コードギアス 君の知らない、その先へ   作:明日を願う旅人

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本日2話目の更新です。前話をまだお読みでない方は、第18話からどうぞ。


第19話 招かれない客

「マオが来るかもしれない」

 

 ルルーシュがその名を告げると、C.C.は本から顔を上げた。

 ナナリーと咲世子が買い物へ出た午後だった。クラブハウスには二人しかいない。彼は机の上の紙を裏返し、C.C.の向かいへ椅子を寄せた。

 

「誰に聞いた」

 

「誰かに聞いたわけじゃない。前の世界で会った」

 

「私のことをどこまで知っている」

 

「彼が君の契約者だったこと。人の思考を読む力が、もう止められなくなっていること。君の声を聞いている間だけ、周りの声を遠ざけられることも」

 

 C.C.は本を閉じた。

 

「あいつに何をした」

 

「今は何も。まだ、この国に入ったかも確かめていない」

 

「前の話をしている」

 

 ルルーシュは椅子の背から身体を離した。彼が過去へ戻ったという話を、彼女は初めから信じ切ってはいない。だが、それを信じなければ説明のつかないことが、また一つ増えた。マオの名を知っていたことだ。

 

「彼はナナリーを攫った。俺とスザクで取り戻したが、最後は君が殺した」

 

 C.C.の表情が動いた。驚きより先に、何かを確かめるような目になる。

 

「だから今度も、私に殺せと言うつもりか」

 

「違う。そうなる前に止めたい」

 

「簡単に言うな」

 

「簡単だと思っていたら、君に相談しない」

 

 彼女の膝の上で、本の表紙が曲がった。ルルーシュは手を伸ばさず、返事を待つ。

 

「人のいる場所へあいつを連れていくな。何人増やしても、考えていることを全部聞かれる」

 

「分かっている。騎士団の部隊は出さない」

 

「ナナリーを使うなよ」

 

「使わない。護衛を付けて、彼と会う場所から離す」

 

「お前自身は?」

 

「近づかない」

 

 C.C.が目を細めた。

 

「お前の頭の中を聞かれたら、未来の私のことまで分かるわけだ」

 

「だからだ。彼の前で作戦を考えることもしない」

 

 答えながら、ルルーシュは自分の指を組んだ。マオに見せたくない記憶は幾つもある。C.C.が死にたいと望んでいたことも、死なずに旅を続けたことも、その後彼が彼女と過ごした時間も。

 

「殺さず捕まえる方法を考える。君が嫌なら、君を使わない別の方法を探す」

 

「別の方法があるのか?」

 

「今、確実に示せるものはない」

 

「なら格好をつけるな」

 

 C.C.は本を脇へ置き、立ち上がった。棚の奥から古い手帳を取り出す。開いた頁を見て、ひとつの番号の横にあった線を指でなぞった。

 

「居場所を調べるなら、この相手を通せ。私の名前だけでは探せない。特徴を伝える必要がある」

 

「連絡していいのか」

 

「お前が頼むんだろう。私に返事をさせるな」

 

 手帳を置く手は乱暴だったが、番号のある頁は開いたままだ。

 

 * * *

 

 咲世子は頼みを最後まで聞いてから、紅茶の盆をテーブルへ置いた。

 

「ナナリー様を狙う方がいるのですね」

 

「まだ、こちらの居場所を知られたかは分からない。だから今のうちに、学園の外で休んでもらいたい」

 

「何日ほどでしょう」

 

「数日を考えている。場所は人の出入りが少なく、車で行けるところがいい」

 

 厨房の戸は閉まっていた。向こうでナナリーが買い物の袋を整理する音がする。彼女に隠すためにここへ呼んだのではない。まず護衛として可能な配置を、咲世子に確かめたかった。

 

「私一人でお守りしてよろしいのですか」

 

「スザクにも頼む。だが、軍の都合で来られない時間はある。無理なら移動自体を延期する」

 

「ご心配なく。車と行き先を用意してくだされば、支度はできます」

 

 咲世子は扉の方へ目をやった。

 

「ナナリー様にもお話しくださいね。急に旅行だと申し上げても、ご納得はなさらないと思います」

 

「分かっている。連れ出す時に騙すつもりはない」

 

「でしたら、私からは着替えだけお願いしておきます」

 

 咲世子は盆を持って立ち上がった。ルルーシュは頷く。

 

 * * *

 

 スザクは翌日の放課後、学園の裏庭へ来た。

 ルルーシュがベンチから立つと、足を止める。制服の鞄を肩に掛け、近づいてはこなかった。

 

「今度は何?」

 

「ナナリーの護衛を頼みたい」

 

「誰かに知られたの?」

 

「皇族のことじゃない。俺の知人を追ってくる男がいる。その男が、彼女に近い相手を人質にするかもしれない」

 

「彼女って?」

 

「C.C.。俺たちと一緒にいる女だ」

 

 スザクの目が彼の顔を見た。

 

「ゼロの仲間?」

 

「協力者ではある。だが今回、ナナリーを騎士団の作戦に使うわけじゃない。危険が近づく前に遠ざけたい」

 

「その男を、君はどうするつもりなの」

 

「武器を取り上げて捕まえる。殺すつもりはない」

 

 スザクはベンチの端へ鞄を下ろした。

 

「普通の相手なら、警察へ行くべきだと思う」

 

「普通の相手ならな」

 

「その言い方、好きじゃない」

 

 ルルーシュは視線を逸らさず答えた。

 

「人の考えを読む。嘘も、捕まえる段取りも、近くで考えれば聞かれる相手だ」

 

 スザクが眉を寄せる。笑い飛ばさずに彼を見ていたが、すぐに信じた顔でもなかった。

 

「本気で言ってる?」

 

「本気だ」

 

「どうやって知ったの」

 

「彼をよく知る者から聞いた。今頼みたいのは、ナナリーのそばにいてほしいということだ」

 

「僕がその話を信じないなら?」

 

「危険な男が彼女を狙う可能性がある。それだけは本当だ。俺が誰であろうと、ナナリーを傷つけていい理由にはならない」

 

 風が吹き、ベンチへ落ちていた葉が鞄の横を滑った。スザクはその葉を見てから、座った。

 

「咲世子さんは知ってるの?」

 

「護衛を頼んだ。ナナリーにも話す」

 

「なら、ナナリーにも直接話を聞くよ。避難することに納得しているか、確かめたい」

 

「ああ。会いに来てくれ」

 

「軍へ出る日は外せない。その男を捕まえるために、僕を持ち場から呼び出さないで」

 

「分かった。来られる時間を教えてくれれば、それに合わせる」

 

 スザクは鞄を持ち上げた。彼がゼロの正体を知ってから、初めて一緒に歩いて帰ることになった。途中で並んだ距離は、幼い頃ほど近くなかった。

 

 * * *

 

「私のために、またお二人が喧嘩をするのは嫌です」

 

 話を聞き終えたナナリーの最初の言葉に、スザクが慌てて首を振った。

 

「喧嘩をしに来たんじゃないよ」

 

「今は、ですね」

 

「今もこれからも、ここではしない」

 

 ルルーシュが言うと、ナナリーはカップを置いた。

 

「その方は、お兄様のことも読めるのですか」

 

「近づけばな。だから離れている」

 

「私を別の場所へ移すのは、その方に居場所を知られないためなのですね」

 

「そうだ。咲世子とスザクに付いていてもらう。外出は少し我慢してほしい」

 

「分かりました」

 

 頷いてから、彼女は少し顔をスザクへ向けた。

 

「来てくださってありがとうございます。でも、お仕事がある時はそちらへ行ってください。咲世子さんがいますから」

 

「そう簡単には――」

 

「それなら、最初に時間を決めておきませんか。お兄様は決まっていれば合わせられます」

 

 ルルーシュは、机に出していた予定表を二人の間へ移した。

 

「明日の午前は?」

 

「九時までなら。午後はまだ分からない」

 

「移動は朝にする。場所へ着くまでは付いてきてくれ。帰りの車も用意する」

 

 話が決まると、ナナリーはスザクへ紅茶を勧めた。彼が受け取る音を聞いて、いつもの笑みを見せる。

 

「咲世子さんと、焼き菓子を作ったんです。お持ち帰りになりますか」

 

「うん。ありがとう」

 

「お兄様の分は、もう別にしてありますから」

 

 何も言っていないルルーシュへ、スザクが顔を向けた。ほんの少しだけ、昔と同じように笑った。

 

 * * *

 

 C.C.の紹介した相手から返事が届いたのは、その夜だった。

 添えられていた写真には、帽子を被った男が写っている。サングラスを掛け、耳を覆うヘッドホンを付けていた。都内の店で、緑の髪の女を見なかったか尋ねたという。聞き込みの返事が回ってきた時には、既に別の街へ移っていた。

 ルルーシュは画面をC.C.へ向ける。

 

「彼だな」

 

「ああ」

 

 C.C.は写真の端を指で拡大した。帽子の下から、白い髪が覗いている。

 

「……大きくなった」

 

 小さな声だった。ルルーシュは端末を置き、写真が消えないよう画面に触れる。

 

「最後に会った時から、しばらく経つのか」

 

「お前に話す必要があるか?」

 

「捕まえるために必要なことなら聞く。それ以外は、話したくなければいい」

 

 C.C.の指が画面から離れた。

 

「学園には近づけるな。私が会う」

 

「場所は?」

 

「人のいない所がいい。あいつも望むだろう」

 

 ルルーシュは地図を広げた。彼女が選ぶまで、目印は付けなかった。

 

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