コードギアス 君の知らない、その先へ 作:明日を願う旅人
AIの補助マシマシとはいえ、こんなに出せるんですね...。また2日に1度に戻します。
週末は予定次第。
翌日の夜、ルルーシュは食卓に箱を三つ並べた。食事を作る暇がなかったわけではない。成田へ向けた連絡は扇に引き継ぎ、久しぶりに早く帰れた。なのに店の番号を押す指が、自然と注文を増やしていた。
「三枚か」
C.C.が箱の数を数える。
「お前の分もある」
「見れば分かる。ナナリーはもう食べたんだろう」
「ああ」
蓋を開けると、彼女はまず一切れを取った。熱いチーズに息を吹きかけ、端から食べる。その様子を見て、ルルーシュは少しだけ安心した。二切れ目に手が伸びるのを見て、余計な心配だったと思う。
だが三切れ目は取らなかった。C.C.は飲み物の瓶を閉め、椅子にもたれる。
「もういいのか」
「今はな。残りは明日食べる」
「そうか」
「そんな顔をするほど意外か?」
前の彼女が、この店の景品を貰えるまで何枚頼んだか覚えていた。ぬいぐるみを腕に抱えて満足げにする姿まで浮かぶ。だが目の前のC.C.にとっては、ただ今夜の夕食だ。
「注文しすぎた」
「私のせいにするなよ」
「していない」
C.C.は少し笑い、残った箱を冷めない場所へ移した。彼の手元にある未来を、彼女はまだ持っていない。食卓に余った一枚が、その事実を妙にはっきり見せた。
ナナリーが廊下から顔を出した。もう休むと言ったあとだったが、ピザの匂いに気づいたらしい。
「まだお食事をしていたんですね」
「一切れいるか?」
「少しだけ。咲世子さんには、内緒にしなくてもいいですよね」
「夕食の後に何も食べるなとは言われていない」
C.C.が皿を差し出す。ナナリーは慣れない指先で端を確かめ、一口食べた。
「お兄様、いくつ頼んだんですか」
「三枚だ」
「それは多いと思います」
「もう聞いた」
ナナリーが笑う。C.C.も口元だけで笑った。二人が並んでいるのを見ると、ルルーシュは未来の旅先の食卓を思い出す。けれどあそこにナナリーはいなかった。
「明日の分は私がいただきます」とナナリーが言った。
「冷めたものは俺が食べる」
「お兄様はそう言って、朝には忘れるでしょう」
C.C.が「そこは妹の方が知っているな」と言い、蓋を閉めた。
* * *
翌朝、C.C.は冷めた一切れを温め直して食べた。ルルーシュが地図を畳む音に、視線だけを向ける。
「成田には行かないと言ったな」
「騎士団は出さない。今までに知らせた人が逃げられたかは確認する」
「お前自身は?」
「別のことを考えていた」
ルルーシュは机の上に、施設と人物の名を書いた紙を置いた。バトレー。かつてC.C.を研究対象として扱った計画に関わる男だ。軍の戦力が成田へ集中する間、彼らの居場所を突き止めて確保できないか。前の世界でジェレミアに備わった、ギアスを打ち消す力を思い出していた。
「前の世界で、ジェレミアにはギアスの効果を打ち消す力があった。あれを再現できれば、ギアスを掛けられた人間を取り戻せるかもしれない。父上の命令にも対抗できる」
「それを、あいつらに作らせるつもりか」
「確保した上で、監視して――」
「駄目だ」
返事は短かった。彼女は食べかけのピザを皿に戻す。
「私の身体で何をした連中か、お前は知っているんだろう。その連中を集めて、もう一度ギアスを調べさせるのか」
「君を渡すつもりはない」
「それはお前が決めることじゃない。監視して使えば安全だと、本気で思うのか」
ルルーシュは答えなかった。研究者の手が必要だという計算の中に、彼女がその手をどれほど嫌うかを入れていなかった。未来のC.C.なら理由を聞いてから判断してくれる、と考えた瞬間もあった。目の前の彼女に頼んでいる以上、その期待は関係ない。
そもそも、ジェレミアに備わった力がどの研究を経てできたか、ルルーシュ自身はすべて知っているわけではない。バトレーを押さえれば同じものを作れるという保証はなかった。彼らに研究のための人間を渡さずに済む手順も、まだ示せない。
「そうか」
紙を折り、名前が見えないようにしてしまう。
「この案はやめる。騎士団にも出さない」
「簡単に引くな」
「君が嫌だと言った。俺が相談したのは、返事を聞くためだ」
C.C.は何か言い返しかけ、止めた。皿の上の一切れを取り、冷める前に食べ始める。
「お前は、彼らの名前を私に見せる前から決めていたのか」
「確保する準備は考えた。実行は決めていない」
「だから聞いた、と」
「そうだ」
「ずいぶん扱いにくい相談相手を選んだものだ」
C.C.の声は軽くなったが、折りたたまれた紙には触れなかった。ルルーシュも彼女の返事を翻してほしいとは言わない。
「研究者を放っておく話とは違うぞ」
「分かっている。誰がどこで何をしているか、別に調べる。捕まえて同じ研究を続けさせるつもりはない」
彼女は頷かなかったが、紙を破れとも言わなかった。
ルルーシュは紙を別の封筒へ入れた。研究者たちの名前は、彼らの足取りを見失わないために残す。
「バトレー自身が何を知っているかも、分かっていない」
「なら、先に知ることだ。だが、私を餌にするな」
「しない」
返事をしたあと、ルルーシュは彼女の表情を見た。C.C.は黙ったままだった。
* * *
夕方、倉庫では玉城が紅蓮の前をうろついていた。カレンは整備士から操縦系統の説明を受けている。扇がルルーシュへ近づき、声を落とした。
「成田へ行く部隊を作るなら、今夜が最後だ」
「作らない。避難の連絡だけ続けてくれ」
「キョウトにはどう説明する?」
「求められれば俺が話す。機体を与えられたから戦場を選んだ、と見られる方が困る」
玉城は不服そうだったが、整備士の前では口を挟まなかった。カレンも説明書から顔を上げる。
「試したくないって言えば嘘になる。でも明日、あそこへ飛び込むためにもらったわけじゃない」
「そうだ」
ルルーシュは成田の方角を見た。今頃、軍も解放戦線も警告を受け取っているだろう。自分が戦わなくても、明日そこにいる人々は動く。前と同じ結果を望んでも、もう戻せない。
帰ると、ピザの箱は一つだけ残っていた。C.C.が昼にもう何切れか食べたらしい。ルルーシュは箱を開け、冷えた最後の一切れを自分で取った。