエルフは──このゲーム最優である魔剣士ビルドに最も向いている。つくづく私は良い師と肉体を持ったと言えよう。
ああ、私はこの死にゲーで最優の魔剣士になろう。
まるで前世とは大違い。とにかく恵まれている、と感じた。
「時に師よ。獣人どもの遺体はどうなさいます?」
「解体して持ち帰る。食えぬが、使える部分もあるだろう」
「はいはい……」
そういった些事はだいたい私の仕事だった。
物心ついて一年。
既に野生動物の遺体を解体することに抵抗など無い。
さっきみたいに命を奪うことだって、大した感慨も湧かなくなった。
獣人たちの遺体へと近づ来、鹿の角で作ったナイフを取り出す。
切れ味のないこれををナイフたらしめるには蒼の魔術がいる。
「フーッ……」
集中しつつ、ナイフに蒼を付与する。
そのまま血抜きをし、少しずつ解体していくのだ。
肉と皮、そして骨、眼球、内蔵、爪、牙、髪──。
血の匂いに気分が悪くなることも多かったが流石に慣れた。
普段の野生動物と違って、人型に近いが、問題ない。
切り分けたものを部品ごとに鞄に詰めていく。
これには”蒼”とは別の魔術が掛けられている。
根の魔術と言って、自由自在に”伸縮”させることの出来る魔術だ。
もっとも私はこちらの魔術はまだ慣れていないが……。
「詰め込みましたか? それではいきましょう」
「しかしなぜ小鬼どもがこの森へ? 滅多に無いことでしょう」
「さぁ……住処を追われるなにかがいたのかもしれませんね」
興味なさげに私の鞄を持つ師。
そのまま木へと登り、飛び去っていった。
たしか今私たちの住んでいる地──”深き森”はいずれ焼かれる。
そういうイベントがソウルレスボーンにはあるのだ。
その前兆でなければ良いのだが……。
何はともあれ、私は見目麗しきエルフ。
この死にゲー最強の魔剣士に向きし者として転生したのだ。
精一杯、生を謳歌しようではないか。
愛人が出来るかはわからない。
どこまで強くなれるかも未知数だ。しかし、それでも──。
今度こそ、惨めな結末だけは勘弁なのだから。
”新芽”のシェン……主人公。黒髪のエルフ
”育手”のナム ……師匠。鹿の頭蓋骨を被った怪しげな男
最後までお読みいただきありがとうございます!!
面白いと感じたら、評価とブックマークしていただけると
作品を継続する励みになります!!