コードギアス 君の知らない、その先へ 作:明日を願う旅人
16話見てない方は16話が話数の順番で投稿しているのでご確認ください。
案内された部屋には、畳の匂いと機械油の匂いが混じっていた。この屋敷にはキョウトの重鎮たちが集まり、各抵抗組織にどれだけ機体や物資を送るか協議する。ルルーシュは仮面のまま座り、正面の桐原泰三を見た。
扇とカレンは左右に控える。ほかの幹部は呼ばなかった。部屋には桐原に加え、幾人かの支援者と皇神楽耶がいる。神楽耶はルルーシュが座る前から、仮面の奥を見定めようとしていた。
「紅蓮を受け取っておきながら、成田には出なかったそうだな」
桐原が切り出す。ルルーシュは隠さず頷いた。
「市民の避難には人を出した。山の戦闘へは加わらなかった」
「日本解放戦線を見殺しにした、と言う者もいる」
「紅蓮のために戦場を選べと言うのか。あそこで戦えば、住民の避難車両まで巻き込んでいた」
「ならば次も、戦わぬのか」
「戦う。力で虐げられる者を守るためなら、ブリタニアの部隊とも戦う。ただし、戦場を決める権利まで預けるつもりはない」
奥にいた男が鼻を鳴らした。支援を求める者の答えとしては傲慢に聞こえるだろう。ルルーシュは用意した資料を扇へ渡した。
「今の騎士団に必要なのは、機体だけではない。整備の手、医療物資、避難先へ届く連絡網だ。河口湖と成田では、武器より先にそれらが足りなくなった」
扇が人数と物資の記録を広げる。救出した人の数だけでなく、避難所へ運んだ水、燃料、修理を待つ機体の数も書いてある。桐原は最後まで目を通した。
「避難に随分金を使っている」と、奥の支援者が言った。「その分でサザーランドを何機か買える」
「買った機体を直す整備士が足りません」と扇が答えた。「車を借りて人を運ぶなら、今すぐできます」
男は扇の方を見た。仮面のゼロではなく、現場を回した人間が答えたのは意外だったらしい。桐原はその様子を見て、資料を一枚めくる。
「ゼロ以外にも判断させるのか」
「現場の人数を知るのは扇だ。機体を動かす時に責任を負うのは、カレンも同じだ」
カレンは少し驚き、それから桐原へ向き直った。
「紅蓮を提供してもらったら、誰と戦うかまであなた方の指示に従うんですか?」
「よい問いだ」と桐原は言った。「機体はこちらが造らせた。だが、操縦席に座る者まで買う気はない」
カレンは引かなかった。
「言葉だけなら、そう言えます」
部屋が静かになる。ルルーシュは彼女を制さなかった。自分が言うべきことを、カレン自身の声で問いただしている。
「見返りは?」
「資金と物資の使途を定期的に報告する。共同作戦は事前に協議する。民間人を標的にする命令には従わない」
「キョウトが出す物で、キョウトに条件をつけるか」
「条件を決めずに受ければ、後で内部分裂しかねないからな」
神楽耶がその時、初めて口を開いた。
「それでは、私たちが困っている人を見つけたとき、あなたが動くかは分からないのですね」
「動けるか、どう動くかは答える。助けを求める相手を、支援者の名だけで選ばない」
「私たちは日本を取り戻したいのです。守ることを言い訳にして、いつまでも戦わずにいられては、あなた方を選ぶ理由がありませんわ」
「その通りだ。我々は戦わない集団ではない」
「では、どういう時に?」
「守るべき人々への脅威を取り除ける時だ。相手を倒した後に、守るはずの場所まで壊す作戦は選ばない」
神楽耶は満足した顔をしなかった。条件を聞いただけで、信じる理由にはならないのだろう。それでも問いを続けてくれた。
ルルーシュは神楽耶の目を受け止めた。ここで仮面を外すために来たわけではない。だが桐原にだけは、支援の理由を明かせる。
「桐原翁。二人で話せるか」
扇がわずかに身じろぎした。カレンは顔を上げたが、何も言わない。桐原が頷き、ルルーシュと隣室へ移った。
* * *
襖が閉まる。ルルーシュは仮面を外した。
「お久しぶりです」
桐原の眉が動く。少年の顔を見てから、その声を聞き直すように沈黙した。
「……ルルーシュ皇子か」
「今はその名で軍を動かせません。昔、お世話になったあなたには、仮面の下に誰がいるかを知っておいてほしかった」
「ブリタニアの皇子が、なぜ日本人を集める」
「父のやり方を止めるためです。俺とナナリーを守るためでもある。ただ、日本人に俺たちの事情のためだけに戦えとは言わない」
桐原は彼をしばらく見ていた。ルルーシュは目を逸らさなかった。血筋を切り札にすれば話は早い。だがその血筋を嫌う者の前でも指揮できるかは、別の問いだ。前の世界では、仲間が自分に抱く不信を軽く見ていた。その隙にシュナイゼルにつけ込まれ、騎士団を失った。
「騎士団の者は知っているのか」
「一部だけです。扇には、まだです」
「その男に組織の仕事を任せながら、名を伏せるのか」
「いずれ本人に話します。その時、どうするかは扇が決めることです」
桐原が短く息を吐いた。
「子どもの頃よりずいぶん面倒なことを言う」
「後で困るよりはましです」
「それで困る者が減るとは限らんぞ」
「承知しています。それでも、何も知らせずに命じ続ける気はありません」
桐原は襖の方へ目をやった。外では、騎士団の二人が彼の返事を待っている。
「顔を見せた代金で援助は買えん。あの者たちが持ってきた記録と、お前の答えで決める」
「それで構いません」
* * *
会談は日が落ちるまで続いた。資金は月ごとに使途を確認する。紅蓮の整備員を固定し、部品の補給路を二つ用意する。避難に使える車と、医療物資の保管場所もキョウト側が紹介する。情報は一方通行にしない。騎士団が現地で知ったことも、必要な範囲で返す。
最も長く揉めたのは、キョウトから作戦を依頼する場合の扱いだった。支援者の一人は、軍の拠点を狙う計画をあらかじめ三つ書いてきていた。ルルーシュはその地図を受け取り、近隣の病院と住宅地を印で囲む。
「この施設を爆破すれば、病院へ届く電力も止まる。狙うなら発電設備ではなく、軍の輸送路だ」
「輸送路には護衛がつくぞ」
「だから紅蓮を使う価値がある」
カレンが図を見て頷いた。ルルーシュは軍車両の進入路と、住民が普段使う道を別の色で引き直した。
「今日の席で出撃日は決めません」と扇が言う。「現地を調べ、住民の移動も確かめてから、互いに返事をする。それでどうでしょう」
桐原は資料を閉じた。
「よかろう。援助を始める。最初の資金は、物資の受け入れ場所が決まってから渡す」
扇は倉庫の候補を二つ挙げ、キョウト側の担当者と翌朝見に行く約束をした。
「戦闘に出す兵の補充まで、こちらが決めるつもりはない」と桐原は言った。「だが同盟を名乗る以上、勝手な戦争を始めたら支援は止める」
「承知した。我々も、援助だけを理由に作戦を引き受けない」
神楽耶は二人の間で取り交わされる文書を覗き、最後に一枚だけ書き足させた。救援を求める住民からの連絡を、身分や出身で門前払いしないこと。ルルーシュはその一文を読んで、署名した。
帰りの車で、扇は疲れた声で笑った。
「やっと整備士を休ませられる。話が決まるまで、機体のそばで寝てた奴もいるからな」
「先に休ませろ。次の部品が来ても、人が倒れたら使えない」
カレンは窓の外を見たまま、ぽつりと言った。
「神楽耶様、あんたのこと気に入ったみたい」
「どこを見てそう思う」
「最後まで、一回も目を離さなかった」
ルルーシュは返事をしなかった。前の世界のような華々しい戦果は挙げていない。それなのに、なぜまた彼女に気に入られたのだろうか。