コードギアス 君の知らない、その先へ 作:明日を願う旅人
ゼロは今は「私」、ルルーシュは「俺」で統一しました。
またAI特有の丁寧な返しの繰り返しと、場面の説明をキャラにさせることが多くなっていると指摘をもらい、そのとおりでしたので修正を進めています。話の流れは変わりません。
玄関の鍵が開く音を聞いて、ナナリーが顔を上げた。
ルルーシュは靴を脱ぎながら、ただいまと声を掛ける。借りた家の台所から咲世子が出てきて、二人の上着を受け取った。廊下の奥では、温め直したスープの匂いがする。
「遅くなった。もう食べたか?」
「少しだけ。お兄様たちの分もありますよ」
妹のそばへ行き、差し出された手を握った。指先が掌を探り、いつものように包み込んでくる。
「お帰りなさい、C.C.さん」
「ああ。ただいま」
C.C.がナナリーの向かいへ座った。椅子の背へ髪を払うと、ルルーシュも隣へ腰を下ろす。咲世子が運んできた皿を受け取り、パンの籠を食卓の中央へ寄せた。
スープを一口飲んだC.C.は、少しだけ目を細めた。
「ルルーシュ、あれを取ってくれ」
「はい」
彼は隣の皿へ目を向け、胡椒の瓶を渡す。C.C.は当然のように受け取って、蓋を回した。
ナナリーが匙を止めた。
「今のは、何をお渡ししたのですか?」
「胡椒だ」
「胡椒とは仰いませんでしたよね」
ルルーシュの手がパンの上で止まる。C.C.はスープを飲み、今度はパンを一つ取った。
「こいつは、私の食べ方にまでうるさいからな」
「一口も飲まずに足そうとするからだ。今日は先に味を見たな」
「お前が作ったわけではないだろう」
「だからこそだ」
言い合う二人の間に、ナナリーの小さな笑い声が入った。ルルーシュが妹を見ると、彼女は匙を置き、頬へ落ちた髪を耳に掛ける。
「何だ?」
「いえ。お二人とも、楽しそうです」
C.C.が彼の肘を軽く押した。自分で話せという顔だ。
「記憶が戻ったんだ」
ナナリーの笑みが消え、声を出す前に一度息を吸った。
「お兄様と一緒にいらした時のことも?」
「ああ。旅をしていた頃までだ」
C.C.が答える。ナナリーは声のした方へ向き直り、両手を膝の上へ重ねた。
「よかったです。本当に」
「お前の兄が道を間違えたことまで思い出した。全部戻るというのも、考えものだな」
「その話はもういい」
「私にはまだ話してくださっていませんよ、お兄様」
咲世子が追加のパンを持ってくる。ルルーシュは籠を受け取り、妹の前へ置いた。余計な話をしている間にスープが冷めると言ったが、C.C.はもう次の一口を飲んでいる。
ナナリーは籠の縁を確かめ、パンを半分に割った。
「では、食べ終わったら伺います」
逃げ道を塞がれた彼の隣で、C.C.が笑った。
食後の紅茶が出ると、ナナリーは本当にその話を待っていた。ルルーシュはカップへ伸ばした手を引き、C.C.へ顔を向ける。
「お前が話せばいいだろう」
「私は道を間違えていない」
「地図が古かったんだ。橋が架け替えられていた」
「お兄様は、古い橋の方へ行ってしまったのですか?」
「……ああ。川岸まで行ってから分かった」
ナナリーが口元へ手を当てた。C.C.は椅子の背へ身体を預け、さらに先を話そうとする。
「こいつはそこで、近道をすれば取り戻せると言い出してな」
「宿には着いただろう」
「日が暮れてからだ。遠回りをしたせいで腹が減って、途中の店で夕食を食べることになった」
「どんなお食事でしたか?」
問われたC.C.がルルーシュを見る。彼は机の端へ置かれた菓子を一つ取り、妹の皿へ置いた。
「お前の好きな、焼いた魚に似ていた。香草を使うから匂いは違うが、パンによく合う」
「では、遠回りをした甲斐はありましたね」
「そういうことだ」
「勝った顔をするな。私の夕食が遅くなったことに変わりはないぞ」
今度は咲世子まで笑った。ルルーシュは紅茶を飲み、弁解を諦める。ナナリーは菓子を手に取りながら、ほかにはどんな所へ行ったのかと尋ねた。
海を渡ったこと。車が通れない道では荷物を背負って歩いたこと。話が宿の寝床へ移ると、C.C.が先に口を開いた。
「お前の兄は、枕にも注文が多い」
「石を詰めたようなものを枕とは言わない」
「寝ていたじゃないか」
ナナリーが笑うたび、ルルーシュは次に話す場所を探した。妹に聞かせられる旅の思い出が、まだいくつもある。隣から口を挟む声を聞きながら、冷めかけた紅茶を飲み干した。
* * *
咲世子がナナリーの寝支度を手伝い始めると、ルルーシュは二階へ上がった。借りた家の小さな寝室で、机に置いていた鞄を床へ下ろす。C.C.は窓際へ立ち、カーテンの端を揃えてから振り向いた。
扉を閉めたルルーシュが、先に口を開く。
「母には、どこまで話した」
「お前に会ったことくらいだ。私も、あの女をそこまで信用していたわけじゃない」
「俺が戻ってきたと言ったことは?」
「話していない。何を企んでいるのか分からない相手に、お前のことまで話す気にはなれなかった」
彼女は机の横へ椅子を引いた。ルルーシュは窓から離れた側へ端末を置き、向かいに座る。
「向こうが、お前の様子を聞いてきたことはある。適当に返しておいたが、これからは答え方を考えないとな」
「急に何も返さなくなれば、かえって怪しまれる。俺の様子を聞かれたら、当たり障りのないことだけ話せばいい」
「今までどおり、適当にあしらっておくか」
「ああ。お前から、あちらの計画を探ろうとするのも待ってくれ。先にこちらを固めたい」
C.C.は頷いた。ルルーシュは端末に保存した記録を開く。クロヴィスを生かしたこと。ジェレミアへの接触。成田へ出なかったこと。彼女がこの時代で見ていた出来事の間を、未来の記憶に照らしながら埋めていく。
スザクに正体を明かしたと聞いた時、C.C.は片眉を上げた。
「随分と、思い切ったものだな」
「少なくとも、あいつが俺の仮面を剥がすまで待つ気はなかった」
「で、味方にはなったか?」
「ならない。ナナリーを守ってくれたのも、俺の作戦に賛成したからじゃない」
彼は画面を切り替えた。今使える機体と操縦者、その横に修理の予定が並ぶ。C.C.は腕を組んで数字を眺め、紅蓮の欄で目を止めた。
「ラクシャータまで、もう来ているのか」
「直接話をしたいと頼んだ。来てみたら帰る気がなくなったらしい」
「お前が面白い注文をしたせいだろう」
「役に立つ注文だ。星刻たちのこともある。今から仕込んでおけば、あいつらに無理をさせずに済むかもしれない」
ルルーシュは椅子へ背を預けた。言い返しながら、口元が緩んでしまう。C.C.はそれに気づいても何も言わず、画面の下を指で示した。
「藤堂たちは?」
「キョウトに所在を調べてもらっている。成田を離れた後、部隊は散った。こちらが行動を変えたせいか、一度得た連絡先も今は使えなくなっている」
「会うつもりだったのか」
「今の騎士団に必要だ。部隊を任せられる者を増やしたい」
彼が欲しいのは、厳島の奇跡という看板だけではない。白兜を前にしてなお、退くべき時を見極めた男だ。未来では何度も部隊を預けた。今いる者の訓練を続けながら、その腕を借りられるなら借りたい。
端末の隅には、桐原へ送った照会の返答が残っている。四聖剣のうち一人と連絡がつきそうだという知らせだった。
「会ってさえくれれば、あとは口説く。ゼロを信用するかは、それから決めてもらえばいい」
「お前の顔を見せるか?」
「今は、そのために会うわけじゃない。必要なら後で考える」
C.C.は、分かった、と返した。ルルーシュが記録を閉じると、机の上へ彼女の手が伸びてくる。
差し出された指を握った。爪の形も、掌の温かさも変わっていない。
「今度は、お前に操縦を頼むこともある」
「あるだろうな。最初から私の席まで用意しておけ」
「機体を手に入れてからだ」
「お前は前の時も、順番を間違えた」
ルルーシュは握った手を引き寄せた。C.C.が椅子を少し近づけ、肘を机へ置く。
「まだ、話はあるのか?」
「いくらでもある」
「なら、明日の分も残しておけ」
そう言いながら、彼女は手を離さなかった。
* * *
翌朝、ナナリーたちをクラブハウスへ戻す車を見送ってから、ルルーシュは倉庫へ向かった。マオの保護先へはC.C.が立ち寄り、午後に合流することになっている。
扇は入口で電話をしていた。荷台の燃料缶を数えている玉城へ手を振り、通話を切ってからゼロを迎える。
「キョウトからだ。四聖剣の千葉さんと、連絡が取れた」
「藤堂の所在は?」
「まだ確認中らしい。成田から逃げた者を移していて、全員が一緒にいるわけじゃないそうだ」
「会う場所と時間を決めてくれ。向こうの都合に合わせる」
扇が紙へ書き込んでいる間に、カレンが整備台から下りてきた。紅蓮の右腕に覆いが掛けられ、技術者が二人で配線を点検している。
「四聖剣が来るんですか?」
「まだ会談だ。訓練は予定どおり続ける」
「分かりました」
返事をしてから、彼女は隣の区画へ顔を向けた。空いた床に白い線が引かれ、機体を置く位置が五つ用意されている。
ラクシャータが棚の陰から手を上げた。
「キョウトで止まっていた荷物、こっちへ回すそうよ」
「月下か」
「知ってるのね。あの人たちが乗るつもりで用意していた機体。運び先を決められずにいたんですって」
ゼロは区画へ足を踏み入れた。機体が来れば、工具も人も場所を取る。だがそのための床があり、点検する者がもういる。
「搬入はいつだ?」
「明日。届いたら順に見るわ。乗り手にも来てもらえるなら、話が早いけど」
「手配する。動かせる機体から教えてくれ」
扇は新しい紙を出し、搬入予定の横へ倉庫の担当者を書いた。紅蓮の下で作業していた技術者が、使わない台車を空いた区画へ運ぶ。玉城が燃料缶を持ち上げて追いかけ、そこは置く場所が違うと追い返されていた。
ゼロは仮面の中で笑い、会談の日程へ目を戻した。
* * *
三日後、約束した場所へ向かう直前に、千葉から連絡が入った。
扇が受信機を渡す。ゼロは車の扉へ掛けた手を戻し、相手の声を聞いた。
『藤堂中佐が捕まりました』
「いつだ」
『昨夜です。潜伏していた者の一人が拘束され、そこから居場所が割れたようです。今、別の連絡で確認を取っています』
予定していた会談の時刻が、端末に表示されていた。ゼロはその通知を消す。
「四人は動けるか」
『はい。ただ、中佐がどこへ移されたか――』
「こちらでも調べる。まず合流してくれ。場所は変更しない」
千葉が短く返事をした。通信を切ると、扇が運転席から身を乗り出す。
「どうする?」
「面会の準備ではなく、救出の準備だ。カレンを呼んでくれ」
扇が倉庫へ走る。ゼロは車へ乗り込み、膝の上で端末を開いた。