コードギアス 君の知らない、その先へ 作:明日を願う旅人
16話見てない方は16話が話数の順番で投稿しているのでご確認ください。
こちらは17話です。
「スザクさんに話すつもりなのですね」
ナナリーは、ルルーシュが言い出す前に尋ねた。机の上には二人分の紅茶があり、片方はもう冷めている。
「ああ。遅くなった」
「何を話すか、お決めになりましたか」
「ゼロが俺だということと、これから何をするつもりか。ギアスの仕組みも、過去へ戻ったことも、今は話さない」
「私のことを理由にするのですか」
ルルーシュは答える前に、カップを置いた。
「お前を守りたいのは本当だ。だが、俺が戦う理由を全部お前に背負わせる気はない」
「なら、そのように伝えてください。スザクさんは、お兄様が何かを隠していても、きっと気づきます」
「気づいた上で聞くかもしれない」
「それでも、先に話したかったのでしょう?」
スザクが仮面の下を知るのを、戦場まで待ちたくなかった。彼はユーフェミアのそばにいる。前の世界で取り返せなかったことのいくつかが、もう同じ形では起きないかもしれない。だからこそ今、友人として選べるうちに話す。
ナナリーは手を伸ばし、ルルーシュの指先に触れた。
「スザクさんは、私がお兄様を止めなかったことも知るのでしょうか」
「お前に話したことは伝える。だが、同意したとまでは言わない」
「私は、何も考えずに同意したわけではありません」
「分かっている」
「なら、私の代わりに説明しないでください。私に聞かれたら、私が答えます」
ルルーシュは目を閉じた。妹が知っているという事実まで隠せば、スザクにとって彼女は何も知らされていない被害者になる。だが、彼女の言葉を自分の弁明に使うのも違う。
「そうする」
「帰ってきたら、どうだったか教えてください」
「約束する」
* * *
スザクを呼んだのは、学園から少し離れた古い温室だった。人の出入りが絶えた時間を選び、ルルーシュは中を確かめてから扉を開けた。スザクは軍服ではなく、学園の制服を着ている。
「珍しいね。君の方から二人で話したいなんて」
「学園では話せないことだ」
スザクは笑みを収めた。ルルーシュが椅子を勧めても、座らない。
「成田のこと?」
「それもある。お前が軍で何を見たか聞きたい」
「僕に話せる範囲なら」
「分かっている」
窓の外を、風で揺れた葉の影が横切った。言葉を順序立てて並べることはできる。だが、並べ終えた瞬間にスザクがどんな顔をするかは、今のルルーシュには分からない。
「俺がゼロだ」
スザクはすぐに返事をしなかった。冗談として笑うこともない。聞き返す代わりに、ルルーシュの顔を見た。
ルルーシュは仮面を持ってきていなかった。見せれば証拠にはなる。しかし、目の前の友人には、機械の顔を挟まず自分の声で聞いてほしかった。
「新宿でも、あの処刑の時も?」
「ああ」
「クロヴィス殿下を撃ったのも」
「俺だ。命を奪ってはいない。撃った事実まで消すつもりもない」
スザクが拳を握る。処刑場でゼロの言葉を聞いた彼は、その男が友人だとは知らなかった。ルルーシュは言い訳を挟まず、次の問いを待つ。
「どうして今、僕に言うんだ」
「お前が仮面を剥がす時まで待てば、もう話を聞いてもらえないかもしれない」
「先に言えば、見逃すと思った?」
「思っていない。軍人として、お前は俺を止めるだろう」
スザクは少しだけ目を伏せた。ルルーシュが逃げ道を頼みに来たのではないと分かり、かえって困ったように見えた。
「だったら何を聞かせたいの」
「俺はナナリーを守りたい。それだけのために大勢を戦わせれば、最後にあいつと向き合えなくなる。だから、騎士団を俺一人の道具にはしたくない」
「黒の騎士団が、人を守るって言っているのは知ってる」
「それを続ける。日本だけでは終わらない。父上には、ギアスに関わる者たちと進めている計画がある。その計画を止めなければ、たとえ目の前の戦いに勝っても、人が自分で生き方を選べる世界にはならない」
「ギアス?」
スザクの問いに、ルルーシュは一呼吸置いた。
「今ここで詳しく話せない。信じろと頼むつもりもない。ただ、皇帝の狙いを知った上で、俺が動いていることは伝えておきたかった」
「知らない力の話をして、詳しくは言えない。それで君の戦いを認めろというの?」
「認めなくていい」
スザクは温室の棚に手をついた。
「君は、ナナリーを危険にさらしたくないと言ってた」
「今もそう思っている。だが、俺が何をしているかは話した。止めたいなら、あいつ自身が言える」
「彼女も知ってるのか」
「ゼロが俺だということはな。ほかにも話した。ナナリーの考えを知りたいなら、本人に聞いてくれ」
スザクは驚いた顔をした。ルルーシュが妹へ秘密を明かすところまでは、思い浮かばなかったのかもしれない。
「君一人で全部決めてるわけじゃない、と言いたいんだね」
「言葉でそう主張するつもりはない。騎士団の仕事を見て判断してくれ」
「僕は軍にいる。中から変えたいと思ってる。君のやり方では、また誰かが撃たれる。河口湖で助かった人がいたからって、それは変わらない」
「ああ」
「ユフィもあそこにいる。彼女がやろうとすることを、君が邪魔するなら止める」
「俺も、彼女がやろうとすることは聞く。お前が傍にいるのなら、なおさらだ」
同じ側へ来いとは言わなかった。今のスザクが軍を離れないことも、ユーフェミアを守ろうとすることも、ルルーシュには分かる。
スザクは長く黙っていた。やがて椅子を引き、ようやく腰を下ろす。
「僕をあの処刑場から帰したのは、友人だから?」
「友人だからだ。あの時お前の意思を聞かず、俺の計画で救おうとしたことは謝る」
「助かった時、ほっとしたんだ。なのに、どうして素直に喜べなかったのか、自分でも分からなくて」
スザクは手の甲を見つめる。
「君がゼロだったと知っても、その時ほっとしたことまで嘘にはならない。でも、今夜の話を聞いたから協力するとは言えない」
「それでいい」
「秘密を守るとも、約束できない。任務で問いただされたら、僕は――」
スザクの言葉が途切れる。
「承知している。話したのは俺の判断だ」
スザクは立ち上がった。扉の前で一度だけ振り返る。
「ユフィには、僕から君のことを話さない。今夜すぐには。でも僕が何をするかは、これから決める」
「ああ」
「次にゼロと会う時、友達として見られるかは分からない」
「ゼロとして会えば、敵として戦うこともあるだろう。だが、お前が何をしようと、俺にとっては友だ。たとえこの胸に剣を突き立ててもな」
スザクは一瞬、息を止めた。
「……簡単に言わないでよ」
頷いたとも首を振ったともつかない動きをして、温室を出た。
門までの道を、スザクは一度も振り返らなかった。クロヴィスを撃った男がルルーシュだと知り、処刑場から帰れた理由も分かった。それなのに心に残ったのは、友達が自分から話したという事実だった。
軍へ戻れば、ゼロの正体は重要な情報になる。報告することを考えると、彼を救うために名乗り出たあの日の自分が何を守ったのか分からなくなる。報告しないと決めれば、軍で守ろうとしている約束とぶつかる。
スザクは足を止め、上着の中の端末を見た。ユーフェミアから短い連絡が届いている。今日の避難記録を一緒に確認したいという、いつもと変わらない頼みだった。
『すぐ戻ります』
それだけを返した。今夜の話を彼女に渡すかどうかは、温室を出た勢いでは決められない。彼女に嘘をつきたくないという思いも、友人を今すぐ差し出したくないという思いも、本物だった。
* * *
帰宅すると、ナナリーは眠らずに待っていた。ルルーシュが座る音を聞いて、まず無事かと尋ねる。
「無事だ。殴られもしなかった」
「それはよかったです」
「同じ道は選ばなかった。これから俺を止めるかもしれない」
「聞いてはくれたのですね」
「最後までな」
ナナリーは冷めた紅茶を新しいものに替えてくれた。温室に置いてきた言葉は、もう取り消せない。スザクが明日、どの立場で自分を見るかも分からない。それでもルルーシュは、友人が知らないまま仮面の男と戦う日を一つ遠ざけられたと思った。
人間関係良好化、戦力低下(ちゃぶ台返し戦法しないから)、身バレリスク増加。
ある話までどうしても早く進めたいから休みの間は連続投稿します。