コードギアス 君の知らない、その先へ   作:明日を願う旅人

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10/4の投稿の三話目です。


第10話 救われた人数

 ミレイは旅行の中止を告げるまで、三度もルルーシュに理由を聞いた。

 

「ホテルへ危険が迫っている。それ以上、今は言えない」

 

「それで生徒会のみんなを動かせって?」

 

「俺の都合で取り消したと思ってくれていい」

 

「思わないわよ。あんた、そういう嘘だけ下手なんだから」

 

 彼女は予約を取り消した。リヴァルが不満を言い、シャーリーは楽しみにしていた景色の話をした。ニーナは何も言わず、配られた日程表を折った。ルルーシュは誰にも、代わりの楽しみを約束できなかった。

 

 前の世界では、彼らがあのホテルへ入ってから事件を知った。今回は彼らが泊まる前に止められた。それで十分だと思いたかった。だが、ホテルを使うのは生徒会だけではない。

 

「私も、手伝えることはありませんか」

 

 帰宅したルルーシュを、ナナリーが呼び止めた。

 

「今は湖へ行かないでほしい」

 

「分かっています。お兄様が帰ってきた後、避難した人に必要なものを揃えることならできます」

 

 彼は咲世子の方を見た。

 

「咲世子さんには、私から話します。知らないまま手伝っていただくわけにはいきません」

 

 ルルーシュは頷く。咲世子へ何をどこまで明かすかは、帰ってから三人で決める。今は、布と水と連絡先を手配してもらうだけにした。

 

 ホテルへは、匿名で具体的な警告を送った。入口の警備だけでなく、宿泊者の退避が必要だと。最初に返ったのは、いたずらだろうという応答だった。

 

 そこで扇が、現地で目にした不審な搬入と、使われていないはずの客室へ出入りする人影を伝えた。日本解放戦線が先に入り込んでいる。

 

 ようやくホテル側が非常口を開け、客を外へ誘導し始める。遅れて軍にも報せが届いた。ルルーシュは車の中で、その順番を聞いた。

 

 正面玄関から出た客は、警備員の案内で駐車場を離れる。湖側の棟では、足の悪い宿泊者がエレベーターを待ち、従業員が何度も上階へ戻っていた。予定を早めたことは、救える人を増やした。同時に、館内の見張りへ「もう待てない」と気づかせた。

 

「もう客を出しているのか」

 

『湖側の棟は半分ほど。宴会場はまだ人が残ってる』

 

 扇の声だった。

 

「カレンは」

 

『外で待機してる。ゼロの合図を待つそうだ』

 

 以前なら、予定した数分後に突入させた。今回は、相手がすでに中にいることしか確かではない。

 

 C.C.が隣の席からルルーシュを見た。

 

「お前は、何人捕まるかまで知っている顔をしていた」

 

「知っていたのは、前に起きた事件だ。今は違う」

 

「なら、そろそろ無線の相手をしてやれ」

 

 彼は頷き、無線の音量を上げた。

 

 * * *

 

 避難中のホテルで、非常ベルとは違う音が鳴った。

 

 叫び声。続いて、扉が一斉に閉まる。解放戦線は計画を早めたのだ。外へ出られた客が走り、まだ建物に残る者の姿が窓に集まった。

 

『二階の宴会場、二十人前後。従業員もいる』

 

「湖側から出た人数は」

 

『今、数えてる。百を超えた』

 

 数字を聞いても、ルルーシュは拳を緩めなかった。宴会場の窓には、腕を引かれた従業員の影が映っている。

 

 見物に集まった人々を、扇が後ろへ下げる。カレンの機体は建物から離れた道路で止まった。人質のいる方へ銃口を向けない位置だ。

 

 軍の通信が開いた。コーネリアが現地の部隊へ命令している。ホテルを囲むよう指示した声は、サイタマで聞いたときより短い。

 

 ユーフェミアは現場にいなかった。副総督府から、避難者を受け入れる場所の手配を始めたという。客の名簿を取らせ、取り残された人が誰かも確認しようとしていた。

 

 スザクは彼女の補佐を申し出て、搬送先の確認に回っていると聞いた。ルルーシュは無線へ声を出しかけ、やめた。仮面の男が友人へ指示できる立場には、まだいない。

 

「コーネリアが突入する前に、人質を救出する」

 

 ルルーシュが言うと、C.C.は扉の向こうを見る。

 

「中へ入るつもりか」

 

「顔を見て命じなければ、止まらない奴がいる」

 

 C.C.が先に車を降りた。

 

「勘違いするなよ。ついていくと決めたのは、今の私だ」

 

「助かる」

 

 彼女は返事をせず、外套の襟を直した。

 

 * * *

 

 ホテルの裏口には、軍より早く解放戦線の見張りがいた。ルルーシュは無理に通らない。扇が避難者のために確保した通路で建物の脇まで進み、厨房から出てきた従業員が伝えた、宴会場へ続く内階段を使う。

 

「あの人たち、朝から準備してました。私たちが客を出し始めた途端、閉じ込める方に切り替えて」

 

「あなたは外へ。見た人数を軍に知らせてくれ」

 

 従業員は何度も頷き、走った。

 

 扇の仲間が二人、廊下へ入ってきた。武器は見せず、避難する客を階段へ誘導する役を引き受ける。ルルーシュが合図を出すまで、宴会場の扉には近づかない。

 

 階段の手前にいた一人だけは避けられない。ルルーシュは仮面越しに男と目を合わせた。

 

「武器を置け。ここから出ようとする人を止めるな」

 

 男の手から銃が落ちる。C.C.がそれを拾い、男の手の届かないところへ滑らせた。

 

「今の命令は、目を合わせなければ使えないのか」

 

「そうだ。だから、ここへ来た」

 

「何度でも?」

 

「同じ相手には一度だけだ。だから、命令は選ぶ」

 

「一度きりか。宴会場の連中も、都合よくこちらを向いてくれるといいがな」

 

「まずは顔を見るところからだ。中で誰がどこを向いているかも分からない」

 

 C.C.はそれ以上言わなかった。

 

 内階段を上がると、扇から合図が届いた。湖側で避難が止まった。まだ出られない客がいる。

 

「カレン、湖側の出入口を確保しろ。人が外へ出るまで、ホテルには近づきすぎるな」

 

『了解。ゼロ、そっちは』

 

「中へ入った。宴会場を開ける」

 

 短い沈黙のあと、返事が来た。

 

『無茶したら、今度は私が迎えに行くから』

 

「その時は頼む」

 

 * * *

 

 宴会場の前で、ルルーシュは声を張った。

 

「日本解放戦線の指揮官に話がある。ゼロだ」

 

 扉の向こうで複数の足音がする。すぐには開かない。

 

「軍は包囲した。ここで客を殺せば、交渉する相手を失う」

 

「貴様も、ブリタニアの側に立つのか」

 

 扉がわずかに開いた。中にいた男の肩越しに、床へ座らされた客が見える。顔を上げた女性を、別の男が立たせようとしていた。

 

「違う。私は人質の側だ」

 

「そんなもの、ブリタニアと同じ言い草だ」

 

「この場にいる人間が、お前たちの敵だと言えるのか」

 

 指揮官は扉の隙間からルルーシュを睨んだ。顔が見える。距離も足りる。

 

 だが、その肩越しの男が人質を引き寄せた。ここで指揮官一人を止めても、別の銃が動く。ルルーシュは先に、室内の全員へ聞こえる声で言った。

 

「外の客は、もう大勢逃げた。これ以上捕まえ直すことはできない。ここに残る者を生かして手放せば、降伏の道はある」

 

 男たちの視線が揺れた。指揮官は舌打ちし、前へ出る。その目が、仮面の奥の瞳を捉えた。

 

 別の男が銃を持ち直す。ルルーシュは外套の下で拳を握った。扇たちが廊下で待ち、カレンが外を押さえている。

 

「人質を解放しろ。部下にも武器を下ろさせろ」

 

 ギアスの紋が走る。

 

「武器を置け! 人質を出す!」

 

 指揮官が振り返り、扉を開け放った。怒号が上がる。従わない兵もいたが、銃を下ろした者が人質の前へ道を作った。C.C.と、裏口から入った扇の仲間が、客を階段へ導く。

 

「子どもが先! 押さないで!」

 

 C.C.の声に、立ち上がった客の足が止まる。男たちが互いに見合う一瞬に、従業員が幼い姉妹を連れて扉を抜けた。解放戦線の一人が道を塞ごうとしたが、扇の仲間が間へ割って入った。外ではカレンが湖側の出入口も開けている。

 

 階段で転んだ客を、扇の仲間が抱え起こす。ルルーシュは指揮官から目を離さず、最後尾の従業員が扉を抜けて角を曲がるまで待った。

 

 * * *

 

 夕方、ホテルの外には名簿を持つ人々が残った。ルルーシュは仮面を外さず、扇から数字を聞く。

 

「朝のうちに退避できた客と従業員が百二十六人。占拠後に出た人が二十四人。負傷者はいる。まだ、名簿に合わない人が二人いる」

 

「探す。見つかるまで終わりにしない」

 

 見つからない二人は、朝に湖側の部屋へ荷物を取りに戻った客だという。扇が捜索先を挙げ、C.C.が別棟の避難所へ確認に向かった。

 

 扇が頷く。カレンは機体から降り、腕についた埃を払った。

 

「軍には、私たちの名前を聞かれた」

 

「答えたか」

 

「ゼロだけじゃ足りないでしょ。あんた一人で、百五十人を運んだわけじゃない」

 

 ルルーシュは扇と玉城を見た。倉庫で決めた条件を、全員が守った。湖側で客が止まった時も、カレンは敵を追わず、道を開けた。

 

「ならば、我々の名と、何のために戦うかをここで告げよう」

 

「今、ここで?」

 

「ああ。日本解放戦線とは違うと示すには、ちょうどいい場所だ」

 

 扇は少し考えた。

 

「日本人を守る、だけじゃ足りないな」

 

「ああ。奪われた人を守る。奪う側が誰でもだ」

 

 玉城が肩をすくめる。

 

「大きく出たな。軍まで相手にする名前が要るぞ」

 

「黒の騎士団」

 

 前の世界で、ルルーシュ自身が与えた名だった。今回は、その名を聞いた三人がそれぞれの顔で考えている。カレンは先に頷き、扇が続いた。玉城は「騎士なんて柄かよ」と言いながら、反対しなかった。

 

 集まった取材の前で、ゼロは短く告げた。

 

「我々は黒の騎士団。力ある者が、力のない者を踏みにじるとき、相手が誰であろうと止める」

 

 拍手より先に、扇の無線が鳴った。見つからなかった二人は、別棟の避難所にいたという。ルルーシュは演説を続けず、名簿を照合しに戻った。

 

 人が引いたあと、別棟から戻ったC.C.が隣へ来た。

 

「さっきの力は、今も切り替えられるのか」

 

「ああ。だが、制御だけに頼りたくない。ギアスを遮るレンズは手に入るか。普段はコンタクトに、仮面には開閉できるものを仕込みたい」

 

「……どこでそんなものを知った」

 

「コンタクトは、前の世界でお前がくれた。仮面の方は、これから作る」

 

 C.C.はしばらく黙ってから、「探してみる」と答えた。

 

 報道陣の向こうには、軍の車両も残っていた。コーネリアがこの名をどう受け取るか、ルルーシュには分かる。だが副総督府が避難者を受け入れ、軍の兵士が行方を探すのに協力した事実もある。

 

 名乗ったところで、人員も機体も増えない。むしろ、止めると宣言した相手は増えた。次の作戦の計算は、もう合っていない。

 

 ルルーシュは仮面の内側で苦笑した。フレイヤエリミネーターを使ったときのように、コンマを争う局面ではない。足りない分の帳尻は、これから何とか合わせるしかない。

 

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