せっかくエルフに転生したのに、死亡フラグが多すぎる   作:もななな

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002:姉弟子が帰ってきました

 

「おまえさん”新芽”はどうしたよ」

「置いてきました。そろそろ着く頃でしょう」

「おまえさん、育手だというのに……」

 

深き森のエルフィネルと呼ばれるそこは、木々を利用したツリーハウスばかりが林立している。中央にある千年樹は王城として使われており、全体的に「自然と生きよう」というエ価値観を全面に表した街だ。

 

 木々を伝って戻ってくるなり、私は師を追ってよろず屋へと向かう。

 ツリーハウスにはいくつもの工芸品が立ち並び、師と店員──。

 ”よろず”のイオゥが話をしていた。

 

 エルフも老けないわけではない。

 生まれてからは三百年は今の私のような十代ほどの姿。

 そこから六百年は熟れた成人としての姿に成長する。

 

 六百を超えると少しずつ老けていくのだという。

 イオゥはこの里でもかなりの老齢。

 

 なにせ彼以上に年老いて見えるエルフを私はゲーム知識でも知らないぐらいだ。そんな彼の職人技は巧みとしか言いようがなく、ありとあらゆるものの職人を自称している──ゆえに”よろず”である。

 

「師よ、戻りました」

「おかえりなさい。遅かったですね。想定通りですが」

「これでも急いで戻ったのですけれど……」

 

 相変わらず師はスパルタである。

 六歳だというのに、この始末。体ができあがっているとは言え、転生者でなければ日々を嘆いて暮らしているぐらいだ。

 

 ぼやっと鹿の被り物のせいで、こっちを向いているかもわからない師と違い、イオゥは露骨にぎょっとした表情でこちらを見た。

 

「おう、若ェの。体が血まみれだぞ」

「まだ師みたいに上手く解体できなくて」

「服をやるから水浴びでもしてこい」

 

 そう言って渡される替えの服。

 私は木々を伝い、大浴場へと向かった。浴場と言っても湯は出ない。

 ただ滝のように清潔な川の水が流れ込んでいるだけだ。

 

 エルフには体を毎日洗うという習慣はない。ほとんど汗をかかないからだ。新陳代謝が乏しく、それゆえに長命──ということである。

 しかし私は前世の習慣からしょっちゅう水浴びにやってきていた。

 

「相変わらず誰もいなさそうですね」

 

 そんなわけで滝のように流れる水を遠慮なく浴びる。

 数分ほどそうしていると、突然誰かが背後から抱きついてきた。

 驚いて、背後に肘鉄を食らわせる。

 

「ひゃんっ!?」

 

 …………見知った女の子の悲鳴が聞こえてきた。

 新緑のような髪色を股下まで伸ばした長耳の少女。外見年齢はだいたい同じぐらいだけれど、明らかに私より肉付きが良い。

 それに耳が私よりもさらに長い。背身長は私が勝っているけれど。

 

 彼女は”若き弓”のアルジャだ。

 私がまだ六歳なのに対し、こっちは既に五十を超えているという。

 まぁ、前世の記憶を加味したら同じぐらい生きているけれど。

 

「ちょっと~~なにすんのよ」

「すいません、男性かと思って」

「人間じゃあるまいし、異性を襲うことなんてないわよ」

 

 赤くなった鼻に、川の水をつけて冷やすアルジャ。

 この子はどうやら私を同期かなにかだと考えているらしい。

 ゆえにちょくちょくこうした過剰なスキンシップをしてくるのだ。

 

「あんまり育ってないわね。街に行って豪勢に肉を食いなさい!」

「先達の同行なしでは”新芽”は人里に出られませんよ」

「じゃあ私が今度連れて行ってあげるわ!」

 

 んっふっふ~~、と笑いながら、髪を滝で豪勢に洗うアルジャ。

 やはり若いエルフなのだろう。生命力に溢れていて、好奇心旺盛。

 とにかく何にでも首を突っ込みたがるような年齢。

 

 エルフにも、そういう時期があるようだ。

 

「どう? 鍛錬は上手く行ってる?」

「蒼の魔術なら少々……それ以外の魔術や語学なんかはまだまだです」

「六歳で? 天才っているもんよね……私は魔術なんてからっきしだから弓を使ってるんだけど。あ、計算はできるようになった? あれがないと人里で苦労するわよ。釣り銭をごまかされたり……」

「単純な計算に関しては教えることなどなにもないと言われました」

「ナムに? すっご……」

 

 そりゃあそうだろう。

 慣習的な言語や、超越した魔術ならともかく。

 科学や数学においては現代のほうが遥かに進んでいるのだから。

 私はただ前世覚えた中学レベルの数学を披露しただけだ。

 

「弓は教えてもらってないの?」

「たまに……ただ先に魔術を教える気のようです」

「ふふん、まあ弓は難しいからね。今度私が教えてあげるわ」

 

 自慢げに鼻を擦り、そう嘯くアルジャ。

 お転婆な姉がいると、こういう感じなのだろうか……。

 ともあれ、大体汚れは取れたので、川から出ることにした。

 

 近隣の小屋に置かれているタオルで体を拭い、貸してもらった服を着る。若干和風というか古風というか、江戸時代の質素な着物のようなデザインだ。色は黒く、私の髪色に合っている。

 一方のアルジャは街で揃えたのだろうか、洋風のシャツにホットパンツ。それにどどめ色のジャケットを羽織っている。

 

「緑の服が欲しいのよ。品の良い、自然な感じの。街のは微妙でさ。イオゥなら作ってくれると思って」

「しかし”新芽”を卒業すれば、対価がいるのでは?」

「街から染料や工具を色々買ってきたわ!」

 

 そう言って、布に畳んでいたそれらをわざわざ見せてくれた。

 絵の具らしきものが数点、変なものが入っている薬瓶。

 それに金属でできた彫刻刀や針なんかがいくつもあった。

 

「金属製品はなかなかココじゃ手に入らないし、対価になるでしょ」

「いいですね。工芸については全然わかりませんが……」

「じゃあ、よろず屋に行きましょ。ナムもいるんでしょ? どーせ」

 

 ハァ、と溜息をつくアルジャ。彼女は私の前任……。

 つまり一代前の”新芽”だったらしい。

 エルフというのはめったに生まれるものじゃない。

 

 四~五十年に一人か二人程度である。

 そうしてそれぐらい経てば、ちょうど一代前の”新芽”が巣立つ。

 しかし師はスパルタだ。私以上に彼がトラウマなのに違いない。

 

「今日はあと語学と歴史の授業が残っているはずですが……」

「私が帰る、と数日前に伝書を出したから、今日はもうやる気ないんじゃない? 街を出入りするエルフはあんまりいないし」

「ああ、歓迎会の準備をするのでしょうかね」

「頻繁に帰ってきてるのにそんなことしなくていいのにね」

 

 たしかアルジャを以前見たのは三ヶ月前だけど。

 しかしエルフたちは祝い事の口実を逃さない。

 普段ぼーっとしているから、人と集まるのが好きなのだ。

 

 よろず屋に戻ると、師が二本目の杖剣を選んでいた。

 そういえばゲームでは二刀流だったな、この人……。

 

「あら、杖剣を選んでるの?」

「少しきな臭いですからね、最近は。おかえりなさいアルジャ」

「ふんっ」

 

 ぷいっと顔をそらしてしまったアルジャ。

 私はそれよりもイオゥに礼を言わなければ。

 

「イオゥ。この服、助かります」

「ああ、黒く染めるのに難儀したぜ。王配ミドラが黒い着物を欲していてな。その練習にとこさえたんだが……上手くいった」

 

 王配ミドラ。女王セレーナにかしずく男性のエルフである。黒髪で、エルフにしては筋骨隆々。他の森からやってきたという。多少贅沢な男で、イオゥは彼の無理難題をこうして時折解決していた。

 

「練習とは言え、王の服など着てもいいんですか?」

「おまえさんなら文句は言われんだろう」

「はぁ……」

 

 ”新芽”には皆甘いからかな……。

 でもいい服だし、このまま着させてもらおう。

 

「私も緑色の服が欲しいのよ! コレで物々交換してくれない?」

 

 そう言って、先程言ってたようにアルジャは交換用の布袋を取り出した。内の対価をまじまじとして、イオゥはにんまりと笑う。

 

「ジャケットだけなら作ってやらんでもない」

「やった!! それじゃあ頼むわよ! 何時頃できそう?」

「二週間はくれ」

「もちろんよ!」

 

 カウンター越しにはしゃぐアルジャ。それに対し、師がくつくつと笑ったかと思うと、先ほど言っていた事を口にした。

 

「今日は歓迎会ですね」

「おお、久しぶりにタダ酒が飲めるのぅ」

 

 やっぱりというかなんというか……。

 エルフって祭り好きだなぁ。




”よろず”のイオゥ  ……なんでも屋。エルフとしては壮年の男
”若き弓”のアルジャ ……姉弟子。二ヶ月ぶりに帰ってきた

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