せっかくエルフに転生したのに、死亡フラグが多すぎる 作:もななな
「おまえさん”新芽”はどうしたよ」
「置いてきました。そろそろ着く頃でしょう」
「おまえさん、育手だというのに……」
深き森のエルフィネルと呼ばれるそこは、木々を利用したツリーハウスばかりが林立している。中央にある千年樹は王城として使われており、全体的に「自然と生きよう」というエ価値観を全面に表した街だ。
木々を伝って戻ってくるなり、私は師を追ってよろず屋へと向かう。
ツリーハウスにはいくつもの工芸品が立ち並び、師と店員──。
”よろず”のイオゥが話をしていた。
エルフも老けないわけではない。
生まれてからは三百年は今の私のような十代ほどの姿。
そこから六百年は熟れた成人としての姿に成長する。
六百を超えると少しずつ老けていくのだという。
イオゥはこの里でもかなりの老齢。
なにせ彼以上に年老いて見えるエルフを私はゲーム知識でも知らないぐらいだ。そんな彼の職人技は巧みとしか言いようがなく、ありとあらゆるものの職人を自称している──ゆえに”よろず”である。
「師よ、戻りました」
「おかえりなさい。遅かったですね。想定通りですが」
「これでも急いで戻ったのですけれど……」
相変わらず師はスパルタである。
六歳だというのに、この始末。体ができあがっているとは言え、転生者でなければ日々を嘆いて暮らしているぐらいだ。
ぼやっと鹿の被り物のせいで、こっちを向いているかもわからない師と違い、イオゥは露骨にぎょっとした表情でこちらを見た。
「おう、若ェの。体が血まみれだぞ」
「まだ師みたいに上手く解体できなくて」
「服をやるから水浴びでもしてこい」
そう言って渡される替えの服。
私は木々を伝い、大浴場へと向かった。浴場と言っても湯は出ない。
ただ滝のように清潔な川の水が流れ込んでいるだけだ。
エルフには体を毎日洗うという習慣はない。ほとんど汗をかかないからだ。新陳代謝が乏しく、それゆえに長命──ということである。
しかし私は前世の習慣からしょっちゅう水浴びにやってきていた。
「相変わらず誰もいなさそうですね」
そんなわけで滝のように流れる水を遠慮なく浴びる。
数分ほどそうしていると、突然誰かが背後から抱きついてきた。
驚いて、背後に肘鉄を食らわせる。
「ひゃんっ!?」
…………見知った女の子の悲鳴が聞こえてきた。
新緑のような髪色を股下まで伸ばした長耳の少女。外見年齢はだいたい同じぐらいだけれど、明らかに私より肉付きが良い。
それに耳が私よりもさらに長い。背身長は私が勝っているけれど。
彼女は”若き弓”のアルジャだ。
私がまだ六歳なのに対し、こっちは既に五十を超えているという。
まぁ、前世の記憶を加味したら同じぐらい生きているけれど。
「ちょっと~~なにすんのよ」
「すいません、男性かと思って」
「人間じゃあるまいし、異性を襲うことなんてないわよ」
赤くなった鼻に、川の水をつけて冷やすアルジャ。
この子はどうやら私を同期かなにかだと考えているらしい。
ゆえにちょくちょくこうした過剰なスキンシップをしてくるのだ。
「あんまり育ってないわね。街に行って豪勢に肉を食いなさい!」
「先達の同行なしでは”新芽”は人里に出られませんよ」
「じゃあ私が今度連れて行ってあげるわ!」
んっふっふ~~、と笑いながら、髪を滝で豪勢に洗うアルジャ。
やはり若いエルフなのだろう。生命力に溢れていて、好奇心旺盛。
とにかく何にでも首を突っ込みたがるような年齢。
エルフにも、そういう時期があるようだ。
「どう? 鍛錬は上手く行ってる?」
「蒼の魔術なら少々……それ以外の魔術や語学なんかはまだまだです」
「六歳で? 天才っているもんよね……私は魔術なんてからっきしだから弓を使ってるんだけど。あ、計算はできるようになった? あれがないと人里で苦労するわよ。釣り銭をごまかされたり……」
「単純な計算に関しては教えることなどなにもないと言われました」
「ナムに? すっご……」
そりゃあそうだろう。
慣習的な言語や、超越した魔術ならともかく。
科学や数学においては現代のほうが遥かに進んでいるのだから。
私はただ前世覚えた中学レベルの数学を披露しただけだ。
「弓は教えてもらってないの?」
「たまに……ただ先に魔術を教える気のようです」
「ふふん、まあ弓は難しいからね。今度私が教えてあげるわ」
自慢げに鼻を擦り、そう嘯くアルジャ。
お転婆な姉がいると、こういう感じなのだろうか……。
ともあれ、大体汚れは取れたので、川から出ることにした。
近隣の小屋に置かれているタオルで体を拭い、貸してもらった服を着る。若干和風というか古風というか、江戸時代の質素な着物のようなデザインだ。色は黒く、私の髪色に合っている。
一方のアルジャは街で揃えたのだろうか、洋風のシャツにホットパンツ。それにどどめ色のジャケットを羽織っている。
「緑の服が欲しいのよ。品の良い、自然な感じの。街のは微妙でさ。イオゥなら作ってくれると思って」
「しかし”新芽”を卒業すれば、対価がいるのでは?」
「街から染料や工具を色々買ってきたわ!」
そう言って、布に畳んでいたそれらをわざわざ見せてくれた。
絵の具らしきものが数点、変なものが入っている薬瓶。
それに金属でできた彫刻刀や針なんかがいくつもあった。
「金属製品はなかなかココじゃ手に入らないし、対価になるでしょ」
「いいですね。工芸については全然わかりませんが……」
「じゃあ、よろず屋に行きましょ。ナムもいるんでしょ? どーせ」
ハァ、と溜息をつくアルジャ。彼女は私の前任……。
つまり一代前の”新芽”だったらしい。
エルフというのはめったに生まれるものじゃない。
四~五十年に一人か二人程度である。
そうしてそれぐらい経てば、ちょうど一代前の”新芽”が巣立つ。
しかし師はスパルタだ。私以上に彼がトラウマなのに違いない。
「今日はあと語学と歴史の授業が残っているはずですが……」
「私が帰る、と数日前に伝書を出したから、今日はもうやる気ないんじゃない? 街を出入りするエルフはあんまりいないし」
「ああ、歓迎会の準備をするのでしょうかね」
「頻繁に帰ってきてるのにそんなことしなくていいのにね」
たしかアルジャを以前見たのは三ヶ月前だけど。
しかしエルフたちは祝い事の口実を逃さない。
普段ぼーっとしているから、人と集まるのが好きなのだ。
よろず屋に戻ると、師が二本目の杖剣を選んでいた。
そういえばゲームでは二刀流だったな、この人……。
「あら、杖剣を選んでるの?」
「少しきな臭いですからね、最近は。おかえりなさいアルジャ」
「ふんっ」
ぷいっと顔をそらしてしまったアルジャ。
私はそれよりもイオゥに礼を言わなければ。
「イオゥ。この服、助かります」
「ああ、黒く染めるのに難儀したぜ。王配ミドラが黒い着物を欲していてな。その練習にとこさえたんだが……上手くいった」
王配ミドラ。女王セレーナにかしずく男性のエルフである。黒髪で、エルフにしては筋骨隆々。他の森からやってきたという。多少贅沢な男で、イオゥは彼の無理難題をこうして時折解決していた。
「練習とは言え、王の服など着てもいいんですか?」
「おまえさんなら文句は言われんだろう」
「はぁ……」
”新芽”には皆甘いからかな……。
でもいい服だし、このまま着させてもらおう。
「私も緑色の服が欲しいのよ! コレで物々交換してくれない?」
そう言って、先程言ってたようにアルジャは交換用の布袋を取り出した。内の対価をまじまじとして、イオゥはにんまりと笑う。
「ジャケットだけなら作ってやらんでもない」
「やった!! それじゃあ頼むわよ! 何時頃できそう?」
「二週間はくれ」
「もちろんよ!」
カウンター越しにはしゃぐアルジャ。それに対し、師がくつくつと笑ったかと思うと、先ほど言っていた事を口にした。
「今日は歓迎会ですね」
「おお、久しぶりにタダ酒が飲めるのぅ」
やっぱりというかなんというか……。
エルフって祭り好きだなぁ。
”よろず”のイオゥ ……なんでも屋。エルフとしては壮年の男
”若き弓”のアルジャ ……姉弟子。二ヶ月ぶりに帰ってきた
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