コードギアス 君の知らない、その先へ   作:明日を願う旅人

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すみません。16話を飛ばして17話を投稿してました。
16話見てない方は16話が話数の順番で投稿しているのでご確認ください。
こちらは18話です。


第18話 支援の使い道

 倉庫の床から、機体の下で寝るための毛布が消え、代わりに並んだのは工具箱と部品の棚だった。キョウトから来た整備士が、修理の終わった無頼へ白い札を掛けていく。三日前まで片腕が動かなかった機体も、今日は両手で資材を運んでいた。

 

「こいつ、まだ使えるのか」

 

 玉城が操縦席を覗き込んだ。下にいた整備士が顔を上げる。

 

「使えます。右の操縦桿を引くと反応が遅れると言っていたのは、あなたですか」

 

「ああ。だからこっちに回る時は、先に引いて――」

 

「それは修理しました。今までと同じように動かすと、曲がりすぎますよ」

 

 玉城は口を閉じた。扇が横で笑い、走行試験の順番を書いた紙を渡す。

 ルルーシュは二階の通路から、そのやり取りを見ていた。操縦の癖で故障を補っていた者は玉城だけではない。機体ごとに反応が違えば、前進と射撃のタイミングを秒単位で指定しても、狙ったとおりには揃わない。整備が行き届き、搭乗員がその動きに慣れれば、ようやく自分の得意とする戦術を使える。

 

「昨日まで二機だった。今日は五機、走らせられるそうだ」

 

 扇が階段を上がってきた。

 

「燃料の方は?」

 

「届いた。全部満タンにしても、訓練の分は残る」

 

「なら、午後は三機ずつ出せ。先頭の速度に合わせて走るところからだ。交代して全員に先頭をやらせろ」

 

「撃つ練習より先か?」

 

「隣の機体へぶつからずに走れなければ、撃つ前に終わる」

 

 扇は紙に書き足した。今までは訓練に燃料を使うと、その晩に助けを求められた時に動けなくなる。補給の予定が立つだけで、できることは増えた。

 下では玉城が修理済みの機体に乗り込み、右へ曲がろうとして大きく膨らんでいた。整備士が無線で停止を指示する。

 

「あいつの順番は最後に戻しておけ」

 

「分かった。……それで、今日来る人は?」

 

「そろそろだ」

 

 倉庫の入口で車の音がした。

 

 * * *

 

 最初に入ってきた女は、貨物車よりもゆっくり歩いていた。

 紫の髪を肩へ流し、細い煙管を持っている。彼女は扇の挨拶に片手を上げると、並んだ無頼を一瞥し、その奥に置かれた紅蓮へ向かった。

 

「私より先に顔を見せてた子は、元気かしら」

 

「ラクシャータ・チャウラーだな」

 

 ルルーシュは階段を下りた。仮面を向けると、彼女は煙管を口元から外す。

 

「あなたがゼロ。機体は欲しいけど、作戦の指図は受けたくないって子ね」

 

「そういう条件で話がついた」

 

「聞いてるわ。面白そうだから、来ちゃった」

 

 キョウトとの会談の後、ルルーシュは紅蓮の開発者とも直接話したいと連絡を入れていた。常駐する整備士の派遣とは別の依頼だ。思ったより早い返事が届き、移動と機材の搬入を合わせて、この日になった。

 

「成田には出さなかったんですって?」

 

「住民の車を逃がす方へ人を出した。紅蓮で山を崩す必要はなかった」

 

「山を崩す、ねえ」

 

 ラクシャータは紅蓮の右腕を見上げた。

 

「そんな使い方もできるでしょうけど。私が渡したのは、あなたの戦果を飾る置物じゃないわよ」

 

「分かっている。使う時には使う」

 

「ならいいわ。壊すだけ壊して文句を言われるより、よほどましね」

 

 声は気楽だった。既に彼女の後から来た助手たちが工具を降ろし、常駐の整備士へ作業台の位置を尋ねている。ラックを動かす場所まで指定し始めたのを見て、扇が慌てて倉庫の図を持っていった。

 カレンは紅蓮の足元で立ち止まっていた。

 

「この機体を造った人?」

 

「そうよ。あなたが乗ってる子?」

 

「カレンです」

 

「じゃあカレン、乗って見せて。走った時の記録はもらったけど、手の動きまで見たいの」

 

「ここで?」

 

「外に出して。撃たなくていいから」

 

 ラクシャータは、カレンが登るのを待たずに助手へ指示した。ルルーシュは扇を呼び、訓練中の無頼を敷地の西側へ寄せる。東側の試験路へ、人が入らないよう見張りも置いた。

 紅蓮が歩き出す。初めの数歩で揺れた上体は、カレンが操縦桿を握り直すと落ち着いた。角を曲がり、速度を上げ、路面へ残した跡を避けて戻ってくる。

 

「もう一度。今度はもっと小さく回ってみて」

 

『そんなに曲がれますか?』

 

「グラスゴーと同じ動きをする必要はないわ。その子は、あなたが動ける分だけ応えてくれるように造ってあるんだから」

 

 通信の向こうでカレンが笑った。

 

『じゃあ、もう少し踏み込んでみます』

 

「ええ。その子がどこまで動けるか、確かめてみなさい」

 

 次の旋回は、最初より小さかった。倒れかけたように見える機体が一歩踏み込み、低い姿勢のまま進路を変える。ラクシャータの助手が画面を見て声を上げた。

 

「あら、いいじゃない」

 

 彼女は煙管をくるりと回した。

 

「右の足首、少し合わせてあげて。こっちの設定の方が好きそう」

 

 機体が戻ると、カレンは降りずに質問を始めた。走行中に踏ん張れる角度と、右腕を伸ばした時の上体の戻り。ラクシャータは説明をしながら、彼女の言う動きを操縦席の画面で再現した。

 ルルーシュは横から口を挟まなかった。カレンがどこまで紅蓮を動かせるか、彼は知っている。そこへ至る調整を、開発者と搭乗員が同じ場所で進められる。ここで必要なのは、それを邪魔しないことだ。

 

 * * *

 

 試験が終わる頃には、無頼の隊列も形になっていた。

 先頭の扇が速度を落とすと、後ろの二機も間隔を保って止まる。玉城の機体は少し遅れたが、隣の進路へ割り込まずに済んだ。ルルーシュは無線を取る。

 

「次は先頭を交代する。その後は合図で左右へ分かれろ。別々に止まるのではなく、一機を残して二機が下がる」

 

『戦う練習か?』

 

「撤退する時、全員が背を向けないための練習だ。玉城、お前が残る役をやれ」

 

『おう。任せとけ』

 

 急に返事が大きくなる。扇の機体が少し顔を向けたが、何も言わずに列を戻した。

 ルルーシュは紙に次の訓練を書いた。時間は掛かる。しかし、今いる人間を使ってできることはある。藤堂や四聖剣を迎えるにしても、命令を受けた部隊がまとまって動けなければ、彼らの仕事を余計に増やす。

 紅蓮の脇へ、ラクシャータが戻ってきた。

 

「この子たちをどんな戦場へ連れていくつもり?」

 

「輸送路を押さえる。軍の物資を止めて、住民を脅す部隊の足を奪う。橋や発電所を壊すより、車を動かせなくする方がいい」

 

「車も燃やさず欲しいわけね」

 

「使えるものならな」

 

「欲張り」

 

 彼女は笑い、助手の持ってきた紙へ図を描いた。

 

「だったら、この右腕だけを頼りにするのはもったいないわ。止める相手と距離を教えて。必要な道具を考えるから」

 

「後で資料を渡す」

 

 敵機を壊さずに止めるゲフィオンディスターバー。地形に縛られずに動ける飛翔滑走翼。ルルーシュの頭には、かつて彼女が騎士団にもたらした装備が浮かんでいた。まずは必要な性能を伝え、どちらから手をつけられるか聞いてみる。

 

「あと、整備の記録は全部もらうわよ。毎回口で説明されると面倒だから」

 

「扇に用意させている」

 

 その名を呼ばれる前に、扇が束ねた記録を持ってきた。ラクシャータは受け取り、一枚目を見て眉を上げる。

 

「修理した人の名前もあるのね」

 

「同じ故障を見た時に聞けるようにしてあります」

 

「助かるわ。ここにいる人たち、呼んでちょうだい」

 

 人と部品の配置が変わっていく。機体は同じでも、戻ってきた後に直せる場所ができた。ルルーシュは予定表から修理待ちの印を三つ消し、今度こそカレンを実戦へ出す作戦に取りかかれた。

 

 * * *

 

 その夜、クラブハウスへ戻ると、C.C.が机の上へ小さなケースを置いた。

 

「頼まれていたものだ」

 

 中には、二枚のコンタクトが入っている。

 

「両眼分ある」

 

「見れば分かる。付け外しを練習しておけ。人前で落として探すなよ」

 

「仮面の方は?」

 

「素材は手配している。お前の仮面に合うかまでは知らん」

 

 ルルーシュはケースを手に取った。以前使っていたものより小さく見えるのは、指が若いせいだろうか。鏡の前へ移り、片方を装着する。

 

「今日は機嫌がいいな」

 

 背後からC.C.が言った。

 

「そう見えるか」

 

「帰る前から電話で三度も、明日の予定を変えていただろう」

 

「技術者が来た。思ったより早く機体が動かせるようになる」

 

「私の部屋まで機械で埋めるなよ」

 

「あれは俺の部屋だ」

 

 もう片方を入れ、鏡を覗く。C.C.が隣へ立ち、彼の顎を指で持ち上げた。

 

「少し上を向け」

 

 指先が頬へ触れた瞬間、彼女の手が止まった。

 

「C.C.?」

 

「……ずれはない」

 

 すぐに指を離し、彼女はケースの蓋を閉めた。ルルーシュが顔を向けると、C.C.は机の脇に置いたピザの箱を開けていた。

 

「夕食は?」

 

「まだだ」

 

「なら食べろ。これ以上冷めると、また温め直すことになる」

 

 彼は何かを聞きかけ、やめた。ケースを引き出しへしまい、彼女の向かいに座る。

 

 * * *

 

 翌朝、ラクシャータは助手の使っていた机へ肘をつき、ゼロの持ってきた資料を読んでいた。

 

「輸送路の方は分かったわ。試験に使える場所を用意してね」

 

「候補は調べている」

 

「それで? 扇君も帰しちゃって、まだ何かあるの?」

 

 ルルーシュは入口の戸を閉めた。彼女の背後では、昨日まで空だった棚に測定器が並んでいる。書類を置くために、ラクシャータが煙管の皿を端へずらした。

 

「もう一つ、君に開発を頼みたい。君が以前専攻していた医療サイバネティクスに関わるものだ」

 

 ラクシャータの指が、資料をめくる途中で止まる。

 

「……へえ。聞かせてもらおうかしら」

 

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